第百二話 修羅の道 ④ 《赤暴の魔術師(レイジ)》
遅くなりましたー、新作はもう少し!
「魔術師最強の剣士なあ……なら、人類最強の剣士がお前を倒してやる。お前のそのくだらないプライドをズタズタに引き裂いてやらァ!! 」
シンは、バアルが掲げたプライドをズタズタに引き裂く決心をした。
どうせ、倒さなければ前に進めない敵。
一々、躊躇していたら魔術師を絶滅させる夢なんて叶うわけがない。
そうだ、躊躇なんて最初からしなければ良かったのだ。
老人や子供の兵士に気を使って、一時間や二時間おきには必ず休憩の時間を設け、強い敵との遭遇には撤退を優先した。
あの頃は、それが正しい選択だと思っていたけれど、それは無意味な選択だったと思えてきた。
シンは失い始めていた。
自分の人間として感情を。優しさを。
「……よそ見なんかしてる暇があるのか?人間! 」
バアルの大剣が振り下ろされ、咄嗟の判断で刀剣の峰を駆使し、受け止める。
だが、咄嗟の受け止めでどうにかなる火力ではなかった。
バアルの持つ高火力の一振りは、シンの背中を崖に打ち付ける。
「……終わりだな。 」
追撃を執り行なおうとバアルが剣を振りかざした瞬間、バアルの右側に現れたハルトが一歩を踏み出して加速。敵の意識は全て、シンに向いている。であれば、利用しない手立てはない。ハルトは、バアルの顔面に強烈な蹴りを叩き込んだ。
突如としての奇襲にバアルは、大剣の重みと重心のよろめきで、その場に尻餅をついてしまう。今、追撃されるのは御免。
彼は剣のみで戦うことを諦め、自分にしか聞こえない小さな声でブツブツと詠唱を始める。
「……終わりだッ!魔術師! 」
シンの刀剣がバアルに届くか届かないかの瞬間、ハルトは気がつく。
空気に微量の振動が無数に響き渡り、それは、段々と密度を増していくのを。
シンはそれでも前に突き進む。
魔法が展開されようが、関係はない。
「待て、シン!戻れ! 」
ハルトの声も聞こえない。
この際、主であることは関係ない。
シンは自分が戦う度に強くなり、それと同時に感情が欠落し始めていることに気がついていた。
「優しさ」も「情」も、どうやって人に向けていたのか、分からないのだ。
「はぁぁぁぁあああ!!! 」
真紅に染まった巨大な竜巻が発生し、シンの追撃を阻もうと猛進し始める。
だが、今のシンには関係なかった。
阻むものは全てーー"斬る"のみ。
「よく吠える奴隷は嫌いじゃない。だが、この場合は違うな。さっさと死ぬがいい、人間!私の攻撃を避けて、前に進むことなど出来ないと知れ! 」
バアルの確信していた自分自身の力は、この後、あり得ないコトによって引き裂かれることになる。
「……ゴタゴタうるせえよ。黙れ! 」
ーー瞬間。
シンは自分の強さを知った。
一歩を踏み出して一瞬で加速。バアルが生み出した竜巻を意に返さず、猛進し続ける。
空気に響く無数の振動が深く深くなった時、シンは刀剣を力一杯に振り下ろした。
決して、それが無効化出来るとは確信していなかったが、バアルが生み出した魔法。それは、シンのたった一振りによって真っ二つに切られ、空気に分散するように消滅した。
「はぁっ!?な、な、何が起きた!? 」
バアルは甲高い声音で驚き、驚愕に見開いた大きな瞳でシンの姿を凝視する。
そして、何故切られたのかを確信した。
「人間の剣士よ、もうお前は人ではない。修羅の道を歩むがいい!! 」
「……黙れ。 」
バアルの目に飛び込んできたのは、銀光煌めかせる刀身の矛先が真っ直ぐに自分を捉える様。目の前が真っ赤に染まったと思った瞬間には、彼の肢体は真っ二つに斬り裂かれた。
「……魔法を斬る力。それがお前の強みか、シン。 」
「俺には分からない。ただ、俺が出来るのは目の前に現れた敵を剣で捩じ伏せることだけだ。昔と何も変わらない。 」
そう、昔と何も変わっていない。
姉と二人で旅を続け、魔術師に襲われていない村を訪問して使えそうな兵士を選ぶ。
中には反発的な態度を取ってきた者が居たが、それは全てシンが姉に言われて、制圧していた。
唯一、変わったのは「心」だろう。
シンはその場に腰を下ろし、バアルの屍を凝視する。
もう、人を斬っても何も感じなくなってきている。昔は、刃を使わず、峰を使用し、敵を退かせて来たが、今は何の躊躇もなく、人の頭を跳ね飛ばすことが出来る。
心境の変化に戸惑いを隠せない。
考えれば考えるほど、自分という人間が嫌になっていく感覚。
シンは、自分以外の人類を背負って生きている。いや、違う。
背負っているのではなく、捉えられているが、正しい。
時折、感じる身体の疲労感は、其れだろう。
ーーキュレル城、最上室にて。
アグニスと呼ばれた男は、親指の爪を噛んで考え事をしていた。
自分の部下の中で最も強く、頼りにしていたバアルがやられたのだから。
「くっ……人間風情が!あんな、簡単にバアルを殺すだと?あり得ん!私が自分で赴くしか無いようだ。ティリア、城を任せる。 」
「はい、仰せの通りに……」
アグニスは、部下の女性に命令を出して、その場から空気に混じるかのように消滅した。
「シン、途轍もない魔力の塊がこちらに向かって来てる。もしかしたら、アグニスかもしれない! 」
「アグニス? 」
「アグニスは、魔術師を束ねる五将軍の一人で、火を操る魔術師の中で最も最強と言われている魔術師だ。さっきのバアルやニアルは、ヤツの部下だ。 」
五将軍。一人一人が魔術師数千人を束ね、場所によって収めている人物が違う。
この地は、アグニス・ウィッシュガルド。
彼の領地だった。領地内で行われた不祥事は、五将軍の座を降りることになる決定的証拠となり、アグニスの立場上、信頼していた二人の部下が殺されるのは宜しくない。
すると、ハルトとシンは上空に現れた一人の男を双眸で睨みつけた。
その男は、赤い瞳で二人を捉えるなり、迷惑そうに表情を強張らせて言った。
「……お前達が人間か。魔法を斬る人間と、裏切りの子供。何をしに来た? 」
「お前達、魔術師に復讐を……! 」
「馬鹿な真似はやめておけ。この城には、数千の魔術師が住んでいる。お前達がたった二人でどうにか出来る数じゃない! 」
ーー其れでも、シンが諦める理由はない。
シンは立ち上がり、アグニスに矛先を向けて言った。
「魔術師のトップだろ?ゴタゴタくだらないこと抜かしてないで、正々堂々かかって来いや! 」
アグニスは、やれやれと首を横に傾けて呆れを表情に浮かべた。
今のは軽い忠告のつもりだったのに、相手はやる気満々。
やるしかないようだ。
掌の上に炎を燃え滾らせ、中から二本の剣を具現化させると、刃をクロスさせて構えの態勢をとった。
「……良いだろう。お前達に絶望を見せてやる!! 」
第百二話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は少し短めでしたが、シンが魔法を斬る力を手に入れたという話です。
厳密には自分自身の力に気づいたという意味をなしています。
それでは次回!
次回、アグニス VS シン & ハルト。
二人の前に立ちはだかった強敵アグニスは、その猛威を振るい、シン達二人を絶体絶命に境地に追い込むーー!?
次回もお楽しみに!!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




