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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《学園救出編》
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第百六話 試練の開始

遅くなりましたー、

真っ直ぐ自身の魔力を具現化し、黒い柄、黒い刀身の剣を生み出した夜十は、目の前の精鋭部隊五人を見据える。


「……夜十の《追憶の未来視(リコレクション)》には気をつけろ! 」


五人は普段味方の夜十の魔法は知っている。

勿論、学園に入って身につけた《追憶の模倣(メモリーレプリカ)》のこともだ。

彼が記憶する全ての魔法を把握しているわけではないが、窮地に追い込まれた瞬間は朝日奈燈火の炎を魔法を主体として使用することなど、細かい点は理解している。



「……君らの攻撃は全て記憶済みだ! 」


夜十には彼らの未来が見えていた。

過去に既存していた彼らの戦闘データ、生活データからより近い未来を具現化していたのだ。


五人は真っ直ぐ、各々の魔法を駆使して同時に斬りかかってくる。

同時の意味は、順々に戦うことで相手に決定的な隙を見せるのは痛いからだ。

だが、味方の攻撃が被ってしまっては元も子もない為に充分なチームワークが必要と言える。




「まるで大型アビスにかかるような勢いだな。まあ、当然か。もう新島隊副長の夜十じゃない。冴島隊隊長の夜十だから……か。」



五人は夜十が見た未来通り、真っ直ぐ同時に斬りかかった。

タイミングを僅かな呼吸の音で見計らう連携は対アビス訓練を施された精鋭部隊だからこそ成せる技だ。


だが、夜十は分かっていた為に、僅かな隙間を縫うように華麗な回避で避けきり、五人其々に制裁を下す。

避けられたことを確認し、一歩後退を望む兵士の眉間に蹴りを入れて気絶させた。

ソレを瞬時に把握し、夜十の視野の範囲外から現れた兵士は夜十の横腹に右拳を固めて振りかざすーーだが、これは当たらない。


《追憶の未来視》で横からの奇襲を見抜いていた夜十は、拳を優しく右掌で包み込み、拳を掴んだまま、背後に回り込んだ。

すると、強制的に背中に腕が回り、腕挫手固(うでひしぎがため)の体勢で次、同時に襲いかかってくる二人の蹴りを固めている兵士を盾に使い、蹴りが当たった瞬間、二人の懐へ同時に入り込むと鳩尾に強烈な拳をめり込ませた。



「後一人! 」


「くっ……マズイ! 」


兵士はあっという間に周りの味方が倒されたことに驚きの声音を吐き、夜十から一歩後退して距離を取った。



「流石は新島隊の副長を務めていただけのことはある。俺ら五人の攻撃、連携などは無視して体術主流で攻めるとは……」


「……」



夜十が一瞬で加速した刹那、兵士は目の前が真っ白くなり、床に突っ伏して気絶した。

縮地法の応用で上昇した速度で空気を揺らし、振動の重みを直接脳へ伝える力技。

移動しただけで敵を倒すその様は一発だけで巨大な破壊力を帯びる。


冴島隊隊長、冴島夜十は五人の精鋭部隊を見事撃破した。





残りの二人の結果は言うまでもない。

空間魔法の使い手、ミクルに関しては五人の精鋭部隊を一瞬で締めるのは簡単。


そして、それは虹色吹雪とて同じだ。




「……虹色吹雪。虹色家現当主にしてATS所属のプロの魔法師になった天才……味方だと心強いが敵だと、ここまでとは! 」


虹色は開幕速攻、自分の空間で敵を包み込み、彼らの身体を静止させると、瞬時に剣の柄の部分で打撃を行い、五人を纏めて気絶させた。



燈火が勝負を終えて、周囲を見渡すと他の三人は終わっているようだった。

夜十は手に携えていた黒剣を手放し、燈火の方を向き、親指をグッと突き立ててニッコリと笑顔を浮かべた。



「輝夜さん、ウチの燈火を舐めてたでしょ? 」


燈火の技を受け、真っ黒焦げになった輝夜は悔しそうに夜十の煽りを受け止める。



「お前にそう言われると腹立つんやが、確かにワイは学生諸君を舐めすぎとったようやな。そいつは失礼やった。だが、この演習はこれで終わりやない!任せたで! 」



全フィールドの白い柱が地面にしまい込まれたタイミングで登場したのは、二人の男。

先程まで弟子達の成長を笑い話をしながら観戦し、物思いに耽っていたあの二人だ。


「輝夜の保険とやらは当たってしまったようだ。となれば、本気で叩きのめすのみ! 」


「オイ、新木場!新人研修で腕鈍ってねえだろうな? 」


「……当たり前だ!! 」


気合は十分。

ATS所属の魔法師にして其々が隊を持つ隊長。新木場と神城は、拳を握り締めて弟子達が立っているステージに上がる。




「新木場さんと神城さんが……相手!? 」


衝撃の展開に驚きを隠せない。

燈火は自分の父と名を並ばせる天才魔法師《白雪の帝(ユミル)》が敵ということで震え上がった。

夜十もミクルも虹色も、常に平和よりも戦場を好み、戦いの日々に明け暮れることを望む彼らこそ、これ程までに震え上がることは無かった。




「……ミクル、言っておくが手加減はしない。全力のお前を見せてみろ! 」


「神城隊ちょ……神城さん、負けない!私は、貴方のように強い魔法師になると決めたのだから! 」


決意は固く、されど緊張も大きく。

二人の魔法師を前に四人は震え上がった胸を抑え、感情を抑え、魔力で生成する諸刃の剣を手に立ち向かう。




神城は羽織っていた黒いスーツを脱ぎ捨て、白いワイシャツのボタンと同時にネクタイを取って地面に投げ落とした。

瞳は真っ直ぐ誰を見据えるわけでもなく、四人全体を見通すような重圧感を醸し出し、隣の新木場に目もくれない。


「完全に集中モード入ったな。神城の本気、久々に見れると思うと嬉しいよ。俺も本気を出さないと、夜十には勝てないか。 」


新木場も黒いスーツを脱ぎ捨て、ワイシャツ一枚姿になる。裾を捲って腕を組み、四人全体ではなく夜十だけを見据えた。



「……く、来るぞ! 」


夜十の合図で二人の魔法師が動き出すことを確信した周りの三人は瞬時に魔法陣の展開に移る。燈火は詠唱破棄(レヴァケーション)、虹色とミクルは空間を展開した。


神城が一歩踏み出した瞬間ーー、凄まじい冷気が白い蒸気の煙幕となって視界を眩ませた。



「……一瞬で場の空気を凍結。神城さんが本気を出す時に自分の空間を作り出し、動き易くするために使う技だね。 」


神城隊に長い間所属していたミクルには、神城がしようとしていることは分かった。

それに、この白い蒸気の煙幕には最大の強みがある。

それはーー、



「……っ!!な、何よこれ! 」


魔法陣の展開で時間を使い、白い蒸気が出た瞬間も同じ場所に留まり続けていた燈火の脚が凍りつき始めたのだ。

瞬間冷却された空間では、あらゆる物が一瞬で凍結する。

神城が自身の全力を出す為には瞬間凍結を可能とする空間が戦いやすいからだ。


だが、燈火の足はこの程度は止まらない。

足に多大な魔力を集中させると、足だけは熱に変わり、氷は蒸気を帯びて溶けた。


「朝日奈は面倒だな、俺の氷が効かねえか。けど、焔よりもマシだろうよ。子供が親を超えることなんざ、早々にねえはずだからな! 」


燈火を見て、神城は血相を変える。

深く潜るようにしゃがんで地面に掌を付けた。



伏せた掌を主体とし、神城の背後には巨大な氷塊が出来上がった。

凍結空間内の空気中の水分を魔力で凍結させ、集合させたモノだ。



「爆散しろ、雪月花! 」


氷塊は神城の言葉通り爆散し、彼の頭上に浮かび上がると、雪の礫で出来上がった刃物の雨となって見据えた先へ集中的に降り注いだ。



「……あっ、!ミクル!来るぞ! 」


追憶の未来視(リコレクション)》で氷の雨が降り注ぐことを認識した夜十は、ミクルに防御の指示を出す。



「わかってんちゃーん!私がどれだけこの人と一緒にいたか! 」


降り注ぐ氷の雨はミクルの展開した障壁によって無に返される。彼女の障壁に氷の刃物が触れた瞬間、氷の刃物はどこかへ消滅した。




「やはり、ミクルか。アイツを先に倒さない限り、この演習で俺らに勝ち目はない!新木場、ミクルと虹色は任せろ!夜十と朝日奈燈火は任せる! 」


「……ったく、親バカだな。まあ、それは俺と同じなんだけどよ〜! 」


神城はミクルと虹色、二人の空間系魔法師の姿を瞳に捉えた。




「あの人はプロの魔法師なの? 」


新木場の方を指して素朴な疑問を投げかける燈火に、夜十は青ざめた表情で足を震わせながら答えた。



「あ、あの人は俺の体術の師匠だよ!並外れた戦闘能力から付いた異名は《脳筋鬼(バーサーカー)》!半端な魔法じゃあの人は縛れない!あぁ……き、緊張する!! 」


「体術って……魔法は? 」


ーー瞬間。

目の前に居たはずの新木場は、燈火の背後に瞬間的に移動し、容赦なくその剛腕を振るう。



「……きゃっ!! 」


咄嗟のことだったが気配を察知し、拳を受ける手前で両腕を十字に組んだ燈火は、威力を半減させる姿勢を取った。

だが、威力は高く、背中を地面に打ち付けられる。



「俺の魔法は身体能力強化(ストレング・スニングス)。一般的には大したことのない魔法で認知されているが極めれば……ッ!! 」


脚力を強化し、一気に跳躍。

地面に背を付けた燈火へ握り締めた拳を叩きつけんと猛威を振るう。



ーーだが、燈火にその攻撃は届かなかった。

燈火の眼前に迫る新木場の腹部に強烈な蹴りを食らわせ、牽制の姿勢を取る夜十。

突然の腹部への強烈な一打に嗚咽を撒き散らしながら、背後へ後退を試みる。



「……はぁ、はぁ!今の、気配を消して俺の懐へ入り込んだのか?! 」


「俺の燈火をそんなに虐めないでもらえますかね……? 」


一歩後退した新木場を前に夜十はニヤリと微笑んで、両掌を合わせて小さな爆発音を生み出す。

とてつもない魔力が圧縮され、一太刀の剣に具現化された。



黒く尖った刀剣を手に夜十は、師である新木場を倒すべく、集中力を尖らせるのだった。







百六話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回は夜十、ミクル、虹色の無双回です。

そして、夜十達は師を超える事が出来るのでしょうかー!?



次回もお楽しみに^^


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


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