第百八話 氷を溶かす言葉
遅くなりましたー、
《白雪の帝》、《炎帝》と同じ世代の魔法師で、彼が作り出す何をも凍てつかせる氷の空間内で無事だった者は誰一人として居ない。
巨大アビスも彼を目の前にすれば動くことすらままらならず、凍てついた身体は砂塵の様に粉々に粉砕する。
「吹雪、あの人を倒すのは至難の技。本気でかからないと死を見ることになるわ! 」
「……分かってるよ。神城優吾、凄まじい魔力量が感じられる。早期決着を目指した方が良さそうね。 」
ミクルは白の羽が描かれた光沢のある二丁拳銃を取り出すと重心を低くして構えの体制をとる。虹色も然り、刀剣の矛先を頭の上から下に向け、人間離れした男を瞳に捉えた。
「あのガキだったお前がここまで成長してくれて俺は嬉しいよ。でも、これは負けるわけにはいかねえな!! 」
ーー直後。
神城の周囲に冷気が訪れ、白い溜息と真剣な瞳が見える。神城優吾の魔法は氷魔法。
何をも凍てつかせ、破壊する最強の属性魔法師だ。魔法師の名家出身ではなく、一般参加で魔法師になった男なだけに賞賛は高い。
魔法師の名家の先代達に近しい才能を持つ男だと言われている。
神城はミクルと虹色を前にして、昔のことを思い出していた。
ーー十年前。
ATS所属で神城隊を受け持っていた神城は、冴島美夏の死を聞き、自室のベッドの上で悲しみに耽っていた。
テレビが置かれている台の上には、五人の少年少女が楽しそうにカメラに向かって笑顔とそれぞれのポーズをしている写真が置かれている。
学生時代によく一緒に居たメンバー五人。
冴島美香もその中の一人だった。
プロの魔法師とは常に命懸け、巨大アビスを目の前にして圧倒的な力を見せつけられたとしても民間人の為に命を張る正義の味方。
死とは常に隣り合わせ故に、同胞が毎日のように死んでいく様は慣れたとさえ思っていた。でも、慣れないものだ。
仲間を失うというのは、いつまで経っても慣れることさえ出来ない。
「神城隊長、新島さんがお呼びです! 」
「……あぁ、すぐに行くよ。 」
通らないボソボソとした声で返事をすると、ベッドから重い腰を上げ、新島の部屋へ向かう。
新島の部屋の扉をノックして、ドアノブに手をかける。彼は中で誰かと話しているようだった。
「お、神城来たな。騰、状況を説明してやれ! 」
「はい! 」
騰も新島も自分と同じに目元が腫れ上がっていた。きっと沢山泣いたのだろう。
「神城さん、こんな忙しい時期ですが二人の子供を入隊させることになりました。 」
「……は? 」
子供を入隊?神城には理解が出来なかった。
美夏が死んで次の日に新たな人間を補給?それも、魔法師ではなく子供を二人?
普段は新島が決定したことに楯突くことはないが、この時ばかりは頭に血が上って罵声を挙げた。
「新島、テメェどういうつもりだ!? 」
「……神城、気持ちは分かるがな。兵力が無ければウチはやっていけねえんだ。 」
「ここは命懸けで人民を助ける仕事をする者だけが踏み入れられる場所だ。ガキがママゴト感覚で来ていい場所じゃねぇ! 」
周囲に冷気が漂い始める。
パキパキと乾いた音が鳴り響き、床および天井が凍りついた。
瞳は新島を睨みつけ、明らかに敵対心を出しているような表情に態度だった。
すると、新島は呆れたように口を開く。
「……神城、隊長資格を暫く取り上げる。少し頭を冷やせ! 」
「新島さん、そこまでしなくても!神城さんだって美夏ちゃんのことで精神的に弱ってるんですから! 」
騰の優しい気遣いを無視して、神城は黙って部屋を去った。
「新島さん!どうするんですか!?神城さんがATSを抜けることになったら! 」
「……それは大丈夫だ。だが、今のアイツを溶かしてくれる人が居ねえのがマズイな。 」
部屋を思い切りに出た神城は何となく食堂に向かった。何かを食べたいと思ったわけでもなく、特に欲さえなかったけれど。
「……あら、神城さん。今日は一人? 」
食堂で勤務している女性隊員が声をかけてきた。彼女が座っている椅子の近くで、初めて見る金髪のロングヘアの女の子は黙々とスプーンを使ってご飯を食べていた。
「一人だ。その子は? 」
「新島さんから聞かされてないかしら?今度、入隊が決まったミクルちゃん。当面は新木場隊所属だそうよ! 」
子供の入隊員の一人が女の子?
益々、腹が立った。この子に美夏の代わりが務まるわけがない。
アイツは、人一倍正義感の強いプロの魔法師にして、才能の塊だった。
「……ガキには務まらねえだろ。どう考えてもよ。 」
皮肉そうに呟くと、食べていた食事を完食した少女は神城に向かって言った。
「ガキじゃないし!おじさん、悪い人? 」
「悪い人でもないし、おじさんでもねえよ!ガキを相手にするのは疲れるわ。外でも出てくるか。 」
「ミクルも行く!おじさん連れてってよ! 」
クルリと方向転換で彼女の言葉を無視して、冷気に自身を具現化した神城は食堂から速攻で離れた。
ある程度、遠い場所に逃げ切ったと思い、具現化を解いて歩き始める。
すると、背後に人の気配を感じる。
まさかと思い、恐る恐る後ろを振り返ると、先程、食堂で会った金髪の少女が立っていた。
「……なっ!?どうやって移動した!? 」
「私の魔法は空間魔法だよ。おじさんの後を追いかけるなんて簡単に出来るもんね! 」
直後、神城は冷気に具現化してその場から消えた。子供のくせに空間魔法?ハッタリに決まっていると、適当な位置へ移動する。
ーーだが、神城が降り立った数秒後に少女は背後へ必ずと現れる。
「ガキが魔法の乱用はよせ!後先の未来を考えて、魔法を使うべきだ!お前は、この組織に入隊するんだろ? 」
「うん。もう二度と大切な人を失わない為に強くなるって決めたの! 」
「何だよその言い方、まるで失ったことがあるみたいな言い方じゃねえか。ガキのくせに口だけは一丁前か? 」
半分以上、馬鹿にした様子でミクルを笑う。
自分の歳の半分も生きていない子供が人を失わせないように強くなるって決意するなんて、神城にはふざけているようにしか思えなかった。
だが、彼女は本当だった。
本心からの決意だったのだ。
「本当だもん!私の国は全部、大型アビスの力で消滅しちゃったんだから……」
「……大型アビスの力で消滅? 」
神城は耳を疑った。
そう言えば、数ヶ月前に遠く離れた緑豊かな小国を突如として現れた大型アビス五体が消滅させたという話。
生き残った人間は誰一人としていなかったと情報が入ってきていた。
「うん、私はパパの作った空間で生き延びれたの。でも、大切な人達が死ぬ瞬間を見ながら、空間の中で泣いていることしか出来なかった!! 」
神城は目の前の少女が見た目の割にしっかりしていることに気がつく。そして、疑問げに質問を投げかけた。
「お前、何歳なんだ? 」
「8歳だよ! 」
「8歳!?……にしては、大人びてるな。お前くらいの歳の子は皆、外ではしゃいで遊んでるだろ? 」
すると、ミクルは悲しげに目を虚ろにさせて頷き、口を開いた。
「私は国の未来を継ぐ者だから……庭で遊んでいた一般の子とは違うんだって。お花とかで遊んだことは一度もない……」
「じゃあ、お前は国の皇女になる予定だったのか?! 」
「うん……」
齢8歳にして修羅の道の上を裸足で歩く彼女に神城は言葉を失った。さっきまで抱いていた苛立ちは消え、自分がした失言を許せなくなる。
「ごめんな、そんな辛いことを背負っていたとは知らずに……」
「嫌だ!許したくない! 」
顔を俯かせ、彼女の瞳から視線を外した。
苛立っていたとは言え、怒られても仕方のないことをしたと反省する。
「でも、許す方法をあげる!私に魔法を教えて!もっと強くならなきゃいけないの! 」
ミクルが上から目線で必死に伝えた言葉は、大切な友人を失った《白雪の帝》の心を優しく溶かした。
「……だよな。いつまでも下を向いてなんかいられねえ!その代わりだ、俺はお前の嫌気がさすほど、辛い指導しか出来ねえよ。それでも、ついてくるか? 」
「……お願いします!! 」
その日からミクルと神城は共に修練を積み、軈て、神城隊の副隊長に昇格するまでになる。その辺の話はまたどこかで〜〜。
108話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
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今回はミクルと神城の過去回でした!
次回、神城とミクル、虹色の勝負が決着。
勝利を手にするのは、果たして!?
次回もお楽しみに!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




