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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《新入生編》
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第百二十一話 信念を貫き通す炎

炎帝(アドラメルク)

世界最強の魔法師、新島静雄に並ぶ程の実力を持つと言われる。炎魔法の提唱家の朝日奈を取り仕切る現当主、朝日奈焔。


彼は何故か今、ATS魔法学園のアリーナ観客席に居た。それも、真剣な表情でだ。



「俺が次の当主……? 」


火炎は思わず目と耳を疑った。

燈火の叫んだ声に便乗したのが、現在の当主を務める焔だったからだ。



「はっ、朝日奈焔じゃねぇか。火炎の次はお前だ……!一度にやれるチャンスが来るとは思わなかった! 」


そんな火炎とは裏腹に、熱矢は胸を高らかに震わせる。

自分が求めていた復讐の標的が同じ場所に現れたのだから。



「アレって、朝日奈焔じゃない!? 」

「え、待って!本物じゃん!やば! 」

「隣には燈火先生も居るわ! 」


燈火と焔の叫び声に困惑した他生徒達が驚きの声を多数あげる。



「火炎、テメェはまずここで死ね!次の当主?名家は今日で終わりだッ!! 」


熱矢は掌に力を込め、火炎の首を粉砕することを脳裏に浮かべた。

そして、相応の手応えを感じると高らかに笑う。



「ははははは!!!やった!やったぞ!火炎が死にやがった! 」



ーー慢心した熱矢は気づいていなかった。

火炎は今、自分の真下に居ないことに。

振動魔法で骨を粉砕しようとした瞬間はあったはずの火炎の身体が無いことにまでは。



「……俺が次の当主になるのか。そうか、焔、俺を許してくれるのか? 」


大火となってその場を脱した火炎は、観客席で自分を見つめる焔の眼を真っ直ぐ捉える。

すると、焔はゆっくりと頷き、笑顔でグッドサインを出した。




「……そうか、俺は認められたのか。星咲から放たれたあの日から考えてきたことを、もう考えなくていいんだな。……良かった! 」



すると、火炎の手の甲へ炎の刻印が刻まれた。

ずっと前に手の甲から蝋燭の炎が消えるかのように、静かに消えたソレは、火炎の魔力を増大させる。



「……なんで生きてやがる!首の骨を粉砕したはずだぞ! 」


熱矢は焦ったように背後に現れた火炎を凝視する。まさに、ありえないと言った程だ。


確かに自分の手で首の骨を粉砕させ、絶命させたはず、なのに火炎はそこに居る。

軈て、ソレは大火となって回避されたことに気がつくのに数秒も要らなかった。



「刻印……?!テメェ、破門されたんじゃねぇのかよ! 」


「ああ、されたさ。一度な。だが、もう俺は朝日奈家の人間だ!! 」


自分に朝日奈の力が戻りつつあったのは前から分かっていた。何せ炎魔法を使うことが出来ていたのだ。それがどうしてなのか、少し疑問に思っていたが、自分の素質なのかとばかり思っていた。

だが、そうじゃなかったんだな。

焔が俺を心の中で許してくれていたからだ。



火炎の言葉に激情した熱矢は、地面に掌を伏せて、憎しみの表情のままに真の願いと復讐心を解き放った。



「ふざけやがって……人殺しがッ!!悪いと思ってんなら、死んで詫びろよ!! 」


熱矢の魔法範囲は、火炎が立っている範囲内は愚か、ステージ全体を巻き込むことさえ余裕。

振動、即ち地震。

火炎を支えている地面が振動し、火炎の重心を崩れさせる。



「今の俺にはそんな小細工は通用しない……! 」


火炎は宙に炎を顕現させると、ソレに飛び乗った。物質に飛び乗ることなど、普通では出来ないが、今の火炎は炎そのもの。

乗るというよりは、火炎自身が宙に浮いているといったほうがいいかもしれない。



「俺が振動させられるのは地面だけじゃねぇ!……殺してやるッ!! 」


熱矢は地面を蹴り、飛び上がると火炎に迫る。自分の手に大火からなる大剣を具現化させると、徐々に眼前へと迫る火炎目掛けて振り下ろした。

その一振りには、一切の迷いも容赦もない。



ーーだが、一振りは火炎の身体をすり抜けて、虚空を切り裂いた。


熱矢は自分の攻撃を回避した火炎に舌を鳴らし、大剣を手放す。

大剣は、熱矢から離れた途端に烈火となって空気に消滅した。



「自分を炎に具現化だァ?それで何でも回避出来ると思うんじゃねぇよクソがッ! 」


熱矢は両腕を広げ、目を瞑り、掌へ全神経を集中させる。

自分の身体を炎に具現化することで攻撃の回避を徹底しようとしていた火炎だったが、それ自体が無敵ではないことに気がついていた。

使えば上限回数は一定時間で継続して減っていくし、かなり高難度の技の為に異常な疲労感を覚える。乱用するべき技ではない。



「こっからは俺の時間だァ!火炎、テメェの最期、見届けてやるよオラァ! 」


掌から広範囲に広がる振動を発し、空気を振動させる。微量の振動なら、夜十の《追憶の未来視(リコレクション)》対策として上手く応用出来、大量の振動ならそれはーー



ーーまさしく、凶器と化す。

空気中に発生した振動は、収束することで爆発的なエネルギーへと変貌し、無数の衝撃波を生み出した。また、それは空気をも巻き込む巨大な刃物となる。




炎に具現化していた身体を元に戻した直後、火炎の眉間に一つの衝撃波が迫る。

持ち前の反射神経で身体を仰け反らせ、回避に成功する。

だがしかし、衝撃波を避けるタイミングで火炎との間合いを詰めていた熱矢の強烈な蹴りが腹部へめり込み、吹っ飛ばした。



「……があっ!! 」



肺にとどまっていた酸素が押し出され、思わず嗚咽を吐き出す。

地面に寝そべって呼吸を整えている暇はなく、直ぐに次の衝撃波が火炎を襲わんと距離を詰めた。



「マズイ……!! 」


夢中で反射壁を張り巡らせるが、"振動からなる衝撃波"には無意味だった。

硝子が砕け散るように反射壁は破られ、火炎は絶体絶命の窮地に再び陥った。



「……あの野郎、全然使いこなせてねぇな。刻印はあの程度の力を捩じ伏せるには余裕の力だってのに! 」


「そんなこと言ってる場合じゃないわ。あのままだと、火炎が負けちゃう! 」


観客席では火炎の戦いを必死に見守る二人の姿があった。

焔は力を使いこなせてない火炎に不安が募る。

刻印の力は、魔法師の名家に伝わる魔力を供給する為の魔法陣といってもいい。


朝比奈家の当主の自覚を持った今、火炎にその上限など存在しない。はずなのに、火炎は何も出来ていなかった。




「……どうしたらいい!くそッ!! 」



眼前に迫る無数の衝撃波と、背後から感じる熱矢の殺気。火炎は囲まれている。

この状況、火炎は絶望していた。



「火炎、諦めてんじゃねぇぇえええ! 」



ーー瞬間。耳と全神経を劈くような強い叫び声がステージ全体を突き破った。



「……夜十! 」


「信念を強く持て!お前は何がしたいんだぁぁぁッ!! 」


「信念か……」


夜十の信念は、

"絶対に目の前で人を死なせないこと"

だから夜十は負けない。自分の力を酷使して、絶望から希望を掴み取る。


なら、俺は?朝日奈火炎には信念さえ無いのか?

いや、違う。俺には守りたい存在がいる。

その為には俺が居なくなってはいけない。


"俺が犯した罪で傷ついた妹、()を守る為に俺は戦いたい"


ーー夜十の怒号は火炎の凍っていた力を溶かし、壊した。



「……その状態で何が出来るッ!!死ねや、火炎!! 」


無数の衝撃波と熱矢が迫る。

火炎は息を吸い込み、吐いて、目を瞑った。


それは嘗て、焔が夜十へ教えた技。

広範囲に広がり、熱で燃やし尽くす太陽のような技は学園救出において使うに使えない技だったが、敵が一人であればどうだろう。


それは凄まじい火力を生み出す。


「……闇夜に燈は潰えず、炎は燃え盛る。我は焔。大火を上げるは朝日奈よ。理の全てを燃やし尽くさん!迦楼羅炎(かるらえん)!》 」



両掌に収束した魔力が一気に放出し、空中へ巨大な炎の魔法陣を描く。高熱を帯びた魔力の熱量で周囲は近づくことさえ許されない。


火炎に迫っていた熱矢は、熱風で動きを封じられ、同時に衝撃波も消滅した。



「……クソがッ!なんだよコレ!! 」


真っ赤な炎で刻印された巨大な魔法陣は、瞬間ーー。

光炎に輝き、大きな球体ーー太陽へと生まれ変わり、焔の眼の前にある壁や床を熱気だけで消滅させる。



「……はぁぁぁぁぁあ!! 」


発現された太陽は火炎の掌の上から熱矢の元へ投げ出された。

それは当たれば死さえ感じさせる一撃。


熱風で前が見えない中、熱矢は空気を振動させて衝撃波による防壁を組み上げる。

多少の軽減はされるだろうが、この膨大な魔力なだけに、完全に防ぎきることは不可能だろう。


「こ、これは防ぎきれねェ!!クッソォォォォ!!! 」



ーー熱矢に当たった直後、一度目の爆発による特大の衝撃波で熱矢が形成していた障壁を吹き飛ばす。


「な、なッ……!? 」


熱矢の絶望を聞く暇もなく、太陽は二度目の爆発、三度目の爆発、四度目、五度目と、計5回に分けての爆発を繰り返した。


凄まじい熱風と蒸気の中、ステージ上は観客席から何も見えない状態になってしまった。


勝負の行方がどう転んだのか、観客は真っ白なステージに視線と神経を集中させるが、全く何も見えない。


数分の刻を経ると、ステージ上には拳を握りしめ、随分と消耗した火炎が立ち尽くしていた。



「……はぁ、はぁ、はぁっ……も、もう使い切っちまった……!! 」


火炎の足元には気絶した熱矢が横たわっていた。だが、おかしな点が一つある。

熱矢には焼き焦げた後がないのだ。万に一つも傷がなく、綺麗な状態で横たわっている。

それでいて、火炎は尋常ではないほどの消耗、体の至る所から血を流していた。



観客席で試合の最後を見届けていた焔は、目を細めて笑いながら言った。



「当主としてはまだまだ青二才だな。……けどな、兄としては立派だった! 」


「……まさか、球体が直撃するタイミングで熱矢を庇ったの!? 」


燈火の驚愕した声に焔は頷き、口を歪める。



「馬鹿だが信念を貫ける漢だ。アレじゃ、当分燈火は追いつけねえな!ハハハハハ! 」


「……るっさいわねぇ!当たり前でしょ!私の自慢の兄なんだから!! 」


ステージ上の火炎は、観客席の燈火に拳を突き出した。燈火も反応して、拳を突き出す。


かつての憎悪は何も残らず、その刻、二人は笑い合っていた。







第百二十一話を拝見頂いてありがとうございまーすっ!え?後書きが雑になってるって?


こ、こまけこたぁいいんだよ!!


今回は今までの因縁、朝日奈に終結です。

後に火炎と熱矢のやりとりも載せますが、大まかには終わりました!!


次回、未知の《魔源の首飾り》所持者、白永桃とミクルが衝突するーー!!


次回もお楽しみにー!

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