第9話 謎の歌
ホックランドでは店を借り切ってロンディアスとクラウシア両ギルドのメンバーが集った。
今後のために色々と話し合っていなければならない。
一番乗り気だったのはシャーラ・ナインだった。
「ロンディアスか、イースタルードでは1位のギルドになっていたな、確か」
トランスはプレイシルでギルド資産順位を確認していたようだ。
「それでメンバーは?」祐介に訊いてきたが
「いや、俺とディーハ、ベータは所属していなくてただの食客です、ジャックがマスターです」
祐介が答えると
「レイムさんとディーハさんが資金を出してくれています。今此処に居る12名、それとイースタルードに1次職が10名程、まだまだ小さなギルドですが」
ジャックはそう言うが、世界最強の魔法騎士、パラディン、スナイパーを抱えている。
トランスは
「ウチのギルドはこの12人で全員です。ただ、1次職が数人承認待ちになっているが攻撃職が少なく戦闘補助職が多いので今回のような強敵相手では少し厳しいです」
そう言って各メンバーを紹介していった。
中でも騎士のメルク・エンバーという若者は血気盛んだった。
エンバーは
「俺さえしっかりしてればあんな無様な事にはならなかったんです、まだ覚悟が足りない」
悔しそうにうつむいた。
「前衛が騎士1人じゃ無理だよ。スノードラゴンでも苦労したんだから」
ナインは慰めたが
「いえ、パーティの前衛を任せてもらっている以上俺が強くならないと」
エンバーは責任感が強すぎるようだった。
クラウシアギルドのメンバーは2次職が殆どで、3次職はナインとトランスだけのようだ。
ディーハは
「あのダンジョンは高レベルのパラディンが居ないと厄介だぜ?後衛の攻撃力もかなり高くないと無理だ。」
「騎士はパラディンみてーに防御に特化されてねーしヘイトを煽るスキルも弱い、よく生きてたと感心すんぜ」
率直な感想をエンバーに言った。
「で、聞きてーんだが、ギルドはどこの都市に?」
ディーハはトランスに尋ねた
「プレイシルにギルド会館を持ってます。メンバーが増えて最近大きな建物に越したばかりで元々少なかったギルド資金はほとんど使ってしまい装備も各メンバー頼りなんです」
トランスはアークビショップなのでパーティーでないと稼げない。
ナインも同じく戦闘補助職である。
「ウチと全く逆ですね、ロンディアスは補助職が少なく今回のような戦闘に参加させられるのは召喚師のファム、アポストルのジョーイくらいです。ファムはもうすぐモンスターマスターですが1次職の召喚師は呼べるモンスターも少ない、回復役がほぼ居ないと言う状態です」
ジャックは連携を提案したいようだった。
そこにナインが口にしたのが
「レイムさんはロードを目指しているんですよね?確か」だった。
確かに小説に書かれていたが時期はわからない。ハードルも高い。
「そうだね、だからギルドに所属しないでロンディアスに寄宿してるんだけど」
おそらくナインは、クラウシアとロンディアスをまとめて欲しいのだろう。
現状ではどちらかのギルドがどちらかを吸収するしか無い。
両ギルドのメンバーの中にはいい顔をしない者も居るだろう。
しかし、ロードとなれば別だ。幾つものギルドを束ねる事ができる。
そうなれば事情は変わってくるだろうが、今のところは不可能だ。
プレイシルには数百人規模のギルドが複数ある、それらのギルドマスターの信頼を得なければならない。
ただ、ギルドの強さは数ではなく質である。
祐介達のようにレベルオーバーの3次職は所属していないことのほうが多い。
強い冒険者の力に頼りたいと言う自分勝手なギルドが少なからずあるためだ。
レベルオーバーとは3次職を極めた上でまだステータスやスキルレベルを上げている事を言う
そういう事情でフリーのまま動くことを好む。
もちろん、1次職からギルドに入り3次職になった者はそのギルドに居着く。
育成系や生産系のギルドが大規模なのはギルドマスターに人を惹き付ける魅力が有るからだろう。
戦闘系のギルドは人の出入りが激しい。
無理な指示を出すギルドマスターが比較的多いためだ。
今後この2つのギルドメンバーでのダンジョン攻略によってロンディアスとクラウシアはより親密になっていくはずだ。他にも同盟を結ぶギルドは出てくるがまだ先だ。
祐介を中心にジャック、ディーハ、ベータ、トランスが両ギルドを育成系ギルドとするときめた。
ロンディアスをクラウシアと同等にするためにはジャックが3次職とならねばならない。
祐介とディーハ、カラムはジャック達を連れて連日連戦の毎日を送ることになった。
時には両ギルドのメンバーを組み合わせてダンジョンに行くこともあった。
サンディアのダンジョンでのことである。
いつものように祐介とカラム、ジャック達とのパーティーにナインが入っていた。
地下深くで一息ついた時にナインが「この歌ってどう思う?」と奏で出した。
”我らは遠き星より来る 暗き海を船にて渡りこの地に降りつ
5つの船で逃れし子らはついにこの地にたどり着く
離れ離れ遠く離れし他の船は何処の星へと旅立ったか
我らはついに見つけたり 暗き海の果てにて安住の地を”
祐介とディーハは不思議な感覚で聞いていた。
「神々の歌ですね」カラムとジャックが言った。
「神々の歌?それにしては・・・安住の地?」祐介がナインに言うとナインが祐介とディーハに近寄り
「遠き星、暗き海、5つの船、安住の地。この世界はファンタジーな異世界のように思えるんだけど」
ナインは言葉を止めて
「どう思いますか?この歌はバードの歌ですが何の効果も持たない歌です、1万年続く歌だとか」
そう続けた。
「俺はファンタジーよりSFの方が好きなんだけど、地球からの移民のように聞こえるな」
祐介が言うと
「私もずっとそう思っていたんです。この世界の人達は神々の歌と伝え聞いているらしいですが」
ナインが答えた。
「しかし俺達の世界には魔法やモンスターなんて存在しないしな。1万年か」
祐介は黙って考えていた。
”十分に発達した科学は、もはや魔法と区別がつかない”
確かそんな言葉を覚えている。
「この世界には数万の神がいます、天から舞い降りたと言われる神々です」
「そこも引っかかっているんです」ナインはそう言うが、分からない。
もしそうなのならここは異世界ではなく未来の別の惑星ということになる。
しかも文明はかなり退化している。祐介は大学の専攻が物理学であったため魔法が理解できない。
異世界だということで受け入れられているが、これが未来の世界であるなら物理法則が存在するはずだ。
「分からないな」祐介は一旦考えることをやめた。
まだ時間は有る、眠ればあと4ヶ月は元の世界に戻れる。
そこで祐介は気がついた。
「ナインはこちらに来てどのくらいなのかな?」
祐介が尋ねるとナインは
「1年半です、もしかしてレイムさんはまだ戻れるのですか?」
そう問い返してきた。
祐介は
「まだ2ヶ月程だね、ナインは何ヶ月で戻れなくなった?」
ナインに問うと
「大体半年です、ディーハさんは?」と言うので、ディーハは「俺もそれくらいだ」と答えた。
「ちなみに向こうでは何歳だったんだ?」
ディーハがナインに訊くと
「来始めたのは高校の終わりです、始めのうちは楽しんでたんですが、ある日帰れなくなって」
祐介は
「ということは、今20歳の前か。シャーラ・ナインとして見るとかなり若くみえるね」
ナインは16~7歳に見える。
「途方にくれてた時にトランスさんと出会って、そのままギルドに入りました」
ナインはそう言ったが、祐介は
「調べてみようか?俺はまだ戻れるから。1年位行方不明ってことになってるんじゃないか?」
そう提案したが、ナインは断った。
「どうこうできる問題じゃないし、あまり考えたくないんです」
ディーハと同じく諦めているようだった。
「それに、元の世界にはいい思い出がないし、こっちのほうが楽しいんです」
「トランスさんは優しいし、私の居場所をくれました。だからいいんです」
祐介は
「そうか」とだけ言ってそれ以上は聞かなかった。
ディーハは当然何も聞かない。この世界に順応してしまっている。
考えるべきことが増えて、祐介は混乱していた。
しかし今はダンジョンの中であり、そんな場合ではない。
「さて、行くぜ?まだまだジャックは弱い、せめてカラムを追い越さねーとな」
ディーハはそう言って立ち上がった。
「そうだな、ロンディアスの3次職はバイスだけだ、レッドにレベルも抜かれてるしな」
祐介もジャックが2次職では困る、イースタルード1位のギルドのため2次職の冒険者が申請してきている。
選考はディーハやジャック、レッドが担当しているが、元々のメンバーに加えて新規メンバーを合わせると50人を超える。
クラウシアの方は余り増えていない。プレイシルには巨大ギルドが多いため自然とそちらに流れるのだ。
祐介はトランスにイースタルードに移らないか打診したことがあるが、断られた。
同じように出資の話も持ちかけたが断られた。
トランスはどうやら強引にギルドを大きくすることは考えていないようだ。
そうであれば同盟ギルドであるロンディアスが協力するしか無い。
「そうだな、行こうか」祐介が立ち上がった。
「ジャックとレッド、バイスが前衛、俺達は中衛だ。ナインとファム、ティータ、ジョーイは後衛、いいな」
祐介達はどんどんとダンジョンを下っていった。
「ここのボスはオーガキングだ、前衛3人と後衛4人で連携してやってみてくれるか」
危なくなれば祐介とディーハで何とでもできる、しかし二人はほとんど何もしないことにしていた。
オーガキングを倒し終わり、ティータの帰還魔法でダンジョンを出ると皆その場に腰を下ろした。
「このダンジョンは俺達二人抜きでも大丈夫そうだな、ラティムとドロスが居れば楽に攻略できる」
祐介はこうやって一つ一つのダンジョンに付いていき編成を考えるようにしていた。
「じゃあ俺は一人でもう一回入るんで皆は帰っていいよ」
そう言って祐介はダンジョンに単身で入っていった。
「俺は帰って酒でも飲んでるぜ?」ディーハはティータのポータルでイースタルードに飛んだ。
同じように残りのメンバーもイースタルードに帰っていった。
祐介は1時間程度でクリアし、ホックランド経由のポータルでイースタルードへ戻っていった。