第百七話 師を超えろ!
遅くなりましたーって書くのはテンプレ化してる気がする。
「……成長したな、夜十!彼女を守りながら、この私に牽制で一撃を入れるとは! 」
黒剣を携える夜十を前に、額を伝って顎から地面に落ちる汗を太く丸太のような腕で拭う新木場。一切の動揺は無し。
今、彼にあるのは久々の本気を試せる戦闘に対しての高揚感のみだ。
「燈火、後ろで俺の援護を頼む!俺はあの人を超えなければならない! 」
「わ、分かった!あんたごと、吹っ飛ばしても問題無いわよね!? 」
「ああ、それは全部任せる! 」
燈火の言葉に口元を緩め、ニヤリと微笑むと夜十は歴戦の師に対して一切の抵抗も見せず、間合いを詰める一歩を大きく蹴り飛ばした。
「ほう、タッグか。お前らの力、試させてもらうぞ!! 」
右手を強く握りしめ、新木場は向かってくる夜十を迎え撃つ姿勢を見せる。身体からは白い蒸気が発生し始めた。
大振りに掲げた右拳で空気を殴りつけ、巨大な空気砲を敵二人に放った。
「……っ!!ぐぁぁ!! 」
突然の攻撃に反応すら出来なかった夜十は、空気砲を顔面で受け止めてしまい、燈火の足元へ吹っ飛ばされてしまった。
「まだまだ甘いな。私が二度も懐に入らせると思ったか? 」
ーー二発目。
燈火へ向かって放たれた空気砲は何の障害物に妨げられることもなく、真っ直ぐに捉えた敵に重い一撃を食らわせたーー筈だった。
空気砲は燈火の腹部を突き抜け、威力を殺すことなく彼女の背後の壁に大穴を開ける。
「空気を殴って空気砲を放つなんて、無茶苦茶な技を。でも、避けられれば問題ない。《朝日奈の名の下に、焔を従え、神火の如きで敵を貫け!焔弁の爆炎花》! 」
焔で具現化された無数の鉾が新木場を捉え、真っ直ぐの軌道を描いて襲いかかった。
「その歳で自身を具現化とは……!中々やるようだな!だが……」
焔の鉾は背後へ後退し、速度を上昇させる新木場を捉えることが出来なくなった。
追尾性能を持つ《焔弁の爆炎花》が追尾出来ない速度。
燈火自身も新木場を捉えるのは難しい。
動きは見えるが、予測は無理だ。
「……隙だらけだ! 」
新木場は燈火の背後を取り、後頭部目掛けて握りしめた拳を放つ。
まるで刃のように空気を切り裂いて進む拳は真っ直ぐに燈火の後頭部を捉える。
新木場の拳が当たれば大型アビスは一部分が大損傷し、生身の人間であれば首を飛ぶ。
「……燈火!背後! 」
彼女は振り向くこともなく、地面に横たわっている夜十の言葉を信じて、自身を熱に具現化した。
拳は彼女の身体をすり抜け、凄まじい爆風を巻き起こす。熱としての彼女も爆風には耐えられず、吹き飛んだ。
生身の姿として地面に打ち付けられるか否かの瞬間、夜十はお姫様抱っこでキャッチをすると、燈火を立たせて目を瞑った。
「……あの人はパワーも速度も兼ね備えた最強の魔法師。次の展開を予測して、迎え撃たなければ勝ち目はない!燈火、下がっていて。やっぱり、これは俺が一人で勝たないと駄目だ! 」
昔から見てきた鬼のような背中を超えられるのは恐らく今しかない。
ずっと前から超えたいと思っていた壁、高く遠く、決して届かない歴戦の魔法師。
今なら超えられるかもしれない。
冴島夜十、今持てる全ての力で師を超えろ!
「はぁぁぁああああああああ!!! 」
ーー記憶状況、正常。
《追憶の未来視》に異常無し。
夜十の身体から蒸気が発生し始める。
後ろに立っている燈火は疑問の表情を浮かべるが、新木場は違った。
「ま、まさか……私の魔法を!? 」
発生した蒸気が収まり、夜十の身体の節々に激痛が走る。
新木場が言った通り、夜十がしたのは、《追憶の未来視》と《追憶の模倣》の同時使用だ。
身体にかかるリスクは高まり、疲労もダメージも計り知れない。けれど、夜十はこうでもしないと勝てないと思ったのだ。
「そこまでして私を超えたいのか!なら、本気を出さないと私の美学に反するな! 」
新木場はより一層力を高める。
《追憶の未来視》の読みでは、新木場は横にステップして速度を上昇させ、夜十の懐に入り込むと見せかけて背後に回り込んで蹴りを放つ、というもの。
《追憶の未来視》が提示した未来は揺るがなく真実に近い。
対象の癖や動きを記憶し、確実に次の行動を表す未来として具現化する為だ。
「行くぞ!夜十! 」
そう言って《追憶の未来視》の最初の読み通り、右斜め横にステップして軽い助走を付けた新木場は夜十の懐に入り込もうと足を滑らせる。
「新木場さん、負けません! 」
賺さず背後に飛んで後退し、無防備にも重心が前のめりになった新木場に追撃の蹴りを食らわせんと足を伸ばす。
だが、これは回避され、しかも最悪なことに足を掴まれてしまった。
新木場はボールでも投げるかのように勢いをつけて腕を振るい、地面に叩きつけた。
「……があっ!! 」
背中を強く打ち付けられ、危うく一瞬だけ意識が飛びそうになったが上手く受け身を取って地面に着地した。
「速度もパワーも理屈じゃ抑えられないくらいの……異常だ! 」
「……今ので倒れないとはマズイな。長期戦に持ち込まれるのは得策ではない。 」
この時、追い込まれていたのは夜十ではなく、新木場だった。
夜十さえ気がついていないが、新木場は自分の残りの上限回数が十回未満を期していることに焦りを覚えていた。
新木場の身体能力強化魔法は使用三十分間は問題無いが三十分を超えると、回数を一度消費して時間を延長しなければならない。
パワーと速度を兼ね備えたオールマイティな力を使用するにもリスクが伴うわけだ。
新木場本人は正直、一番最初の攻撃で夜十が戻ってくることはないと思っていた。
だからこそ最初の空気砲に一切の手加減は無かったし、手加減すれば敗北は決定されると分かっていた。
手加減無しの空気砲を受けてもなお、自分を超えたいという想いに火をつけられた。
でも、身体の衰えというのは日々の生活の中でも実感出来るほど辛いものだ。
「……次の一撃で仕留める! 」
夜十の瞼を閉じた瞳には、新木場が真っ直ぐ自分に拳を放つ未来が映る。
それ以降の未来は見えない。つまり、新木場の身体が動作しなくなるということだ。
《追憶の未来視》が追うのは相手の身体。
つまり、未来が見えなくなれば動作停止の合図になる。滅多に見れる光景ではないが、前に一度だけ魔法を犯罪行為に使う輩を壊滅させる時に見たことがある。
「この一撃を避ければ俺の勝ち!でも……そんなの認められるわけがない!真っ向からねじ伏せてこその力じゃないか! 」
夜十は右足で強く踏ん張って地面を蹴り飛ばした。新木場の使用する魔法の力もあってか、爆速で上昇した速度によってパワーという重みが拳に伝わるのが分かる。
ほぼ同時に新木場も地面を蹴って、身体を加速させていた。
拳も瞳も真っ直ぐに夜十を捉える。
「夜十おおおおおおおおおお!! 」
「新木場さぁぁぁぁん!!! 」
新木場はこの土壇場で、かつての弟子の言葉を思い出していた。
「新木場さん、私がもし亡くなってしまったら、夜十のことお願いしていいですか? 」
美夏、お前の願いはーー、
「あの子、本当に弱くて駄目な子なんです。本当は私が居なくなったら何にも出来ないんですけど、その時はシゴいて強くしてやってください! 」
夜十はお前が願った通り、強くなったぞ!
「……夜十、俺の負けだ。本当に強くなったな! 」
夜十は新木場を思いのままに強く殴りつける。夜十の倍はある大きな巨体が宙を浮き、地面に叩きつけられた。
「……勝った?のか?うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」
感激に満ちた喜声に殴り飛ばされた新木場も思わず瞳から大量の涙を流した。
あの日、美夏が死んだ日。
その日から新木場は思っていた。
美夏の弟、夜十だけは守ろうって。
絶対に強くしてやろうって。
そして、夢は叶った。
安堵したのか、新木場は笑顔のままに目を瞑り、気を失ったのだった。
第百七話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
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@sirokurosan2580
今回は夜十の師を超える回でした〜!
新木場が思う想いと夜十が思う想いの衝突!
自分は素敵だと思います(*´∀`*)
次回!
ミクルと虹色は《白雪の帝》に立ち向かう!
だが、神城は昔のことを思い出していた。
神城の学生時代が明らかにーー!?
次回もお楽しみに!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




