第十三話 歓迎会 ②
「お次は、見た目は女子幼稚園児!中身は男!?
《回避式戦闘術》の使い手にして、旧校舎の全管理を任されている副リーダー!
現在、三年生の!
小日向小夜ちゃんでーす!!」
ええええ!?三年生!?
あの身長と容姿で三年生って嘘!?
「……小夜ちゃんと、言うなっ!!
で、いやがりますよ!!」
「……ぐぼぉえっ!!」
轟音の顔面にハイキックが振り下ろされ、地面に転がったまま、彼はマイクを持ち直して、口を開いた。
「さあ!!お次はーー」
ぷ、プロだ……!!
蹴り倒されても、尚、やり続ける意志があるのは、誰が見ても凄いと認めるしかない。
「金髪とはいえない、黄土色?いや、違うな!あっ、クリーム色だ!
《平和派》きっての剣豪!!
《仏鬼》の異名を持つ、一生仏の顔がいい男!!鬼は見せんな!!
沖遼介!!」
クリーム色の髪の毛を、短髪で纏め、右目を前髪で隠している青年は前に来るなり、俺と朝日奈に笑顔で挨拶をしてきた。
彼の瞳は淡い茶色で全てを見透かす真っ直ぐな瞳をしている。何処か不思議な雰囲気を醸し出しており、迂闊に手を出せば斬られてしまいそうだ?
「僕は、二年生の沖遼介だよ。
沖でも沖先輩でも、気軽に名前呼んでね!
じゃ、よろしく!」
今の自己紹介で、少なくとも"爽やか系のお兄さん"と言う印象がついた。
沖先輩、ビジュアル整ってんなー……。
「轟音ちゃんは休業〜〜でーす☆」
沖が引っ込んで後ろの列に帰った瞬間、水色の髪の少女は、地面を蹴って高らかに跳び上がると、轟音に着地した。
「……ぐぼぉっ!!」
「ハイ!私は、二年生の鳴神茜でーす☆
好きなことは痺れること!嫌いなことは、つまらないこと!以上!
よろしくね〜☆」
彼女は、意識が飛びかけている轟音を足蹴にして、平然と自己紹介を始めた。
「鳴神って……まさか、あの?」
ここまで一度も話さなかった朝日奈が初めて、声を出した。
鳴神は、笑顔で頷きながら答える。
「うん、私は雷魔法提唱者の鳴神雷伝の子孫だよ!」
鳴神、と言えば知らないわけがない名前だ。
炎の朝日奈。
水の天海。
風の夜風。
雷の鳴神。
光の眩耀。
闇の影山。
地の緑野。
世界的に有名な魔法を作ったとされる名家の内の雷の鳴神家は、その自由な集団戦術を駆使して、アビスを狩りつくすほどの攻撃力を秘めていることで有名な名家。
まさか、《平和派》に第七魔法の内の二つの名家が揃っているとは、末恐ろしいものだ。
「お、降りろ……!!
お、お、重い!」
鳴神の足を退けようと必死に踠いている轟音だったが、体を捻って反転させようとしても、彼女は流れに逆らうことなく、身体の上に乗ることをやめない。
その光景はまさに、玉乗りピエロのようだった。
「後は今日、欠席の纏君に、そこで寝てる轟音君でーす☆
ハイ!自己紹介終わったねー。
風見ー、この後は乾杯?」
鳴神が、風見へ轟音から奪い取ったマイクを渡しざまに言った。
「うん、後は乾杯してご馳走を食べるんだけど。
この二人には私達が成し遂げようとしていることを伝えてないからさ。
それを先に言うね!」
「あ、オッケー!
それじゃ、私達は後ろに下がってるね!
ほら、行くよ。轟音ちゃん」
「……」
轟音から降りた鳴神は、完全に気絶している彼の首元を掴んで、引きずり去っていった。
轟音先輩、可哀想だな……。
鳴神先輩は、少しだけ怖い!
まあ、大丈夫だろうとは思うけど!
「ゴホン。
私達《平和派》の目標は、目の前で困っている人を見殺しにせず、絶対に助けて、この世に蔓延る悪の化身、アビスをこの世から消し去り、世界に平和をもたらすコトだ!
アビスは現在、学園内には現れないが、
この間、夜十君と燈火ちゃんは体験したよね?
学区内以外であれば、何処にでも出没する!私達は、一般人を守る権利があるんだ!
人を守り抜く、優しさを持って、
全力で《平和派》に貢献してほしい!
……二人とも、いいかい?」
無論、俺に/私に選択肢など無かった。
自分自身で決めた答えはーーYESだ。
「……ハイ!よろしくお願いします!」
「わっ、私もよろしくお願いします!」
二人の誠意が伝わったところで、
彼女は二人にジュースの入ったコップを渡した。
全員が同じコップを持って、笑顔で並んでいる。
「それじゃ、二人共、《平和派》にようこそ!みんなでー、かんぱーい!!」
風見の合図で、全員がコップを上に掲げると、歓迎会はやっと、スタートした。
「あっ、朝日奈ちゃん!
朝日奈家はどんな戦闘術が得意なのっ!?
あっちで、話そ話そ!」
「え……?あ、はい!」
鳴神が、早速と言わんばかりに朝日奈を誘って、奥のテーブル席に消えていった。
ここからは自由行動かあ。
ちょっと気になったあの人に声をかけよう!
俺は、自己紹介の途中で気になったあの人の元へ走って、声をかけてみた。
「あのー、沖先輩!」
「夜十君、どうしたんだい?
僕に、何か用かな?」
沖は、俺の方を向くなり、笑顔で答えてくれた。俺が自己紹介中に気になったのは、仏の顔と鬼の顔だ。
どういう意味なのかを、イマイチ理解出来なかったので、聞いてみようとーーした瞬間。
「あーー!夜十君、ちょっとこっち来て!
話さないことがあるんだったよ!!早く!」
風見に呼ばれてしまった。
何だろう、話さなければならないこととは。
「僕のことはいいから、行ってきなよ。
風見は待たせると怖いからね」
「ハイ、すいません!
行ってきます!」
俺が風見の方へ向かって行く姿を、沖は何処か面白げに見ていたのを俺が知る由はない。
「……風見先輩、何ですか?」
「夜十君、こらぁぁぁ!!
……沖に、仏と鬼のことを聞こうとしたでしょ!本人は意味さえ分かってないから、聞いてはダメ!分かった!?」
俺が風見の元へ向かうと、彼女は怒りの声を上げながら俺に近づいてくるなり、
両腕を駆使して頭を締め上げながら、小声で囁いた。
何がいけないんだ?
それに、本人は意味さえ分かっていない?
どういうことだ?
疑問に思ったが、そのうち分かることだろう。
素直に、彼女へ頷いた。
「さあ!!
まだまだこれからよ!!歓迎会!!」
ーー風見が声を出した瞬間。
端末から軽快な音楽が流れ、彼女は、端末を取り出して、タップすると、耳に当てた。
「……所属狩りが?!うん。うん。
纏君は大丈夫?あ、うん!
拠点に戻って、話を聞かせてくれる?
うん、待ってるね、はーい」
彼女は電話を切って、沖に視線を向けた。
「ハイハイ、風見様仰せのままに」
彼は、察したのか。
風見の元へ向かい、話を聞こうとする。
すると、彼女は話し始めた。
「《無所属》の所属狩り共が、動き出したらしい。
今は《戦闘派》の兵士三十名が片付けられたってよ。
明日の身体測定と魔力測定演習までは、ジッとしてて欲しかったなあ」
「……そうだね。
それじゃ、僕がいってこようか?
所属狩りは去年、僕が撃退したんだし、僕を見て逃げるかもしれない」
だが、風見は先を読んでいた。
この瞬間で動き出す意味とは、何か。
明日の身体測定で出されては困る結果でもあるのだろうか?いや、それは深く考えすぎか。
「待って!!沖はそのまま待機!!
分かっているでしょう?彼らの執念を!
それに、何か嫌な予感がするんだ。前までは、身体測定と魔力測定演習が終わった時に現れて、所属狩り行ってたのに、今回はなぜ前なの?」
てんちょーが、思いつきの声を出した。
「あいつだって人間だろ?
気持ちが前に行ったとかそうなんじゃない?」
「いや、そんなはずはないよ。
分からないけど……」
俺と朝日奈は、彼らが何を真剣に話し合っているのかが、全く分からなかった。
すると、その様子を感じ取った鳴神が口を開く。
「うん、君達は知らないよね!
《無所属》の所属狩りっていう毎年発生する事件があるの!
銀髪の男と黒髪の男、顔も素性も分からないんだけど、仮面を被っている二人組!
行動の目的から推測するに、所属している人を狙っているとされていて、去年は沖先輩が銀髪の方の背中に大きな傷を付けたんだよ」
鳴神の言葉を引き継いで、風見が続けた。
「その傷の人物を差し押さえようとしたんだけど、全学年の生徒に該当する人は居なかった。
言わば、この学園の亡霊よ」
銀髪……?
いや、でも、まさか。
無所属で銀髪の男を俺は知っていた。
それでも、偶然に違いない。
ーーと、思い込んだ。
「あー、シラケちゃったね。
私は纏君が来るのを待つから、今日のところはみんな帰っていいよ!
また今度、この埋め合わせをしようか!
はい、解散!」
ーーてなわけで解散した。
寮室に戻り、扉を開けると、何か生臭い匂いがした。鉄の匂い?いや、これは血液?
分からないが、中に入ってみると。
誰もいない。はずだった……。
それはーー、一瞬の出来事。
俺の背後に背筋が凍るような殺気が感じられたかと思えば、それは消滅した。
「……お前はどこの所属だ?
戦闘派か?平和派か?祈願派か?」
低い声の主は、消滅したかに思えた背後から出現し、俺の両腕を即座に背中に回して、強い力でねじ伏せてきた。
俺の無力化だけではなく、腕の関節を外すような角度で抑えてきているので、腕の骨がギシギシと音を鳴らす。
だが、この程度の攻撃は取るに足らない。
俺は、両腕と背中、足腰に力を入れると、背後にいる人物をそのまま前方に叩きつけた。
直ぐさま、確保しようと、彼の首元に腕を回そうとするがーー消えた。
どういうことだ!?
何故消えた……!?それに、この狭い場所の中での戦闘なんて戦いづらい!
するとーー
ガチャリという音が聞こえ、風呂場の扉が開いて、上半身裸の銀が出てきた。
彼は、床で汗だくになっている俺を見て、ハッと思い出し、口を開く。
「あっ、黒!」
「なんだよ、今からこいつの足を捩じ切ろうとしてんだから邪魔すんな!」
俺の足元から床に埋まるように現れたのは、先程の人物。
絶妙に死角で顔が見えなかったが、今ははっきりと見えた。
黒い髪の毛を尖らせた青年で、瞳の色が赤色の強面だ。
「其奴は、俺の同居人だ!
所属とか関係なしに、今はやめろ」
すると、銀は俺に背を向けて、リビングの方を歩みだした。
そこで俺が見たものはーー
右斜め上から左斜め下までにかけての大きな刀傷だった。
「銀さん……貴方は?」
彼はやれやれと呆れたように俺の方を向いて、言った。
「どーしたよー!
夜十君、そんなに暗い顔して!
飯まだだろ?俺と黒と、三人で食おうぜ!」
まず、間違いない。
二人が所属狩りをしていることは。
血の匂い、この場を誤魔化そうとしている銀の焦り、黒と呼ばれた男のイラつき。俺が把握出来る感覚が伝えている。
この場から……全力で逃げろ、と。
それでも、俺はこの場から逃れる選択肢など、頭になかった。
「はい、頂きます!!」
「おう!」
男三人でリビングの机を囲み、
部屋にあったカップラーメンを食べ始めた。
「ずずずずーー、黒!お前、自己紹介しろ」
スープを飲みながら、銀は不機嫌そうな表情の彼に話を振った。
「チッ、仁科黒。
二年だ。お前は、一年の冴島夜十だな。
《平和派》に所属したんだろ……?」
黒と名乗った少年は、
俺を睨みつけている。
「はい。」
「けっ!まあいいや。
今はそういうの無しにしてやる、今日は頗る機嫌が良くてね、俺」
それから、黒は俺へ口を開いた。
「お前、兄弟はいるのか?」
「俺……ですか?
姉が居ます。黒さんは?」
黒は、"姉"というワードに強く反応し、あからさまに表情が明るくなった。
「俺も姉が居るんだよ。
俺の家、元々、両親が居なくて、姉に育てられてきたようなモンだから、俺は姉に凄い感謝してるんだ!分かる?」
黒は、俺と同じような境遇の持ち主だった。よく、生活のことで姉に指導されていたよつだ。その点、俺はよく分かった。
俺にも、姉が……"居たから"。
「はい!!
俺も姉によく怒られましたけど、今では感謝してるんです!こんな俺を愛してくれてありがとう!って!」
「ホントだよな!!
いやあ、お前、気が合うな!
これからも話そうぜ!
ああ、もうこんな時間か。帰るかな。
……じゃあ、銀、疲れたから俺は部屋に戻る。また明日な」
彼は、部屋の時計に視線を移し、我に返ったように時間のことを気にすると、銀に挨拶をして、玄関の外へ消えていった。
「んじゃ、俺も寝るわ。
夜十、明日から当分の間、留守にするわ。
おやすみ」
「はい、おやすみなさい。
お気をつけて……!」
俺は、彼に問いかけることは出来なかった。
貴方は、所属狩りですか?言えるわけがない。
言葉を胸に押し込んで、俺は脱衣所に向かったのだった。
十三話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
明日の投稿もいつも通りできます!
今回から、《無所属編》スタートです!
皆さんの大好きな戦闘シーンが多く含まれますよ!それでは、次回もお楽しみに!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




