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ビアトールを尋ねてスラム街へ向かった。
東区を少し歩いてみると鉄を叩く音が聞こえて来たので綺麗な音色に誘われるままに歩く……
ここがビアトールの家か……まぁ想像通り、汚い家だな……
「クラァ!ジジイ!テメェ何時になったら金返すんだ!ゴラァ!」
「おいおい、あんまりデケェ声出すんじゃねぇよ……爺さん、こっちも参ってるんだ……最近は全然……」
何やら中が騒がしいな……
《ガンッガンッ》
俺はビアトール家に入ると二人の男が鉄を叩くドワーフの爺さんを囲んでいた。
静かに入った俺に気が付いた二人組は俺を睨みつけ、にじり寄ってきた。
「あっ?なんだテメェ!」
「お前らこそなんだ?」
「はぁ?俺達はこのジジイの借金を回収しに来たんだ!邪魔すんじゃねぇよ!」
「声がでけーよ……威嚇する相手を間違えるんじゃねぇよ……」
若い方の男は声がデカイ……俺は指で耳栓しながらそいつの話を聞いていた。
「テメェ!ぶっ殺す!……」
《ザンッ》
ナイフを構えた男目掛けて、両手剣を一閃した。
俺の一撃は若い男を半分に裂き、血飛沫は部屋中に散らばった。
若い男の上司らしき中年はプルプルと震えている。
「あっ……?なんだ?兄さん……いきなり……」
「お前らがぶっ殺すって言葉をどういう意味で使ってるかは知らんが……」
中年は後退り、俺は剣を構えて中年に近づいて行く。
「ま……まて兄さん……そうだ!俺を殺したら仲間が黙っちゃ……ギャアアアア!」
中年は腕を切り落とすと先程の男以上にやかましく叫んだ……
「ひぃ……わかった、もうやめてくれ!」
「1%でも殺す気があるなら俺は殺られる前に殺ってやる!」
俺は中年の首を叩き落とした。
《ガンッガンッガンッ……コンッコンッコンッ》
作業台にかかった血糊に気がついたビアトールは軽く布で拭き、鉄を叩き続ける。
……ああ……こいつは俺と同類だ……
俺はビアトールを気に入り、その辺の椅子に座って静かにビアトールの作業を待った。
ビアトールは鉄を叩き終え、水で冷やし、刃や歪みを確認する……今度は刃先を研ぎ始めた。
その作業が終わったのは5時間も経ってたからだ……しかしビアトールの作業には目を見張るものがあり、退屈はしなかった。
ビアトールは作業を終えて水を一杯口に含む……
「ふぅ……」
「よぅ、話……良いかい?」
「なんでぇ?まだ居たのか?……これを持って出て行け……」
ビアトールは出来上がったばかりの剣を差し出して来たが俺は受け取らなかった。
「単刀直入に言う……俺の……いや、ダンジョンの為にその腕を振るってくれないか?」
「ダンジョン……何処でも良いが、ワシは適当な仕事はしねぇぞ?自由にやる」
「ああ……それは構わないが、資金は235万ゴールドで労働力は幾らでも提供しよう」
「むぅ……」
ビアトールは髭を触りながら何やら考えている。
……もし断るようなら殺してでも連れて行く……こいつの性格からして、鉄を叩けるならダンジョンに取り込まれてもそれを受け入れるだろう事は簡単に想像できる。
「良いじゃろ……どっちみち、ここではもう鉄は叩けそうにないしのぅ……ダンジョンとやらの場所は何処じゃ?」
「西の門を出た向こうの山にある」
「成る程のぅ……お主、労働力は充分に用意するといったが、二言はないな?」
「ああ、労働力は素人のゴブリンだがな……」
「あの辺なら鉄鉱石も取れるはずじゃ……早速、準備するぞ……ついて来い……」
ビアトールは俺に人力車を引かせて、作業に必要な道具を商店街で買い揃え、乗せていった……
「こんなもんじゃな……」
「見事に全額使い切ったな……」
「これでも満足できる作業には程遠い……少しぐらいは妥協するわい」
俺はビアトールを連れてダンジョンに戻った。
「コア……鍛冶屋を連れてきた……作業場を作ってくれ!」
『良いだろう』
「なんじゃ?この作業場は?小ちゃすぎるぞ」
「そうなのか?……コア……もう少し大きく……」
「ダメじゃ!真四角な部屋なんて使いづらい!ここを出っ張らせてくれぃ!」
コアに伝えて微調整させるが、ビアトールは納得いかないようだ。
「もう良ぃ!こんなんじゃ満足いく仕事ができん!直接話をさせろ!」
「コア……それは可能か?」
『ダンジョンで死んでくれれば可能だ』
「一度、死ななきゃ無理だってよ」
「なんじゃと?……お前は何してるんじゃ?」
「はぁ?」
「そんな方法があるんならさっさと首をはねんかい!」
俺はビアトールの首を刎ね、ビアトールはすぐに復活した。
ビアトールはコアと対話し、満足いく部屋を用意すると今度はゴブリン1500人要求した。
俺と配下の戦闘職ゴブリンは生産されたゴブリンを殴りつけて大人しくさせ、ビアトールは仕事を割り振っていく。
ビアトールは蒔き拾いや炭作り、ダンジョン内の鉄鉱石を掘るゴブリンを指名して準備する。
当然、備蓄していた食料は見る見るうちに減って行った。
ーーーーー10日後
「そろそろ食料がやばいな……」
今あるのはlv80クラスの護衛を10人連れた商人団……こいつらは割と裕福で、倒せば大金が手に入るはずだが……
ビアトール製の武器もまだまだ生産準備の状態……ゴブリン達のレベルが上がったとはいえ、これは賭けだ……
俺は作業場へ向かった……
「何やっとんじゃ!そうじゃないゆうたじゃろ!」
「ゴ、ゴブッ!」
鉄を精製しているゴブリンをビアトールが叱りつけている。
「ビアトール、どうだ?」
「どうもこうも無いわ!まだまだじゃ!こいつら!早く鉄を叩かせろ!」
「そうか……戦闘に向かうんだが、武器は出来ているか?」
「まだ10じゃぞ?出来とるわけないじゃろ!あれを使え!前に打っておいた……お前!そうじゃ無いんじゃ!こうじゃ!」
ビアトールは俺を突き飛ばして、少し奥にいたゴブリンの手を掴んで教えている。
「ゴブゴブ!」
ビアトールが生前に打っていた武器を持って行く……
手斧が8本と両手斧と両手剣が2本か……
俺はビアトール製の両手斧を一本装備した。
「ピィー!」
口笛でゴブリンリーダーを集めて支給する。
「今日の敵は厄介な相手だが、1チームに一人は護衛を相手してもらう……トドメを刺す必要はない……足止めをしろ、俺は必ず駆けつけるからな!」
「ゴブッ!」
リーダーでさえ40前後、まだまだ途上だったが、こうなっては仕方ない……足止めをさせて、92の俺が何処まで立ち回れるかだ……
「おし!時間だ!行くぞ!」
「ゴブッ!」
壊滅するとしたら俺がしくじった時だ……
俺は多少緊張しながらダンジョンを後にした。




