第百十五話 朝日奈熱矢 ①
入学式の当日に生徒と決闘を行なった夜十は、学園長兼生徒会長を務める風見に呼び出されていた。
「全く、夜十君は常々戦闘バカだなぁ。君の察しの通り、あの子は燈火ちゃんの弟さんだよ。ただ……」
「ただ……? 」
悪いことを含むかのような言い方で風見は言葉を濁す。
夜十と今朝戦った男の子はやはり、燈火の弟だったようだ。夜十自身は合点が行った。
「朝日奈家でもかなり手を焼いていたようでね、5年程前に現当主の焔さんに破門にされて、一般家庭に養子として引き取られたみたいなんだ。 」
「朝日奈家で手に負えないって……」
そう言えばと、彼が言っていたことを思い出す。「高い塀の中よりも」あの言葉の意味は、前に燈火が話していた「家の外に出ることは出来ない」ことと同じかもしれない。
そして「自由」、彼は養子として自由を得た。その言葉の意味を最悪な方向に展開させていくと……、考え過ぎるのは良くない。
「夜十君が今、考えていたことは少なからずあり得なくはないと思うよ。彼は自尊心の塊のような性格で、幼い頃から朝日奈家の門下生を天才的な戦闘力で薙ぎ倒して来たらしい。それでも、強さよりも大切なモノを理解出来なかった。 」
「つまり、最重要な生徒ですね。他の生徒達に危害が加わらないようにと、彼のことも気にかけてあげないと。えっと、燈火は? 」
実の弟であるならば、彼は燈火の言うことを聞いてくれるかもしれない。
それに戦う前に姉の目を覚まさせると、そんなことも言っていた。
「うん、そう思って呼んだよ。 」
と、風見が言った数秒後、室内にノック音が響いた。
「どうぞ、入っておいで! 」
風見の声と共に開かれる扉の先には、真剣な表情の燈火と火炎が立っていた。
火炎は夜十を見つけるなり、右手を挙げてこう言った。
「おう、夜十。お前も来てたのか、話の内容は熱矢に関することだよな。 」
「あぁ、今朝の少年の話についてだ。燈火と火炎の弟なんだろ? 」
燈火は頷き、難しい表情を浮かべる。
火炎は首を振って、夜十の質問を否定した。
「俺の実の弟ではねえが、燈火は実の弟だ。溶二の弟に当たる、俺で言うと従兄弟だな。 」
「そうだったな。燈火は弟とどうなんだ? 」
燈火はずっと難しい表情をしている。
何か考えることでもあるのだろうか。すると、風見が彼女の考えていることを代弁し始めた。
「とても仲が良かった。でも、熱矢の憧れだった溶二が死んだ瞬間を目の当たりにしてしまったことで、彼の性格は一変した。優しい心を持っていたのに、人を見下すようになり、眩しかった笑顔は見えなくなった。そして気がついたら、焔が破門にしていた。……ということらしいよ。 」
「ちょっと、風見先ぱっ……学園長!火炎の居る前で話すなんて……! 」
「わざわざ言い直さなくていいし、心を読ませてもらったのは入学式まであと一時間もないって所に着目した行動なんだけど?それに、その件は火炎のせいじゃないってことじゃなかったのかい? 」
暗い表情の燈火と、自分のした過ちが原因で曲がってしまったのだと気がついた火炎は下を俯いた。
「そうだよ、火炎。アレはお前じゃなくて、星咲が悪かったんだから、自分を責めるなよ。 」
「……わーってるよ。けど、正直割り切れねえこともあるわ。俺はまだ焔に許されてねえからな。ちょっと外出てくるわ。 」
そう言って、火炎は部屋を出て行った。
部屋の中に沈黙が生まれ、風見は過剰に焦り始めた。
「え!?え!?今、今のやつダメだった!?ほんとごめん!でも、いや、ごめん! 」
「風見先輩が謝る必要はないですよ。火炎が自分自身で気がつかないと意味ないことですから、私達もそろそろ行かないと! 」
燈火も部屋から出て行った。
顔面蒼白の風見を置いて、夜十も部屋から出て行った。
「ちょっ!夜十君、置いてかないでええええ!!! 」
後ろから声が聞こえたのは気のせいだったことにしよう。
その頃、入学式の待機時間を1-Aで過ごしている生徒達の間で、とある喧嘩が起こっていた。
「ははははははは!!名家上がりって言ってたから、どんだけ強いのかと思えば、大したことねえじゃねえか!! 」
保健室から戻って来たばかりの朝日奈熱矢が五人程の生徒達と交戦し、体術のみで彼らを圧倒していたのだ。
「……くっ、コイツ!な、なにモンだよ! 」
「ははははァ!!俺は下らねえ壁をぶっ壊して自由を手に入れたんだよ!お前らは壁の中で成長出来てねえクズだ!死ね! 」
熱矢がトドメを刺そうと拳を握った刹那、彼は自分の身体がビクともしないことに気がつく。
そしてそれが、今朝戦った夜十の使っていた魔法に酷似していることにも気がついた。
「また冴島夜十かよ!邪魔すんじゃねえ! 」
「学園内の魔法仕様は原則上禁止だからと言って、暴力は良いと思ったの?ダメに決まってるでしょ! 」
似合わない黒いスーツに身を包んだ白髪短髪の少女は、背中に刺した愛刀の柄を握り、熱矢に近づいて言った。
「だ、誰だテメェ!! 」
身動きが取れない熱矢は、殺気を帯びた表情で怒鳴り散らした。
喧嘩を願望していた周りの生徒達は、現れた人物に興味を示し、歓声を上げた。
「虹色家の現当主で最強の女剣士と名高い虹色吹雪先生だ! 」
「俺らの一個上であの気迫、あの魔力制御ってヤベェよな! 」
「もうプロの魔法師だろ?ありえねえって! 」
その歓声を聞いた熱矢は、心の中に憤怒を溢れさせた。
「……お前も高い壁の中で自由を知らねえクズなのか?なぁ、死ねよ! 」
「なっ……!? 」
虹色は驚愕した。目の前の少年は虹色が家の名を背負う者だと気がついた瞬間に拘束していた空間を抜け出して来たのだから。
そして、虹色の腕を掴み、掌から大規模な爆発を帯びさせると共に地面へ叩きつけた。
「自由を手に入れた俺が最強なんだよ、テメェみたいな成長しないクズに負ける覚えはねェ! 」
受け身を上手く取り、熱矢からの距離を一度取る。
そして、背中の剣に手をかけようと虹色が手を回した瞬間、1-Aの教室の壁内から青く光る防御障壁が具現され、熱矢を覆った。
「流石、店長先輩!生徒の魔法だけを拾って、瞬時に拘束か。無駄に回数を消費しなくて良かった。 」
「な、何だよコレ!クソが、壊れねえ! 」
炎魔法を駆使して、障壁の破壊を試みるが、熱矢の繰り出す攻撃ではビクとしない。
それもそのはず、ATS魔法学園設立が決定した頃から、店長は風見の心のメンテナンスを沖に一任して、障壁を強化していたのだ。
半端な魔法で割れるはずはなく、夜十や沖、燈火などの全力を出し切った攻撃でも割れることはない程の防御力を秘めている。
「最後何もしてないけど、終わりかな。彼を教員室に連れて行かなきゃ……、えっと、そこの君!倒れてる五人を保健室に連れて行ってくれないかな? 」
「は、はい!今すぐに!! 」
近くにいた生徒に一任して、虹色は縄型になった障壁に拘束された熱矢を連れて、教員室へ向かった。
ーー保健室にて。
「……話の内容は理解したけど、俺は心のカウンセラー免許は持ってねえぞ火炎! 」
保健室の椅子に座り、足を組んで俯いている火炎に、保健室の教員である纏が言った。
「今朝来た子がお前の弟なんだろ? 」
「……従兄弟だ! 」
「うるせぇ!俺にはそんなことどっちでもいいわ!その原因はお前自身じゃねえだろ?アレは星咲のせいだっての!お前が一番分かってて、割り切ったはずだろ? 」
火炎は深く頷くが、俯いた表情をやめない。
「全く、お前は図体だけデカくて心が弱すぎるんだよ!もっと強くなれ! 」
「あぁ……」
素っ気ない返事にイライラし始めた纏を遮るように保健室の扉が勢いよく開いた。
普段なら、扉は静かにゆっくり開けろと怒鳴る纏だが、扉の先の五人の怪我人が目に入った瞬間に神速の如きで駆け寄る。
「どうした、入学式まで三十分前だぞ!なんだって、五人の怪我人が! 」
「えっと、その……」
「事情は後で聞くことにする!五人をそこのベッドに寝かせてくれ! 」
突然の仕事開始に大忙しで看病を始めた纏を背に、火炎は右手を挙げて出て行った。
「チッ……どいつもこいつも!!ムカつく! 」
「いててててててててて!!!! 」
「あ、悪い!お前を先に治癒するわ! 」
火炎に対する怒りが相まって、怪我人を連れて来てくれた少年の腕を強く握ってしまった纏は、謝罪と共に治癒魔法を施すのだった。
百十五話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
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今回は熱矢に関する話です。
次回もなんですが……、、、。
次回、教員室に戻った火炎は捕縛された熱矢と再会してしまいーー!?
次回もお楽しみに!!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




