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「貴様……本当に救えない奴だな」
しかし……虚をついたはずの一撃も軽々と防がれてしまった。
《ヒュュュュ!》
ライオネルは風をランスに集めながら、攻撃してくる。
《ガンガン……ガンッ!》
俺は両手の武器で必死にそれを受けた。
「これには対応するか……なかなかの反応だ……悪いな!そんなに遊んでもいられん!」
俺は斧でライオネルを攻撃した。
「フンッ!」
《ゴォォォォォ!》
ライオネルの体は竜巻に包まれ、斧で攻撃した俺は暴風に吹き飛ばされ、地面に膝を着いて着地した。
「終わりだ!ブラッディサイクロン!」
《ゴォォォォ!》
ライオネルの体からランスに移り……ランスを突くと竜巻が俺に突進してくる。
「グッ!」
凄い竜巻だ!……俺は咄嗟に地面にへばり付いて回避した…………と思った。
《ゴォォォォ!》
「なっ!うぉっ!」
竜巻は地面にへばり付いた俺の体を浮かしてしまう。
「く!」
地面は平坦だ……俺は成すすべなく竜巻に吸い込まれた。
俺の身体はナイフで切り刻まれたようにズタズタになっていく。
「一撃目を避けたのには驚いたぞ……渾身の一撃!受けてみよ!ファイナル!……スピアー!」
《ゴッ!》
「「ワァァァァァァ!」」
竜巻を切り裂き、ライオネルはランスで突進してくる。
まずい!……俺は必死に体を捩り抵抗した。
《グシャッ!》
ライオネルの一撃は俺の胸を掠るように炸裂し、竜巻に乗せられ、そのまま俺は後方彼方まで吹き飛ばされた。
突風は檻を突き破り、俺はダンジョンの壁にグルグルと何度も叩きつけられやっと収まった。
「ガハッ!」
ビチャビチャと吐血する……俺は闘技場の通路まで押し戻されていた……
おそろしい威力……
俺を守った鎧は紙のように破れてねじ曲がっている……ビアトールのおかげで助かったようだ……
《カランッ》
俺は役目を終えた鎧を脱ぎ捨てて闘技場へ再び歩く。
「はぁはぁ……」
「「オォォォォ!」」
ライオネルは俺を見て不快な表情を隠さない。
「生きてる……だと?……貴様……そこまで絡んで来ると笑えんな!」
まだ行ける!……
「はは!こいやぁ!」
ビアトールに感謝しなくてはな……
「良いだろう……ブラッディサイクロン!」
《ゴォォォォォ!》
「グゥゥゥ!……」
再び竜巻が俺を襲う……俺は横に避けてめいいっぱい踏ん張った……
「くっ!……だめか!」
たが、やはり引力に引き寄せられてしまい再び竜巻へと入る。
「フフフッ!無駄だ!ファイナル……スピアー!」
ライオネルは突進してくる……先程より動きが良く見える……
俺はファルシオンを捨て、斧を構えた……
《ゴッ!》
「うぉら!」
「グアアアアア!」
ライオネルのランスは俺の腕を突き、俺の斧はライオネルの頭を割った。
俺は再び吹き飛ばされ、今度は壁に叩きつけられる。
「「オォォォォ!」」
「くっ!グゥゥゥ!貴様ァァァ!」
ライオネルは左眼を抑え、俺を睨みつけた。
くそっ……死んでねぇ!
俺は先に飛ばされたファルシオンを取ろうとした……
「はぁはぁ……ぐああああ!」
俺は右腕を失っていた……痛みで感情とは関係なしに涙が出てきた。
残った左腕でファルシオンを持つ。
《ドボドボッ》
傷口から大量の血液が出てくる。
「くっ!」
ライオネルは既に左眼に布を当てている!
我ながら情けない……隙だらけだ……俺は肩を布で縛り付けて止血をしていたが、
驚く事にライオネルはそれを黙って見ている。
「クク……何を驚いている?私は賊ではないのだよ……待ってやろう」
「命を失うかもしれねぇってのに随分と寛大じゃないか……ありがてぇな」
騎士道か……見えたな!
「失う?はは!利腕を失ったのだろう?……次の一撃で死ぬよ!貴様は!」
「そうかな?俺はまだやれると思うぞ!」
「ハハハッ!お前の考えは分かっているぞ?時間稼ぎのつもりだろう……よぉ〜く見てみろ」
「ん?」
俺はライオネルに促され、兵士とゴブリンの戦いを見る……
中央は魔剣により、もう兵士が殆ど残っていない……ゴブリンが優勢に見える……ん?
「何故だ……」
中央は優勢だが、左右はまだ突破出来ていない、それどころか寄せたはずのゴブリン数が明らかに少ない。
「ククク……お前の作戦は読めていたぞ、魔剣には驚いたがな……何百人と人を集めるとな……数人は武勇に秀でたものが見つかるものよ……」
「おら!ゴブリン!もっとこいやぁ!」
「ギャアアアア!」
左右に一人ずつゴブリンを蹴散らす者たちが居る……
「どうだぁ!レフ!そっちは!」
「ライか!おう!こっちは殆ど終わったぜぇ!あとは他の者で大丈夫だ!」
二人は左右から中央へ走り出す。
「ふふ……あの者達はどちらも農民上がりだが、どちらも頭抜けて強い……二人ががりならあの魔剣……死ぬぞ?」
もう彼方の事はゴブリン達に任せるしかない!
俺はゴブリン達の方向に走った。
「何も言わないのか?ハハハッ!無駄だ!ブラッディ……」
「気付いたか?」
俺は方向転換し、ライオネルに突進した。
俺の背中には観客席……そこには当然、大臣が居る……竜巻なんか繰り出したらタダでは済まない。
敵に慈悲を与える奴が味方……それも大臣を犠牲にするか!
「卑怯者が!」
「何とでも言え!」
「まぁ良い……普通に打ち合っても……」
《ガンッ!》
俺はライオネルのランスと普通に打ち合った……見える、奴が疲れているのではない……俺はライオネルの攻撃を受けて二度も死地を逃れた。
《ガガガッ!》
「な……なんだ!……先程とは明らかに!」
俺は肩にレベルを出し、横目で確認した。
「……俺自身……驚いてるぜ!」
「lv……756だと!……貴様ごときが!我ら、中上級騎士並のレベルだと?」
その経験値から……俺はライオネルの力量に追い付いていた。
ーーーーー
中央の魔剣リーダーは兵士を蹴散らしている。
「ヘイ!魔剣使い!」
「ヘイ!俺達と遊ぼうぜ!」
魔剣と二人は打ち合ったが、二人の猛攻に魔剣一人では処理しきれない。
「今だ!ヘイ!ライ!」
「今だ!ヘイ!レフ!」
《ドッドス!》
二人の槍に貫かれ、リーダーは一瞬動きを止めた。
「はっ!終わったな!」
「おう!終わったぜ!」
「ゴォォォォォォォ!」
リーダーは魔剣を後方に投げ捨て、ライとレフに突っ込み首を両腕で掴んだ。
より深く刺さった槍からは血が大量に滴り落ちる。
「痛えな!離せや!」
「死に損ないが!」
二人は短剣でゴブリンの背中を滅多刺しにした……ゴブリンは下半身不全を起こして足をだらんとするが二人の首を両腕で挟んではなさない。
「ゴプッ……ゴォ…ゴォ……ボズなら……ボズなら……ぎっどごうずる……」
「はぁ?」
「何言ってんだ?こいつ、はは!」
《ボボボボボボボ!》
後方のゴブリンが魔剣に炎を灯した。
「おい!待てよ!そこのお前!」
「こいつも死ぬぞ!」
「おいだ……ゴブリン……一族の為……じねる……ゴォ……ゴ……」
「はなセェェェ!」
「よセェェェ!」
《ボウッ》
リーダーと二人はあっけなく消し炭になった。
「くっ!何だこいつら!」
「このゴブリン共!ドンドン強くなってやがる!」
兵士達はどんどん劣勢になって行った。
ーーーーー
「くっ!ライ!レフ!」
「はは!ライオネル!余所見か?」
《ガゴキン!》
そういう俺も余所見していた……魔剣を持たせていたリーダーは……ダンジョンモンスターになって最初に……いや、感傷的になるなんて……らしくねぇよな!
いつの間にか魔剣を持ってゴブリンは俺の側にいた。
「ゴブッ!」
「ナイス!」
俺は武器を捨て、魔剣を取る。
「くっ!負けん!」
「終わったな!」
《ビョォォォォ!》
《ボボボボボボ!》
「「そこまでだ!」」
知るか!
俺は大臣の号令に構わず魔剣を振り、ライオネルも風を纏ったランスで突いてきた。
《ボゴンッ!》
俺は爆風に吹き飛ばされて気を失った。




