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アルテマのコイン  作者: 朝倉新五郎
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第5話 もう一人のクルツ・レイム

 その騎士がドラゴンと戦っている間ずっと眺めていた。

 明らかに自分よりはレベルが低いな、と祐介は感じていた。


 やっとのことでドラゴンを倒し終わった騎士が祐介を見て

 「助けに入るつもりは無かったのか?」と訊いてきたが、祐介は

 「あの程度の敵なら簡単だろう?で、君は誰だ?」

 と逆に質問を投げかけた。


 するとその騎士は

 「俺か?クルツ・レイムだよ?知らないのか?漆黒の騎士、最強の魔法騎士。本当に知らないのか?」

 その男がそういうので知らないふりをすることにした。

 しかし、言うべきことはある。

 「ドラゴン程度に苦労するのか?その最強の魔法騎士クルツ・レイムが?」

 祐介が意地悪く言ってみると

 「お前はドラゴンの強さを知っているのか!?此処までこれたことは褒めてやるが」

 そう返された。


 どうやらかなり執着しているようだ、放っておくことにしよう。祐介はそう考えた。

 「俺はここのボスを倒しに来た、リジェネレートを待つことにするよ」とだけ言って座って壁にもたれていた。


 「ここのボスだと?2時間は戻らんぞ?」と言われたが

 「いいよ、本でも読んで待っておく」祐介はバッグから本を出した。

 「この部屋はボス以外は出てこないだろ?待つよ」

 そう言うと

 「余裕だな、あんた」と祐介の近くに座った。


 祐介にはそれがちょうど良かった。

 「クルツ・レイムって名前はよく聞くけど一体どれだけ強いんだ?」

 実際どの程度の強さかはわからない。最強の魔法騎士と言われてもピンと来ない。


 「お前、知らないのか?プレイシルの高難度の総ギルドクエストをクリアしたんだぜ?たった1人でな」

 何故か自信満々で答えた。


 「そうなのか、すごいな」

 祐介は暫くの間会話していた。



 そうこうしているうちにドラゴンがリジェネレートした。

 祐介は立ち上がり腰の剣を抜いてゆっくりと向かっていった。

 「おい、無理なら手伝うからな!」と言われたが無視した。


 「さっきの戦いは多分10分くらいか。俺ならどの程度かな」

 祐介は試してみたかった。


 敵意を向けてくるドラゴンに静かに近寄ると、いきなりブレスを吐いた。

 祐介は新しい楯でそのブレスをしのぎ、アイスブレイドで剣に魔力を付加した。

 1撃2撃と加えるとドラゴンはブレスや爪、牙、尾で攻撃してくる。

 それらの攻撃を全て避けるか楯で受けつつ攻撃すると1分もかからずに倒せた。


 戦いの様子を見ていた男は

 「あんた何者だ?」と訊いてきたので

 「クルツ・レイムと呼ばれているけど、俺にはわからん」と答えた。

 そして

 「君がクルツ・レイムなんだろう?俺は何者なんだろうか」

 それが祐介の率直な考えだった。皮肉でも嫌味でもない。


 「あ、いや、俺はその・・・」

 男は声を詰まらせたので

 「どうした?」祐介が尋ねると

 「実は俺、偽物です、レイムさんに憧れてて、その・・・すみません!」と謝られた。


 「違うのか?」

 祐介はやはり小説の中のクルツ・レイム本人らしい。

 同じ魔法騎士でもレベルの差や装備が圧倒的に違う。

 「別に俺は良いんだけどさ、面倒さえ起きなければね」


 「真似をしていればいずれ会えると思って。俺の名前はバイス・カラムと言います」

 「あと、魔法騎士に成り立てのレベル10です」

 祐介はそのバイス・カラムと名乗る若者と雑談をすることにした。

 ドラゴンがリジェネレートすればまた倒せばいい。この部屋から出るとモンスターが現れる。


 「どうして俺に会いたかったんだ?」

 祐介は率直に訊いてみた。

 「レイムさんは時々強い奴らと組んで強力なダンジョンをクリアしますよね?厚かましい話ですが俺もそのパーティーにいつか入れてもらえるようにレイムさんを探していたんです」

 カラムは続けて

 「この黒い魔法騎士装備も今までの稼ぎをつぎ込んで作ってもらいました。レイムさんと比べればまだまだ弱いですが、そこらの騎士やソードマスターよりは役に立つと思います、ご一緒させていただけませんか?」

 そう言われて、祐介は思い出した。

 時々バイス・カラムってのが小説に出てきてたな?クルツ・レイムのことを師匠と呼んでたのでてっきり剣士か騎士だと思ってたけど3次職の魔法剣士だったのは知らなかったし書いてもいなかった。


 祐介は

 「いいよ、なんなら俺と一緒に世界のダンジョンを回る?仲間を集めないとならないんだ」

 そう言うと

 「本当ですか!?ありがとうございます!師匠と呼ばせて下さい!」

 カラムは喜び飛び跳ねんばかりだった。


 『そうか、この場面は書いてなかったけどこういう意味か』祐介は考え

 「いいよ、呼び方も好きに呼んでくれればいい。ただ、その装備は紛らわしいね、どうしようか?」

 確か、漆黒の装備は自分ひとりだったはずだ。もう一人黒い装備の魔法騎士が居たが、ところどころに銀をあしらった豪華な甲冑だと記憶している。恐らくそれがカラムだ。


 それを聞いてカラムは「すぐに打ち直してもらいます、銀をあしらって師匠と区別できるように」と答えた。

 「一昨日と昨日、今日このダンジョンで稼いだのと預けてる全財産をはたきます」

 カラムがそう言うと祐介は

 「いや、それは俺が出そう。100ディルトもあれば強化しながら打ち直しもしてもらえるだろう?」

 そう言って驚くカラムに100ディルトの証券を渡した。

 「これで打ち直してもらって?あと、カラム君はどこかのギルドに入ってるのかな?」

 確かどこにも入っておらずロンディアスに入るはずだ。

 小説には”ロンディアスのカラム”と書かれていた。


 カラムは「まだどこにも入ってません、レイム師匠も入ってませんよね?」

 と訊き返されたため

 「イースタルードにロンディアスっていうギルドがあって、俺はそこに部屋を借りてるんだ。何処かに冒険に行っていないときはずっとそこのギルド会館に居るから。あとボルクス・ディーハってパラディンとルイ・ベータってスナイパーも仮住まいしてるはずだから、もしよければロンディアスに入ってくれると助かるんだけど」

 祐介はこの言葉でカラムがどう行動するのかはわからなかったが、最終的にはロンディアスのメンバーになるはずなので教えておくことにした。


 「しばらくは俺と一緒に居ようか?次はウェンタリアとそこのダンジョンに行くつもりなんだけど」

 祐介が言うと

 「わかりました、すぐに準備してきますね。総ギルド会館で待って居ます」

 と言うなりカラムはその場から一瞬で消えた。


 「甲冑と楯の打ち直しと強化か、1週間は掛かりそうだな」

 祐介はそう言って帰還アイテムを使わず逆に入り口まで戻っていった。


 総ギルド会館に張り出していたウェンタリアへのクエストを一旦取り消し、カラムを待つことにした。

 暫く待っていると平服に剣とバッグだけを持って誰かが走ってきた。

 「師匠!お待たせして申し訳ありません、5日で仕上がるそうです」

 その言葉でカラムだとわかった。

 「アポロスのところか?」祐介が訊くと

 「そうです、アポロス鍛冶師に頼んできました、あそこは仕事が早いので」

 祐介は「5日か」とだけ言って地図を見ながら

 「ウェンタリアへポータル移動する時期を考えないとな」と言うと

 「ウェンタリアですか?俺の登録は今ウェンタリアですけど?」

 カラムがそう答えたので

 「そうなのか?じゃあカラム君の登録でウェンタリアに飛べるか」

 祐介はクエストを発注しなくても良くなった。

 「それは助かる。じゃあ5日の間待ってそれから発つことにしよう」

 その間は街を歩いたりクエストをこなせばいい。


 祐介は一旦宿屋に戻り、5日延長した。

 カラムも別の宿屋から祐介の泊まる宿屋に移動してきた。

 「師匠はやっぱり随分豪華な宿屋に泊まるんですね、

  そうだ、前の甲冑が有るのでクエストでもこなしませんか?」

 そうカラムが言ってきたので

 「そうだな、いくつかこなしておくか」と祐介も乗り気になった。


 二人は

 ”ドラゴンを倒せ”と”街道の敵を100匹倒せ”それに”廃墟の主を倒せ”のクエストを受けた。

 「パーティーを組んでおくか」祐介が言うと

 「それより師弟はいけませんか?」とカラムに言われた。

 祐介は

 「何だそれは?」と言って『しまった!』と思った。

 しかしカラムは

 「ははははは、さすが一人でやって来ただけありますね、師弟制度を知らないのも当たり前です」

 そう言って説明しだした。


 どうやら”師弟制度”を使っていると近くにいれば常時パーティーを組んでいる状態になるらしい。

 その上経験値が50%アップになるということだ。


 二人はそれを使って数回3つのクエストをクリアした。

 そうしている間に5日過ぎたためアポロスの店へ行き、打ち終わったカラムの甲冑を受け取った。


 「カラムさんがレイムさんの弟子ですか?一人で行動しないのは珍しいですね」

 そうアポロスに言われたが

 「まぁ、時にはね」そう言って祐介ははぐらかした。


 これで準備は整った

 カラムの甲冑は黒をベースに大きく銀があしらわれており、祐介は『これもいいな』と考えた。

 しかしクルツ・レイムは”漆黒の騎士”であるため華美な装飾は諦めた。


 そして二人はウェンタリアへ飛んだ。

 祐介はカラムに

 「この街は総ギルド会館しか知らないしダンジョンもあまりわからない」と告げたため案内された。


 まずは街の中に有る各店やこの街に有るギルド、宿屋などだ。

 大きさ的にはイースタルードと変わらないが商品が若干違う。ここでしか買えない物があるという。

 そして総ギルド会館に行き、またクエストを受けた。


 ”墓場の魔物を100匹倒せ”と”シルバードラゴンを倒せ”

 特殊クエストである”ドラゴンの角を5種類集めろ”だった。


 初め、カラムはドラゴンの角5種類って無理ですよ。と言っていたが祐介は受けた。

 総ギルド会館で専用マップを購入すると、魔法印が刻まれており各ドラゴンの居場所がわかるようになっていた。


 「これ、超上級クエストですよ?5人以上のパーティーじゃないと」

 カラムは言うが、小説ではウェンタリアで5匹のドラゴンを倒す場面があった、恐らくこれだろう。


 「問題ない、ドラゴン程度なら一人ででも倒せる」と祐介は言ってみた。

 2人はまず簡単なクエスト2つをこなし、ドラゴンの塔や巣穴に入っていった。

 ドラゴン、ブルードラゴン、レッドドラゴン、ブラックドラゴン、シールドドラゴン

 ウェンタリア方面に居るドラゴンを数回倒し、レアドロップである角を集めた。


 「ウェンタリア最難関のクエストをほとんど一人でやり遂げるとはさすが師匠です」

 カラムに言われたが、やはりそう難しくないクエストだった。

 「ちなみに、このクエストを1000回制覇すると1バール聖金貨が貰えます」

 そう言われたが1バール聖金貨がどの程度の価値かわからない。

 祐介は「そうか、でも1000回は面倒だな」と笑った。

 

 街も分かったし西のダンジョンもほぼクリアした。

 一度イースタルードに帰ろうと考えた。

 カラムが言うにはウェンタリアのポータルからプレイシルに飛び、ホックランド、サンディア、そしてイースタルードに行けるらしい。

 「やっぱり面倒だな」と祐介が言うと

 「そうですね、プレイシルから飛空艇で行きましょうか」

 ということで、ポータルでプレイシルに飛んで、そこから飛空艇でイースタルードへ向かった。

 この世界には高速で狭い飛空艇と低速で広い飛空船がある。

 祐介はそのことを知らなかったので飛空艇に乗ったが、次からは飛空船にしようと思わせるほど狭かった。



 この期間に祐介は現実の世界のほうで手早く準備を整えていた。

 眠るごとに瞬間に目が覚めるようなので睡眠時間がほぼゼロになる。

 時間を得しているようだが、考えることは多い。時間が足りているとはいえない。

 祐介はここ数日の間に連休が終わり会社にも行き始めていた。

 実家や友人とも連絡を取り合い、着々と準備を整えていっている。

 一般生活で眠ったと思えばファンタジーの世界だ。頭が混乱してくる。

 祐介はゲームをしていると思い込むことで2重生活をかろうじて過ごしていた。




 そのうちに飛空艇がイースタルードに到着したので、二人はロンディアスギルド会館へ向かった。

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