参戦
二亜を見送った唯斗は再び視線を桔梗に向ける。
「随分、貴方方は信頼しあっているのですね」
「そりゃ、自分の娘だからね」
「おや、彼女の両親を”殺しておいて”よく娘だなんて言えたものですね?」
桔梗が余裕の笑みを浮かべるのと裏腹に、唯斗からは一瞬で笑みが消えた。
「……ホントよく調べてやがんな、犬が」
「知識は大事ですよ。時には貴方を貫く武器となる」
金属音と共に離れる二つの影。互いに背後にあった岩や木を踏み台にし、再び交戦する。けれど、スピードに関しては桔梗が一枚上手であり、唯斗の頬が微かに切れる。
「―って…。ったくお前ホントに人間かよ。鬼と互角に戦うなんて洒落になんねぇぞ」
「れっきとした人間ですよ。貴方やあの忌み子と違って…。私は、以前より弟切様から対鬼用の訓練を受けていました。身体能力は貴方よりも勝るっ!」
その瞬間、唯斗の金棒が彼の頬を掠めた。頬からは唯斗と同じように血が滴りその白い顔に赤が染まる。
「そりゃ良かったよ。てめぇみてぇな乳臭ぇガキが鬼だなんて、俺らの面目が丸潰れだからな」
その後、互いに同じ傷を負った彼らは何度も金属音を奏でさせる。だが、やはり唯斗の方が押しており少しずつ桔梗を追いつめる。
「――っ!」
木に追い込まれた桔梗は咄嗟に地面の砂を蹴り上げた。その砂は唯斗の眼にかかり堪らず眼を押さえる。その隙を見て桔梗は一気にたたみかける。
反応が遅れた唯斗は金棒で防ぐ暇がなく、ただそれを見ていることしかできない。
「これで、終わりです!」
瞬間、目の前には唯斗のよく知っている―『エメラルド』。
それを連想させるほど、輝かしい長い髪。振り向いた姿は二年前とは違う頼もしい顔。
「…紫星!」
そう呼ばれた彼は桔梗の刀を自身が所有している二本の小太刀で受け止めている。
「やぁ唯斗、随分とボロボロじゃあないか」
そう声をかける紫星だが、唯斗と変わらないパワーを抑えているのだ。実際はかなりきついはず。
唯斗は急いで体勢を立て直し、紫星と共に桔梗に応戦する。
「ははっごめんね」
二人で桔梗を外壁へと弾き飛ばすと、同時に拳を握る。
「…てか、助けるんならもっと早く来てよ。俺が二亜ちゃん助けた後、既にいたでしょ」
「あ~いや、ほら、ね?僕が行ったら邪魔かな~って」
あはは。と誤魔化す紫星。どうやら自分たちは恋仲だと思われていたようだ。それに気付いた唯斗は重いため息をつく。
「あのな~。俺はべつに二亜ちゃんを恋愛感情で見た事は一度もないんだけど。確かに可愛いけど俺の好みじゃないし、彼女は俺にとって大切な娘だよ。それに、二亜ちゃんの心はあの日からずっとジンのものだしね」
それを聞いて安心したのかほっと胸を撫で下ろす紫星。そんな姿を見て唯斗も苦笑していた。
「……まだ、僕にも」
「ん?」
強い風が吹き紫星の声がかき消されてしまう。唯斗がもう一度聞き返すと「何でもないよ」と微笑み返された。
「ていうか紫星。どこで剣術なんて覚えたの?」
先程の型を見ているととても素人には思えない。ましてや紫色の鞘の小太刀など農民以下の暮らしをしていた彼が持っているはずがない。
「ああ、それは二亜ちゃんに稽古をつけてもらっていたんだよ。この小太刀も彼女にもらったんだ」
「二亜ちゃんに?」
「めちゃくちゃ厳しかったけどね。…本気で殺されかかったし」
驚いた。二年前はあんなにギクシャクしていた二人だったのに、今では二人で稽古をするくらいの仲になっていたとは。そして何よりもあの二亜が他人に剣術を教えるとは夢にも思わないだろう。
唯斗はその事実に顔を綻ばせながらも、チクリと何かが胸に刺さったような違和感を覚えた。
「?どうかした?」
「…いや、なんでもない」
そんなやり取りをしていると先程まで外壁まで弾き飛ばされていた桔梗が立ち上がっていることに気がついた。彼は相当なダメージを受けたようで身体中がボロボロの状態だ。
「私は…まだ……負けていない!」
傷だらけの身体を無理矢理動かし刀を構えた桔梗は、さっきまでとは比べ物になら速さで紫星の背後へと回る。
「―っ!……あああぁぁぁあ!」
間一髪で急所を避けたし紫星だが、桔梗の速さに彼がついていけるはずもなく左腕に大きな傷を作る。
斬られた場所からは血飛沫が上がり紫星の目の前を真っ赤に染める。
慌てて紫星の元へ駆け寄ろうとする唯斗だが、満身創痍の彼がそれを許すはずもなく、唯斗の背中を容赦なく斬りつける。
「ぐわぁっ!」
背中を裁つように斬られ唯斗も膝をつく。
けれど、鬼特有の自然治癒のおかげで傷口はすぐに塞がった。それを確認すると唯斗はすぐさま立ち上がり桔梗に金棒を構える。
「唯斗っ!」
「……やはり本物の鬼は違いますね。凄まじい回復力だ」
そう言いながら更にスピードを増した桔梗は唯斗の死角に入る。一瞬反応した唯斗だが、直前に受けた痛みがまだ残っており耐え切れず再び地面へ膝をついてしまった。
「ですが、痛みは回復できない」
唯斗の心臓を目掛けて振るわれた刀は紫色の禍々しいオーラを纏い目標物へと迫っている。
「……言ったでしょう…知識は貴方を貫く武器となる、と」
瞬間、唯斗の目には時間が止まっているように見えた。桔梗の刀がゆっくりと自分に向かってくるのがよく分かる。それでも避けることは出来ず、先程二亜に言われた言葉を思い出した。
―いってきます。
(せっかく言ってくれたのにな……守れなくてごめんね、二亜。)
ドッ!
「唯斗!」
紫星は叫ぶも唯斗には届かず、桔梗の刀は唯斗の心臓を貫いた。
最近はテスト期間のおかげでなかなか更新できずに申し訳ないです。テストが終わり、一段落ついたらまた更新しますので温かく見守っていて下さい。




