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外伝 黄金覇王と俺と寿司 前編

「ねぇねぇホントに良いの? ほんとにホント?」


「昼メシくらい気にせんでいい、笑っちまった礼だ」


「でも何か悪いよぉ~」


 とかなんとか言いながらマリアはうきうきルンルン目が輝いてる。ゼノン王国中央道りに位置する商店街を歩きながら浮かれているのはマリア=アウローラ。ちょっとした事で今日知り合い、喧嘩し、負けて(物理的な意味で)今に至る。

 

「お嬢ちゃんは何が好きなんだ」


「あのね、さっき言ったでしょ!? お嬢ちゃんじゃなくて私はマ・リ・ア!」


 ちゃんと名前で呼んでっ! 人差し指を立ててムッスリ。


「別にいいじゃないか名前なんてどうでも」


「い~や~だ! 私この名前気に入ってるんだから」


 今度はプリプリほっぺたを膨らます幼女……いちよう十六らしいのだが十歳位にしか見えん。


「……マリアは食べたいものあるか?」


 ニパッと笑ってから顔を真っ赤にして俯いた。

 何なんだ一体……面倒な子供に絡まれたもんだ。


「じゃあゼノン名物って何なんだ? 俺はこの国は初めてでな」


「えっ初めて!? じゃあねじゃあねぇ……お寿司って知ってる?」


「スシ? 知らんな。お前の必殺技か何かか」


「何で!? 超違うよっ! ちゃんとご飯だよ」


 この娘の事だから、ヘソから内蔵とか抉り出す技かと思ったのだが。


「どんな食い物なんだ」


「え、え~っとご飯に魚が乗ってって……そう言われてみれば説明しにくいなぁ」


 人通りの多い表参道で頭を抱えて唸りだした。丁度次の瞬間マリアが悲鳴をあげる。


「みにゃあ!」


 俺の動体視力は並ではない、今すれ違いざまにマリアの尻を撫でていった奴がいた。

 ここは人の多い表道り、公衆の面前で大胆な野郎だな。そしてあの一瞬でケツ全体を味わえる尻下部を鷲掴みにするような触り方……プロだな。

 まぁ言ってもただの痴漢だろうから放っておいて良いだろう――と思ってマリアを見たら大きな瞳に涙を溜めて泣いていた。

 ドクっと心臓が波打つ。


――何だこの感情は……らしくない。


(やれやれなんだってんだ……)


 背中の長剣ながさおを瞬時に抜き放って、何喰わぬ顔で通り過ぎようとする痴漢に振り込んだ。


 ボグッ!


「おいお前、こんな貧相な尻触って楽しいか」


 脳天に鋼を打ち込まれた男は一回倒れてからこちらに振り返る。よく見たら結構良い年のおっさんじゃないか……ロリコンか?


「て、てめぇ何しやがる!――げぇ?」


 無論キレない部分で殴ったのだが、痴漢男は俺の長剣ながさおを見て硬直。まぁ普通ビビるだろうな、人間一人分くらい長いんだから。


「尻触ったくらいで殺されるのはお前も不本意だろうさ。別に衛兵につきだそうって訳じゃない、詫び入れて失せろ」


「い、いいよそんなの……私大丈夫だから」


 マリアはそう言ってるが、痴漢男はラグナロクに完全に怯えて下手な言い訳もせず公衆の面前でマリアに土下座。


「す、すまねぇ嬢ちゃんつ、つい出来心で――ってああああアンタはもしや黄金覇お――ぶげっ!」


 な、何!? 人が飛んだ。

 痴漢男が放物線を描いて飛んでいく――そのまま目で追うと上手い事狙ったように肥溜めに落下。何故こんな所に肥溜めが……。


「マリア……尻くらいでそこまでせんでも」


 男をぶん殴ってぶっ飛ばした女を見ると、指と指をツンツンさせながら赤面して俯いてた。え? ナニコレちょっと怖いんですけど、まだ殴り足りないとかそう言う事言われたらどうしよう。


「あ、あの……あり…がと」


 ハッキリ言ってマリアが放ったさっきのこぶし、全く見えなかった。俺は底知れぬ恐怖を感じたが……ん? 今ありがとうって言ったか?


「また……その……私の為に戦ってくれて……ありがと」


 耳まで真っ赤にしてるから鬼か何かだと思ったが違うらしい。何だ怒ってるんじゃないのか……良かった。


「気にするな、今の俺はマリアをエスコートする立場だしな。トロンリネージュ辺りでいう所の騎士って奴か……だから当然の事をしたまでだ」


 「こんな子供の尻触って可哀想だったな」と言おうと思ったが瞬時に今のセリフに切り替えた――理由は怖かったから。何せこの女、俺より遥かに強いのだ。


「じゃあ気を取り直して寿司って奴を食べに行こう……食事前の運動も出来たしな」


「う、うん! あ、そうだ一個お願い!」


 まだ顔の赤いマリアは俺の眼を覗き込んで。


「おてて……繋ぎたいの」


 何? 一旦周囲を見渡した。

 さっき土下座男を吹き飛ばしたせいで俺とマリアを中心に円を描くような人だかりが出来ている。一歩間違えば衛兵に連れて行かれるのは俺達だぞ。


 この状況で何故そんなセリフを……。


(まぁ良いか)


 感情の欠落している俺は割とアッサリ諦め、マリアの手を取って人だかりをかき分けた。


「こっちでいいのか――マリア!」


「うっ――うん!」


 蔓延の笑顔と言えば良いのか暖かい笑顔といえばいいのか、とにかく輝く太陽のような笑顔。不覚ながらこんな幼女の微笑みに胸がズキリと高鳴った。


(こいつやっぱり似ている笑顔まで……そっくりだ)


 マリィに――遠い昔死んでしまった恋人に。


 もう三百年余り昔の事。


 知らない内に口元が緩むのが解る。コイツと出逢って笑うって事を思い出した。

 俺みたいな男が幸せを感じて良い訳がないのに……勝手に口元が緩んでいく。人混みをかき分けながら後ろから付いて来るマリア――周りからは父親に引っ張られる娘に見えるかもしれない童顔、幼児体型、色気なし女――だけど。


(悪くない……いや違うな)


 多分俺はコイツを――


 ゴキッ


 骨の砕ける音がした。

 ナンダコレ痛ぇ! マリアと繋いでる掌がミシミシ悲鳴を上げている。再び振り返ってマリアを見たが、この女遂に全身を真っ赤に進化させて俯いている! 要するに前を見ていない気付いてない、完全に連れられた娘状態で俺の手を握っている――というか握り潰している。なんて馬鹿力だこの女! 野生のゴリラみたいな女だ! やっぱ似てねぇマリィはこんな女じゃねぇぇぇ! 


「マ、マリア!」


「は…はぁ~い♪」


 顔を上げたマリア、その幸せそうな顔に……何も言えなかった。


 その数秒後、俺の掌骨は粉々に砕け散った。




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