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「「ワァァァ!」」
観客達の声援に見送られ、俺は闘技場を後にして、控え室に向かった。
控え室に斧を置き、廊下を歩く。
『バッドボーイ、ビアトール、各リーダーは会議室に集合せよ』
コアからの放送を受けて俺は会議室の椅子に座る。
俺が一番乗りのようだ……少し疲れた俺は腕を組みながらうたた寝をする。
暫くすると周りは騒がしくなっていったので目を開ける。
既にスオや殆どのリーダーが集まりつつあった。
「黒助……ビアトールは?」
「親方は来ない……俺が代理で来た……」
「全く……」
変わらんなビアトール……
代理を名乗ったゴブリンはアダ名を黒助という、肌の色が焼けていていつもススだらけなのでついた名だ。
彼はビアトールの一番弟子らしく、いつも代理でやってくる……
そもそもビアトールは会議に出たことすら……無いかも知れなかった。
黒助はポケットからシープジャーキーを取り出し、かぶり付いた。
『集まったな……読んだのは他でも無い……皆の働きのお陰でDPが大量に溜まった……そこでだ……また、ダンジョンエリアの拡張を行おうと思うのだが?』
「良い考えね……コア、今回は何kmぐらいの拡張をする予定?」
『半径10km程、延ばそうと思う』
「そう……」
スオは大きな地図を取り出し、机に広げた。
地図の中心に描かれた円は現在のダンジョン範囲……円の中には赤い点と円が記載され、全てがバツ印している。
……赤い円は別勢力ダンジョンの予測ダンジョン範囲
……赤い点は別勢力のダンジョン入口、バツ印は前回と前々回で範囲内に入った為、壊滅したダンジョンだ。
スオはコンパスで半径10km分大きな円を描く。
「今回の対象は……3つ……東と西は……厄介ね」
範囲内に入るのは……
北のオークダンジョン
東の湿地帯ダンジョン
西のドラゴンダンジョン
「北のダンジョンはオーク主体……あのダンジョンは怠慢でしょう……1〜5の小隊に任せます……ダンジョン範囲のギリギリで待機し、合図と共に殲滅しなさい」
「了解……スオさん……」
「黒助、武器はどれ程あって?」
「ゴッ!……グプッ!」
急に話を振られた黒助は喉にジャーキーを突っ掛け、他のゴブリンにさすってもらう。
「グゴッ……ま、魔武器は80……くらい完成している……その他、通常の武具は全員に行き渡るほど揃えてる」
「そう……6〜85の小隊、リーダーには魔武器を装備し、その他65小隊と共に合計150隊で私と共に向かいます」
「ゴブッ!」
「くれぐれも気を抜かないように……あのダンジョンはスライムやリザードマン、半魚人などが生息しています……
中でもスライムは毒性の強いものが多く……物理耐性を標準で保有し、中には魔法耐性も強い者もいるという話です……
相手を見極め、魔法か物理か最善の武器を選ぶ事が必要……私も同行しますが、指揮が滞る場合も考えられます……貴方達に判断を任せる場面もあるでしょう」
「了解……任せてくれ……」
「さて……残るは西のダンジョンですが……バッドボーイ……これは貴方とフランシスに任せます……確認されたドラゴンは3体……ドラゴン達は数は少ないですが、兎に角強い……バッドボーイ以外が行っても足を引いてしまうでしょう……しかし、バッドボーイのレベルでも三体を相手にするのは難しいでしょう……そこでフランシスと一緒に行ってもらいます」
「ダメだ」
あのダンジョンのドラゴンを一体倒すのにAランク冒険者達は10人掛かりでやっとだったらしい……それを三体……幾ら何でもそんな場所にフランシスを連れて行くわけにはいかない
「それはフランシスさんに聞きます」
《やらせて下さい……》
フランシスはダンジョン内放送とビジョンで会議室の様子を見ていたようだった。
「ダメだ!」
《わたくしも偶には外に出たいのです……連れて行って下さいまし……》
「危険過ぎる」
《ドラゴンの皮膚で作ったローブは高い耐性を持つとスオさんからお聞きました……お願いです……わたくしは……貴方ともう少し……》
俺はフランシスの悲痛な言葉に閉ざした心を捻じ上げられる。
……仕方がない……こうなったら全力で守る。
「……分かった…俺が守る」
「では、合図と共にバッドボーイとフランシスは西のダンジョンへ……ダンジョン攻略後は跡地をフランシスさんの居場所とします」
ダンジョン拡張に向け、俺たちは各員、戦闘準備を始めた。




