第13話 もう一つのギルド
ミラーによる3ギルドのメンバーの底上げは順調に進んでいた。
そして、各ギルドのメンバーも顕著に増えていっている。
一番新規参入が多いのはやはり資産額1位であるロンディアスだった。
「ギルド資金目当てのやつも多いですね、特にガンナーとアーチャー」
イースタルードからプレイシルの支部にジャックと祐介は週に1度は顔を出し、レッドと話をする。
「イースタルードも同じだな、しかし回復職もかなり応募してきている。殆どが1次職の新人だが」
元々居たメンバーは新人の育成をしながら自分達でミラーの計画どおりにレベルを上げていっている。
召喚師のファムは2次職のモンスターマスターになり、ソーサラーのティータはマジックマスターとなった。
初期メンバーは全て2次職か3次職になっている。
メンバー数も100人近くになり、ギルド会館の拡張や別棟の買い取りで数百人規模まで増やせる準備をした。
トランスのクラウシアギルドも最初に出会った時の12人から大幅に人数を増やしていたが、資金力がないためギルド運営は厳しいようだった。
トランスやナイン、エンバーなどが稼いでくるがギルド会館の拡張にかなりの金額がかかっている。
初級冒険者は装備も消耗品も自前で一通り揃えているが、ミラーの指示で効率的に稼げている。
どうやらミラーは金銭的に効率の良いクエストとレベルアップに効率の良いクエストを教えていたようだ。
クエストの選択は各パーティーに任せている。
そしてジャックと祐介がプレイシルに居るときにはミラーと会うのだが、今回は一つ話を持って来た。
アテナシア以上の規模のギルドを紹介してくれるという。
「生産系ギルドでディルティアスというのですが、メンバーだけでは冒険が殆ど出来ないギルドです」
この世界の職業には生産系の職業として鍛冶師、調理師、裁縫師、革職人、薬師そして商人が有る。
これらの職業は副職業として剣士等通常職と掛け持ち出来るのだが、初めから生産職だけにつくものも居る。
極めれば当然通常職より稼ぎは大きいが、戦闘力はかなり低い。
街から出るものも少ないのだが、生産によってレベルが上がるので問題はない。
しかし、上級職になると生産にレアアイテムを必要とするため当然戦闘にも出かけなければならなくなる。
「ディルティアスのギルドマスター、バラン・ブレイディルとは昔からの知り合いで、鍛冶師の3次職のマイスターです。アテナシアのメンバーの装備をかなり作ってもらっています。
世界最高の鍛冶師と言われるゴードの元相棒で腕はゴードに引けを取りません」
ミラーは規模的にアテナシアの倍の人数を抱えるディルティアスのメンバーもアテナシアギルドと組ませて居たが、余力がなくなってしまったとのことだった。
「良いですよ、生産系ギルドの人達と知り合っていれば色々と我々も都合が良いですし」
ジャックは二つ返事でミラーの頼みを受け入れた。
ディルティアスには2次職や3次職が多い。
商人の2次職トレーダーや3次職のキャラバニア
鍛冶師の2次職のブラックスミス、3次職のマイスター
調理師の2次職のシセロ、3次職のコクウス
裁縫師の2次職のシームストレス、3次職のクレアティロ
革職人の2次職のカーヴァー、3次職のレーサー
薬師の2次職のアルキュミア、3次職のセージ
1000人に近い職人達が日々何かを作っている。
これらのメンバーに材料を渡せば工賃だけで作ってもらえる。
ただし、強化の最中に装備を破壊したり、魔法石の嵌め込みに失敗して魔法石を砕く恐れがあるが。
ゴードやアポロスは最高レベルのマイスターであり、ほぼ失敗はありえないが工賃が高い。
祐介にしてみればどうでも良いことだが1次職や2次職の装備を発注するには丁度よい。
特に召喚師、魔法使い、プリースト、バードは鍛冶師ではなく裁縫師に装備を作ってもらう必要がある。
シーフやモンク、アーチャーは革職人が装備を作る。そしてレアアイテムを売るには商人に頼んだほうが良い。
「ディルティアスはこの間まで資産1位のギルドでしたね」
ジャックが言うと
「レイムさんがロンディアスに法外な資金を提供するまではですが」
ミラーが笑って答えた。
「あの一件でディルティアスはロンディアスギルドに興味を抱いたらしいです」
ミラーは続けて
「生産系ギルドの資産を軽く凌ぎましたからね、恐らく優秀な装備を作るつもりでしょう。
ロンディアスは育成系ですが元々戦闘系ギルドでしょう?今もメンバーが狩りに行っていますし」
ジャックはそれに答えて
「1次職や2次職に成り立ての者の装備を相談してみましょう。今は店売りが多いですし」
店売り装備は安いが限界が決まっている。強化はできない上に魔法石も嵌め込めない。
生産系ギルドと組めば材料を渡すだけでそこそこ強い装備を作ってもらえる。
ジャックと祐介はミラーに連れられてディルティアスへ足を運んだ。
「こんにちは、アテナシアのミラーですが、
バラン・ブレイディルさんかクレイ・ダートさんはいらっしゃいますか?」
ミラーが言うとすぐにダートがやってきた。
「こんにちはミラーさん、何か御用で?」
ディルティアスのギルドの副マスターであるダートはまだ若く見える。
「ロンディアスのジャックさんとレイムさんを連れてきました、ご挨拶にと」
ミラーがそう言うと
「今ブレイディルは臨時パーティーで留守にしています。ロンディアスのマスターですね?話は伺っています、相互に協力したいのですが」
ダートはジャックと握手をし
「ロンディアスギルドの装備は全て引き受けられます、いかがでしょう?」
と訊いてきた。
「今かなりの人数がギルドに入ってきていますが、当分は自分で装備を調達させようと考えています。
もちろん金銭に余裕のある者は装備を発注すると思いますが」
「あと、2次職3次職の装備はお任せしたいですね、お願いできますか?」
ジャックが尋ねると
「そうですね、ウチには一流の職人が揃っていますので、どのような装備でもご要望に答えます」
ダートはそう答えた。
ロンディアスとディルティアスはその日の内に同盟を結ぶことになった。
一方その頃イースタルードのダンジョンにはクラウシアのエンバーとロンディアスのメンバーがブラスドラゴンのダンジョンに潜っていた。
「先頭は俺が突っ込むから前衛職はテンポを遅らせて攻撃してくれますか、ガンナーとアーチャーも攻撃を頼みます。アポストルは全員のステータスを確認しつつ回復のみに務めてください」
エンバーはどうしても先頭に立ちたいようだった。
「このメンバーなら負けませんよ、俺はスノードラゴンも倒したんだ」
エンバーはドラゴンに走り掛かって行った。
「ファイアブレイド!フレイムソード!スラッシュ!」エンバーが攻撃すると続いて騎士のドロス、チャンプのグリーゼが攻撃を加える。
同じように魔導士のシンは魔法攻撃、アローマスターのジークは遠距離から連続攻撃を行った。
アポストルのジョーイが回復に専念し、モンスターマスターのファムはレキュペラティオウィングという聖獣を召喚し全体回復を行っている。
「スラッシュ!」ドロスが真空の刃でブラスドラゴンを斬る。
「フェルムプグノー!」グリーゼが切れ味の鋭い爪を更に強化して切り裂いた。
ドラゴンは部屋中に轟く断末魔の末に倒れて消えた。
「ふぅ・・・倒せましたね、イースタルード最難関のダンジョン」
エンバーは近くの岩に座って剣を見た。
「よく切れる上に軽い。この剣に見合うだけの力が俺にあるのかはわからないけど」
そう言って腰に剣を戻した。
「では帰りましょうか」しばらく休んでエンバーが言うと
「あ、ソーサラーが居ない!」グリーゼが慌てた。
「ここは地上へのポータルがないから登るしか無いですね」エンバーは笑っていた。
戦闘で最前衛を務めているため体力精神力共に消耗しているはずだが、戦い足りてないようだった。
「ブラスドラゴンがリジェネレートするまでにはまだ時間があります。回復してから出口を目指しましょう」
エンバーはメンティスリトラフィトゥルでHPとMPを回復していた。
登りは下りよりも簡単だった。
階を登るごとにモンスターは弱くなっていく。
エンバーは鬼神のように戦い、全員が無事地上へ帰還した。
「ソーサラーは必須でしたね、ティータさんは今日は別のパーティか、うっかりしてました」
エンバーが言うとグリーゼが
「そうですね、けどエンバーさんが居るので安心してました」グリーゼが答えた。
ジョーイも
「2次職だけのパーティでこのダンジョンを攻略すると聞いた時は驚きましたが、ミラーさんの指示は確かですね。かなりレベルが上っていきます」
「今日は一旦イースタルードへ帰りましょう。連戦は流石に疲れます」
エンバーはもう1度位なら別のダンジョンを攻略できると考えていたが、他のメンバーが疲労しているようなので帰ることにした。
エンバー達がイースタルードのロンディアスギルドの会館に帰ってくると広間は賑わっていた。
ディーハが
「おぅ、帰ってきたかブラスドラゴン組」と迎えてくれたが、その手には2本のメルク酒があった。
「お前らでイースタルード攻略パーティーは全員無事帰還だ、とりあえず飲め」
そう言ってエンバー達の座った長机の上に酒を置いて、また厨房に酒を取りに行った。
その時ジャックと祐介が現れて
「イースタルード組は全員居るかな?じゃあ皆聞いてくれ」
「今回プレイシルの生産系ギルドのディルティアスと同盟関係を結ぶことになった。ロンディアス、クラウシア、アテナシアから戦闘職を出しディルティアスからは生産職がパーティーに加わる。これからはレアアイテムを手に入れれば格安で装備が作ってもらえるのでディルティアスギルドのメンバーとも組んでいって欲しい」
続けて
「もちろんミラーさんが指示を出すのでそれに従って安全にだ。何か疑問は?」
ジャックはメンバーから不平が出ると思っていたがそれはなかった。
生産系の職業スキルは戦闘で使えないものが多いが、強力なスキルもある。
足手まといにはならないと皆知っているのだろう。しかしパーティでは常に後衛となる。
「ディルティアスギルドのメンバーと知り合いになれるなら嬉しいことですね」
エンバーが皆を代表して言った。
「そうだな、あ、エンバー君だったか、最近プレイシルに帰ってないようだけど大丈夫か?」
ジャックの言葉にエンバーは
「ロンディアスギルドのメンバーは自分と相性が良いので、つい帰りそびれています」と笑って答えた。
エンバーは3次職になれるまで後少しなのでそれまではイースタルードに残っているつもりだった。
そしてその後もクラウシアのメンバーを呼んでブラスドラゴンを簡単に倒せる程度までは居続けようと考えていた。
祐介はディルティアスのメンバーの中に転移者が居るかどうかを確かめたかったが、後々にすることにした。




