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「依頼の内容はどのようなものでしたか?それとその方は?」
「この人はフランシス・ランスコットだ」
「それで?どのような任務だったのです?……大臣は貴方を選んだのです……まさか護衛任務というわけでもないでしょう?」
「大臣からは暗殺を依頼された」
フランシスの悲しそうな顔を見ると俺の心は八つ裂きにされた様だ……
「では、殺しなさいな!」
「俺はフランシスと生きると決めた、殺しはしない!」
「貴方はダンジョンの……」
「身勝手は承知だが、もう決めた事だ」
「な!……いいでしょう……では殺して仲間に入れましょう」
『それは無理だな』
「どういう事です?」
『見たところ、その女性は魔力を多く保有しているのではないか?……魔力の多い者の復活は不可能だ』
「わたくしにはよく理解出来ませんが……貴方の立場が危ういのでしょう?……とうの昔に希望は捨てております……どうぞ殺して下さいまし……」
「フランシス、お前の為なら俺はダンジョンも捨てる覚悟だ!」
『困った奴だな……』
「そうですか……」
そう言うとスオは俺達を冷ややかに見つめた。
コア……最後に癒し、チャンスを与えてくれた事は忘れない……いつか、この恩は返す。
「……いこう、フランシス……」
「……」
《ジュウウウウウ……》
手を引いたが、フランシスは動こうとしなかった。
「どうした?」
「……わたくしはここに残ります」
「なんだって?」
「フランシスさん、良いの?ここにはゴブリンが多く居る……隔離するわよ?」
「今まで通りですから……」
「フランシス、何故……一緒に安息の地を探そう!」
「……そんな身勝手……迷惑です」
「わかりました……コア!彼女をこの地の地下深くへ!そして道は長い一本道で広間と繋いでください!」
「やめろ……」
『了解した』
「やめろぉぉぉ!」
「……」
《ゴゴゴ……》
フランシスの足場は深く掘り下げられ、暗闇の中に消え、地表を埋められ、表面上は普通の野原になった。
「……貴方はどうするのです?バッドボーイ」
安息の地を探そうと言った時のやや緩んだ瞳……断った時の悲しげな表情……
「俺も残る……」
ーーーーー1ヶ月後
俺は毎日フランシスに会いに行った。
《ジュウウウウウ……》
長い廊下……俺は何重にも鋼鉄で保護した花を持って歩く……一箇所にいる為かフランシスの毒濃度は増すばかりだ……
《ギィ……》
「やあ……」
「もう……来ないでくださいまし」
「ほら……花だ……」
保護を取った花はダンジョンの癒しを受け続け、ある程度新鮮さを保った。
「無駄よ……」
フランシスは近寄り軽く花に触れた。
《ジュッ!》
花は一瞬で消え去り、俺の腕に激痛が走る。
「分かったでしょう?……さぁもうお帰りになって」
「また来る……」
フランシスには、せめてここでも花を見た時の……あの表情を再び見たいが……
ーーーーーさらに1ヶ月後
「レデイース!……」
今日も闘技場や宿屋は好評のようだ……
俺の身勝手でゴブリン達の手を借りるわけにはいかない……
俺は1ヶ月の間に試行錯誤し続け……昨日ようやく満足のいく出来の花を持ってフランシスの元へ行く……
俺が部屋に入るとフランシスは睨みつけてくる。
「……」
「今日はこれを持ってきた」
俺は一輪の薔薇をフランシスに手渡した。
「……」
フランシスはガラス製の薔薇を食い入るようにしばらく見ながら、表情は緩んでいったが
突然……表情は硬くなる。
「……」
《パリッ》
床に叩きつけられた薔薇は儚く散った。
「出て行って……」
悲しげな表情をするフランシスに俺は笑って見せた。
「また明日……」
「もう来ないでくださいまし」
明日から、また作業だ……
ーーーーー6ヶ月後
俺はフランシスの部屋の前で立って時間を待った。
今回は様々な色で花を作った……今度は気に入ってもらえるだろうか?
そろそろ時間か……
《ギィ……》
「……」
「今日も花を持ってきたよ」
フランシスは手元を見るが、俺は何も持っていない。
「コア……頼む」
《ゴゴゴ…》
地面に接地したステンドグラスが太陽光を浴び、部屋の床一面に花を浮かび上がらせる。
「……」
フランシスは相変わらず無言だが、俺にはその表情だけで充分だった。
「フランシス、愛してるよ……」
俺は腹に異変を感じ……静かに部屋を後にする。
フランシスの部屋に居られる時間は日に日に短くなっていた。
廊下を歩き切るとスオが立っていた。
《ドシュゥゥゥゥ……》
俺の肉が溶けていた。
「コア……よろしく頼む……」
『良いだろう』
「バッドボーイ……貴方はDPを浪費している……自覚していて?」
「ああ……また犯罪者との試合を組んでくれ……それでDPを稼ぐ……」
「それは良いけど……どうしちゃったのよ?待ちなさい!……話はまだ終わっていない!……全く」
『人一倍……彼女から毒を受けているのに……彼女に毒気を抜かれてしまったな……』
「コア……今はダンジョンジョークに付き合う気はないわ!」




