第37話 5人の観察者と地上の冒険者達
「どうやらここ数年地上の人間に特異な者達が現れだしたようだな」
人間ではない何かが話し合っていた。
「そのようだな、私は話してみたがこの世界のことはわからないようだ。安心してもいいだろう」
誰かが答えた。
「人口の膨張は無いと思われるが、我々観察者にとっては貴重なサンプルになりえる」
別の者が口を出してきた。
「生殖機能は無いので計画通りだが、昔の科学技術を知る者が紛れ込んでいるようだな」
また別の者が言った。
「他の船団にも伝えておくべきか?いや、我々だけの秘密にしておこう。しばらく観察を」
「世界の設定も少し変えてみよう。知的好奇心のゲージを振り切っている者が一人居る」
衛星の真裏に着陸している移民船団の代表達がそれぞれの意見を述べた。
そんなことは全く知らずに祐介達は2つの塔と2つのダンジョンを探索していた。
「これだけのメンバーを揃えて苦戦するなんてな」
このグライツはロンディアス最強の19人だ、ミラー達が居てもそう劇的に変わらないだろう。
「この島のポータルは指輪に登録したんでいつでも来れるだろうけど・・・」
祐介が言い終わらない内に
「メンバーか?これだけのメンバーを揃えてギリギリで戦ってるからな、このあとどうすんだ?」
ディーハが口を挟んできた。
「誰かが死んで送り返されると戦力が減って全滅の可能性もあるよな」
特に回復職がもう数人欲しい。祐介は塔を登りながら言った。
「前衛が減っても後衛が減ってもあぶねーぜ?」防御の要のディーハが答えると
「ディーハが居ないと進めないな、ジャックじゃ無理だ。俺もクラシカルターティウスが無いから一斉にかかられると死ぬ」
祐介は正直な感想を述べた。
この2つ目の塔を攻略したら一旦街へ戻ることに決めた。
「これで最後の階だろ?この塔を落としたら帰って考えよう」祐介はそう決めた。
「じゃ、回復も終わったし登るぜ?」ディーハが立ち上がり階段へ向かった。
ゆっくりと登り素早く飛び出して周囲を確認した。
「やべぇ!」と叫んで走り出し真ん中で防御を固めた。
一斉に攻撃を受けるディーハの居る場所にジャックと祐介が駆け寄った。
「全力で攻撃頼む!長くは持たねぇ!」
ディーハを囲んでいるのは8匹のボスとその取り巻き100匹程度だった。
皆が階段を一気に駆け上がり、攻撃を始めた。
祐介は雑魚を片付けながらも攻撃を受け続けている。
ディーハとジャックはクラシカルターティウスで身動きできない状態だ。
前衛、後衛の攻撃職が各自自分の敵を決めて戦い始めた。
「シスレ!ジョーイ!全力で回復を頼む!」
祐介もここまで追い込まれたことはない。
全員総掛かりで約1分、休む暇なく強力なスキル使いながら戦ってやっと全ての敵を片付けた。
「おいおい、ダイヤモンドドラゴンが居たぞ?」
ディーハが言うと
「そうだな、クリスタルドラゴン、シールドドラゴン、ゴールドドラゴン。ゼクにパガード、ガーヴェとトリスデア。確認出来たボスは8匹だが中級ボスクラスも居たぞ?」
祐介はHPを半分に減らしていた。ディーハとジャックは回復を受けながらも70%以上のHPを失っている。
1階登っては休み登っては休みで相当な時間を掛けたが、やっと最後の階の敵を倒せた。
「冗談だろ?30~40人は要るんじゃねーか?」
ディーハの言うことは恐らく正しい。このメンバーででも余裕を持った戦いが殆ど出来ない。
「とにかく俺は上を見てくる」
そう言い残して祐介は階段を登って上の階を確認した。
「ポータルがあった、これでこの塔は終わりだな」
皆で上の階に登り一休みして帰ることにした。
祐介はミラーと連絡を取り、早速アテナシアへ向かった。
開口一番ミラーは
「そんな塔が?19人のレベルオーバーのグライツでそこまでとは」
そこで祐介が
「アテナシアならどうでしょうか?ハーフグライツ72人ならと考えたんですが」
ミラーはじっと何かを考え
「行ってみる価値はありそうですね。しかしアテナシアもレベルオーバーは50名程です、殆どが初期の者ですし」
「もう少し何処かでレベルを上げてからの方が良いかも」
祐介はそう言ってポータルリングを1つミラーに手渡した。
「2つ作ってきました。ダンジョンには潜らずに帰ってきたので」
「あと、レイムさんの昔の仲間6人ですか?クリアできたんでしょうか?」
ミラーに尋ねられたが
「俺と同じレベルの6人でもクリアは無理でしょう、途中で帰っていると思います。ダンジョンを見るためだけに来たのでしょう」
祐介の昔の仲間ならレベルオーバーを極めているだろう、それでも6人でクリア出来るとは思えない。
「名前を聞く限り各クラスで実質最強の6人ですね、どこに居るのか謎の人物ですが」
ミラーやトランス、ベータやディーハと違い、パーティーには入らないので人物像が見えない6人だ。
存在するかどうかも怪しまれていたが、レイムと組んでいたというのなら納得出来る。
「メンバーを集めて行ってみましょう。ポータルリングは借りておきます」
ミラーは指輪をバッグに入れた。
その日の夜遅くにイースタルードの1階にジャックやその他ギルドの主なメンバーが集まった。
「例の塔のメンバーと3次職後半以上の合わせて50名程に集まってもらった」
ジャックが言い始めた。
「19人のグライツで行ったダンジョンのことだが、力不足でかなり手間取った。
幸い死者は出なかったが、次もそうだとは言えない。集まってもらったのは更にレベルを上げて欲しいということを言いたかった」
「レイムさんが新しいダンジョンを見つけて来てもクリアできないと意味がない。レベルオーバーを目指して欲しい、出来れば極めてしまうように」
これはこの世界の人間にとってはかなり奇妙な言葉だ。
レベルアップすることは殆どの者にとって第一の目的ではない。
クリアできないダンジョンがあるのであれば、ゆっくりと時間を掛けて徐々に攻略すればいい。
数百年を生きる上に殆ど老化しない身体を持つのであるから急ぐ必要自体が元々ない。
次々に新しいダンジョンが見つかったとしても、それは別の話であり将来の目的程度に考えるべきだ。
この世界は狩り、食い、休む。その繰り返しだ。
欲望の無い人間達は、その健康で長寿な身体に見合った楽しみを知らない。
目的もなく日々を暮らしているのと同じだ、それが果たして生きていると言えるのか?
祐介はそんな世界に何らかの目的を作り出せるのだろうか、自分の役目を考えていた。
ディーハやベータでさえまだ極めていない3次職のレベルオーバーをロンディアスのメンバーに課すのは一時的な目的だ。
「どんどんレベルアップしろってことだな、確かにレイムの見つけてくるダンジョンを相手にするには足りてねぇ」
祐介は知られているダンジョン以外に幾つものダンジョンなどを発見してきている。
そしてそれを辞めようとしないためまだまだ未踏の地が見つかるだろう。
世界のマッピングをするために巨大飛空船まで作らせている。
祐介はこの世界の謎を暴こうとしている。
これは自分にしか出来ないことだとも理解している。
しかし、この世界の人々には全く意味のないことだ。
自分勝手な物語を作り上げ、その物語に人々を巻き込むことは果たして正しいことなのか。
”アルテマのコイン”を見つけるだけのために多数の者達を巻き込んでいるのは確かだ。
ここ半年以上の間にクルツ・レイムを中心に何かが動いているのは錯覚なのだろうか?
祐介は考え始めていた。
アルテマのコインを見つけたところで何が変わるのだろうか?
パライオスやディルムンティスの言う”知恵の箱”と”印”
白衣の男が語った様々な理解しがたい事
「魂の牢獄とやらがあるのなら、ここだろうな」
祐介はなんとも言えない憂鬱を抱えながらベッドに寝転んだ。
「もう寝るの?沢井君」
彩依子が風呂上がりにバスローブを着て頭にタオルを巻き、ドアを開け放った祐介の寝室へやってきた。
「まだ寝ないけどね、考え事をするとどんどん悪い方へ行くんで」
そう言って起き上がった。
2人はリビングへ行き、ディーハの酒蔵から拝借したメルク酒を飲むことにした。
「浮かない顔してるけどどうしたの?」
彩依子は心配そうに祐介に尋ねた。
「うん、前の世界と今の世界どっちが生きてる気がする?俺はわからなくなってね」
グラスの酒を飲みながら言うと
「就職とか転職、結婚と子育てでしょ、それに年金や老後。そんな事を考えてた時と比べると今のほうが良いかな」
その言葉に祐介が
「こっちの世界ならその全部は解決されてるな、コメ・・・君は満足かな?」
祐介は立ち上がり、引き出しからカメラやタブレットを取り出し、テーブルの上に置いた。
「詳細な図面がなくてもこの程度のものなら2日で総ギルド会館で作ってもらえるんだ」
「あと、今は全長500mの飛空船も作ってもらってる」
すると彩依子はカメラを手にしてパシャパシャと適当に撮ってみた。
「これ、バッテリーもメディアも無いみたいだけど」とカメラのいろいろな箇所を見回していたので
「こっちのタブレットの方に出力されるみたいなんだ」
祐介は電源を入れて画面を見せた。
「へぇ、無限に撮れるのかな?私も何か作ってもらいたいな、音楽を聞けるのがいい」
祐介はこの世界に音楽があるのかどうかが分からなかったが、録音再生機器なら作れるだろうと考えた。
「ああ、明日総ギルド会館に二人で行ってみよう」
そう言ってまた立ち上がりノートと筆記用具をテーブルに置いた。
彩依子はそれを見ながら
「それって普通のノートとボールペンや鉛筆?そんなのまで作ってもらえるんだ」と言って手にとって眺めた。
そして
「この間から私の事どう呼ぶか迷ってるでしょ?米虫か彩依子かサーシャかシスレか」
どうやら彩依子は気がついたようだった。
「まあね、正直困ってるかな。俺としてはサーシャにしたいんだけど、良いかな?」
祐介は前の世界の名前で誰かを呼ぶ事は無かったが、元々の知人である彩依子の呼称をどうするか考えていた。
「そうね、今更だけど米虫彩依子の名前は捨てたし、沢井祐介君もクルツ・レイムでしょ?私はクルツって呼ぶからサーシャでいいよ」
彩依子はそう言って自分の寝室で寝間着に着替えて帰ってきた。
「5年以上経ってるし、外見は別人だけど俺はサーシャが好きみたいだな」
自分でそう言ってから祐介は気がついた。
「仕事をして給料をもらって、家族を作って、余暇を楽しむ。考えてみるとこの世界に足りないのは家族だけだよな?」
彩依子にそう尋ねたが
「仕事はないし、給料もないし、余暇のついでにお金を稼いでるって感じね。家族はなんだか不思議に思えるけど仲間?親しい人かな?」
「それってギルドメンバーやディーハ、ベータ、ミラーさんみたいなもんだよな?けど家族じゃない」
やはり足りないのは家族や恋人だとわかった。
「そうだな、もうしばらく俺の彼女で居てくれるかな?嫌じゃなければだけど」
祐介はこの不思議な感覚を解き明かしたかった。
そのために彩依子を利用しようとしているわけではなく、本能に逆らう形で女性に恋をしたかった。
それもずっと恋い焦がれていた女性にだ。
彩依子は嫌がらずに受け入れてくれたのでもうしばらくこのままの生活を続けることとなった。




