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八話 初めての授業とパーティ。


 入学式から二日後、俺は前世の記憶を確かめるように授業を受けていた。


 昨日は学内施設の案内や使用方法についての説明が主だったので、実質的な授業は今日が始めてだ。


「――などの理由から妖魔対策庁の前身である組織、妖魔対策室は設置された。妖魔対策室が設置された当初は『漢字保有者』の人数も少なく、練度も高くなかった。『漢字刻印』に目覚めたばかりの人も戦いに参加せざるをえないほど逼迫した状況だったのだ。それに当時は妖魔に関する情報もほとんど無く、妖魔が出現するたびに何かしらのイレギュラーが起きているぐらいだった」


 この授業は妖魔史。妖魔が出現してからの歴史を学ぶ授業だ。


 ちなみに今は日本編で日本編が終わると世界編にいくらしい。


 この授業を担当している三十代前半の男性教師も恐らく『漢字保有者』なのだろう。


「だが、そんな混沌していた黎明期を誰よりも支えていたのは『十勇士』と呼ばれた彼等だろう」


 『十勇士』。


 それは流石に俺でも分かる。『十勇士』は妖魔が出現した最初期から最前線を支え続けた十人の『漢字保有者』のことだ。


 何故なら俺も、その中の一人だったのだから。


「彼等『十勇士』は常に先頭に立ち妖魔と戦っていった。それまでは日本のいくつかの地域からは妖魔が跋扈しているせいで何万もの住民が避難せざる終えない状況だったが、『十勇士』が台頭してからは日本各地の妖魔を退治していったんだ。おかげで日本ではもう何年も前に妖魔によって避難を余儀なくされる土地は無いからね」


 男性教師の授業を聞いていると、ふと思う。そういえば他の『十勇士』の皆はどうしているのだろうか。『十勇士』の皆の顔が浮かぶ。アレから十五年皆どんな感じで老けているのか見るのが楽しみだ。


「そして八年前に『十勇士』は半分が引退や戦死したのを機に、当時『十勇士』以外で強かった五人の『漢字保有者』を加えて『十字将』として再結成されたのだ」


 へぇ、今ではそんな事になっているのか。そっか『十勇士』は半分になったのか。


 たぶん戦死したのは俺ともう一人で、残りは引退したのだろう。確かアイツとアイツはデきてたし、恐らく結婚でもしたのだろう。


 などと考えに耽っていると四時間目終了の鐘が聞こえてきた。


「ふむ、今日はここまでだな。日直」


 日直が起立、礼、と言って授業が終わり教師が出て行くと一気にクラスがザワザワと騒がしくなる。


「ふぅ、疲れたー。剣斗飯食いに行こうぜー」


 後ろから彰に呼ばれて俺は振り返った。


 さっきの授業は四時間目だったので今は昼休みだ。


「おうよ。食堂と購買どっちにする?」


 クラスの大半も、そのどちらかに向かって移動しだす。今教室に残っているのは登校前にコンビニで昼食を買っていたヤツラだろう。


「うーん、食堂にすっか」


「なら、早めに行こうぜ」


「おう」


 混んではいるが運よくテーブルに座れた俺と彰は昼食を取っていた。ちなみに俺は味噌ラーメンで、彰はロコモコ丼だ。


「今日って午後から実技だよな?」


「そうだぜ」


 ロコモコ丼を口に運ぶ合間に彰が言うので、俺もラーメンを啜る合間に答える。


「どんなことするんだろうな」


「ちょっと楽しみだよな」


「確かにな」


 ハハハ、と二人で笑う。その後にあんなに後悔するなんて、この時の俺達は微塵も思わなかった。






―――――






 御剣学園に複数ある練習場の一つで三十代後半の男性教師の怒号と生徒達の疲れ果てた声が飛び交っていた。


 「チンタラ走ってんじゃねぇぞ!!もっと気合入れろやッ!!」


 「「「おぉー」」」


 かれこれ走り続けて三十分。午後の実技は一組、二組合同だったが、今やそのほとんどが準備体操の一環のランニングで死にそうになっていた。


 「声が小さいッ!!もっと張り上げろッ!!!」


 「「「おぉー!」」」


 くっそ。


 キツイランニングは兄貴のところだけだと思ってたのに、ここでもランニングやるのかよ。てか、いつまで走らされるんだ俺達は。


 あー、キッツイ。


 そろそろ終わってくれないかな。と考え始めたところでちょうどよく体育教師の怒号が響き渡った。


「終了ぅー!戻って来い!!」


 あぁ、やっと終わった。


 ランニングが終わり周りを見回してみると大多数の生徒が肩で息をついている。少数だが普通に立っている生徒もいるので、その生徒達はちゃんと鍛えているのだろう。逆に立っている体力すらなくて倒れこむように座っている生徒もいるが。


「今から名前を呼ばれた生徒はこっちに集合するように!」


 生徒が肩で息する中先程の体育教師とは別の男性の体育教師が順々に名前を呼んでいく。十分程かけて名前を呼ばれるがその中に俺と彰の名前は無かった。


「名前を呼ばれなかった者はこっちだ!」


 実技担当でありウチのクラスの担任でもある木下心先生が俺達を集めた。残った生徒は呼ばれた生徒より少し多いぐらいだ。


「さて、今日お前達は『漢字』の力を使えるようになってもらう。使い方は簡単だ、自分の中にある字力を使って『漢字』を発動させるイメージをしろ。手本を見せてやる」


 そう言うと木下先生はお手本を見せてくれる。手を前に出すと一瞬で手に槍を出した。


「こんな感じだ。後、練習するときは人からぶつからない様に離れてするように」


 その言葉を聞くとみんなは三々五々に離れていった。俺も彰と一緒に少し離れる。


「とりあえずやってみるか」


「だな」


 さて、俺はどうするか。既にできるから後は周囲の進行度によって俺も今出来たフリをすればいいか。


 隣では彰が、「獣、獣、獣」と呟いていたが、少しすると集中力が途切れたようで、くわっーっと頭を掻きだした。


 「くっそー!わかんねー!そもそも字力ってなんだしー」


 やっぱり彰も苦戦してるな、初めて『漢字』を使うときって感覚が分からないから仕方ないんだが。他人が出来ないのを見ててもしょうがないし、ちょっとヒント与えてやるか。


「彰、そういえば『獣』ってどんな『漢字』なんだ?」


「ん?あぁ『獣』ってのはな、俺が調べた限りだと獣の特徴が出る『漢字』らしい。八重歯が長くなったり、爪が鋭くなったりするらしいぞ」


「へぇー、なら彰は爪を鋭くすることができるのか。それやってみせてくれよ」


「だから出来ないんだって、爪伸ばしてくれって言ったってすぐ出来るわけが――あ」


 彰の手を見ると鋭い爪が伸びていた。


 やっぱり出来たか。『漢字』はイメージだ。漠然としたイメージではなく、どこをどうするという明確なイメージであれば、その『漢字』ができうる範囲内でならばできるのだ。


 だから先程の彰も『獣』という漠然としたものではなく、『獣』のような鋭い爪を思い浮かべたからこそ爪が鋭くなったのだ。


 その様子を見ていたのか木下先生が話しかけてきた。


「もう『漢字』が使えるようになったのか鳥居。よし、お前は合格だ。残り時間は『漢字』の練習をしているもよし、休んでいるもよし、他人の邪魔さえしなければ好きな事をしていろ」


 そう言って木下先生は手に持っていた名簿に何か書き込むと今度は俺の方を向いた。


「次はお前の番だ藤堂。なに出来ないフリをしているんだ、お前が既に『漢字』が使える事ぐらいお前の兄から聞いているぞ。いいからさっさと見せてみろ」

 

 まさか兄貴経由で話が伝わっているとは。というか木下先生、兄貴の事知ってたのか。


 仕方が無いのではじめに見せようと思っていた三十センチの木人形ではなく、人間大の木人形を作ることにするか。だって兄貴から人間大の木人形が作れる事を聞いてたら、手を抜くなって怒られそうだし。


「おし、こんなもんですか?」


 特に変わった事もすることはなく普段通りに木人形を作り出す。


「藤堂お前も合格だな。ついでだ、動かして見せろ」


「はい」


 木下先生の要望なので適当に歩かせてみる。


「まぁまぁだな。お前も後は自由行動だ好きにしてろ」


 そう言い残して他の生徒のところに向かう木下先生。


「美人だけどキツイよな、あの先生」


「まったくだ、俺としては美人で優しい先生が良かったな」


「俺もだよ。それより剣斗がもう『漢字』が使えたなんてな、使えるんなら使えるって教えてくれても良かったろ」


「スマンスマン、言うタイミングが見つからなくてな」


「まぁいいや、とりあえず今日の課題も終わったんだし座ろうぜ」


 彰がその場に座り込んだので俺もその横に座り込みそのまま雑談の時間になった。


「そういやさっきの話だと剣斗って兄がいるのか?」


「あぁいるぜ、一個上だな。まさか兄貴と木下先生が知り合いだとは思わなかったが」


「なるほど。兄に教えてもらってたから剣斗は既に『漢字』が使えたのか」


「そういうことだな」


「あれ?でも、訓練場じゃなきゃ『漢字』って使っちゃいけないんじゃなかったっけ?」


「あーそれな、それってある程度適当でいいみたいだぜ?」


「マジか、適当だな」


「だなー」


 などと中身の無い会話に花を咲かせていると不意に声が掛けられた。


「あなた達も終わったの?」


 俺達が声の主の方を見ると、そこには黒髪のポニーテールの少女がいた。学校指定のジャージを着ているので同学年だろうか。と良く見てみるとどことなく見覚えがあるので同じクラスの女子だろう。


「おう」


「そうだぜ」


「私もここ座るわよ」


 などと言いながらこちらの返事を待たずに座ってくる。


「私は竜胆桐華よ、よろしくね」


「俺は鳥居彰、よろしくな」


「よろしく、藤堂剣斗だ」


 互いに軽く自己紹介をしてから、竜胆が話し始めた。


「てっきり私が一番だと思ってたのに、あなた達の方が早かったなんてね」


「そうなのか?」


「そうらしいぜ」


 確かに俺達は早くに『漢字』が使えるようになって合格を貰ったがまさか一番だったとは。


「それで、私よりも早く終わった人がどんな人か気になって見に来たのよ」


「なるほど」


「とは言っても俺はこの前に兄貴に教えてもらってたからであって、純粋に使えるようになったのが早かったのは彰の方だぞ」


 そもそも前世も含めれば俺は二十年以上前から使えた事になるんだし。


「別にそれでもいいんじゃない?私も似たようなもんだし」


 話しぶりからすると竜胆も親族や知り合いに『漢字保有者』がいるようだ。


「それでね、私の『漢字』は『剣』なんだ。二人は?」


「俺は『傀』で」


「俺が『獣』だな」


「やっぱりさっき見たとおりの『漢字』だったのね」


竜胆は確認するように呟くと一呼吸の間を置いてから口を開いた。


「ねぇ、私達でパーティ組まない?」


「パーティ?」


「パーティってのは三人以上で組めるチームみたいなもんらしいぞ。そんでパーティを組んでいると実技や実習はそのメンバーで受ける事ができるらしいぞ」


 兄貴から聞きかじった事をそのまま彰に教える。


「良く知ってるわね」


「兄貴から聞いたからな」


「それで、どう?」

 

 竜胆からの提案にどうしたものかと思い、ふと彰はどうなのかと見てみる。彰も悩んでいるようだが、俺とは違って迷っているというよりは判断が付かない、という顔だ。


 「とりあえず聞かせて欲しいんだけど、何で俺達なんだ?他にもいるだろ」


 俺は回りで既に今日の課題が終わった連中やまだ『漢字』を出すのに必死な連中を見回す。


「藤堂は既にある程度『漢字』を使えるっていうのもあるけど一番は藤堂の『漢字』の『傀』ね。熟練の人形遣いは何体もの人形を同時に操れるっていうし、一人で人数以上の戦果を出せるのは人形遣いの藤堂しかいないって思ったからかな」


 随分高評価で嬉いっちゃ嬉しいんだが。


「俺はまだ『傀』が使えるようになったばかりで人形は一体しか操れないんだけど?」


 本当は二体だけど少な目に言っておく。二体同時に操るのは字力的にもまだキツいし。


「それでもいつかは出来るようになるでしょ」


 まぁ、そりゃあいつかはなぁ。


 「じゃあ俺は?」


 俺と竜胆の話を聞いてた彰も自分の理由が気になったようだ。


「鳥居は獣系の『漢字』の中でも最も汎用性が高い『獣』だからかな。『虎』の方が力は強いし『狼』の方が速さは上だから『獣』は器用貧乏って言う人もいるけどそれはあらゆる状況に対応できる裏返しだしね」


「そ、そうなのか」


 彰は自分の『漢字』の特性をそこまで詳しく知らなかったのか、自分よりも自分の特性を知っている竜胆からまじめに話を聞いていた。


 なるほど、『漢字』の知識もあるしそれを冷静に分析もできるというわけか。


「理由は分かったが、別に強さとかでメンバーを固めなくても良くないか?中の良い友達同士でパーティを組んでもいいんだしさ」


 俺がそう言うと竜胆は嫌そうな顔をして口を開いた。


「嫌よ、私は強くなりたいの。それに友達と遊ぶだけならパーティ組む必要ないじゃない。後は奨学金の額も成績によって変わるからパーティ組むならできるだけ強いメンバーを誘うのは当然でしょ?」


 なるほど上昇志向ってことか。


 あぁ、そういえば前世で俺と同時期に『漢字』に目覚めたヤツが一同に集められたときに同じような事を言ったやつがいたなぁ。


「それならいいぜ、竜胆。これからよろしくな」


「あら?本当にいいの?」


 俺が竜胆の話に乗ると竜胆は意外そうな顔をした。


「なんでだよ」


「だって、さっきの話だと仲の良い友達でパーティ組みたかったんじゃないの?」


「それも確かにありだと思ったけどさ、こうして誘ってくれんならこういうのも面白いかなって。それに彰が入ってくれれば仲の良い友達でパーティ組めるしな」


 後半を彰の方を見ながら言う。


「確かにパーティの話を竜胆から聞いた時はチラッと剣斗とパーティ組むのもアリかなとか思ったしな。俺も入るぜ、よろしくな」


「なら決定ね、よろしく。私の事は桐華でいいわよ、パーティ組むんだし」


「なら俺も剣斗で」


「じゃあ俺も彰でいいぞ」


 こうして俺と彰と桐華は三人でパーティを組んだのであった。



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