落葉を並べて
"…………nnn9#nmvmaよmfew?……jgt25umd2なgJaa;……… "
情報集積回路に重大な障害
"…………step3 enter→ error error error…… jndmnnnn2なはtjndb>at?$……… "
自己修復プログラム動作不能
"…………2/100%…… set fgnw@dー 1… 1… 1… 1… "
バックアップバッテリー供給不良
コンポストの内容物を取り出して… ダストハブラインに…
何時から此処にいるのだろうか…
もう数年前からの様な気もするし、ほんの数瞬前の様な気もする…
記憶を司るメモリーに甚大な障害があるとアラート
それが原因か時間的感覚が掴めない
それだけではない
光学サーチが出来ない 熱感知も出来ない メンテナンスチップがメーカーサポートをしつこく要求している事だけが分かる
「………ありがとう…… MIU……… 」
「!?」
次の瞬間、補助動力電池が働いた 私の生体センサーが電圧を感知する…
「………お帰りなさいませ……… 坊っちゃま……… 」
格子硝子から射し込む眩し光…
それが多分、私が初めて集積した外部情報…
MIUー72ー1214/2027…
MIU、それが私のプロダクトネーム
72、それが私のロットナンバー
下の細かい数字は、一緒に生まれた姉妹の数と、自分の産まれた順番を表している
マスター、奥様、坊っちゃま…
私の仕える立花家は、マニュアルにもある様な、典型的な中流家庭でございました
「ディナープレパレーション… レリーズ 」
私の指示に電子調理器機達が元気良く答える
「凄~~い!」
坊っちゃまはとても興奮されていました
「凄い時代になったわね~ 」
奥様は何度も頷き、目を細めてらっしゃいました
「ははっ それなりの値段だからな~ 」
旦那様は何故か御自慢気でらっしゃいましたね
「お待たせしました… お召し上がり下さい… 」
私のプレゼンしたディナーがお気に召されるか、注視しておりました
緊張しているの? 奥様のそんなお言葉を覚えております
ユーザー様のライフカラーと、わたくしのプログラムカラーが一致するかどうかは、とても大事な項目でございます
「おっ 美味し~!!」
坊っちゃまの満足気な笑顔で、わたくしはこのまま立花家へのご奉公が出来ると確信致しました
「ランドリーレーション、102ーB… スウィーピングレーション、ルンバⅢ… 」
お屋敷の使用家電機はお世辞にも新型とは呼べず、些か扱いには苦慮しておりました
酷い者では基礎言語でのやり取りさえ不可能な者もおりました
それでもご家族のお役に立てる様に最善のプログラムを立案し、優雅でゆとりある暮らしをご提供してきたと自負しております
奥様がお屋敷に戻られなくなりましたのは、お仕えしてから4年と187日後の事と記憶しております
御理由を推測する機能はございませんが、その以前から旦那様とのご意見の相違が御有りだったと、この記憶にはタグ付けされております
ご家庭に於ける坊っちゃまの発言数は、その日を境に著しく減少されました
更には旦那様が御公務の都合でお屋敷を御開けになる事が増え、坊っちゃまはいよいよに寡黙なられました
お食事を採られぬ事も御有りで、生命体としての成長期に在られた坊っちゃまの御発育を案じておりました
奥様の御離館… 坊っちゃまの生活環境の悪化…
わたくしは自分の使命が果たせぬ事に自責の念を強く感じ、プログラムの再構築の必要を感じておりました
「……泣いているの……? 」
坊っちゃまはその様な質問をなさいました
坊っちゃまは、通常よりやや高めの体温を保持した御手で、私の光学センサーを何度も御拭いになりました
その頃から旦那様の帰られぬ夜は、わたくしの大腿部を枕代わりになされてお休みになる事が度々ありましたね
旦那様が御亡くなりになられたのは、わたくしがお仕えしてから18年と22日の事でした
わたくしには死という概念は理解出来ませんが、坊っちゃまがの発言数が更に減少する事を憂慮せずには居られませんでした
しかし旦那様のご葬儀の際に、坊っちゃまに寄り添われる女性の方を拝見し、坊っちゃまの心身を憂慮する存在が、自分以外に居た事に安堵致しました
結果的にその方が新しいお屋敷の奥様… 坊っちゃまが奥方に任命されましたのは、 とても合理的な判断だと感銘致しました
わたくしの大掛かりなアップデート、OSの更新があったのもこの頃でした
確かこの年は2回に渡って、かなり細部までプログラムの再構築、各種パーツの更新をして頂きました
お陰様で最新型の家電器機との意思の疎通が幾らか可能となりました
坊っちゃまの御子様が誕生されたのは、わたくしがお仕えしてから21年と93日、お二人目の御子様が誕生されたのは23年と225日でございましたね
最新鋭の情操知育コンピューターとの連動の為に、対応OSを搭載した、LINDAー95ー1020/2035が迎えられたのもこの年でしたね
LINDAはとても優秀で、わたくしの代わりにお屋敷の家事全般を見事に取り仕切り致しました
同シリーズの姉分として誇り高い思いでございました
この頃にはOS仕様の変更により、わたくしはお屋敷の家電器機との意思の疎通が
ほぼ不可能になっておりました
まさに絶妙のタイミングでございました
坊っちゃまの御公務が多忙になるにつれ、亡くなられた旦那様同様、お屋敷に帰られなく日々が増えました
しかし垣間見る限り、奥方様と御子様方は、坊っちゃまの様に御発言が滞る事も無く、御食欲にも変わりは無い様でした
わたくしはこの頃、お屋敷内の任務を全てLINDAに移譲し、お屋敷のお庭の片隅にある物置小屋で、唯一意思の疎通が図れる電子コンポストに、僅かに出される生ゴミとお庭の落葉を処理させる任に就いておりました
出先からお帰りになられる坊っちゃまは、何時もわたくしに声を掛けて下さいましたね
ただ間もなく、完全回収型調理器機と自立型環境管理器機の登場により、電子コンポストの役目が無くなりますと、わたくしは殆ど坊っちゃまにお目にかかる機会が得られ無くなりました
暗い物置小屋の小窓から季節の移ろいを眺めるのは、些か物足りない物がありました
恐らくあの女性方が坊っちゃまと御家族の留守を狙い、お屋敷に侵入してこなければ、わたくしは2度とそこから出る事は無かったでしょう
わたくしの型遅れのOSでもその位は分かります
これでも世に産み出された時は、人類史の奇跡と賞賛されたと記憶しております
光の反射による目視を妨げる為なのでしょう、全身にフィットした暗い色調の装束に身を包む御三方…
巷で噂の怪盗三姉妹…
私の電波回線は当の昔に仕様変更で沈黙しておりますから、その情報は恐らくLINDAから得た筈です
御三方の目的がお屋敷の財物と知って、黙って見ている訳には参りませんでした
「お待ちしておりました、ご主人様… いえ、怪盗三姉妹様… 」
わたくしは恐れながら、物置小屋の朽ち掛けた扉を破壊し、御三方の前に立ち塞がります
突然の妨害者の登場に、御三方は驚きは隠せません
リーダー格とおぼしき女性が跳躍しました
御三方は退散より、わたくしを排除する事を選んだ様です
わたくしには自己防衛プログラムがあります
ロボット三原則に明記された権利でございます
型遅れのロートルとは言え、生身の… それも女性に不覚を取るつもりはありませんでした
わたくしの光学センサーが迫り来る女性をしっかりと捉えます
「クッキングタイム! 」
敵を簡単に料理する… そんな意味なのでしょうか、わたくしの防衛プログラムは
右手首部を開口し、カウンターネットの射出を選択しました
出来れば怪我などさせたくはありません 司法機関に引き渡すのが最善です
ですが、攻撃を受け地面を転がったのはわたくしでした
お恥ずかしい事に、わたくしの右手首部… 射出部は赤茶色に錆び、蜘蛛の巣が張っていました
わたくしの認識以上に、わたくしのボディは老朽化していた様です
わたくしの無様が面白かったのでしょう
最年少と思われる女性が、笑い声を上げながら、私の頭部に高硬度の物質を叩き突けます光学センサーの1つとジャイロが破壊されました
レトロ、初見、感動、記念…
そんな事を言いながら、最年長とおぼしき女性が重量のある攻撃をしてきます
マイターギアの何個かが破損し、立ち上がる事が出来ません
好機であるとお仲間に宣言しながら、眼球を血走らせたリーダー格の女性が、鍛え上げられた蹴りをわたくしのボディに炸裂させます
何かの配線がショートし、同時にアラート発令
自己修復プログラムが自動構築を始めました
最後… に…? 三姉妹は私の頭部に庭石を1つ1つを叩き突け始めました
4回目の打撃でわたくしのOSは緊急避難的シャットダウンを決行しました
次に意識が立ち上がった時、屋敷から走る閃光を見ました
そして2階の窓から吹き飛ばされる三姉妹の姿…
そうでした
お屋敷には優秀な妹分が居るのでした
忘れていた訳ではありません
何故でしょう?
初めから彼女に任せれば、難なく侵入者を撃退出来たのに…
これでは物置小屋の扉を壊した言い訳が
立ちません
つくづく自分の不甲斐なさに気が滅入ります
私の回路とセンサーはずっと前から壊れていたのかも知れません
否、壊れていたのでしょう… 現に今… 私は電熱回路のショートを…
自分のボディが焼けるのを… 補助動力電池の作動と…
坊っちゃま… maeem2ぜtu… でしょう… 身体が痛い…
痛みなど…… jma>-55gi… 筈… なのに……
坊っちゃま…
わたくしは……
まだ…… まだ…… お役に……
わたくしはまだ……
坊っちゃまの…… お側に……
死に…… たく………
男はあちこち焦げて、内部の構造も露になったそれをゆっくりと抱き抱えた
その時、それの潰れた光学センサーの痕から何かの雫が溢れた
男は無意識に其を空いた手で拭う
男にはそれが涙に見えたのだ
ロボットが泣く筈は無い… 男は気を取り直すと、その機械の骸を門の外、産廃置き場に放置した
明日の9時には業者が、ありふれた 産業廃棄物の1つとして回収する事だろう…