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六話 兄貴からの贈り物と入学式。

仕事が忙しくて一週間以内に更新できませんでした。

ホントにすみませんでした。



 それから数日、入学式の前日までは好意で兄貴達の練習に参加させてもらって隅でひたすら練習したり、兄貴達が休憩中の時には兄貴と戦って訓練した。そんな数日を過ごしていたので少しは強くなったんじゃなかろうかと思う。


「ふぅ、食った食った」


 夕食を終え、食堂から帰って一息つくとスマフォが鳴った。スマフォのディスプレイを見てみると兄貴からSNSを使ったメッセージが着ていた。


「ん?兄貴からか。なになに...」


『ちょいと話があるから談話室に集合な』


『いつ?』


『今すぐ』


 あいよ、と簡潔に返信すると部屋を出て談話室に向かう。


 談話室は食堂や大浴場がある男子棟と女子棟の間の中央棟の一角にある。男子棟に女子が入るのは自由だが女子棟には男子が入ることが出来ないので、両者を交えた話し合いをしたい場合は食堂か談話室を使うしかないわけだ。


 俺が談話室に入りると、いくつもあるソファーやテーブルの中から兄貴がいる場所を探す。


「おーい!海斗!こっちだ!」


 適当に探し回っていると兄貴が俺を見つけたようで俺の名前が呼ばれた。声がした方向を向くと兄貴の他にも幸一、ナッシュ、エリアーヌ、千草が揃っていた。


「全員揃ってどうしたんですか?」


 俺が空いているソファーに適当に座ると兄貴が口を開いた。


「いや、な。ホントは明日渡そうと思ったんだが、俺達明日の朝から出かけなきゃいけなくなったからさ。今日中に渡しとこうと思ってな」


「何を?ってか、兄貴明日からどこ行くんだ?」


「ちょいと長期実習でフランスまでな」


「何故にフランス?」


「今ちょっとアッチは騒がしいみたいだから、長期実習という名の後方支援ね」


 エリアーヌの補足でやっと分かった。


 そういうことか。


 確かこの前ニュースでフランスの西側の海岸付近に超大型の妖魔、通称『クラーケン』が出現してて住民の避難やらフランスやスペインの『漢字保有者』が集まっての迎撃やらで相当混乱していると報道していた。それで人手が足りなくなって他国の学生である兄貴達まで後方支援とはいえ駆り出されることになったのか。学生まで動員されるって事はプロの『漢字保有者』も相当な人数が駆り出されてるなこれは。


「妖魔が相手なんて大丈夫なのか?兄貴」


「大丈夫だって後方支援だし、それに俺達小型の妖魔相手なら何体も倒したことあるしな」


「そういうことだ。だから心配するな」

 なるほど、兄貴はもう妖魔と戦ったことがあるのか。なら、大丈夫か。戦いでの一番の敵は恐怖だからな。対峙した時にパニックにさえならなければどうにかなるし。


「そっか、頑張れよ兄貴」


「おう、後方支援でも戦う機会さえあれば活躍してやるよ」


「あなた達って仲のいい兄弟よねぇ」


「「そうでもないですよ(ぞ)」」


「ふふふ、やっぱり仲のいい兄弟ね」


「っく、それでだな剣斗。これやるよ」


「お、何々?何くれるの?」


何十枚か束になった長方形の紙を兄貴から渡される。


「これは?」


「学園周辺にある練習場すべての五百円分の割引券だ」


「おぉ!」


 これは十分ありがたいな。少しでも安く外の練習場が使えるのはいいことだ。


「ちなみに学園から歩いて二十分ほどのところにボロい練習場があるんだが、そこは三時間五百円だ」


「つまり?」


「この割引券を使えばタダになるのだ」


 ニヤリと汚く笑う兄貴。


「汚い、流石兄貴汚い」


「褒めるなよ」


その後も俺達は消灯時間ギリギリまで話し込んでいた。






―――――






 翌日、朝は兄貴達と一緒に朝食を取り自室に戻ってから見剣学園に行く準備をする。といっても入学式は九時からなのでのんびりしながらだが。


 兄貴達は朝早くから学校に用があるらしく朝食を取ったら早々に学校へ行ってしまった。


 パソコンでブラウジングをして暇を潰した後部屋の外に出る。


 ここは一年生部屋がある階なので俺以外にも制服であるブレザーに着られている生徒が廊下の外に出ていた。初々しくもどこか緊張した面持ちの少年達の流れに沿って俺も学校へ向かう。


 でも、ちょっと生徒が少ない気がするな、気のせいかな。


 人の流れに乗って歩いてるだけなので特に何も考えずに入学式を行う体育館まで到着したので、そのまま教師の案内に従ってパイプイスが席に腰を深く落ちるけるように座った。






―――――






 長かった入学式も半分は居眠りして、もう半分は人形の運用方法を考えながら流していたらあっという間に終わった。最後の連絡案内だけはしっかりと聞いて案内に従う。


 入学式を終えた新入生達の流れに乗りつつ俺も外へ出る。そのまま更に流れに乗りつつ掲示板に大きく張り出されたクラス分けの紙を見つけて、自分のクラスを探す。


 一組の頭から探していき、人混みに耐えつつもようやく二組のクラス表の中で自分の名前を見つけたので、早速二組へ向かうと既にクラスは半分ぐらい埋まっていた。


 緊張しているせいか学校特有の騒がしさは見られず椅子を引く音やスクールバッグから何かを出す音だけが教室内に響いている。黒板には生徒の席順が張られており、五十音順だったので俺の席は中央列やや後方となった。


 自分の席に座って一息ついたところで俺の後ろに既に座っていた男子生徒が俺に話しかけてきた。


「よっ、俺は鳥居彰ってんだ。よろしくな」


 鳥居彰と名乗った男子生徒は入学式が終わったばかりだというのに既にネクタイを緩めワイシャツの一番上のボタンを空けてリラックスした様子で座っていた。髪こそ染めてないが伸ばした髪や着崩した制服からはどことなく軽薄そうな印象を受ける。


「俺は藤堂剣斗だ。よろしくな」


互いに軽く自己紹介すると、早速鳥居が話題を振ってきた。


「そういや藤堂は何の『漢字』なんだ?」


「俺の『漢字』は『傀』だな。後、剣斗で良いぞ」


「かい?それはどういう字なんだ剣斗」


「傀儡のカイだな。そっちは何の『漢字』なんだ?」


 スマフォのメモアプリで漢字を打って教えてやる。


「あぁ、この漢字か。俺のは『獣』だ。俺も彰でいいぞ」


「へぇ、彰は『獣』か。字面だけ見ると彰の方がかっこよさそうだよな」


「そんなもんかねぇ」


 ガラガラッ。


「よーし、全員席に着け!って着いてるな」


 教室の引き戸を開けて入ってきた人物のおかげで俺達の話は一旦中止された。


「私は今日から一年二組を担当することになった木下心だ。担当教科は数学と基礎実技と近接実技だ。私も

『漢字保有者』だから何か質問や相談があったら言うといい出来る限り相談になろう。最後に私の下の名前を呼んだやつは地獄を見せるから、死にたい奴以外呼ばないように。以上。質問があるやつは挙手しろ」


 教室に入って早々に自己紹介をした木下心先生は教室全体をぐるりと見回した。木下心先生は年齢は二十代後半から三十代前半で紺のタイトなスーツに身を包んでいて髪をバレッタで後ろに纏めている。真面目そうにキリッとした顔がデキる女上司という言葉がピッタリだろう。


「質問が無いなら打ち切るぞ。次は自己紹介だ出席番号順で一番からだ。後、名前と自分の『漢字』だけは絶対自己紹介に入れてくれ」


 誰も質問しなかったため話がポンポン進んでいく。出席番号の一番がしょっぱなということで少々手間取りはしたが順調に自己紹介が進んでいき、ついには俺の番になった。


「藤堂剣斗です。東京都出身で『漢字』は『傀』です。一年間よろしくお願いします」


 ウケを狙うか迷ったが、ウケなくて黒歴史になってはいやなので無難に普通な自己紹介にまとめる。俺の次の彰も無難に自己紹介を終わらせる。


 その後は特に何も無く他人の自己紹介を聞くだけだった。


 自己紹介が終わった後は校則やら学外施設の利用法や一覧が書かれた冊子を貰ったり、授業に必要な教科書や運動靴、体操服などが順次配られる。一度にこんなに沢山配られても持ち帰れるわけ無いのでとりあえずは教室後ろにあるロッカーに放置かなと考えつつも次々に色々な物が配られていくのを眺める。


 最後に配られたのは学生証だった。


 どうやらこれは学生証として使う以外にも機能があるらしく、訓練室や工作室に入るときなどに、この学生証をICカードとして使うらしい。他にも学内や学校周辺で使える電子マネーの役割もあるようだ。


 何故学生証に電子マネーの機能があるのかと言えば。


 そもそも御剣学園は妖魔と戦うために『漢字刻印』を持った少年少女を集めて訓練するのが目的の教育施設だ。現在の日本国憲法では『漢字保有者』はよほどの事が無い限り『漢字刻印』が発現した時点で通うことが義務付けられている。


 本来ならば人道的に決してありえないことだが、それを覆してしまうほど妖魔は危険だった。妖魔が出現してから未だ二十年ほどなのに対し滅んだ国は五十を上回るほどなのだ。


 次は我が身と思えば日本の政治家特有の思い腰もすぐに上がる。人権を盾に反対した人も同時は相当な人数がいたそうだが、切迫した世界情勢に押されてしかたなく認められたのだ。


 十五年前は『漢字刻印』が発現すると半ば強制的に徴収され多少の訓練を施しただけですぐさま戦闘に送り込まれた当時の事を思えば、三年間とはいえ訓練する余裕がある今は相当に改善されたと思うのだが。その当時の現状を知らない人からは徴兵制度だとか色々思われても仕方が無いのだろう。


 そして政府が半ば強制的に集めたのだからという理由で御剣学園に通う生徒の授業料を含めたすべての学費は奨学金で賄われる事になっていた。それに加え生徒には生活費として月に幾らかの金銭も奨学金扱いで学生証経由で送金されることになっている。それは親が経済的な負担を理由に断れなくするのを封じるのと、国家の安全のためにとはいえ無理やり徴兵まがいの事をしてしまった国の罪悪感からでた謝罪だった。


 その辺の理由からこの学生証が電子マネーとして使えるんだよな。と、手に持ったカードを弄びながら考える。


 ちなみに学生証に振り込まれる金額は成績によって変動したり、妖魔を倒すと増えたりするらしい。兄貴が金に余裕があったのは小型の妖魔を何体も倒しているからなのかもしれないな。






―――――






 昼過ぎには本日のHRも終わり、そのまま解散になると後ろの席の彰が話しかけてきた。


「剣斗ーいっしょに寮まで帰ろうぜー」


「あぁいいぜ。」


 野郎二人連れ立って学校を出ると、彰が話しを振ってきた。


「剣斗は寮までの道分かるのか?」


「分かるぜ、寮に入ったのは数日前だからな」


「そいつはよかった。俺は今日から寮に入るからさ、実はまだ道も良くわからないんだよ」


「あいよ、まかせとけ」


「頼むぜ。後、何か必要な物ってあるか?あったら教えてくれよ」


「えーっとな。部屋にある家具によっても色々違うんだけど、俺のところはケトルと小さい冷蔵庫があった

からお茶、紅茶、コーヒーに麦茶とか買ったな。後は自分のコップとか」


「ん?部屋によって家具が違うのか?」


「聞いた話だが違うらしいぞ、前その人が使ってた家具とか家電は要らなかったら次に使う人が使えるように置いていくらしい」


「へぇ、なるほどねぇ。剣斗の部屋はどんな家具があったんだ?」


「たぶん、机と本棚とベッドはすべての部屋共通として、他にはケトルとパソコンかな」


「パソコンまであるのか!俺の部屋は何があるんだろうな」


「それは見てからのお楽しみだろ」


 その後も俺と彰は寮生活の話や地元の話で盛り上がったのであった。






―――――






 寮までたどり着いた俺達に待っていたのは地獄であった。寮の入り口を見ると入寮手続きを待つ新入生の行列で溢れていた。各所には列整理をするために駆り出された二年の生徒もいる。


「彰、どうやらお前とはここでお別れのようだな」


 流石にこいつの入寮手続きまでは一緒にいれない、こんな行列を待っていたら昼飯を食べる時間が遅れてしまうからだ。それに俺は今腹が減っているし。


「そんなこというなよ剣斗。俺達親友じゃないか」


「残念、俺達が親友に至るにはもうしばらくの時間が必要なようだ。じゃ、先に部屋に戻ってるから手続き終わったら電話してくれよ。飯食べに行こうぜ」


「裏切り者め...」


 ローテンションで入寮手続きの列に並ぶ彰を横目に俺は寮の中に入っていく。並んでいる列を見た限り、相当な人数が今日入寮するようだ。


 今朝登校する菜にちょっと新入生が少ないかなって思ったのはやっぱり俺の間違いじゃなかったのか。現に俺の部屋の両隣も今朝までは誰もいなかったし。


 部屋に戻ってラフな服装に着替えると今日貰った校則や学外施設の利用の手引きが書いてある小冊子を目に通す。練習場の使い方を読んだりして時間をつぶしているとスマフォが鳴った。


 彰からだ。


『はい、もしもしー』


『剣斗ー、こっちはやっと終わったぜ。疲れたぜー』


 心底疲れた声で言う彰。分かる、分かるよその気持ち。


 俺も夏と冬のビックサイトで行われる催しは楽しいけど並び疲れるからな。


『はい、お疲れさん。とりあえず昼飯食べに行くか、コンビニで買ってくるかだが。希望ある?』


『腹が減ったから、もうどっちでもいいよ』


『じゃあ歩きながら探すか』


『だな。ロビー集合な』


『おう』


 と、電話を切ってから俺は財布を持って部屋を出た。






―――――






 この前兄貴逹と一緒に行ったファミレスまで行ったのだが、混んでいたので諦めてコンビニで飯を買って寮まで帰ってきた俺と彰は今俺の部屋にいた。


「寮生活ってどうなるかと思ったけど、案外何とかなりそうだよな」


「確かにな」


 俺は同意しながら買ってきたカップラーメンのマ王の麺固さを確かめつつ塩焼き肉弁当を食べる。


「そういえば『漢字』の授業っていつからやるんだろうな。実は俺、そればっかが楽しみでさ」


 彰はハンバーグ弁当の付け合せのスパゲッティを咀嚼したから口を開いた。


「分かる分かる。せっかく『漢字保有者』になったんだから有効活用したいよな」


 今の『漢字』の訓練内容が昔と比べてどうなっているのか気になるってのもあるし。


 焼肉弁当を一旦テーブルに置いた俺はマ王に粉末スープと液体スープを入れてかき混ぜる。


「サブカルチャー大国日本で生まれた俺としてはこーゆーのに昔から憧れてたからな」


 ハンバーグ弁当のハンバーグを食べた彰は買ってきたホットスナックのスパイシーなチキンをおかずに余ったご飯を食べはじめる。


「分かるわ。男として一度は夢に見るよな」


「お。分かってくれるか?」


「分かるよ。だって俺もだし」


 前世からオタクだったからな、この手の話は大好物なのだ。俺がニヤリと笑うと彰も釣られて笑った。


「話が分かるな親友」


「お前もな親友」


 気づけば俺と彰はガッチリと握手を交わしていた。その瞬間俺達は何かが通じ合ったのだった。



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