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アルテマのコイン  作者: 朝倉新五郎
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第8話 極北の塔

 ディーハの用意した装備でギルドの遠征メンバーは防御力、攻撃力ともに格段に向上した。

 氷結のダンジョンに行く時期を決めるだけだ。


 ベータの弓を待って出発することにしたが、ゴードは仕事が遅い。

 「いいよ、このままで」と言うベータに対してディーハは

 「強化20回と最高の魔法石15個使った弓だ。待っててくれ」と止めた。


 まだ2次職、1次職の多いパーティーには強力な後衛が必要だ。

 しかも行く場所が場所である。誰かは死ぬ可能性がある。

 この世界の冒険者は死んでも肉体が神殿に送られて蘇生する。

 しかし、かなりの時間を要するため戦力が減ってしまう。

 また、運が悪いと、そのまま蘇生しない場合もある。

 できるだけ準備はしていきたい。


 結局そこから2日後に弓が届いた。

 ベータは試射のために祐介とディーハと共にブラスドラゴンの巣穴に入った。

 結果は前衛はほぼ攻撃せず、ベータだけで殆どの敵を倒した。

 ブラスドラゴンもスキルを使うと2射である。やはりスナイパーのスキルは強力だった。


 これで氷結のダンジョン攻略のための準備は整った。


 祐介を始めとする15名はホックランド行きの飛空船に乗った。

 飛空艇のほうが速いのだが、急ぐことはないとの判断だ。飛空船のほうが設備が良い。

 

 一同がホックランドに到着したのは4日後だった。

 まずは目指す氷結のダンジョンの場所を確認するために総ギルド会館に行った。

 このダンジョンはディーハが昔一度行っただけですぐに帰った場所であり情報が殆ど無い。

 ディーハの話では騎士時代に3階まで登っただけでそのモンスターの強さで引き返したという。

 「塔なのか?」祐介が確かめるように尋ねると

 「塔だな、しかもかなり高い、恐らく50階はある。最上階にホワイトドラゴンだかスノードラゴンだかが居るって話だった。2次職のパーティーじゃ多分全滅すっから気をつけろよ?」

 ディーハは軽く言ったが、自分とクルツ・レイム、ルイ・ベータが揃っているので安心していた。

 それにここにはアークビショップのカイル・ナム・トランスが来ているはずだ。


 「ここに一人で来るとは思ってないがな、パーティーで来てるだろうな、フルパーティーかグライツだろうよ」

 ディーハが行き方を思い出していた。


 ガルディキア山脈の聖堂へポータルで飛び、そこからまたポータルで極北の街コールードに行く、そこからは徒歩になるだろう。

 ホックランドの総ギルド会館でヒートストーンを全員分購入して寒さに備えた。

 ヒートストーンはマジックアイテムで首から下げていると寒気を緩和する。

 高価なアイテムだが祐介が持ち合わせていた60ディルトで15人分を購入した。

 ついでだが、ギルドクエストである”ホワイトドラゴンを倒せ”を引き受けた。

 報酬は100ディルトとかなり高額な部類に入るが祐介やディーハには興味はない。


 いよいよ極北の塔”氷結のダンジョン”に行く準備が整ったため、15人は徒歩で向かった。

 道中には人のいる様子はない、流石に用がない限り来るような場所では無いからだろう。

 魔力による街灯で道に迷うことはないが約30分の道のりはヒートストーン無しでは不可能だろう。


 全員が塔の前に着いたときには、明らかに少し前に10人以上の冒険者が来ている痕跡が残っていた。

 「おい、レイム、来てるな?カイル・ナム・トランス」ディーハは言った。

 「顔も知らないのに名前だけ知ってるってのも変な感じだけどな」祐介は答えた。


 ジャックは首を傾ぎながら考えて

 「カイル・ナム・トランス!?レイムさんやディーハさんと並ぶ最強のアークビショップじゃないですか!」

 「じゃあこの遠征は彼を見つけるために?けど何故此処に居ると?」

 ジャックはわからないことだらけで混乱していたが

 「まあ、知ってたわけじゃないけど情報をあつめてたんだよ」祐介が誤魔化した。


 ディーハは祐介に近づいて小声で

 「この時期にわざわざ来るってことはカイル・ナム・トランスも俺らみてぇな奴かもな」

 と言ってきた。

 祐介もそのことに若干の期待はしていたが、あまり期待はしないようにしていた。


 「さて、皆頼むよ。先頭は俺とディーハ、バイス、レッド。

  後衛はベータに任せるけど、シンとラティム、ジークは周囲警戒。

  ファムとティータ、ジョーイは絶対に離れないこと。

  ジャック、グリーゼとビズ、ドロスは後衛の護衛ね、頼んだよ?」

 そう言って祐介は扉を開けた。


 光取り用の窓から雪が吹き込んでいるのか、かなりの足跡があった。

 祐介とディーハは顔を見合わせて

 「これをたどれば行けるな?」と示し合わせた。

 まずは2階、階段を登るとスノーウルフの群れが早速現れた。少し離れたところにダイアウルフも居る。


 「フレイムソード!」祐介が剣に炎をまとわせダイアウルフに走り寄り叩き切った。

 「ファイアブレイド!エクストスラッシュ!」バイスは横一閃炎の剣撃を放った

 「ヘイトアセンディング!」ディーハはスノーウルフの群れのヘイトを煽った。

 「アペンデッドフラーマ!イグニスショット!ギラウムアロウ!」ベータが炎の矢を周囲に一斉に放った。


 4人の3次職による一瞬の攻撃で20以上居たモンスターは倒れた。

 他のメンバーたちは呆気に取られた状態で固まっていた。

 「強すぎる・・・」ガンナーのラティムは銃を抜く暇もなかった。


 「さぁ、行くぜ!ベータ以外、中衛は後衛を完全に護るように!」ディーハが歩き出した。

 周囲を警戒しながら進んでいく間に次々とモンスターを倒し続けた。

 アポストルのジョーイは神聖呪文は必要なく治癒呪文だけを使って進んでいけた。


 15人は登り続けたが、危険なモンスターとの戦闘は3次職の4人でこなし、雑魚は他の者に任せた。

 10階を超えると流石に敵が強くなる。他のダンジョンのボスクラスが中ボスとなって現れる。

 しかし、祐介とディーハ、カラムが突っ込み、斬り漏らした敵はジャックとレッド、ビズ、グリーゼ、ドロス等の近接攻撃職が片付け、そこにベータやラティム、ティータ、ジーク、シン達遠距離攻撃職が追加攻撃を加える。

 ファムやジョーイは回復の要であるためダメージを負わせられないように細心の注意をはらわれていた。


 祐介とディーハは塔の攻略を無視して薄っすらと残る足跡を追って行った。

 「このまま最上階まで行くことになるかもしれないな」祐介が言うと

 「そうだな、だりぃけど仕方ねえ」ディーハが答えた。


 「確か50階位だと思ったけど、もうちょいあるかも知れねぇ」

 ディーハはこのダンジョンのことを詳しくは知らない。

 もちろん祐介は全く知らない。しかし登るしかなかった。


 「皆大丈夫か?」祐介が訊くと

 ジャックが「今のところはなんとか、しかしさすがに厳しいですね、これで北方最強のダンジョンじゃないとは」

 そう答えたがやはり疲れているようだった。

 塔に入ってからすでに5時間が経っている、今は20階を越えたモンスターの出現しない階層だった。


 寒さで体力が削られることはないが緊張感で精神が削られていく。


 「少し休むか、30分ほど」そう言ってディーハは座った。

 ファムがサラマンダーを召喚し、ティータがグロリアフラーマで火を起こした。


 「アイテムが有るとはいえ寒いな、アーチャーやガンナーの指先は狂わないかな?」

 ベータたちに祐介が尋ねると

 「この程度で狙いを外すことはないですよ、大丈夫です」とジークが答えた。

 「そうですね、ディーハさんがヘイトを引き受けてくれるので狙いやすいです」ラティムも答えた。

 パラディンは最前列の壁である。その役をディーハは十分に果たしていた。


 30分の休憩が終わり、全員が移動しだした。

 「このまま最上階まで突っ切るぞ」祐介は先頭を歩き出した。


 しかし25階に登った時にドラゴンが現れた。

 壁の一部が大きく開いており、その階の天井も異常に高い。

 「スノードラゴンだ!気をつけろ、ティータ、防御壁を頼む」祐介はそう言って

 「ベータ!援護頼む!フレイムソード!ソードエクスキューション!」と単身突進した。

 「アペンデッドフラーマ!エクスプロードアロウ!」ベータが巨大な炎の矢を放つとドラゴンに命中し爆発した。

 間髪をいれず祐介が切りかかり、ラティムとジークが炎の弾丸と矢を命中させた。

 カラムは祐介に続いて炎を乗せた剣で斬りかかるとドラゴンは倒れて消えた。


 「なんだってんだ?ここのボス以外にドラゴンが居るなんて聞いてねぇぞ」

 ディーハはドラゴンと後衛の中間で防御の用意をしていたが、これだけの攻撃だ、一瞬で倒せた。


 「やっぱりパーティーは強いな」当たり前のことを祐介は呟き一息ついた。

 その上の階、その上の階と次々と現れるモンスターを狩っていき、カイル・ナム・トランス達のものであろう足跡を追っっていくと人の声が聞こえてきた。


 「あれは無理だろう?スノードラゴンですらかなり削られたしな」と言う声だった。

 祐介達が階段を登るとそこには10数名がかたまって休んでいた。


 「ん?こんな辺境に俺たち以外にも物好きな奴らが来たようだな」そう言われると


 「どうかしましたか?俺はクルツ・レイムと言います」祐介はそのパーティーに話しかけた。


 「クルツ・レイム!?」一人の女性が立ち上がった、手には楽器を持っている。バードだろう。


 「私はパレスオーチャスタのシャーラ・ナインと言います」と近寄ってきた。

 そして

 「カイル・ナム・トランスをギルドマスターとするクラウシアギルド所属です」

 「ホワイトドラゴンが考えていた以上に強くて、攻撃職が今回復中で休んでいます」

 そう答えた。


 「ナイン、どうした?」とプリーストらしき法衣を着た者も近寄ってきた。

 「会って欲しかった方です、クルツ・レイムさんと、えーとボルクス・ディーハさんは?」

 どうやらナインと言うパレスオーチャスタは二人を知っているようだった。

 ディーハは「あぁ、俺だけど?シャーラ・ナイン?聞き覚えが有るな・・・」と答えると

 「トランスさんに無理を言って来ました、貴方方と知り合うためです」ナインは言った。


 その言葉で祐介が

 「ん?アルテマのコインに関係してる人か?」と訊くと

 ナインは驚いたが小声で「やはりそうですか、日本から?」と答えた。


 祐介とディーハはその言葉で完全にわかった。

 シャーラ・ナインも小説を読んでこの世界に来た人間だと。

 「じゃあトランスさんは、違うのか?ベータと同じくこの世界の存在か」

 ディーハが言うと

 「そうですが、今後組むはずです。氷結のダンジョンにやっと来れるだけのメンバーが集ったのでトランスさんを会わせるために無理を言ってやってきました。筋書きを試したんです」

 ナインは答えた。


 「そうか、じゃあ合流出来るんなら頼んでくれねぇか?こっちは攻撃職がかなり揃ってる」

 ディーハがナインに頼んだ。


 ナインはカイル・ナム・トランスを連れて一旦自分たちのパーティーに戻り、相談しているようだった。

 暫くするとトランスがやってきて祐介に「ホワイトドラゴンの討伐だけ手伝ってくれないだろうか?」

 そう頼んできた。


 祐介は快く承諾し「こちらは3パーティーのグライツなんですが、そちらは?」と訊くと

 「フルパーティーの12名なのでそちらのグライツに入れていただきたい」

 トランスが答えた。


 祐介は「わかりました」とトランスのパーティーをグライツに組み入れた。

 そして

 「こちらは攻撃職がメインなので今すぐにでも討伐できますが?」と言うと

 「申し訳ないが、こちらは戦闘補助でお願いしたい、よろしいか?」とトランスが言うので

 祐介は少し考え

 「では、このまま上がりましょう」と提案した。


 階段を登ると、そこにはホワイトドラゴンが控えていた。

 先頭の祐介をギロリと睨み、翼を広げてブレスを吹く体制に入った。

 ディーハは素早く走り「ヘイトアセンディング!」と自分にターゲットを移させた。

 ドラゴンは階段から離れた場所のディーハにブレスを浴びせかけた。


 素早く全員が駆け上がり

 祐介、ベータ、カラム、ジーク、ラティム、シン、が各自の最強攻撃で一斉に襲いかかる。

 トランスはディーハに回復魔法と持続回復を重ね、ディーハの安全を最大限確保した。

 ディーハは上がってきた仲間とドラゴンの中間に入り、防御態勢を取った。


 最初の集中攻撃でホワイトドラゴンのHPが半分近くにまで減ったので、再度同じ攻撃を加えるとドラゴンのHPが20%ほどになった。

 「ソードエクスキューション!」祐介がドラゴンを叩き切るとほぼ真っ二つになってドラゴンは消えた。

 しかし、このメンバーだったから出来たことである。



 トランスのパーティを含め27名はティータの帰還呪文で塔の下まで降りた。

 ホックランドに帰りたいが、ロンディアス側にはホックランドの登録者が居なかったため、トランスに訊くと、念のため1人ホックランドで登録させているという。


 祐介は帰還用の魔法石を十分な量持ってきていたためティータのポータルでホックランドに帰還した。

 街に帰り着くと、とりあえずクエストのクリア報酬をもらい、遠慮するトランスに半額を渡した。


 これから事情を上手く話してトランスを仲間にしなくてはならない。

 まずはジャックに言い、トランスのクラウシアとロンディアスのギルド同盟を結んでもらうことにした。

 メンバー数は少ないとは言え、ロンディアスは最強と呼ばれる3人の食客を抱えている。

 資産は全世界のギルドの中でも10指に入るであろうギルドだ。

 トランスは快諾し、これで離れていても連絡は取り合える。


 祐介たちとトランスたちは休息のために2~3日ホックランドに居ることにした。

 大雑把なことはその間に決めれば良い。


 まずはカイル・ナム・トランスと出会えたことで目的は達成した。

 シャーラ・ナインと言う転移者は完全にノーマークだったが、これは僥倖というものだろう。


 今後のことは後で話し合うとして、二手に分かれて近くの宿屋に泊まることとなった。

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