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鬼にアイジョウ取らる  作者: カズツグ
ー破滅の終焉、創造の未来ー
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新たな生活と新たな悩み




 唯斗たちの家で暮らし始めて一ヶ月が過ぎた。

 住み始めた当初はやることがなく与えられた部屋にずっと籠っていた紫星だったが最近は紫苑の洗濯を手伝ったり、唯斗の部屋を掃除したりと充実した毎日を送っている。

 ――一つを除いては。

「に、二亜ちゃん」

「…」

 そう、問題はこの群青色の鬼だ。

 出会った次の日からなぜか一度も会話をしていない。その十日後には目も合わせていない状態だ。

 互いが意図的にというよりは二亜が一方的に避けており、理由を訊くにも、避けられているため彼女に会うことすら間々ならずいまだ理由は知る限りではない。

「ねぇ僕、君に何かした?」

「……」

 さきほどからずっとこの調子だ。

 二人は現在、平屋の外にある道場にいる。

 二亜は稽古中のため黙々と自身の剣鉈を振り、紫星はそれを邪魔しないように部屋の隅から声をかけている。けれど、いくら呼びかけても彼女から返事が返ってくることはない。

 あの日、彼女の機嫌を損ねることをしてしまったのだろうか?そう思い出来事を思い出すが思い当たる節が見つからない。

 もしかしたら性別を間違えたことに腹を立てているのかと思い唯斗に尋ねたが、彼女自身は性別に対してあまり気にしていないと言っていたのでこれではないだろう。

 ―さて、どうしたものか……。

 そう頭を(ひね)っていると、ふいに後ろから声をかけられた。

「どうした?何か考え事?」

 声の主は唯斗のようで、手に金棒を持っていることからおそらく稽古をしに来たのだろう。

「いや、ちょっとね。唯斗も稽古?」

「まあね。最近まともに動いていなかったし…。あっ二亜ちゃーん!俺と相手してー。」

 彼は部屋の中央で素振りをしている二亜を見つけると大型犬のように飛びついて行った。

 ここ一ヶ月で唯斗についていくつか分かったことがある。彼は極度の女好きだ。紫苑にデートを申し込んでいたり、人間の格好をして街に出ては人間の女性にアプローチを仕掛けたり、この間は二亜にセクハラまがいな事をして思いっきり殴られていた。

 本人は遊んでいるつもりらしいが、中には本気にしてしまう女性がいるのが問題だ。前に一度、唯斗の恋人と名乗る二人の女性が鉢合わせてしまったときは治めるのに苦労したが紫苑曰くいつものことらしい。

 確かに唯斗の容姿は悪くない。整った顔に筋の通った鼻。着物の上からでも分かるしっかりとした筋肉。トルマリンのような美しい髪。どれをとっても美青年と言えるだろう。

 そしてもう一つは、唯斗がこの周りに住んでいる鬼たちの長であることだ。一ケ月前に二亜が言っていた長とは彼女と紫苑だけでなくここ一体のことを指していたようだ。

 唯斗と外へ出ると森の至る所に鬼がいた。けれど、その鬼たちは唯斗を見るなり道を開け、頭を下げていた。長とは知っていたがまさかここまで権力のある人物だとは思わなかった。

「ねー紫星も一緒にやろー」

 そんな事を考えていたら、稽古中の唯斗から誘いの声がかかった。けれど、紫星には剣術経験が全くなく二人の鬼を相手にしたところですぐに殺されることなど目に見えていた。

 そう考えると紫星は僅かに身震いをし、誘いに断りを入れる。

「僕はいいよ」

 その時ふと何かの視線を感じた。視線を辿るとそこには二亜の姿。

 何か不満を訴えるような目をしていたが紫星には何が原因か分からない。すると二亜は、何も言わず紫星の横を過ぎ去って行く。

 後を追いかけようにも既にその姿はなかった。

 以前他の鬼に聞いた話では、二亜は鬼の中で最も動きが速いらしい。本気を出せば彼女を目で捉えることは不可能に近いと噂されている。

 そんな彼女に人間である紫星が追いつくはずもなく、追いかけるのを諦めた。

「二亜ちゃんならこの先の海岸に行ってるよ」

 唯斗の声に勢いよく振り返ると彼はなぜか酷く嬉しそうな顔をしていた。いや、どちらかというとにやけていると言った方が正しいだろう。

 だが、そんなことより先程唯斗が言った台詞に耳を傾ける。

「海岸?どうして分かるんだい?」

「六百年以上の長い付き合いだからね。彼女、何かあると必ずあの海岸に行くんだよ。『彼』との思い出が詰まっているあの海岸に」

「『彼』?」

 聞き慣れない言葉に紫星は首を傾げる。

「……丁度百年位前の話さ。当初はまだ鬼と人間の恋愛は禁止だったんだ」

「鬼と人間の恋愛?」

 紫星はその言葉に違和感を覚える。紫星が以前読んだ書物の中にあった話では鬼と人間の間に恋愛感情は生まれないと綴ってあった。それなのに恋愛禁止とは明らかに矛盾している。

「もっと昔にね、人間の女が鬼の男に恋をしたんだ。女はその鬼と恋仲になりたくて近づいていった。他の鬼達は恋愛感情を持たないことを知っていたからあまり気にしていなかったんだけど、なんと、その鬼は持たないといわれ続けていた感情を持ってしまった。そして、その鬼は人との子を産み落としてしまったんだよ」

「鬼と人の子ってどうなったの?」

「全てが中途半端な姿だったよ。牙も、証でもある角も…心もね。そこから鬼の一族はこれ以上鬼の血を汚さない為に人間との恋を禁止したんだ。恋に落ちれば死が待っている。」

 その話を聞いた紫星は胸が締め付けられるような感覚になった。

 せっかく恋心が芽生えたのに発覚してしまえばすぐに殺されてしまう。人間とは異なり彼らの(おきて)は酷く悲しいものだ。

「『彼』はそれを調べに来た人間なんだ。今はもう亡くなっているけれどね」

「…でもそれって」

「さっこれ以上は時間の無駄だ。追いかけなくていいの?まだ海岸にいると思うけど」

 紫星は目的を思い出し急いで海岸へと走り出す。

 それを見つめる唯斗はやはりどこか嬉しそうな顔をしていた。


※鬼は人間と時間の流れが違うため、外見と実年齢が異なります。

 そのため唯斗たちは若く見られがちですが実際は500歳くらいです。

 ちなみに紫星はこの時点で18歳くらいです。


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