第3話 もう一人の仲間
祐介はゴードの鍛冶場で全てのアイテムを出した。
ゴードは並べられたアイテムを見て
「ほう、さすがはクルツ・レイム。最強と呼ばれるだけあるな」
「これだけの材料があれば一級品どころか今までで最高の魔剣がつくれる」
ゴードはにやけてアイテムを集めだした。
「20回の強化だな、魔法石も20個は入れといてやる。300ディルト置いていけ、3ヶ月で仕上げる」
「あと、鎧と楯だな?もう300ディルト置いていけ、それで今の鎧の5倍以上の物を打ってやる。
確かお前さんは漆黒の装備だったな?今は普通の装備みたいだが、変装でもしてるつもりか?」
どうやらゴードは打ちたい剣と防具があったようだ。
今までは素材不足で打てなかったのだろう。
用も終わったので、祐介は帰ることにした。
サンディアからイースタルードにはポータルで直接帰ることが可能なのでポータルを使うことにした。
3人分で3ラフル、祐介には高いのか安いのかわからない。
イースタルードに帰って来ると、武器屋の主人が
「では出来上がったら連絡しますが、どちらの宿に?」
と訊いてきた。
「3ヶ月後ならまだロンディアスのギルドに居ると思います。お願いできますか?」
祐介はそう答えた。
「受け取って配達だけになりますので手間賃だけで結構です。1ディルトでもよろしいですか?」
そう言われたのでその場で1ディルト金貨を渡した。
「ありがとうございます、ではしっかりとやらせていただきますので」
武器屋の主人に頼んでロンディアスギルドへ帰ってきた。
「流石にかなりの金額を持ってらっしゃいますね、私は矢に相当かかりますので」
何故かルイ・ベータが付いてきていた。ディーハも何故かギルド会館の待合室で酒を飲んでいた。
「あー、あんたはルイ・ベータか?俺ぁボルクス・ディーハだ、噂より綺麗だな」
どうやらディーハはかなり酔っているらしい。
「こっちの世界に来て5年だがよ、竹崎亮太ってんだ。あ、聞き流してくれ」
しかし祐介は聞き逃さなかった。
「今なんて言った?」
ディーハの近くに行って小声で「あんた日本人か?」と問うた。
「ん?クルツ・レイムあんたもなのか?」と訊き返され
「そうだ、アルテマのコインと言う本を読んでこの世界とか言ったな、つい先日来た」
ディーハは「ちょっとあんたの部屋へ行こうぜ」と言って祐介を連れて行った。
「アルテマのコインな、あぁ、もう酔いが醒めたよ。何回か行き来しただろ?現実とこの世界を」
ディーハは続けて
「その内あっちに帰れなくなる、こっちで暮らすことになるんで準備は早いほうが良いぜ?」
「大体半年位でこっち側に残ることになる。さっき言ったが俺は竹崎亮太ってんだ。あっちの世界じゃ最初は高校生だったけど、卒業して少しで戻れなくなった。それから5年程度だ。あんたは?」
と言って黙った。
「俺は沢井祐介、24歳で会社勤めだ。だいたい同い年だな。」
一息置いて「戻れなくなるのか?元の世界に?」小声で訊いた。
「そうだな、帰れなくなる。あんたのエンディングはどうだった?」
祐介は
「最後に”アルテマのコイン”をクルツ・レイムが手に入れ、ダンジョンを出る場面で終わっていた」
と答え「あれは一体何の本なんだ?」と訊き返した。
「最後の巻だけ10-1ってなってたからもしかしてと思ったが、やはり俺のと同じだな、コインを探して手に入れるしか無いってことか」
ディーハ、いや竹崎はそう言った。
「他に誰か来ているんじゃないか?竹崎さんは知らないか?」
祐介がそう言うと
「その名前で呼ばないでくれ、俺はボルクス・ディーハだ。けど、俺とあんた、二人来てるなら他にも何人、いや、100人位は来てるんじゃないか?あの本が何冊あるのかわからんが、同人誌だろうからそんなに数はないと思うんだよな」
「それに10巻あったろ?俺の考えだと特定の10巻全部読むことでこのわけの分からない現象に巻き込まれる。」
ディーハはそう言い。
「それとな、クルツ・レイムはずっと前から最強の魔法騎士って呼ばれてた。中身があんた、えーと、沢井祐介だったか?呼び捨てですまんが、入れ替わったのか人格が変わってるかも知れないんで、元々のクルツ・レイムの知り合いに出会った時は話を合わせないといけないぜ?ボルクス・ディーハはまだ名前が売れてなかったから苦労はしなかったけどな。」
一気に言いきった。
祐介はそれを聞き
「そうか、だったらその仲間か?探さないとな」
アルテマのコインに関係してることは確かなはずだ。
「具体的な場所は書かれてなかっただろう?あの本は色々なところを省いてやがる。俺がクルツ・レイムに出会う時期は書いてなかった、場所は当たってた。イースタルードの最強のダンジョンだから暇があれば一人で潜ってた。」
「あんたに会えるまではな」
竹崎、今となってはディーハだが、恨めしそうにそう言った。
「パラディンになって、クルツ・レイムと同行出来る程度の強さになるまでに3年だぜ?最初はただの剣士だ、そこは小説に書かれてない。最初はタケ・リョウタって名乗ってたんだ。あるきっかけでボルクス・ディーハを名乗ることになったがな。ずっと待ってたんだよクルツ・レイムを」
「お前からは絶対離れないからな?」
「それと、あのルイ・ベータは小説の中じゃ男のように書かれてた、驚いただろ?今後何回か重要な場面で組むことになってる、例えばホックランドの氷結のダンジョンが次だな。」
ディーハはかなり物語を覚えているようだ。
祐介は
「それはもう少ししてからだな、今のところは何も無かっただろう?」
話はまだまだ続くが、クルツ・レイムとルイ・ベータが組むことになるのは知っていた。
「それより仲間探しだろう?世界最強のパーティを作る、多分その中に俺達の仲間がいる」
確信はないが、なんとなくそういう気がして言葉にした。
「まぁそうだろうな、集めてみないとわからないが、半分は多分そうだろうよ」
ディーハは5年もこの世界に居ることに疲れているようだった。
「最終目的は”アルテマのコイン”だろう?それを探して採れるのは、クルツ・レイムであるあんただけだよな?沢井祐介。まぁこの世界じゃレイムって呼ぶけど慣れろよ?」
ディーハを演じる竹崎はそう言って立ち上がった。
「よろしく頼むぜ?レイム魔法騎士、いやディバインナイトか?4次職って確かあんただけだ。マジで頼む。」
そう言って「まだ飲み足りねぇ、酒足してくるわ」とディーハが去っていった。
「半年か。」
祐介は悩んだ。それまでに本の内容を全て頭に入れて置かなければならない。
それに、以前のクルツ・レイムと自分は全く違う人格なのだろうか?知り合いに会うのが少し怖い。
祐介はジャックにクルツ・レイムのことを教えてもらうことにした。
今は恐らくどこかのダンジョンに入っているだろう、帰ってくるのは夕方あたりか。
一度読み返して、クルツ・レイムが知り合いに出会う場面がないか調べる必要がある。
祐介は少し眠ることにした。
祐介が起きると、そこは自分の部屋だった。
まずは現実世界の友人達に時期を告げて部屋を引き上げたり、旅行にでも行くことにしなければならない。
それと、竹崎亮太について検索してみた。
どうやら行方不明扱いになっているようだった。
竹崎亮太のSNSを探したが5年前に不思議な体験をした、と書かれてあり、そこから大体半年毎日更新されていたが、その後は書かれていなかった。恐らく帰ってこれなくなったんだろう。
次におこなったのは、やはり本の内容確認だった。
どうやらクルツ・レイムはほとんど知人を作っていない。一人で行動しているようだった。
ただ、物語の中で数回古くからの知人に会っていたが、訝しむ様子はなく性格は変わっていない。
このままで問題ないと言うことだろう。
しかしじっくりと読んで全てを頭の中に入れなければならない。
ディーハを始めとする仲間達の名前や出会える場所、レイムの行動等を全て。
よく読むと必要な知識はそこそこあるが、絶対こうしなければならないという場面は少なかった。
誰かと出会うにしても、出会いの場面はほとんど無くいきなり仲間になっている。
仲間の名前すら書かれておらず、一体何人と出会うのかも詳細に書かれていない。
「あー、もう、仕方がないか」
朝方まで起きていたので、祐介は眠ることにした。
起きるとロンディアスギルドの部屋だった。
眠って起きて一瞬に感じるが、やはりたっぷりと眠った感覚はある。
祐介は下に降りて会館に居るはずのディーハの前に座った。
「眠ってきた。確認のために色々と調べたが、竹崎亮太は行方不明になってたぞ」
酒を飲み続けているディーハは
「帰れる見込みが有るのかわからん、俺にはどうにも出来ねーしいいよ」
「家は東京だけどな。何もするなよ?親は心配してるだろーけど仕方ねぇし」
祐介はそう言うディーハに
「そうだな、俺も早目に実家に戻ってアメリカにでも行くことにする」
頭を抱えながら答えると、ディーハは
「それが良いな、一人暮らしだと事件になっちまう」
そう答えた。
祐介は大体の内容を知るために街を歩くことにした。
地図を買い、街の内容を見聞きし、総ギルド会館で情報を集めた。
夕方ロンディアスギルド会館に戻って地図を眺めていると、ジャック達が帰ってきた。
「レイムさん、地図なんか見てまたどこかに行くんですか?」
ジャックが後ろから祐介に訊いてきた。
「いや、まぁそうだな、ちょっとダンジョンを確認してた。」
この世界のことを調べていたとは言えない。
ディーハは酔っ払って寝てしまい使い物にならない。
ベータは部屋の隅の方で弓の調整をしているようだった。
結局自分で調べるしか無かった。
どうやら中心のプレイシルと言う巨大都市を中核として
東のイースタルード、西のウェンタリア、北のホックランド、南のサンディア
この4つの大都市を中心とするようだ。
他にも中小都市やポータルまたは飛空艇で行ける島などがある。
ダンジョンは50程度が書かれていた。
『これ全部行ってるんだろうな、落ち着いたら一通り行ってみることにするか』
祐介が考えていると
「レイムさんから頂いた金貨でメンバー全員の装備をほぼ最強にできました。
まだまだ余ってますが後々使わさせていただきます。部屋もいつでも使って下さい。」
祐介が帰ってきたメンバーを見ると、全員の武器と防具が変わっていた。
店売りの品だが装備でだいぶ戦闘は楽になる。今装備できる最強の装備にしたのだろう。
他にも各都市の一流の鍛冶師に相当な数の装備を発注しているらしい。
「どこかに行ってきたんですか?」
祐介が言うと
「ええ、装備を試したくて今までは降りきれなかったダンジョンに。なんとかクリア出来ました。」
顔ぶれを見ると騎士のジャック、ガンナーのラティム、召喚師のファム、
剣士のドロス、アサシンのレッド、モンクのグリーゼ、ソーサラーのティータ、
魔導士のシン、それとこないだは居なかったアーチャーとプリーストだった。
ラティムはガンナーからグランガンナーに、ドロスは剣士から騎士になったようだ。
ティータも恐らくもう少しでマジックマスターになり、グリーゼもチャンプになるだろう。
「そうですか、俺はこれからプレイシルに行って、ウェンタリアのダンジョンに行ってきます。
1週間ほどで戻りますので帰ってきたらまたこちらへ寄らせていただきますのでよろしく。」
「あ、あと隣の棟も買い取ってくれないかな?ロンディアスの名前でいいから」
祐介は10万ディルトを渡してイースタルードを発った。