第2話 ボルクス・ディーハ
祐介はレイムとしてロンディアスギルドのメンバーと共に街から半日のダンジョンへ入った。
「ウチのメンバーはこの俺が騎士、そしてガンナーのラティム、召喚師のファム、剣士のドロス、アサシンのレッド、モンクのグリーゼ、ソーサラーのティータ、魔導士のシンを今日連れてきてます。」
ジャックは自分を合わせ7人を連れてきていた。
「出来たばかりのギルドにしては数が多いですね、他にも?」
祐介は心強かった。
クルツ・レイムがどれだけ強いか知ってはいるが、祐介にとっては初めての体験だ。
夢の中であったとしても。いや、もう夢とは思えない。
現実感が有りすぎる。異世界転移モノのライトノベルがあるのは知っていた。
もしかするとこれはそうかもしれない。
「『不可能なものを除外していって残ったものが、たとえどんなに信じられなくても、それが真相である』か。多元宇宙論が解決していない今、異世界転移が不可能だとは考えられない。そう、たとえどんなに信じられなくても」祐介は独り言をした。
先頭を歩く祐介はファムが召喚したライトスクウェルという光る浮遊モンスターが照らす通路を進んだ。
地上階層から地下7階層まではジャックが道案内をしてくれる。
ダンジョンに入った時にはもうモンスターと遭遇した。
弱いモンスターなら前衛職と後衛職が簡単に片付けてくれる。
祐介も剣でどんどん斬り倒していったが、体が勝手に動く。
魔法騎士であるレイムは魔法も使えるが、今のところ剣での攻撃で十分だった。
下に降りるに連れて敵モンスターは強くなって行くが、後衛の補助が有り簡単に進める。
7階層、ジャックが来たと言う限界の深さだが祐介が居るため問題は無いらしい。
8階層、9階層と進んでいくにつれ
「流石にレイムさんは強いな、他のダンジョンのボスクラスもあっさり倒しますね」
ジャックにそう言われたが、特段強いモンスターとも思えない。
11階層に降りた時に誰かが戦っていた。
割って入るわけにもいかず、祐介達が見ているとその男は敵をあっさりと倒した。
「こんな場所に一人で来るって事は相当強い人ですよ」
ジャックがそう言うと、男が近づいてきた。
「もしかしてクルツ・レイムさんですか?私はボルクス・ディーハですが」
この場面も小説に書いてあった。
話通りならこの後パーティーに合流して最下層15階のブラスドラゴンを倒すはずだ。
「レイムさんとならここのボスも簡単に倒せるので私もパーティーに入れてもらえますか?」
一字一句変わらないセリフでディーハは求めてきた。
今後共に冒険をすることになるのを祐介は知っていたのでジャックに言うとディーハもパーティーに加わった。
ディーハが加わったことで戦力が大幅に上がったため、15階層、ブラスドラゴンの部屋まで簡単に降りることが出来た。
そのダンジョン最強の敵も祐介とディーハ、それに後衛の攻撃であっさりと倒した。
「やはり貴方方は強いですね、レベルが上がりました」
ジャックとギルドメンバー達はレベルアップしたようだった。
「ギルドには入らないが、今後も助けてもらいたい、良いでしょうか?」
祐介はジャックに頼んだ。
「願ってもない、レイムさんと組めるなら安心です」
ジャックは二つ返事で了承した。
「じゃあ俺も一口乗ってかまわないか?」
ディーハも会話に割って入ってきた。
確か物語どおりならクルツ・レイムはボルクス・ディーハと共にロンディアスと組むはずだ。
そして次はスナイパーのルイ・ベータと言う凄腕の弓手と会うことになる。
その次はアークビショップのカイル・ナム・トランス。
この世界で名を轟かせている者達を30人以上集めて最後のダンジョンでコインを手に入れる。
しかし、それまでにクルツ・レイムは魔法騎士からディバインナイトに成っていなくてはならない。
全クラスの中でも最強の存在でただ一つの4次職、と言うより称号に等しい。
攻撃魔法に限らずほぼ全ての上級攻撃魔法が使える。
後半の物語なのでまだまだ先のことだが、小説にはそう書かれてあった。
祐介達はダンジョンの最下層からソーサラーのティータによる帰還魔法でダンジョンから出た。
「今日のところは一旦帰ろうか、街まではアイテムで帰ろう」
そう言って祐介は帰還アイテムを取り出した。
「さて、帰るか。あ、ジャック、しばらくギルドの部屋を貸してもらえると助かるが」
クルツ・レイムはロンディアスギルドで間借りしていたはずだ。
街へ戻り、祐介は10万ディルト分の証券を銀行から引き出しジャックに渡した。
この金額は低レベルの3次職の冒険者や中小のギルドには決して稼ぐことは出来ない。
ギルド会館の部屋をずっと借り続けるためには巨額過ぎる金額だが何故かクルツ・レイムは物語の中で渡していた。
これでロンディアスギルドメンバーの装備レベルが一気に上るのである。
この先暫くの間ロンディアスとディーハそれにベータと共に動く。
物語どおりならアサシンのレッドも最高レベルのローグアサシンとなって仲間に加わる。
そしてクルツ・レイムはギルドマスターではなくロードになるはずだ。
ロードとはギルドマスターの上位にあって、各ギルドを統べる権利を持つ者である。
この世界でロードになるのは難しい、各ギルドのマスターに認められるだけの実力を持ち、中央都市プレイシルの法皇に認められなくてはならない。
だが、と祐介は考えた。
この世界と自分の世界はどちらが本物なのだろう?
自分の生活している世界に一度戻ることにした。
眠ればまた一瞬で元の世界に戻れるはずだ。
祐介はロンディアスの部屋で眠りについた。
起きた時は以前眠った時間とほぼ同じだった。
しかし十分に眠ったような感覚があり疲れも取れている。
早速本を読んで確認した。書かれているのは冒険の繰り返しだが、アイテム預かり所の事が書かれていた。
やはり武器や防具、マジックアイテムやドロップアイテムを預けている。
工房にも発注しているようだ。革製品や剣の強化等色々とやるべきことはある。
一通りノートにまとめ上げ、今後の事を時系列に並べていった。
夢の中のことでそこまでする必要があるのか、とは思うが未だに夢なのか現実なのかわかりかねる。
準備はしておいたほうが良い。
「それにしてもおかしな体験をするなぁ、困りはしないが混乱する」
祐介は丸一日掛けてまとめた。
誰と会い、どこに行くか、何を行うか。大体を頭に入れて祐介は眠った。
そしてロンディアスのギルドの一室で目覚めた。
本来はギルドマスター用の部屋だがジャックから使ってくれと言われて借りている。
そして武器屋と鍛冶屋が隣接する場所へ連れて行ってもらった。
歩いて約10分程度、狭い脇道を通っていったので路は覚えられなかった。
祐介が武器屋で自分の剣を抜いて主人に見せると
「この銘はアポロスの剣ですな、15回の強化と魔石スロット10個が全て埋まっている」
そう言って惚れ惚れと眺めていた。
祐介は
「これより強い剣が欲しい、魔石スロット10以上のゴードの剣は扱ってないか?」
武器屋の主人に尋ねた。
すると主人は
「ゴードっていやぁ魔剣専門の鍛冶師ですが・・・買い付けするにしても相当な金額を要求されますぜ?」
これは小説に載っていたセリフだ。
「いくらでもいい、仕入れて欲しい。クルツ・レイムが欲しがっていると言えば買い付け出来るだろう?」
小説にあった言葉で返した。
「ほう、レイムさんですか。剣を見た時に気が付くべきでしたな、買い付けてきますが、
その、一緒に会ってくれますか?ゴードってのはかなり偏屈らしいですからな」
祐介にはそれは分かっていた。気に入らない奴には売らない、時には半年掛けて1振りの剣を打つ。
作る作品全てが魔剣で鋭く刃こぼれもしない世界最高の鍛冶師だ。もちろん防具も最高レベルだ。
「200ディルト以上は吹っ掛けられますよ?私も同行します」
確か鎧や楯もゴードの物を使っていたはずだ。しかし吹っ掛けられて200ディルトなのか?と祐介は思った。
「南のサンディアだったな、今日でいいか?サンディアに登録している者を探して連れて行ってもらう。」
東の街イースタルードに登録しているレイムでは飛空船や飛空艇かポータルで各街を経由して行くしか無いがサンディア登録の者が居れば一瞬で飛べる。
各街をポータルで通過していく方法は使用しないことにした。
今回はルイ・ベータと知り合う目的も有る。
この場所で出会えるはずだった。
「総ギルド会館で探すよ、しばらく待っていてくれ。」
そう言うと祐介は街の中心にある巨大な建物へ向かった。
「確かここでも出会いがあるはずなんだが・・・」
祐介はスナイパーのルイ・ベータを探した。
「それにしてもこんなに広いのか、数万の冒険者が集まる場所だからな」
祐介が総ギルド会館で聞き回って探していると
「私がルイ・ベータですが、なんでしょうか?」
振り向くと女性が立っていた。
「俺はクルツ・レイムと言います、ルイ・ベータさんですか?」祐介が聞くと「ルイ・ベータです」と返ってきた。
小説では気が付かなかったがスナイパーのルイ・ベータは女性だった。
「丁度よかった。不躾で申し訳ないですが、ベータさんは今サンディアで登録されていますか?」
祐介は質問したが、知っていた。
「そうですが、何か?」
ルイ・ベータは言った。
「すぐにサンディアまで飛んでゴード鍛冶師に会いたのですが。登録を貸していただけませんか?」
祐介は全て小説に書かれてあった通りの言葉を使った。
「それでしたら力になりましょう。最強の魔法騎士クルツ・レイムさんとは知り合っておきたいので」
「いえ、こちらこそルイ・ベータさんと知り合っておきたかったんです」
全て”アルテマのコイン”のままの展開だ。
しかしこの後の行動は書かれていない、まずはポータル魔法石だ。
総ギルド会館に預けてある物を受け取った。
ゴードの剣は特別で10回を超える大幅な強化に耐えることが出来る。
魔法石を組み入れれば今の剣より格段に攻撃力を上げられる。
強化用アイテムも素材として必要だ。
「さて、ベータさん、申し訳ないがサンディアまでお願いします」
祐介はそう言って3人でサンディアに飛んだ。
ゴード鍛冶師の工房へ行き
「クルツ・レイムと申しますが、鍛冶師のゴードさんはいますでしょうか?」
祐介がそう言うと、奥の方から
「今は手が離せん!しばらく待て!」
と言われて1時間程待たされた。
ゴードは祐介を見るなり
「クルツ・レイム?なんじゃ、また剣か防具でも打って欲しいのか?まずは剣を見せろ」
そう言われたので祐介はゴードに剣を見せた。
「こいつぁアポロスんとこの剣だな、よく鍛えられてるがもっと強い剣が欲しいのか?」
「剣の強さに振り回されん奴にしかワシは打たんのは知っとるな?」
ゴードはじっくりと剣を見た。
「そうです、もう1段強い職に成りたいので。」
祐介がそう言うと
「魔法騎士より上の職なんざ無いぞ?」
そう言われて祐介は焦った、まだこの世界にはディバインナイトという職業は無い。
「あ、いや、できるだけ強い剣を、と言う意味です」
祐介が慌てて訂正した。
「ふむ。材料はあるのか?」
ゴードが単刀直入に聞いてきた。これは小説にあった場面だ。
「あります、材料のレアアイテムに錬金用の青鉄、赤鉄、黄鉄、それに粉。魔法石も最高のものを揃えています」
あるはずだ、アイテム貯蔵庫に預けてあると書かれてあった。
確認のためにサンディアの総ギルド会館へ行った。各都市の総ギルド会館の倉庫は魔法で結ばれている。
銀行もそうだが、どこのアイテム預かり所に預けようとも、各街の総ギルド会館で引き出せる。
そこには様々なアイテムを山のように預けてあったので必要な分の倍以上を受け取った。
また、5000ディルト分を50ディルト単位で証券化して引き出した。
後はゴードに頼むだけだ。
祐介は鍛冶屋へと引き返した。