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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《新入生編》
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第百二十三話 ミクルの本気

「Is that it is good Gill?(いいのか、ギル?)」


真っ暗な廃墟で二人の男が話をしていた。

一人は天井に吊るされ、錆びついた鉄骨の上に腰を下ろし、足を組んでいる。

もう一人は、その男の真下から気遣うように不安な表情を浮かべていた。


「It is a story of world's strongest Shizuo Niijima. Is it not bad?(世界最強の新島静雄の話だ。悪くはないだろ?)


鉄骨の上で下の男を見下ろす少年は、黒と灰色が混ざった髪の前髪が長めな髪型、黒い瞳の顔立ちの良い姿をしている。

だが、優等生という感じでは無かった。

どちらかと言えば、不良。ゴロツキ。ヤクザ。チンピラ。マフィア。

彼を見れば、そんな印象を思い浮かべるだろう。



「練習も兼ねて、日本語で話さないか?新島静雄は日本人だぜ? 」


「……それもそうだね、ギル。 」


ギルは随分と偉そうに言った。

彼らが普段使っている言語は英語、しかし日本語も卓越して使いこなせている。


鉄骨の真下で軽く会釈をした少年は、ギルの態度に何も言うことはなく、クリーム色の肩まである長い髪をクルクルと人差し指に巻きつけて、不敵にも笑顔を浮かべる。


「ジャック、コトを進めてくれよ!俺だって暇じゃないんだからな。 」


「ああ、任されたよ、ギル。俺ら、revolución(レボルシオン)の頭脳のままに。 」


クリーム色の髪のジャックは、その場から去っていった。

鉄骨の上でギルは、口元を歪める。



「新島静雄、お前とは良い取引が出来るといいなァ……!はははははは!!!はははははッ!!!ははははははッッ!! 」



ギルの笑い声が絶えることはなかった。

静寂が支配していた廃墟内を、新たな支配者である耐えない笑い声が支配した。





「はぁ……」


試合を終えたミクルは、控え室のベンチに腰を下ろして深い溜息を吐いた。試合には勝ったのに、全然達成感がない。

自分は確実に強くなっているのに、全然実感が湧かないのだ。


今日の試合は、白永桃。戦闘狂と《魔源の首飾り(アミュレット)》所持者という情報を頭に勝負に挑んだ。

けれど、戦いに幾多の時間をかけてしまった。ダメージは無い。一度の攻撃も受けなかったのに何故だろう。自分は満足しない。



ーー夜十だったらもっと上手くやってたのかな?



ミクルの中に流れるのは、夜十の後ろ姿。

後ろを振り返らず、自分の信念と使命を果たす為だけに前だけを見据えて突き進む姿だ。

その隣に自分が立っているかどうか、それが心配でならない。最近、ずっと悩んでいる。



自分がどんどん置いていかれるような気がしてならないのだ。



「……うぅ、頭と胸が痛い。苦しいよ……! 」


胸と頭を両手で抑え、ミクルは目に涙を貯める。自然と零れ落ち、床の一部分を潤した。




ーーガチャ。

扉のドアノブが回される音がして、ミクルは直ぐに服の袖で涙を拭いた。

誰だろう?ノックもせずに。次の試合の人かな?だとしたら、私は直ぐに出て行かないと。


扉を開いた人物の顔を見ず、軽く会釈して通り過ぎようとした瞬間ーーミクルは腕を掴まれた。



「え……? 」


「試合には勝ったのに、ミクル。お前、なんで泣いてんだよ! 」



ミクルの眼前に居たのは、紛れもなく夜十だった。凄く心配そうな表情でミクルを見つめ、強めに諭そうとする。



「なっ、何で夜、夜十……がぁっ……!! 」


溢れる涙を止められない。

必死に服の袖で拭う。けれど、そう簡単に治るものではなかった。



「お前、最近おかしかったからな。昔から何でも溜め込む癖があるだろ。んで、今回はなんだよ? 」


夜十はラフにミクルへ問いかける。

子供の頃にもこういうことは何度もあった。

ミクルは自分のことになると、とことん考えて、悪い方向へ悪い方向へと思考を変化させてしまう。そして、思い込み、爆発する。

昔から治らない性格。


それは同年代で一番側にいたから分かっているつもりだし、暫く離れていたとしても変わってないはずだ。



「……べっ、別にッ!!な、何でもぉ……! 」



「……なんでもないわけないだろ?言わないなら、強硬手段取るぞ! 」


風見の魔法、六神通。

あらゆる全てを見透かし、過去、記憶、トラウマ、それらを把握出来る力。

ミクルは自分の口で言うならそれもいいと思った。でも、これは不安の塊で出来た虚言癖に近いコト。

夜十は変だって思うかもしれない。



「……またお前、俺がお前を嫌いになるとか、そういう下らないコト考えてんのか? 」


「うっ……!! 」


「それは前にも言ったが、絶対にねえぞ!家族だからな!誰よりも大切だ! 」


臭いことを平気で言う夜十に、硬くなっていた表情が自然と溶かされた気がした。

思わず、口元を歪めてしまう。



「……やっと、笑った! 」


「夜十、どんどん新島さんに似てきてるよ。そういう臭いセリフとか言えるところとか! 」


涙を袖で拭って、ミクルは言った。



「え?嘘だろ?!俺、あそこまでじゃねぇだろ!? 」


「まあ、ありがとね。じゃあ、言わせてもらうよ。 」


ミクルは和らいだ表情のまま、語り始める。

夜十は真剣な表情で聞く態度を取った。



「最近、夜十がどんどん遠くに行ってしまう気がしてならないの。夢とかそういう話じゃなくて、もう直感だけど……! 」


「俺が遠くへ……? 」


「……うん。夜十が自分の信念と使命を抱えて、前だけ見据えて突き進んで。いつも隣に居たはずなのに居ないみたいな。上手く言えないけど、そんな不安があるの! 」


「ミクル! 」


ミクルは突然名前を呼ばれた事で変に力が入り、戸惑いを見せる。数秒して正気を取り戻したのか、返事を返した。



「え、?!は、ハイ!え、なに!? 」


「今、俺はお前のどこにいる? 」


訳の分からない質問に、思わず困惑する。


「え?な、何言ってるの?隣に……っ! 」


だが、ミクルは気がつく。

そう思っていたのは自分が生み出した単なる幻想に過ぎないと。



「……確かに長い間会ってなくて、寂しい思いをさせたかもしれないけど。これからは、いつでもミクルの側に居れるだろ?だから、そんな変な心配すんなよ! 」


ミクルの瞳から大粒の涙が流れ落ちる。

それは悲しい涙ではない。喜び、感激、安堵感、そんな感情から来る涙だった。



「夜十……ありがとうね。 」



服の袖で涙を拭い、ミクルは少し、はにかんで満足げにそう言った。

夜十はそんなミクルを見て、安堵したように笑みをこぼす。



ーーすると突然、夜十のズボンのポケットに入っていた端末が振動する。

急いで取り出してみると、新島静雄からの着信だった。



「ミクル悪い!新島さんから着信だ、出てもいいか? 」


「新島隊長から?珍しいね、良いよ! 」


ミクルの返事を聞くなり頷いて、夜十は端末をスライドし電話に出る。

耳元に端末を当てて、新島へ口を開いた。



「お疲れ様です!どうしたんですか? 」


「あぁ、お疲れ!今大丈夫か? 」


「はい!大丈夫です! 」


夜十の返答を聞き、新島は要件を話し始める。電話の向こう側は、音が反響して聞こえる場所なのだろう。新島の声にエコーがかかって聞こえてきている。



「魔術師との戦争に向けて、お前らに戦力増加を任せたよな? 」


「はい! 」


「それで、俺らも未成年ばかりを集めてもって事でプロの魔法師を掻き集めてんだよ。国内は騰と標津に任せてるけどな。 」


国内?その言い方に疑問を覚える。

では、新島の今いる場所は国外なのか?



「俺と神城、龍騎で国外に来てる。前に話したことがあるrevolución(レボルシオン)っていう国外魔法師の組織を覚えてるか? 」



revolución(レボルシオン)

夜十達の住む「日本」という国は、魔術師の関与が少なく、魔術師自身が人間に直接な手を下そうと日常的に襲いかかってくることはない平和な国だが、revoluciónに所属する魔法師達は魔術師に国を追われた人が半数を占めている。


ATSは日本でアビスを狩る専門の組織として作られたが、revoluciónは魔術師狩りを主体とする国際的に作られた組織。


前に新島が軽くだが教えてくれたのを思い出した。



「覚えてますよ、魔術師の作る世界の革命を起こす者達、revoluciónですよね? 」


「ああ、そうだ。それで、今回の魔術師との戦争に力を貸して欲しいと懇願したんだ。奴らと俺は面識があるからな。交渉成立でお前に一方入れとこうと思ってな。」


「本当ですか!これでまた戦力増加ですね! こっちの方も今から終わらせますよ。《無敵(アンビータブル)》を招き入れます。 」


新島は機嫌が良さそうに夜十の言葉を聞くと、「また後で連絡するよ」と言って、電話を切った。





「話の途中で電話悪かったな、ミクル。 」


「別に大丈夫!新島さんから、何だって? 」


ミクルは、電話の最中に涙が乾いたのか、赤かった鼻も元通り純白の肌色へ戻っていた。



「ああ、海外のrevoluciónって組織が今回の戦争の協力を承諾してくれたんだってさ! 」


「……っ!! 」



ミクルはその組織の名を聞いた瞬間、唖然と口を開け、呆け始めた。

まるで頭の中が真っ白になったかのようだ。



「おい、ミクル?聞いてんのか? 」


「……あっ、あぁ、ごめんね!ちょっと、ボーッとしてた!ちょっとさっきの試合、魔力使い過ぎちゃったかも! 」


「じゃあ、この話はまた日を置いてから話すか。今日は寮に戻って休めよ。風見先輩には俺から話しておくからな! 」


それだけ言って夜十は控え室を後にした。



「……revolución。どういうつもり? 」



ミクルは誰もいない控え室で一人呟いた。

その声音はどこか震え、怒りに満ちたよう。

いつもの明るい声音ではない。

平常心を保てていないような、そんな声だった。



この時、誰一人として、知られざるミクルが紐解かれることになろうとは思わなかっただろう。

第百二十三話を拝見頂きありがとうございまーす!


新勢力revoluciónの登場ということで、次回からさらに新展開に加速していきます!!


次回は、夜十vs《無敵》紗雪虎徹!

彼の中に眠るもう一人の人物、それは夜十が憎しみを覚える存在だったーー!?


次回もお楽しみに!

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