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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《新入生編》
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第百二十九話 《虎徹》の目覚め

「人間がアビスになるのは当たり前……」


紗雪虎徹の中身を知ってしまった夜十は、様々な事実に瞳を揺らして驚愕した。

上限回数を消費して消滅した人間はアビスとして生まれ変わる。

この言葉の意味は夜十に大きな希望を持たせた。



「姉ちゃんが生きてる……!? 」


首を横に振って、目の前の銀翼の竜に視線を移した。竜はまだ悶えているだけで、襲って来ようとはしていなかった。

今は目の前の戦いに集中すべきだ。

姉のことは後で考えよう。そう暗示して、夜十は臨戦態勢に再び入った。




「……グルルル!!ッ!!?! 」



すると、銀翼の竜は苦しむように悶え始めた。白い煙幕が周囲を再び包み込み、次の瞬間には、元の姿に戻った紗雪虎徹が仁王立ちをしていた。



「……アンタが冴島夜十か? 」


明らかに前の雰囲気とは違った。

紗雪虎徹、基、その兄の人格ではない。



「そうだよ、君は虎徹君だよね? 」


「嗚呼、俺は虎徹だ。アンタが俺の中を覗いて掴んだ情報は他言するな。それは流していい事実じゃねぇよ。 」


虎徹は苛立った様子で言った。



「……それはどういうこと? 」


「知らない方がいいこともあるんだよ。 」


そう言って紗雪は臨戦態勢に入った。

拳を構え、武器生成を試む動きを見せない。



「……ただ、アンタは人類の為にと話すタイプだ。ここで生かしてはおけない!! 」


虎徹は右手から炎、左手から氷の球体を生成し、二つの球体を一つの球体へ合成する。



「魔法を合成……!? 」


初めて見る光景に驚きを隠せない。

炎と氷、対になる二つの球体を合わせる、その考えは浮かばなかった。



「……出し惜しみはしない!《慈悲の無い氷炎(ファイア・ブリザード)》! 」


一つに入り混じった球体は、真っ直ぐ夜十の方へ飛ばされた。

膨大な魔力が篭っているのは、その周囲、空間に居るだけで手に取るように分かった。


"直撃する"

そう分かった瞬間、後ろへ飛び、後退した。

膨大な魔力を秘める球体は、地面へ直撃すると、その威力を飛散させた。



「……っ!! 」


燃え盛る炎が爆撃を起こし、爆発した場所から瞬間的に凍りついた。

つまり、爆撃を食らった場合は、爆発でのダメージを負いながら凍結されるということ。

凍結されれば、次なる攻撃に備えることも出来ない。


ハナからそれが狙いだったのだろう。

虎徹は不満げに夜十を睨みつけた。



「今のを避けるかよ、アンタ。意外と強えじゃねぇか!褒めてやるよ! 」


余裕綽々と、虎徹は夜十へ笑いかける。

緊迫した戦闘の場面のはずなのに、彼は焦る様子も見せない。



「《追尾する雷撃(ライガン)》! 」


虎徹の掌から放たれた雷撃は、地面に突き刺さりながら、夜十へ追尾する。


夜十は鋭い洞察力で雷を見極め、確実に回避しようと試みる。がーー


「……ぐっあぁっ!! 」


完全に避けきったはず、夜十の思考は一瞬それだけで埋まった。

けれど、身体に残るのは避けきった感覚ではなく、雷の燃えるような痛みと痺れる感覚。


身体を吹っ飛ばされ、仰向けの体勢で倒れる前に両手をつき、上体を起こした。

崩れたアリーナの床の隙間から防御障壁の青い床が見える。

床を貫く程の雷撃、それが決して避けきれない状態で迫ってくる。



「あの雷撃……厄介だな!! 」



「《追尾する雷炎撃(ライエンガ)》! 」


虎徹は更に強力な合成魔法を放つ。

先程の地面を貫く雷撃が雷光の速度で追尾、そして炎柱を創っている。

今、アレを避ける術は夜十にはない。



「……情報を集める為には仕方ない。 」


ボソッと呟き、夜十は動くことを停止した。

真剣な表情、真剣な瞳、それらで迫り来る魔法を受け止める覚悟を決めた。



「ぐっ……ぁぁぁああああ!!! 」


先程とは比べ物にならない痛み、衝撃、重さ。全てが格段に強い。


宙に打ち上げられた夜十は、もはや無防備だった。



「……《全色の不死鳥(エレメントフェニキ)》! 」


それを狙っていたかのように、虎徹は次の魔法を完成させていた。

虹色、基、属性魔法を全て合成させ、ソレを不死鳥に具現化させる。

不死鳥は真っ直ぐ羽ばたき、その虹色の身体を周囲の人間へ見せつけた。



「あの魔力……マズイ!夜十君がッッ! 」


観客席の上部で試合の様子を見守っていた風見は声を張り上げた。

流石にあの威力はマズイ。

二つの魔法を合成させただけでも、絶大な威力を誇っているというのに。

全ての属性魔法の合成?そんなもの、生身の人間が食らっていいわけがない。



「……流石にコレは無理だな。 」


周囲は夜十が諦めて、目を瞑ったように見えた。虎徹も確実に仕留めたと笑みを浮かべる。



「…….私の魔法をそんな風に使うのは、夜十だけだよ。 」


吹雪は少しだけ笑いながら言った。


「とか言って、吹雪。喜んでるんじゃない? 」


笑みをこぼしている吹雪に、燈火は疑問げに言う。


「私の魔法、使い勝手が悪いのになぁ……」



吹雪、燈火、基、風見も含めて全員が分かっていた。夜十が負けるわけがないと。

だから、絶体絶命のピンチでも信じられる。

絶対的な信頼関係は決して折れない。




「はぁ……危ない危ない。 」


不死鳥は飛躍して爆散。

確実に夜十の命は射止められた。



「なっ……!? 」


でも、それは幻想の中の世界で起こった話。

夜十が創り出した幻想の世界で見た光景。

決してそれは真実ではない。



「危なかったよ。でも、まあ把握完了。 」




実際問題、本当に危なかった。

あの威力にあの速度、少しでも空間生成が遅れれば間に合わなかっただろう。

けれど、《追憶の未来視(リコレクション)》を発動するまでの条件は充分に揃った。

相手の癖、計り知れない魔力の量、音、空気を揺るがす振動。それは今まで戦ってきた、どの相手よりも強く、重いモノだった。



「背負うものが多いから……俺はそんな簡単に負けられないんだよ。 」


夜十の闘志が萌え滾った。

掌を合わせ、白い雷撃の中から黒い短剣を手に取る。


「さあ、やろうか。さっきのように、簡単にはいかないよ。 」


彼はゆっくりと瞼を下ろした。

《追憶の未来視》全てに異常ナシーー。


ーー発動完了。



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