第十話 願いの十字架
一時間遅れました、すいません!
明日もこんな感じだったら申し訳ないです!
発動時間の制限が終わったのか、俺の身体から消えるように白い光は消滅した。
グッタリと体に疲労感が残る。
ーー瞬間。
心拍音が大きくなり、背中が燃えるような激痛が走り始めた。
地面に転がって、痛みを抑えようと悶え苦しむ。だがーー簡単に収まる痛みではない。
その瞬間、熱さからの痛みは消え、まるで肉がそがれるときのような痛みに変わった。
さっきの数倍の痛みはあるだろう……!
「がっ……な、んで……!!朝……日奈を助けに!うっ、あっ……!」
彼女が吹っ飛ばされた方向に、手を伸ばす。だが、届くわけがない。
俺は地面に突っ伏しながら、
意識を手放したーーー
ーー目を覚ますと、子供の頃、よく見ていた、
赤い月が街を照らす世界に、俺は居た。
姉がこの世を去った後の八年では、一度も見ることがなかったのに、急にどうしてなのだろう?
しかし不自然なのは、夢の中で、これが夢なのだと自分の中で確証があることだ。
「ネガイハ……ノコリ、九ツ……!」
何処からか声が聞こえる。
女性というよりは甲高すぎる声の主は、どうやら十字架のネックレスから出ているようだ。
「俺の魔法使用上限の数を、どうして知っているんだッ!!」
銀色の十字架のネックレスに問いかける。
俺の使用上限を知っている人物は、数が少なく、組織の人間しかあり得ない。
「ワタシハ、ナンデモ……シッテイル!ネガイハ……カンリョウシマシタ!」
「願いが……?願いの十字架……?」
だが、俺の返答は十字架には届かず、
暫くすると、視界は暗転した。
ーー《平和派》拠点。
木造建築の古びた旧校舎の医務室には、腹部から頭にかけて、包帯を巻き、傷の処置を取られた俺と朝日奈がベッドに寝かされている。
朝日奈の方は、覚めていないが、俺は先程、夢が終わったと同時に目を覚ました。
巨大烏賊を倒した後、彼女の元に向かおうとして、倒れたのは覚えている。
だが、そこからは覚えていない。
何はともあれ、彼女が無事で本当に良かった。
「……失礼するよ!おや?夜十君、起きてたのかい?!……す、すまない!!私の注意力の無さで、このような形で君達を危険に晒してしまって!!本当に申し訳なく思っている!!」
医務室の扉が開くと、風見が上体を起こしてベッドに座っている俺を見て、驚く。
風見は、俺を見るなり、頭を下げて、申し訳なさそうに大声で謝罪の言葉を紡いだ。
「良いですよ、別に。情報の間違いなんて、どこの時代でもあり得ることなんですから、気にしないでください!ところで、何か用ですか?」
「……ありがとう!!ああ、君達を観に来たんだけど、起きてるようなら聞きたいことがあるんだが、良いかい?」
風見は、様子を伺うように、俺の顔色を見て問いかけてきた。
勿論、承諾しない理由はない。
「大丈夫ですよ。何ですか?」
「単刀直入に言わせてもらうよ。君は、何者なんだい?!魔法は……?上限回数は?」
それは、誰であっても答えてはいけない質問内容だった。
けれど、彼女は知りたがっている。
決して面白半分ではなく、真剣な眼差しで俺のことを知ろうとしてくれているのだ。
「……ごめんなさい。それは……」
「……言えないか。それならそれで良いんだけど、いつかは話してほしいな。もう君は、冴島夜十じゃない。《平和派》の冴島夜十なんだからさ!」
彼女は笑顔でそう、言ってくれた。
俺はもう、一人ではない。
そんなことは分かっているけど、まだ、自分の力のことを話す勇気は生憎、持ち合わせていない。
俺の鼓動は、音を大きく、速度を高めて、そうであることを教えてくれているようだった。
「はい。ありがとうございます!気持ちが決まったら、話します」
「うん、分かったよ!私はそれを待っているだけさ。そう言えば、君達が回復しきったら、《平和派》の歓迎会を開こうと思うんだ!勿論、来てくれるよね?」
こんなにも優しくしてくれる先輩の気持ちに応えないわけがない。
俺は笑顔で承諾し、医務室から出ていく彼女の後ろ姿から視線を外すと、白い天井に視線を移した。
俺の魔法と上限回数は……!
言えない。言えるわけがない。
言ったら、あの優しい人であっても豹変する可能性は否めないからだ。
「……んん!」
高めの咳払いが隣から聞こえると、
俺は、聞こえた方向を凝視する。
するとーー
起きたばかりの彼女と目が合った。
「……ここは?」
「旧校舎の医務室だよ。朝日奈、ごめんな、危険な思いさせちまって……!それに、守れなかった……」
俺の謝罪に怒りを覚えたのか、彼女は顔を赤らめて、怒鳴りつけてきた。
「べ、別にあんたのせいなんかじゃないわよ!避けれなかった私が悪いだけ!」
「いや……でも」
朝日奈を守れなかったことに責任を感じている俺に、彼女は怒りの声を続ける。
「……私が守れなんて、いつ、頼んだの?頼んでもいないのにそんなこと思われてたら、腹も立つわよ!!」
……確かに、そうだ。
頼まれてもいなければ、俺が守る必要があるほど、か弱い人間でもない。
俺は勝手に朝日奈を護ろうとしていたんだ。
自分勝手過ぎる、俺は彼女に謝らねばならない。
それでも……!!
「……ごめん。俺は君を勝手に護ろうとしてた!でも、俺は人を失うことを二度としたくないんだ!だから、護らないことは出来ないんだ……。本当にごめん……!」
必死に葛藤しながら、出した言葉へ、今度は、彼女らしい言葉で俺を包み込んでくれた。
「……また謝った!まぁ、でもそれがあんたってことね。しょーがないから、私は、あんたに護られてやるわ!!」
「うん、ありがとう!……ところで、話変わるんだけどさ。朝比奈が俺に質問したいことって何?ほら、前の時のやつ!」
コロッと話題を変えると、
彼女は顔を楽しそうな表情に変えて、笑いながら俺のことを見つめてきた。
「ふふふふ!!昨日、何でも答えるって言ったわよね!?それじゃ、あんたの魔法と上限回数を教えなさい!」
ギクッ!!
ま、まさかさっきの会話聞いてた?!
「まさか、さっきの風見さんとの会話聞いてた!?」
「聞いてないと言ったら嘘になるわねぇ?」
この女……クッソあざとい!!
ただ、とぼけてみれば良いんじゃないか?
そうだ、そんなこと言った覚えは……!
ピッ、と音と共に、彼女の方から聞こえてきたのはーー
「……俺への質問は、任務が終わったら何でも答える!!」
あの時の俺の声が、まんま録音された音だった。
「はぁ……!?用意周到過ぎるだろ!」
あの状況で、端末起動して録音してたのか?全く、気がつかなかった!!
手際良過ぎて、これじゃ逃れられないじゃねえか!!
「さあ!堪忍して!!さっさと答えなさい!!」
「うぅ………マジか。なあ、朝日奈、他の質問にしない?」
それでも、これだけは言えない。
組織間の話とかじゃなくて純粋に俺が嫌なんだ。過去のことは、教えられない……。
俺が下を向いて俯くと、彼女は何かを察したように、問いかけてきた。
「……そんなに教えられないことなの?」
「ああ、少しだけ特別なんだよ。俺の魔法と上限回数は……」
その返答に、彼女はどう答えていいか分からず、途方にくれるしかないように、ゆらゆらと身体を揺らした。
「……どうして言いたくないの?」
「俺の魔法と上限回数は呪われてるんだ。それに、君が聞いたら、君は俺を見放すんじゃないかって思うし……」
そう、これは絶対に、言ってはいけないんだ。
彼女の豹変するところなんて見たくはないだろう?
ーーすると、彼女はベッドから身を乗り出すようにして、怒りを露わにした。
「だから、あんたは、なんでそうやって自分の中で決めつけるのよ!!……私がそんなことするわけないでしょ!?」
「いや、だって……」
それでも、彼女には教えたくない。
失望されるのが、怖い。
グズグズとしている俺へ、更に苛立ちを覚えたのか、彼女は大きな声で叫んだ。
「もう、うっさぁぁい!!後のことなんか気にしてないで、目の前のことを気にしなさいよ!!ここであんたが言えない方が、私は疑問に思うし、あんたに失望するわよッ!!!」
ああ、そうか。
彼女は、自分より下の魔法師を馬鹿にするようなタイプではないんだ。
分かってはいたけれど、改めて、感じるとなぜか安心する。
彼女には、話してもいいかもしれない。
「……分かった。君になら言うよ……!それじゃ、話すね」
俺は彼女に、自分の魔法と上限回数のことを紡ぎ始める。
呪われた、俺の魔法を。
ーー七年前。
組織に加入してから一年の月日が流れたというものの、俺の筋力や戦闘力は、依然よりも少しだけ上がった程度で大した強さにはなっていなかった。
そんなある日のこと。
今日は、組織内の能力調査があると言われたので、施設内の医務室に向かった。
医務室には、沢山の機械が配備されており、その中にはKMCが誇る能力を探知して、魔法の名前と効果、上限回数を調べる機械が含まれていたのを思い出した。
今日はそれを使っての、検診らしい。
医務室の扉を開くと、新木場と新島が居た。
「おはようございます!!今日は、筋トレ無しですか!?」
「はぁ?馬鹿野郎だなテメェは!!この診察が終わったら、すぐに演習だよボケが!!」
新島が俺の言動に対して、頭を傾けながら威圧した表情で言葉を返す。
「まぁまぁ、新島!!今日の演習は俺も参加するんだから、そんなお堅いことを言うなって!夜十もきっと楽しみにしてるぞ!な?」
特に最後の部分からの威圧感が半端ではない。最早ーーそれは恐怖。
俺に残されている選択肢は、
頷くことだけだった。
「この後のことは良いだろ、この辺で!んじゃ、さっさと台に乗れ!!」
新島は、機械の台を指差しながら言った。
だが、俺は行動に移せなかった。
それは、新島のことが嫌いだとか、エロ隊長だとか、クソエロ野郎とかそういうことだから、言うことを聞かないわけではない。
純粋に、また魔法名を見て、姉のように表情に曇ってしまうのではないかと心配になるかだ。
「オイ、ガキ!さっさと乗りやがれ!」
仕方ない。新島の言われた通りのことをしよう!
もし、曇ってしまっていても、俺はどうすることも出来ないのだ。
そう考えた、俺は、台に乗ると、目を瞑った。
一年前に体験した感覚が蘇る。
検診の時もそうだった。
機械の上に乗ると、自然と意識が無くなる。
俺はそのまま、視界を暗転させ、意識を手放した。
だが、俺の意識など、御構い無しに、機械は作動して、不思議な音と共に、体の分析を始めた。
様々な数値や文字が液晶に流れ、小さな方程式を無数にも繰り広げて計算をする。
そして暫くするとーー
検査が終わったようで、液晶には、大きな文字で結果が表示されると、2人は、驚愕したように、大きな声を上げた。
「……嘘だろ!!おい、新島!!」
「美夏のやつ、こんなクソッタレなガキを連れてたのかよ!?あ、ありえねェ!」
二人は、液晶に書かれている文字を見て、
驚愕なまでに目を見開き、口元を手で押さえながら、呟いた。
そう、俺の魔法は呪われている。
回数も強さも。
後々に聞かされて、俺自身も驚いたが、俺の魔法と上限回数は、まるで、呪われているようだった。
ーー俺の魔法《願いの十字架》は、十字架に願ったことを自分に反映させる魔法だ。
そして、上限回数はーー
『十回』
この時、齢9歳で魔法師を志すことを決めていた俺にとって大きな壁が出現した。
そして俺は、魔法師としての才能の無さと、弱さを思い知ることとなってしまったのだった。
十話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
一時間の遅刻をお許しください!
また、明日の投稿もこんな感じになりそうです!ご迷惑をおかけしますが、気長に首を長くして、待っていてくださると光栄です!!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




