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アルテマのコイン  作者: 朝倉新五郎
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第1話 夢と現

 世の中には秘宝と呼ばれるものがある。

 それを手に入れれば世界の王になれるという”アルテマのコイン”

 ただの伝説だが、過去に巨大帝国を創った帝王はそれを持っていたという。

 幾枚あるのかわからないが、世界の何処かに封印されているという噂がまことしやかに囁かれていた。


 或る王は数百人の騎士を連れてダンジョンへと入り戻らなかった。

 或る騎士は天空にそびえる塔を登り帰ってこなかった。


 この世界の最高の宝物、それが”アルテマのコイン”だと言われている。


 ただ、それを目にしたものは今は存在していない。



 日々をなんとなく過ごしている青年沢井祐介はそんな小説を読んでいた。

 全10巻、小説としては長いほうだろう。しかし作者名が書かれていない。

 近くの小さな中古書店の端で長年売れ残っていたのだが、気になって買ってみた。

 特段好きな分野ではないが、暇潰しには丁度良い。


 祐介は3日で全部読んでしまい、寝不足からか眠ってしまった。



 「起きろ」という声で祐介は目覚めた。

 寝ぼけているのか周りの景色がいつもの景色ではないように見える。

 「いきなり道でぶっ倒れやがって、なんだ?稼げてねーのか?」

 どうやら夢の中らしい。


 「一人でやってんならウチのギルドに入れてやるぜ?まだ出来たばかりで人数はすくないがな」

 傭兵風の男が何やらわけのわからないことを言ってきた。

 「ギルド?ああ、そう言えば”アルテマのコイン”にあったな、確か」

 祐介が言うと

 「あぁ?そんなもん探してんのか?物好きなやつだな」

 その男が言う。


 「少し眠らせてくれ、まだ眠い」

 そう言うなり祐介は眠った。



 起きた後、祐介は気になって本を開いた。

 1巻の最初と同じやり取りの夢を見たようだ。

 「3日も徹夜で読むと夢に見るようになるよな」

 祐介は本を閉じて連休の残りをどう過ごすか考えた。

 ここのところ残業続きでその上読書だ、睡眠時間が足りていない。

 着替えて近くのコンビニでサンドウィッチを買って部屋で食べた。

 そしてまた睡魔に負けそうになったのでベッドへ行き眠ることにした。



 「おい、起きろって、ウチのギルドに入らねーなら出ていけよ、困ったやつだな」

 さっきの夢の続きを見た。

 「あ、ああ・・・すぐ出る、悪いな」

 祐介は起き上がり出入り口の扉に向かったが途中で倒れてしまった。

 「いってぇ!あれ?痛い?夢なのになぜ痛いんだ?」

 少し混乱した祐介を起こし

 「あんた何言ってんだ?変な夢でも見たか?とりあえず食いもんはあるから食ってけ」

 傭兵風の男が肩を貸してくれ、祐介を椅子に座らせた。

 「俺はジャック・ラウド。ロンドの神と契約してギルドを立ち上げたばっかだ」

 そう言うと、ちょっとした食事を出してくれた。

 「まぁとりあえず食え、へばってちゃ歩けねーだろ?」


 祐介はこの場面も知っていた。

 「本の通りだけど、これはどういうことだ?」

 クルツ・レイムという主人公が確かそういう状態になってたな。

 あの小説通りの夢を見てるのか?

 祐介は出された食事をとりあえず腹に入れた。

 「リアルだな、一回しか読んでないにしては場面が似すぎてるぞ?」

 そう言うと

 「さっきから何を言ってんだぁ?頭でも打ったか?」

 男は言うが

 「もしかしてこのギルドの名前は確か、えーと、ロンディアスか?」

 祐介はジャック・ラウドと名乗る男に尋ねてみると


 「まだメンバーしか知らねぇ名前をなぜ知ってる?」

 と訊き返された。


 「いや、読んでいた本に書いてあったんだ・・・けど、どういうことだ?」

 祐介は状況を把握出来なかった。


 「どうしたよ、その装備ならかなりの冒険者だろう?金に困るはずは無いんじゃないか?」

 その言葉で自分の姿を確認すると恐らく鋼鉄と鎖と革で作られた鎧、それに左腰に剣が下がっている。


 「ん?その真っ黒な楯のその紋章?あんたクルツ・レイムか?」

 男はそう言ったが、小説にそんな場面は無い。

 「俺がクルツ・レイム?どうなってる?」

 祐介は意味がわからなかった。


 確か世界最強の魔法騎士の一人で主人公だったはずだ。

 ギルドに所属せず、単独でダンジョンをクリアする。

 時には他の魔法騎士やパラディン、ウォーロックやアークビショップ、ローグアサシンやシューター、スナイパー等多くの人数で集まっては困難なダンジョンクエストをこなしてくる。

 

 祐介はしばらく考えた。そして

 「俺がクルツ・レイムだとなぜわかる?」と言ってみた。これは小説にはなかったセリフだ。


 「いや、悪かった。あんたは一人で動く冒険者だったな。ギルドなんかに誘ってすまん」

 これは小説にあった。どういうことだ?適当に読んだだけだぞ、夢にこんなにはっきり反映される訳がない。


 「まあいい、食事ありがとう。」

 確か銀貨がバッグの中にあるはずなので1ラフル銀貨1枚を男に渡した。


 「迷惑ついでだが、宿屋を教えてもらえるかな?」

 祐介は困惑していたが、休むことにした。


 ジャック・ラウドと言う男は「ここからすぐなんで案内しましょう」と案内してくれた。

 「あと、神殿と総ギルド会館はわかりますよね?イースタルードはあまり来ないのかもしれませんが街の中央の大きな建物です」そう教えてくれた。


 祐介は宿屋に入り2ラフル支払って広い部屋に案内された。

 通貨の単位も小説と同じである。

 1ペナト青銅貨、10ペナト白銅貨、1ラフル銀貨、10ラフル銀貨、1ディルト金貨に10ディルト金貨。

 腰のベルトに付けているバッグに硬貨毎に分けた革袋があり、かなり入っている。

 小説では神殿や総ギルド会館に銀行があり、そこにはうなるほどの金貨を預けてあるはずだ。

 確認のために祐介は神殿へ向かった。


 「クルツ・レイムだが、預けている金貨がどのくらいか知りたい。」

 祐介がそう言うと

 「クルツ・レイム様からは現在5512万6500ディルトをお預かりしております」

 そう答えられたが、覚えている限り小説でもその枚数だった。

 100枚単位以下は持ち歩いていたはずだ。


 「そうか、ありがとう」

 祐介は宿屋に戻ることにした。


 「これが夢だとして、眠ればまた覚めるのか?」

 不可解なことが多すぎて対処しきれていない自分を理解していた。

 とはいえ、今は何もやることがない。

 祐介は眠ることにした。



 眠ったと思えばすぐに起きた。

 そこは自分の部屋だった。整然と並べられた本棚、最小限の家具や電化製品、それに机とベッド。

 1DKの部屋だ。

 「やっぱりか、何かおかしいな?もう一度あの小説を最期まで読むか。」

 祐介はそう呟いて本棚から10冊全てを机に持ってきて読み出した。

 今回は場面場面を確認するためだけのために読むので半日もかからないだろう。


 そして出版社と版数を確認しようとしたが、どちらもなかった。正規に出版されたものではないようだ。

 同人誌にしては良く出来ているが、よく見るとページ数すら打たれていない。


 ある程度全てを確認して10冊を読みきった。

 ところどころで詳細が省かれており、詳細な内容を知るのは難しい。

 ただ、最後に”アルテマのコイン”をクルツ・レイムが手に入れ、ダンジョンを出る場面で終わっていた。

 それ以外は冒険の連続、そして人との交流が書かれているだけだ。

 クルツ・レイムの行動の詳細も謎が多い。

 ボルクス・ディーハと言うパラディンとダンジョンで出会うことになっている。

 祐介は頭を使い過ぎてオーバーヒート気味になったので眠ることにした。

 これでまたあの”小説の世界”で目覚めれば何かしらの繋がりがわかるかもしれない。

 そう考えながら祐介は眠った。



 祐介は起きた。

 しかしそこはやはり小説の世界だった。

 「まったく、どうなっているんだ?これは?」

 眠った途端に目が覚めた様な感覚だが、疲れは取れている。

 祐介は唯一の知り合いであるロンディアスのジャック・ラウドに会いに行った。


 「ジャック・ラウドさんは居ますか?」

 祐介は以前の建物に入り尋ねた。

 すると奥の方から「どちら様ですかー?」という声がしたので

 「クルツ・レイムというものですが、お聞きしたい事がありまして」

 祐介は答えた。


 そのやり取りを聞いていたのかジャックは階段を降りてきた。

 「レイムさん、今日はどうなされました?」

 ジャックの口調が変わっていた。その目には尊敬の色が見える。


 「いきなりで申し訳ない、ダンジョンに付き合ってもらえないだろうか?」

 これは小説で書かれていたセリフだ。次の返事も予想出来る。


 「”漆黒の騎士”レイムさんのお供なら喜んでやりますが、一体どこの?」

 ジャックが問うてきたがこの世界のことはほとんどわからない。

 「ボルクス・ディーハと言うパラディンが居るはずなのでそこに」

 祐介がそう言うと

 「ボルクス・ディーハですか!?レイムさんと同等の名声を持つパラディンだ、たしか、えーと」

 ジャックが何を考えているのかは分からないが会わなければ話が進まない。

 「じゃあ、この街から一等強いダンジョンにいきますか?居るとすればそこでしょう

  ただし最前衛はレイムさんでお願いしますが、よろしいですか?」


 その言葉に祐介は反論する必要を感じなかった。

 このダンジョン攻略で会えると確信していたからだ。

 この場面は書いてあった。


 「用意が出来たら頼んでもいいですか?俺は宿屋に居るので」

 そう言った後、小説に書かれていた言葉を思い出した。

 「一人3ディルト出しますから、お願いします、できれば5人以上」

 「そんなにいただく訳にはいきません」とジャックは断ったが押し通した。

 そして祐介は30ディルトを置いてロンディアスのギルド会館を出て宿屋へ帰った。


 「確か”漆黒の騎士”とか言ってたな?けどこの鎧は黒くないぞ?楯は黒かったか」

 祐介は自分の姿を見て思い出した。

 「アイテム倉庫か、預けてあったな。確か防御力の関係で今の鎧を着てるんだったか?」

 自問自答してアイテム倉庫に向かった。


 「クルツ・レイムなんだが、預けてあるアイテムの一覧を見せてもらえるかな?」

 記憶が正しければ、この倉庫に剣や甲冑、楯やその他のアイテムを大量に預けてあるはずだ。


 「レイム様ですね。これが当倉庫で預かっている目録です。」

 そう言われて数十枚の紙を渡された。


 「何だこの文字?いや、読めるな・・・甲冑と楯が8つに剣が32本?あとはなんだこのアイテムの数と量は?」

 祐介は渡された目録を見て改めてクルツ・レイムという魔法騎士の強さを知った。

 レアアイテムやクエスト報酬がやたらと多い。魔法石も使い切れない程有る。

 しかし、それらがどれほどの価値を持つのか、何に使うものなのかはわからない。


 そして1つの項目に気がついた。

 「ボトムレスバッグ?」マジックバッグの項目にそれが幾つか書かれていたので一度見ることにした。

 今腰につけているバッグは丈夫な革製のただのバッグだ。

 よく出来ているがごく普通のバッグに見える。


 「すいません、このマジックバッグの項目にある20個全部見せてもらえますか?」

 祐介が言うと「少々お待ちください」と言われ、5分とかからず全て持ってきてくれた。


 一つづつ確認していくと、中の空間が信じられないほど広い。

 ポーチのような小さなマジックバッグも幾つかあった。

 祐介は邪魔にならないサイズのバッグとポーチ5つを持って帰ることにした。

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