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第2話 メア(試験体NO.100)

 

「ふ、あぁぁぁぁ何て人間の数……すごいなぁ」


 少女は王都トロンリネージュ表通りを目の前に絶句する。周りを見渡せば人、人、人間ばかり、通りには食べ物を売る露店や土産物を売る露天、はたまた今や手に入れる事が出来ない武道大会のチケットを高額で売り買いするダフ屋やギャンブルの予想屋まで、視界の何処を見渡しても人間しかいない世界、王都大通りで小さな少女は感嘆の声を漏らした。

 

「みんなちゃんとした服着て歩いてる……すごいなすごいなぁ」

 

 少女が生まれた魔人領の人間養殖場では布切れ一枚しか支給されていない。まともな服を着ている人間が珍しいのだ。

 目を輝かせる少女――メア=アウローラ。容姿は美人かどうかと言われれば考えるが、可愛いかと聞かれれば10人中9人は首を縦に振るだろう。小さな身体で幼く見えるが、顔立ちとボディラインのトータルバランスを見れば少々大人びて見えなくもない。それは何故か、幼い外見からは想像出来ないサイズの胸が目立つ為だ。


(でも何でさっきからチラチラ見られてるのかなぁ?)


 彼女は主人から「まだ時間もあるし遊んできなさい」と言われ今に至るが、同時に「絶対に目立たないように」とも言われている。目立つ訳にはいかないのに、先程からすれ違う男性の大多数が自分を見ながら通り過ぎていく気がするのだ。


(格好?……変なのかな)


 こんな良い服着ているのに……自分の着ている服に視線を落とす。先日まで着ていた酒場のウエイトレス姿から「一番目立たないから」と、主人がくれた魔法学園の制服に着替えている。これがいけないのだろうか? と思うが瞬時に考えを改める。


(博士の言う事に間違いがあるはずがない……きっとメアの顔が醜いからだ)


 主人は自分を可愛い可愛いと言ってくれるが、それは気を使っての事だと彼女は思っている。奴隷として大量生産された自分が奴隷じゃない人間より美しい筈がない、そう思っているから。


「わぁぁぁ良い匂~い♪」


 メアは笑顔を輝かせ、炭火で焼かれた串焼き屋台に流されて行く。

 ”自分は醜い”当然だと思っているから別にコンプレックスがあるわけじゃないのだ、全く気にせず匂いに釣られるまま屋台へとフラフラ……。


「らっしゃ……なんだ貴族の嬢さんかい、ウチの商品はお綺麗な貴族様にゃあ似つかわしくないんじゃあないですかね……」


 頭にタオルを巻いた屋台の亭主は仏頂面でそんな事を言う。これの意味する所はまず、メアが着ている貴族しか入学出来ない魔法学園の制服、そして串焼きは基本歩きながら外で食べるものである。上級貴族は体面を非常に気にする、そしてトロンリネージュでは未だ平民と貴族の間に険しい身分差の溝がある。だからこの店の主人は冷やかしかと思い、さっきの言葉を吐いたのだ。


(美味しそうだな……食べ物かな……これはきっとあの食べ物だよね)


 だがそんな事はメアには解らないし興味もない、相手が何故仏頂面なのかも気にならない。彼女はずっと培養液の中で育ち、大量のブドウ糖と有機化合物を注入され育った為口から摂る食事をあまり採取した事がないのだ。


「え~っと……もしかしてコレ、”ヤキトリ”じゃないのかな!?」


「……お、おぅそうだけどよ……」


「うわぁぁ凄い美味しそうぅ~」


 一度だけ農園へ働きに出た際、”誰か”に貰ったお弁当に入っていたオカズ”ヤキトリ”。誰に貰ったか名を覚えていないが一度食べた時美味しくて飛び上がったのは覚えている。


(でもこれどうやったら貰えるんだったかな……どうだったかな)


 必死に思い出す。脳内メモリをフル稼働しても…………出てこない。


「そら旨いさね。ウチの鶏は大量生産のブロイラーじゃねぇ、天然の軍鶏を使ってるからよ。……で、結局嬢さん買うのか買わねぇのか」


「は……はぅぅぅぅ」


 メアは涙を溜めながら必死に思い出そうとしていた。王都に来る前に、脳細胞内にインストールされた人間社会での一般常識を……でもどうしても思い出せない。


(そっか……この人間を殺したら食べられるかな)


 既に「目立たないように」を忘れてしまったメアが殺意を込めた拳を握った――と、そこに後ろから声が掛かる。


「あ、あの……買わないの?……ですか?」

「わにゃ!」


 振り向いたメアの視界に飛び込んできたのは自分と背格好が同じ位の女の子だった。


「ごごごごゴメンナサイ……そんなに驚くとオモワ、思わなかったから」


 メアは目を見開いて驚いていた。自身の瞳はアビリティメーターと言われる周囲の人間の戦闘能力を察知する魔導科学で出来ているから。


(この人間……全く反応がなかった。何かなこの娘……あれ? このオッパイたしか…………誰だっけ?)


 プラチナブロンドの巨乳娘――メアは一度、アリーナの特別観覧席からこの娘の事を見ているのだが、やはり思い出せない。――この様に、メアの記憶回路メモリはザルなのだ。


「おやなんでぃ、シャルロットちゃんの友達かい! それなら安くしとくよ?」


「え? その違いますけど……い、いつもあの……すすすいません」


「良いってことよ! お友達も大きいねぇ! イッパイ食って貰わなきゃシャルロットちゃんの立派に育ったオッパイが縮んじまったら俺が困るってもんだ! ガッハッハッハッハ」


「いやその……あ、ありがとうございます」


 真っ赤になって俯くシャルロット。その隣でメアの銀色の髪の毛がピンと逆だった。


「や、安くって確か……そうだお金! お金払って貰うんだ!」


 思い出したわ~い! メアは制服のポケットを弄る――そこには何も入っていなかった。


(ガクッ…………博士ゴメンナサイ……メアは今ちょっと博士を恨みました……)


 急に両手両膝を付いて倒れたメアをシャルロットは不思議そうに眺めつつ思う。魔法学園の制服を着ているけど見ない顔だ……もしかして最近転校してきた異国の子なのかな。


「あ、あの良かったら……買いましょうか?」


「買う? 買うって事は……くれるの!?」


「え……あ、はい。イッパイ買っていくツモリなので……1つくらいなら」 


 ニパァ! ボクがそう言った瞬間「もう死ぬしか無い」みたいな顔をしていた異国の女の子は、霧の晴れた朝みたいに笑顔を輝かせて頷いてくれました。


「はいよシャルロットちゃん串50本お待ち!」


「あ、ありがとうオジちゃん」


 ボクは袋の中からヤキトリ一本を取り出して彼女に渡します。


「わ~わ~わ~美味しそう~……そうだこんな時どうするんだっけ……えっと……えっと」


 はてな? 何かヤキトリ片手に考え出しました。ボクもよく変わってると言われますが、この娘も中々の者なのではないでしょうか? 急に親近感が湧きました。


「あっ、そうだ!」


 首を傾げるボクに彼女はガバッと顔を上げて一言。


「ありがとう!」


 ボクにありがとう、そして串家のオジちゃんにありがとう。何度も何度も……そのあまりの笑顔にオジちゃんは勿論、女の子のボクですら顔が赤くなってしまいました。


「おいしぃよぉ~これ本当に美味しいねぇ~もぐもぐ」


 本当に美味しそうに食べるなぁ。ボクとオジちゃんも釣られて笑います。


(何か……お日様みたいな娘だな)


 そう思いました。



◆◇◆◇



 王都トロンリネージュ城壁から北へ10キロ、今は使われていない荒れたブドウ畑が一面に広がる地域がある。領地マクシミリアーナ――過去、新種の葡萄を開発し、トロンリネージュの名産にまで仕立てあげた名領主の土地であった。秘密裏に築き上げた財は王家に匹敵したと言われた名領主であったが、7代目の当主セシリア=マクシミリアーナの時代に妙な噂が飛び交う事となる。


 仮面婦人セシリア――彼女は30を過ぎた辺から自分の美しさを保つ為ありとあらゆる手段を用いたとされる。植物は無論のこと動物、はたまた人間に至るまで、その様々な”道具”を使い若さを保とうとしたと伝えられている。その悪行を見かねたセシリアの実弟カルヴィン=マクシミリアーナは姉を追放しようと模索する。そこで考え抜いた結論はシンプルなものだった――”王都の闇”と影の噂を持つ一族、デイオール家に姉を嫁がせる事――そして姉を秘密裏にこの世から消してしまう計画であった。


 こんな無茶な計画が縁談から婚約まで嘘のようにトントン進んでいき、遂に姉はマクシミリアーナの土地から王都にあるデイオール家に嫁いでいく。新たな当主となったカルヴィンは胸をなでおろす。後はあのオゾマシイ姉を王都の闇が消してくれさえすれば全てが終わる。そう思ったからだ。

 

 だが1年が過ぎ、2年が過ぎる――いつまで経っても姉、セシリア死亡の連絡が入らない。それどころかデイオール家に元々住んでいた仲の良い姉妹が消えたというのだ。

 アンナ=デイオールとゾフィー=デイオールの失踪はカルヴィンの背筋を凍りつかせた。何故だ、何故姉では無く姉妹が消える!? 弟はデイオール家当主フランツ=デイオールを呼び出した。言いたい事はこうだ。


「どうなっている!?」


 屋敷に招かれたフランツは、カルヴィンが何を言っているか解らない。そんな表情でこういった。


「貴殿の姉上は素晴らしい女性です。貴方はセシリアの弟に生まれて本当に幸せ者ですね」


 カルヴィン=マクシミリアーナ現当主に向かって、依頼者を目の前にそう言ったのだ。

 

(な、何を言っているんだこの男は……)

 

 乾いた笑顔で話すこの男――「王都の闇」ルシアンネイル筆頭、指揮者イーゴリフランツ=デイオール。彼は確かに約束したのだ、まるで初めから居なかったかのように姉を消してやると。


 ふざけるな! カルヴィンは豪華に美しく作られたテーブルに拳を叩きつけ、フランツに殴りかかろうとする。――その時だった、背中の方から声が掛かったのは。


「いたずら好きの弟よ……代わりの”カルヴィン”は幾らでもいるんですよ?」


 振り返った弟の見たのは10代にまで若返った実姉あねの姿――それ以来マクシミリアーナ家の屋敷に住むものは誰も居ない。ただ、地下室から時折妙な叫び声が聞こえると未だ近隣住民から恐れられているようだ。


――そんな屋敷から少し離れた所に干上がって使われ無くなった井戸がある――異様な臭気を放つ井戸が。井戸の底で動く影が一つ、血と汚物で汚れきっているがメイド服のようにも見える。


「くっそぉぉぉ臭いかもぉぉぉ!」


 叫んだ影はリア=綾小路と言う。クロード直轄の凄腕の忍者マスターでありアンリエッタの専属のメイドであるが今の状態はとても王家の給仕には見えなかった。


「ちっくしょう! あのカルスとかいう刺繍男ぉぉ今度あったら背中からぶっ刺してやるぅぅ」


 口は動くが体は思うようにいかない。周囲に満ちた汚物で隠れているが、リアの体は大小様々な傷があり腹部に至っては貫通された後があった。


狸寝入りの術フェイカーが上手くいったから死んだと思われて捨て置かれたものの……クッ……歯に仕込んでた痛み止めが切れてきた……ヤバイかも目が霞んできた」


 そして思う、死姦趣味の奴があの場に居なくてよかったと。

 リアの言葉通り実際周囲は酷い状態だ。古井戸には新旧数十体の死体が投げ込まれている上、悪い方に調度良く湿気が溜まり死体達が腐りきってゲル化している。そんな死体達を押し退け井戸をよじ登ろうとするが中々上手くいかない。


「て、手と足が滑って……万全ならこんな井戸ひとっ飛びなのに……」


 死を目前にした者が見るという走馬灯……リアが見たのがそうなのかは不明だが彼女は思い出していた。マクシミリアーナ家地下で戦った者達を。イカレた感じの刺繍男と背の小さな女。


(刺繍男カルス……あいつは本気のクロード様と互角くらい強い……もうちょっとで勝てたのに……)


 だが邪魔が入ったのだ。そいつはニヤニヤ嫌な笑い方をする白衣の女と吸血鬼の魔人の間から閃光の様に突進してきた。正確には突進してきたのか何なのかすら解らなかった――速すぎて。


(あの小っちゃい女メアっていったかな……アイツはヤバイ……ヤバ過ぎる。あれは人間だとか魔人だとかいうレベルを……超えてる)


 この、リアという女は忠誠心というモノが存在しない。アンリエッタ皇女に仕えているのも「可愛くて悪戯出来て楽しい」から、クロードの部下でいるのは「自分と肩を並べる実力者」である興味から。だが、死を目前にして彼女が思ったのは……。


(それより一番ヤバイのは白衣の女が言っていた魔法だ……まさかあんな術式があるなんて。アイツ等の目標は王都全ての生命の火……エッタ様が危ない……な、何とかクロード様に知らせないと……)


 動け動け……私の体! だが意志に反して体は段々動かなくなっていく冷たくなっていく。


(あ……れ? 私何でこんなに頑張ってんだろ……)


ずっと一人で生きてきた。一人で生きて死んだら良いと思っていた。楽しい事をして誰にも属さず、愉快に、笑いながら。でも気付いた。


(あ、そっか……私ってば)


……気に入っていたんだ自分は。


「あの場所に……私の居場所に帰るんだ!」


 井戸の中で叫ぶ。



 そうなんだ。

 私は何でも人並み以上に初めから出来る女だった。周りのみんなはこんな私に嫉妬したいらしい。学校でも留学した先のジパングでも……みんなみんな私の陰口ばかり言っていた――自分の親にまで。

 父親は早くに死んで母親は周囲の人間の悪態に疲れてオカシクなった。娘を単身で戦乱著しいジパングに送り出すなんて正気の沙汰ではない。人間は醜悪で陰の力で出来ている。そう思ってた――アイツラに逢うまでは。


 執事長クロード様は得意の薄ら笑いでこう言ったんだ。


『ふむ忍者ですか……その若さで私と互角に戦えるとはフフフ素晴らしい心が踊るようです……しかし』


 な~にが互角なんだか……こちとらまだ全然本気じゃないってのに。そう思って不用意に近づいた私の目の前に手刀が飛んできた。な、何? 見えなかったかも……この私が? 不思議がる私の額1センチ手前で手刀を止めたクロード様は言った。


『貴方の戦い方は雑だ……まるで自分の命を掛けるような捨て身の技、故に貴方は強い』


 とんでもない殺気をぶつけて来た。気を失うかと思ったっけ。


『だが故に弱い……貴方は自分と己が力を嫌っている。……貴方の心に吹く風止んだ時、己の命以上に大切な者が出来た時……今度はお互い本気で戦いましょうぞ』




 皇女アンリエッタ様は一人っきりで泣いていた。あれはたしか私がメイドになって直ぐ、まだエッタ様が王室全体を掌握していなかった頃だ。


『リア? もぉ!……何でいつも急に現れるんですかぁ』


 だって忍者だし……しっかしまた泣いてるしこの女……どうせ貴族主義派閥にまたイジられたんだろう、弱っちい女だなぁ嫌いなタイプかも。だから私は言ってやったんだ。人を纏めようとするから派閥が起きるんだ、初めから纏まらないと思えば諦めも付くでしょ?って。

 また泣き出すかと思ったのに、新米皇女はちょっと困った顔をして私にこう言ったんだ。


『うん……私が小さかった頃、城下でお友達と飴を買ったの……その時のお爺さんに最近また逢う機会があったの……でもね? 彼は変わらずお爺さんだったんですよ』


 何だ? 意味分かんないかも。そう思った。


『10年経って……私は大きくなって皇女になりました……でもお爺さんはそのままだったのに、もう飴は売ってないんだそうです。キャラメル味がとっても美味しかったのに』


 エッタ様は涙で赤くなった目で私を見た。


『人は変わらないのに時代は流れていくの……キャラメル飴が作れなくなっていく時代に。それは私の国が決めていて、王一人の判断で国民全てが涙を流す事がある……だから、ね? 私良い事をしたいの。お爺さんのキャラメル……また食べたいもの』


 だから此処で一人で泣いてるんだ……あのお爺さんや皆が泣くよりずっと良いもの。そんな事言ってたな。何か良く解かんなかったけど思ったんだ……この人に泣いてほしくないなって……友達になりたいなって。



 好敵手と出逢い目標を見つけた、居場所を見つけ護る事を知った。




「死んでたまるか……着いてない勝負があるんだ。潰されてたまるかあの場所を……どっかの誰かが何人死んでも構わない。でも――」


 冷たい井戸の底で不覚にも涙が流れた。


「どっかの誰かが死んだら……エッタ様がまた泣いちゃうもの…ぉ…っ」


 震える手を伸ばした……井戸の入り口に月が見えた。下弦の月は昨日も今日も同じ輝きを魅せている。でも、自分は昨日とは違う。こんな臭い、暗い、悲しい所で死のうとしている。頼まれた仕事も完遂出来ず一人諦めて死のうとしている。私が死んだらきっと王都は――。


(……ダメだそれだけは……エッタ様だけは)


 薬が完全に切れた……もう声も出せない。


 畜生チクショウ……こんな事ならエッタ様に言っておけば良かった。


(……友達になって……って……)





 私の瞳が閉じかけた時――


『Lv4銀翼の癒し手シルバーリザレクトウイング!』


 何かが聞こえた気がした……私の眼には月光が赤く染まって見え……急に暖かくなった自分の体を抱き抱えられていたように覚えている。


二番目の妹戦姫アンリエッタの所のメイドじゃないか、チッ……拷問された痕がある。助手リィナの奴の仕業か……相変わらず悪趣味な」


『ちょ、ちょっとマクスウェル! ワタシはまだ――』


「決断する時が来たのだアヤノ。影王とユウィン、あの馬鹿共と向き合う時が」


 現れたのは一人の女だった。

 焔色の美しい髪なびかせる魔女だったんだ。


 

◆◇◆◇



「ふ~ん。じゃあこの焼き鳥シャルロットが食べる用じゃないんだ……モグモグ」


「う、うん……先生が好きだから持って行こうかなって」


 屋台で知り合った転校生(多分)メアちゃんとボクは表通り噴水前のベンチで座っています。何故か凄く親近感の湧くメアちゃんに人見知りのボクには珍しく相談を持ちかけたのがキッカケでした。


「でも先生……試合の後何処か行っちゃって……ボクどうしたらいいか」


「モグモグンック……そうなんだ」


(あれ……50本あった焼き鳥が15本しか無い……あれ?)


 メアちゃんの足元に大量の串が落ちているのは見ないようにしていたボクにメアちゃんが言いました。


「探したらいいのに。シャルロットは索敵武装気アスディック使えないの? 見た所オーラ質量かなり高いみたいだけど」


「……え?」


 まさか武装気ブソウオーラの話が出るとは思わなかったものだからボクは眼を丸くします。


「王都全域を検索掛けるのってそんな難しい事じゃないでしょ?」


「む、難しいんじゃない……かなぁ? 技の武装気アスディックは苦手だし……ボクの場合テンションで大分チカラが変わるみたいだから……」


 王都全域なら直径20キロは下らない。そんな範囲を検索できるオーラを持つ人間は居ないだろうなぁ……ゼノン一と言われる絃葉先生でも500メートルって言ってたし。

 メアちゃんは「ふ~んそういうものか」みたいな顔を一瞬してから。


「でもシャルロットはその……先生? 見つけてどうしたいのかな」


「そ……それは……」


 俯いて考える。 ボクは一体どうしたいんだろう、心がズタズタに切り裂かれたような顔をして、何処かに行ってしまったユウィン先生を。


「解らない……背中を追い駆けたいだけ……なのかな」


「そっかチュウしたいんだ」


「え!? 何で!?」


 お顔が真っ赤になりました。


「此処に来る前勉強したの、誰かを追っかける=”好き”って事だよね」


 突拍子もない事を言う娘だなぁ……それはその確かにでもう~ん……ボクはパニックです。


「そそそのメアちゃんは好きな人……いる?」


 俯きながら横目を流して聞いてみます。恋愛相談? テッサちゃんともしたこと無いのに、何故か初対面のメアちゃんに双子の姉みたいな親近感を覚えて。


「メアに?――いるよ」


「ど、どんな人? ど、何処が好きになったの?」


 ボクは興味津々ほっぺアツアツです。初対面でちょっと馴れ馴れしかったかな。でもメアちゃんはニッコリ笑いながら。


「メアにお弁当くれた人。イチゴ畑で頭撫でてくれた人。ラビットハッチ様から助けてくれた人」


 解らない単語もあったけど、どうしてボクがメアちゃんに親近感を覚えたのか解った気がした。ボクを助けてくれたユウィン先生の事を思い出す。境遇が似てるんだ……ボクとメアちゃんは。


「メアの”王様”なの……でも名前も顔も思い出せないんだ? メア馬鹿で醜いから」


 メアちゃんは全く変わらないお日様笑顔で言います――自分が醜いと。


「そ、そんなこと無いよ!」


「ん? どうしたの急に」


 メアちゃんは急に立ち上がったボクに眼をパチクリ。


「メアちゃんは可愛いよ! 馬鹿……かどうかはわかんないけどきっと大丈夫だよ……だから」


「シャルロット?」


 あれ何で? 涙が……。


「だから……自分の事醜いとか言わないで……」


 涙が止まらない……そうか解った。きっとボクは自分にそう言いたいんだ。お父様に付けられた自分の傷だらけの躰が嫌いで、内気な自分が嫌いで……誰かにこう言って欲しかった言葉なんだ。だから悲しい、メアちゃんを見て涙が出たんだ。

 メアちゃんはそんなボクを見て心底ビックリしたようで急に顔を真赤にして俯きました。


「メア……可愛いのかな?」


「……うん」


「お世辞じゃなくてホントに?」


「……うん」


「……そっか」


 それから大空を見上げて。


「じゃあ王様もメアのこと可愛いって思ってくれるかなぁ……」


 思ってくれたら嬉しいなぁ。

 年はあまり変わらないはずなのに、この時のメアちゃんの顔は非常に大人びて見えました。

 

「じゃあさ、シャルロットの好きな先生メアが探――――」


 ピピピッ……メアちゃんが何か言おうとした時、変な音が何処からか聞こえました。キョロキョロ周りを見渡したけど何も無い。メアちゃんの耳の辺から聞こえた気がした。


『……ハイ……ハイ。解りました博士、帰還します』


(メア……ちゃん?)


 急に口調と顔を堅いものに変えて一人で話しだしたメアちゃんにボクは心配そうな視線を送ります。でも数秒ほどでメアちゃんは笑顔を作り直した後、手を合わして”ゴメン”のポーズをとります。


「ごめんシャルロット、メア帰らなくちゃいけない。先生探してあげたかったんだけど……」


「え、そんな良いよボクの方こそ時間が無いのにイッパイ変な事喋っちゃって迷惑だったよね……ゴメンね」


「そんな事ない!」


「メ、メアちゃん?」


 ボクは急に立ち上がったメアちゃんに眼をパチクリ。さっきとは逆の状態になりました。


「シャルロットに可愛いって言われたの本当に嬉しかった。博士に言われる何倍も何倍も……」


「あ、ありがと……」


 ボクもベンチから立ち上がり、お互い顔を赤くして俯いてしまいました。実は自分の吐いたセリフを思い出して今更恥ずかしくなっちゃったからです。


「あの……メアちゃん良かったら友達になって……くれないかな」


「?……友達?…………トモダチ……」


 ボクは勇気を振り絞って言いました。(目は合わせれなかったけど)でもメアちゃんはボクの言葉に首を傾げます。嫌だったのかな……でもどっちかというと、ハテナ? って顔をしてる。やっぱりちょっと変わった娘だ。


「!…………友達っ! 良いの!? 嘘じゃないよね」


「う、うん……なってくれる?」


「うんうんうん!」


 何か思い出したように、よっしゃーみたいなポーズをしてくれました。多分喜んでくれているよね……良かったぁ……勇気を出して言ってみて。


「じゃあ改めて、ボク、シャルロット=デイオールって……です」


 いつものように噛んでしまいました。


「私、メア=アウローラ! よろしくシャルロット」


 ギュウウっと手を握ってくれました。イタタタた……メアちゃん力強いなぁ。


「友達ってメア初めて! シャルロットの事は絶対に覚えとくからね!? もっとお喋りしたいけど博士が呼んでるから…………ゴメンね!」


 くるりと踵を返してメアちゃんは駆けて行きました。途中何度もこっちを振り返って手を振りながら。


(何か手のかかるお姉ちゃんが出来たみたいだなぁ……フフ)


 あ、そうだ。ボク今日試合だった。

 トライステイツトーナメント4日目、午後から出ないといけない。先生の事が気がかりですっかり忘れてた。残り6本になってしまった焼き鳥の袋を手に取った時、後ろから声が掛かります。


「――シャルロット!」


「メアちゃん?」


 あれ? 見えなくなる迄見送った筈なのにいつの間に。


「詳しく思い出したの! 友達っていうのはお互いの価値を認め合って相手の為に出来る事を考えたりするものでしょ!」


「う、うん」


「だからね! シャルロットにだけ教えといてあげる」


 メアちゃんはそっとボクの耳元に唇を近づけます。


(メメメメアちゃん!? あたってるあたってるよぉぉにゃあああ)




 でも聞こえてきた内容に血の気が引いた。



……シャルロットは今日中に王都から逃げて?……明日み~んな死んじゃうから……




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