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十一話 パーティの誘いと思い出した昔の会話。

遅れに遅れて申し訳ないです。

ちなみに今月も不定期更新になりそうです。

 寮の食堂が一日で一番混雑するときはいつだろうか、あと寮の食堂のおばちゃんに尋ねると皆口を揃えてこう答える。


 夕食時、と。


 授業や放課後の自主練で腹を空かせた生徒達で溢れかえる、この夕食時の食堂は一種の戦場であるとすら言える。混雑する行列。すぐに無くなる料理の数々。そして席の取り合い。


 学生達にとっても、調理のおばちゃん達にとってもそこは戦場だ。そんな戦場を乗り切った俺達は食事を取りながらそのまま話し込んでいた。


「それで桐華、目ぼしいパーティ候補はいたか?」


「見つからないわね。まだ全員の力量を把握したわけじゃないからなんとも言えないけどね。それよりそっちはどうなのよ、見つかった?」


 彰は自分がパーティ候補を見つけていないので我関せずといった感じで無言で皿に大量に盛られたカルボナーラを口に詰め込んでいた。


「何人か見つけたけど、どれも前衛だな」


「前衛かぁ。当面は後衛を探すつもりだったけど、まぁ前衛でもいいか、誰なの?」


「ウチのクラスにいるイギリスからの留学生のアデルってやつだ」


 御剣学園は留学生を沢山受け入れていて、ウチのクラスには海外からの留学生が四人いるのだ。合同で実技の授業をしたときに一組にも何人か留学生がいるのを見たから、やはりどこのクラスにも何人か留学生はいるのだろう。


「アデル・ホーガンか。は確か主漢字は『槍』ね。留学生ってくらいだからある程度『漢字』は使えるだろうから、前衛だけど悪くないかもね」


 名前聞いただけで持ってる『漢字』まで分かるって事はもしかしてクラス全員の『漢字』覚えているのか?


「なんで留学生だとある程度『漢字』が使えるんだ?」


 カルボナーラを食べ終え、春巻きを頬張っていた彰が疑問に思った事を口に出してくる。


「それはね、見剱学園に留学してくる条件が、ある程度『漢字』を使える事なのよ」


「まぁ、留学してくる以上当り前っちゃ当たり前か」


 再度春巻きを食べ始める彰を横目に俺は桐華に話しかけた。


「それで桐華、アデルをどう思う?」


「悪くは無いんじゃないかしら?二人後衛を入れるとしたら前衛も必要になってくるしね」


「彰は?」


「いいと思うぞ。それにほら、ちょうど来たぞ」


 彰が顔を向ける方を視ると、アデルがこちらに歩いてきているところだった。


 アデルは長身で肩まで栗毛を伸ばしている甘いフェイスのイケメンだ。こういったタイプを美少年というのだろう。周りで食事をしている生徒達はラフな部屋着だというのにアデルだけは制服をカッチリ着こなしている。またそれが似合っているので、男としてはちょっと納得できない。


 そんなアデルは夕食時の食堂だというのに料理を盛るお盆すら持たずに歩いていた。トイレから帰ってきたのかな、などどうでもいいこと考えつつ横目で見ていると、ちょうど俺達が座っているテーブルの目の前で立ち止まる。更に具体的に言うならば俺の目の前だ。


「君が藤堂剣斗君だね。僕はアデル・ホーガン。同じクラスだけど話すのは今日が始めてだったね、よろしくね」


 そう言ってアデルは紳士的な所作で俺に握手を求めてきた。


「お、おう、よろしく」


 話そうと思っていた相手から直接話しかけられたのは少し驚いたがこれもいい機会だ、タイミングを見て聞いてみるか。


 俺が握手に応じると、ニッコリと笑いながら口を開いた。


「それで今日は君に話があるんだ、少し時間を貰えるかい?」


 俺もこれ幸いとばかりに頷く。


「ちょうどいい、俺も話しがあったんだ」


「おぉ、奇遇だね。それじゃ先に僕の話をさせてもらうよ」


 そう言ってアデルはテーブルの開いている席の内、俺の対面に座る。俺も食事が盛られている皿をお盆ごと脇にどかしつつ話を聞く体勢を取った。


「さて、もったいぶった言い方は苦手なので単刀直入に言わしてもらおう。僕のパーティ入らないかい?」


 ガタッ。


 どんな話なのか気になって横目でチラチラ見ていた桐華と話に若干の気を割きつつサーモンのマリネを食べていた彰もこれには驚いたらしく、椅子やテーブルから音を立てていた。


 これは驚いた、まさか俺の勧誘とはな。


 アデルは横目で二人をチラリと見つつも口を開く。


「まず返答の前に話を聞いてくれ。僕のパーティは今僕を含めて五人いる。内訳は前衛が三人で後衛が二人だね。この中で君には後衛をやってもらいたい。具体的には人形で後衛の護衛と前衛の支援を臨機応変にやってもらう形かな。それで、どうだい?」


「ひ―――」


 一つ質問をいいだろうか、と言おうしたら横から口を挟まれた。


「人のパーティメンバーを盗ろうなんていい度胸じゃない」


 口を挟んできたのは桐華だ。どうやら自分のパーティメンバーが横で勧誘されてるのをただ見てるのは我慢ならなかったらしい。その証拠に目尻がつりあがっている。


「君には関係が無い事だろ?僕は藤堂君に話しているんであって君には話してないし、そもそも藤堂君がどのパーティに入ろうが藤堂君の自由じゃないか」


 桐華の口撃をサラッとかわすとアデルは俺に向き直った。


「なんですってっ!」


 今度こそ怒りが頂点まで来たのか、いきなり立ち上がって吠える桐華。その様子に周囲から注目が集まるが、その光景に慣れているのかほとんどの学生の視線はすぐに逸れた。まだ少し残っている視線は見た目からたぶん一年生のなのだろう。


 彰も先ほどのアデルの発言が気に障ったのか目が少し険しくなった。


「だから僕は藤堂君に話しているんであって君じゃないんだ、すこし黙っていてくれないかな」


 この発言に桐華が更に怒りそうになるが、流石にこれ以上怒ると周りの迷惑になりそうなので止める。


「一旦落ち着けって桐華。それで、一つ質問があるんだけどいいか?」


 俺は桐華を落ち着けてからアデルへ向き直る。


「なんでも聞いてくれ」


「俺を誘った理由を教えてくれないか?」


 アデルがまずグーに握った拳から人差し指を伸ばす。


「まず一つ目が、人形系の『漢字』の持ち主だったからだね。人形は性能も同時に操れる数も術者の力量に左右されるけど、操れれば人数以上の戦力になるからね」


 なるほど、俺の『傀』が目当てだったわけか。でも、どんな『漢字』だろうとも極めれば一人二役とか三役じゃないぐらいの戦力になるんだけど、今の考え方とは違うのだろうか。


 そして中指を伸ばしてからアデルは口を開いた。


「そして二つ目が、君が既に人間程の大きさの人形を出せるぐらいの力量と字力があるからだね」


 どういうことだ?、と疑問に思いつつもアデルの話に耳を傾ける。


「僕の知り合いに人形遣いがいるんだけどね。彼が人間大の大きさの人形を作り出せるようになったのは『漢字保有者』として訓練し始めてから一年後だったそうだよ。それも毎日限界まで字力を使って字力を出来る限り増やそうとした一年間だったらしい。それを思えば十五歳で人間大の大きさの人形を作れるという事は既に何年か字力を増やす訓練をしたか、初めから膨大な字力を持っていた事になるんだ」


 なるほど、人間大の人形を作るのに余程沢山の字力が必要になるのか。俺は前世から字力を引き継いでいたから難なく作れたわけか。


「だから僕は、訓練の成果によって作れるようになったのならばその諦めない努力を、初めから膨大な字力をもっていたのならばその才能を買って君を僕のパーティに誘っているんだ」


 そういうことか。子供の様に目をキラキラと輝かせているアデルには悪いけど、俺は諦めないで訓練したわけでも、才能があったわけでもないんだよな。あったのは前世の引継ぎだけ、ただそれだけだ。


 まぁ前世はそれなりに努力はしたけどさ、それを今世に持ち込むのもちょっとどうなのって思うし。予想以上に俺を買ってくれているようだけど、初めから答えは決まっている。


「申し訳ないが、断らせてもらう」


 その一言で今度はアデルの表情が崩れ、桐華が勝ち誇ったような表情になった。


「何故か聞いてもいいかい?」


 崩れた表情を取り繕ってからアデルが聞いてきた。


「そうだな。強いて言うなら、こっちの方が楽しそう。だからかな」


 俺の理由を聞いたアデルは再度表情が崩れ、愕然とした顔になった。今度は崩れた表情を取り繕わずにそのまま口を開いた。


「ほ、本当にそんな理由なのかい?」


「あぁ、俺は高校生活を楽しみに来たんだ。なら俺が一番楽しいって思う所にいるのは当たり前だろ?」


「そうか......」


 アデルは信じられない、と言った顔で足早にこの場を去っていった。


 それと入れ替わりに桐華が口を開いた。


「信じてたわよっ、剣斗!」


 大喜びの桐華とは対照的に彰はニヤッと笑うだけだったが。この時、俺は昔ある時仲間と話した会話を思い出していた。






―――――






『俺さ、思ったんだよ。漢字に目覚めたからって集められた中学生とか高校生を見てさ、何であんな子供まで集められてるんだろって』


『なんでって、そりゃあ戦力が足りないからだろ。俺だってあんな子供を戦場に駆り出すのは嫌だけどさ、あんな子供の力すら借りないとまともに戦力が揃わないんだからさ』


『そう言われるとそうなんだけどな。俺はさ、今までニュースとかで中東とかの少年兵の問題を見てて、正直な話日本に生まれて良かったって思ってたんだよ。日本じゃ子供を兵士にするなんて事が無いからな。そりゃ中東には中東の問題があるし、言葉だけじゃ解決できなくなってるからこそ、武力で解決しようとしてるんだしさ。それでも子供を兵士に仕立て上げて自分等の代わりにドンパチさせようってのはおかしいと思うんだよ』


『確かになぁ。お互いに主義主張が対立してるんならそいつらが勝手に戦争してればいいだけで、意思とか主義を持たない子供に銃を持たせて兵士にするのは間違ってるよな』


『だろ?だからこそ思うんだけどさ、その中東と今の日本どこが違うと思う?』


『......そりゃ、背景とか原因が違うだろ』


『そりゃあ背景とか原因は違うけど、結局やってる事は同じだろ?大人だけじゃ戦力が足りないから、国のためだってお題目掲げて無理やり子供まで集めてさ、少し訓練させて戦場に送り込む。どこが中東と違うんだよ、どこも違わないだろ?』


『まぁ、そう言われるとな。でも、中学生とかは補助金名目で親を経由したり、高校生ならアルバイトってことにして働いた分を報酬として国がちゃんと払ってるだろ』


『......お前も聞いた事があるだろ?その報酬がかなり多いことからなんて呼ばれているか』


『遺族年金の前払い、か』


『そういうことだ。だからさ、俺決めたんだ。化物共は殲滅する事はできない、なら、化物共との戦いでの戦力不足が無くなって、大人だけで戦場が維持できる程の小康状態に持ち込んだらさ。漢字を持った子供達が通える学校を作るんだ。勿論化物と戦う訓練もしてもらうけど、それよりも楽しい学校生活を過ごせるような学校をな!』


『お!いいなそれ!』


『だろ?もし作るときになったらさ、お前も協力してくれよ』


『まかせろよ!俺も出来る範囲の事はやってやるよ』




 俺はあの時入学案内のパンフレットを見て気づいたんだ。お前はあの時俺に語った夢を叶えたんだな。


 俺はお前の願いどおりこの学校での三年間を楽しく過ごしてやるぜ。それが、この学校に通う者としての義務みたいなもんだろ?


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