第14話 トライステイツトーナメント開始
「お、俺はギルドでAランクの傭兵だぞ! こ、こんな嬢ちゃんに負けるはず――」
「あ、あの、す、すいませ――」
「謝るんじぇねぇよっ! 余計悲しくなるわぁ!」
トロンリネージュギルドではモンスターハントを主に取り扱っている――そのランクは倒せる討伐モンスターの重量によってランクが上がり、Aランクと言えば体長5メートル級のモンスターを単体で倒せる実力となる。この基準はアンリエッタの定めた騎士の賃金を定める階級ランクにも同様に適用されているランクシステムである。そして今大会は二十歳以下と以上でブロックが別れ、今行われているこの場所は二十歳以下の試合である。二十歳以下で既にAランクというのは凄まじい努力と才能に恵まれないと登り付かないランクであった。
「大番狂わせだ”神速”ディミトリ=バルベルが予選落ちかぁ!?」
トライステイツトーナメント――先にも述べた通りアンリエッタ主催の武道大会は多いな盛り上がりを見せていた。王宮敷地内に改築された収容人数5万のアリーナは、初日から立見の観客まで入れて総観客数8万人を超える大盛況を見せている。今大会はアンリエッタ皇女の手腕で”賭け”も行われており凄まじい大金が動いている。そしてアリーナ全体でトーラル12あるリングの1角、この試合では掛け率2:7でディミトリ選手が優勢だったのだ。娯楽に飢えていた各国の市民はここぞとばかりに歓声とヤジを飛ばす。
「何やってんだ神速ぁ!もー仕事回さねぇぞ金返せコラァぁぁ!」
うるせぇな畜生、俺だって好きで負けてんじゃねぇや。ディミトリ=バルベルは大きな溜息をついてから尻餅をついた状態から立ち上がった。
「ちっ実力差は明確だ……嬢ちゃん名前は」
喉元に青く輝く刃渡り30センチ程の両刃剣――グラディウスという種の剣を自分に突き付けている少女に傭兵らしい男は言った。
「はえ? あ、シャ、シャルロット=デイオールって……です」
自己紹介ちゃんとできたかな? 少女はそんな様子で急にオタオタしながらキョロキョロ周りを見ている。こんな変な嬢ちゃんに俺は負けたのか……そんなあきらめ顔の男は持っていたブローとソードを床に投げて手を上げた。
「参った……ロッテ嬢ちゃんの勝ちだ」
『未成年の部予選第3ブロック――本戦進出はシャルロット=デイオール嬢に決まりました!』
おおおおおおおおぉぉぉ! マジかよぉぉ! 歓声が響き渡り、そこには声に身をすくませるシャルロットの姿があった。そんな少女にディミトリ=バルベルという男は歩み寄り、シャルロットの右手をそっと握る。
「なぁお嬢ちゃん……俺は自分より強い女に出逢ったのは始めてだ……俺の女になる気はねぇか。王都に三部屋付きの家も持ってるぜ?」
「ふ、ふぇ!? てててて手ぇ? そ、そ、そ、そ、それはあのちょっと……」
「照れるなロッテ……俺は夜の方では負けねぇよ――ってぶふぉぉぉ!」
シャルロットが動揺して魔法を暴発しようかという時、”神速”の二つ名を持つらしいディミトリは突如現れた3名の男によって遥か後方に吹き飛ばされる事となる。
「おいおいおいアンタ……誰に断ってデイオールの手ぇ握ってんだ。テッサに断ってからにしろよオイ。怖いんだぞアイツは」
「俺が右手を抑えてる内に消えろよおっさん……テメェその喋り方で未成年は無いだろ、後”神速”って恥ずかし過ぎるだろコラ、ちょっとカッコいいじゃねーか」
どっちだ!? リョウ=ヴィンセントの隣で立つアベル=ベネックスは胸中でツッコんだ。
「シャルロット嬢怯えてる。小生激しく不快」
「あ、あの~キミタチ……恥ずかしいからヤメて」
神速さん(笑)がシャルロットの手を取った瞬間、目にも留まらぬ速さでリングに上がった馬鹿三人を、アタシ事テッサ=ベルはリング脇で頭を抱えながら嘆息する。
「な、なんだお前ら! 俺を王都中央ギルドの”神速”と知っての――」
ボゴォ! 言い終える前に次は火の玉が神速さん(笑)に直撃――更に追い打ちを掛けたリョウ君が馬乗りになってボコボコに殴ってる。
「俺に右手を出させんのかァ! あぁ!? このロリコン神速野郎! 名前負けしてんじゃねーかぁ! デイオールさんの手ぇ握りやがって! 羨ま……殺すぞおまぁぁぁ!」
ゴッゴッゴッゴス……。
あぁ神速さん(笑)ゴメンナサイこいつら馬鹿で、そして人生二度目の敗北を一日に二度も味わう事になるとは……これをバネに大きくなって下さいね、知らんけど。しっかしリョウ君も馬鹿だったんだね、綺麗な顔してるのに残念な子……アタシはしみじみ付き合うなら大人の男にしようと心に刻む。
「リ、リョウ君おじさんが可哀想だよ……白目剥いてるし」
「――だな!」
シャルの一言で即おじさんとか言われてる神速さん(笑)から飛び退くリョウ君。そして自分で言ってたセリフが恥ずかしかったのか長い前髪を指でこねくり回して赤面している。何コイツ超めんどくせー。
「おいリョウ、ロリコンは禁句だろ。それなら俺ら全員ロリコンになっちまうし」
「小生もそう思う……お嬢に失礼」
「あぁベネックス……いやアベル、サイ、すまない失言だったぜ」
何故かシャルに振られてから仲良くなってしまったバカ三人何かキモいな、特にアベルとリョウ君。
「シャルロット嬢、綺麗な戦いでした……美しい」
「そそそそう? あ、ありがとうサイ君」
そしてカターノートの炎帝サイ=オー君、自分は対戦相手でもない人間にファイアーボールをブチかましといて綺麗ときたもんだ。コイツも普通じゃねー。
「テッサちゃん!これでみんな本戦出場が決まったよね、やったよね」
「ほんとね、みんなバラけてよかったね」
実はウチのクラス委員長セレナ=クライトマンはサイ君と当たって秒殺、既に帰ったんだけどシャルの奴は忘れているだけで悪気はないだろうから黙っておこう。
「でもシャルロットちゃんのその剣、凄い業物ね。どうしたのコレ?」
同じ武器使いとして気になるのか、大太刀を持つゼノンの傭兵ミコト=白鳳院もシャルに詰め寄る。実はワタシも気になってたのだがまだ聞いてなかった。シャルの持つ青い装飾が光る太めの両刃小剣に目をやった。
「……えっと”アイスファルシオン”っていう剣なんだって……先生が前テッサちゃんのお家に行った帰りにくれたの……」
あっちゃ~ ユウィン先生絡みだったか……今のシャルには失言だったな。表情に影が刺しちゃった。でもそんな事はミコト姐さんには関係ないし分かんない。
「この軽さ――もしかして火廣金じゃない!? うっそぉウチ本でしか見たこと無ーい!」
「う、うんすっごい軽いの……火廣金って言うんだって……ユウィン先生いわく竜が宿してあってボクが成長したら声が聞けるようになるって……」
「うっわ! 本物だよそれ、イザナギが編み出した”魔人剣”を使える武器だぁ良いなぁ良いなぁ……」
ミコト姐さんってただの男好きかと思ったけど武器マニアのケもあったのね。もの凄い目でシャルの剣を見てる。
「恐らくその剣には氷竜の幼体が宿してある……シャルロット嬢ならすぐに使えるようになるでしょう」
「そ、そうかな……ありがとうサイ君」
流石サイ君魔法には超詳しい。でも一瞬表情に影が刺したのは何故?
「「おおおおおおおおぉぉぉ!」」
その時近くのリングで歓声が上がった。あっちは確か大人の部だよね。
「せ、先生!?」
歓声の方向を見たシャルが顔を蒼白に変えて急にそっち側のリングへ駆け出した。
あぁやっぱり……シャルの表情が微妙に暗いと思ってたんだけど先生の事が心配で気が気でなかったみたいだな。無理も無いけど……昨日あんな事があった翌日の今日、そしてユウィン先生の午前中の試合を目の当たりにしたら誰だって心配にはなるよ……。
『あぁ~っと! トロンリネージュ代表優勝候補の一角ユウィン=リバーエンド選手またも大苦戦です!』
会場の実況を行っている司会者が興奮気味に魔導マイクに唾を吐きかける。
『解説のクワイガン=ホークアイ選手……というか王……これは一体どういうことでしょうか』
今回シード選手であるゼノン王がビール片手に酔っ払いながら目を細めた。
「ふん……奴の動きとオーラには生気が感じられん。しかし足運びや体捌きは相手選手……エドガーの優に上を行っとる。あれは人間以外の者を相手にしてきた戦士の動きよの……しっかし相手を舐めてるとしか思えんわ」
『なななんと! クワイガン様はユウィン選手の方が優勢だと?』
「あれは勝つ気が無い人間の動きぞ、”魔人殺し”が聞いて呆れる、全く見るに耐えんわ……おぅ! ご婦人! ビールおかわり頼む」
アンリエッタの”お願い”で無理矢理解説役を演らされているゼノン王(意外とヤル気)の解説に困惑する司会者が再びリングを見た時――丁度ゼノンの中位傭兵エドガー=ボヌールの拳が、ユウィンの肝臓部分にクリーンヒットした所だった。
「トロンリネージュを救った英雄と聞いていたが……こんなものなのか?」
「……」
プッ――ユウィンは口内に湧いて出た血をリングに吐き捨て嘆息。
「何が……英雄だか」
「何をブツブツと! ハッキリ申せ! ワタシは遥々ゼノンから今大会に全てを賭ける想いでやって来たのだ失望させるな”魔人殺し”――」
喋りながら再び間合いを詰めたエドガー選手の連撃が再びユウィンを捉え、既に体中から出血しているユウィンの血しぶきがレンガで出来たリングに紅い点となって彩られる。
(この男一、二戦目でもこの様子であったな、相手が弱すぎたから勝てはしたものの、ワタシとヤる前から既に満身創痍ではないか……それに剣士と聞いていたのに丸腰……もしや今大会をナメているのか)
そう思った所でエドガーの胸中に怒りが噴き上がる。自分は八つの時にこの世界、己の体一つで生きていく”ゼノンの傭兵”の道へ入り今年で二十年目、今は中位傭兵ではあるが来年には錆びた釘10名に挑み、上位傭兵の座を勝ち取ろうと思案している。だから字を持つ者である”白面”クワイガン王と”颶風”絃葉=神無木が出場すると聞いて歓喜に震えた。公の場で彼らと良い戦いが出来れば錆びた釘入りも目前であるから。
(その決意を……もしやこの男は……)
笑われた気がしたのだ。自分の決意と志と夢を、目の前の生気を感じない無表情男に。
(死んだ魚のような……眼をしおって!)
ズドッン! エドガーは硬いレンガで出来たリングを踏み込んだ。よもや素人目には見えない速度でユウィン=リバーエンド選手との間合いを詰める。そして自分が最も得意とする気技を利き手刀に集中――抜き放った!
「縦薙断刃ハイドウェイ……セイバァァ!」
この世界における”闘技”とは――言わばスポーツではない。古代ローマに剣闘士同士を殺しあわせたり、猛獣と囚人を戦わせ食わせたりしてそれを見て観客は楽しんだという。この世界でもそうである。例えばギルド――トロンリネージュにおける職業斡旋所であるが、募集の殆どは近隣諸国や村を脅かしている”モンスターハント”である。このハントを始めて行った人間の死傷率は実に9割。しかしこの世界ではそれが普通なのだ。割の良い仕事だけでは人間社会は成り立たない。現実世界でもそうだろう――派遣のアルバイトに登録した。黙っていたら引っ越しの仕事とか他の力仕事しか回ってこない……楽なチラシ配りやデスクワークは回ってこない。
”しゃ~ねぇな疲れるけど引っ越しでもやるか”
妥協する。そういう事だ。要するに――
”しゃ~ねぇな疲れるけど狩りでもやるか”
この感覚で9割が死ぬ――要は価値観と命の価値が低いのだ。
故に今大会でも殺人は罪にならない、この戦いは名誉と娯楽と金銭で成り立っているものだから。エドガーがユウィンの肩目掛けて放った”断刃”は相手を両断するオーラスキルである。このまま命中すれば中級傭兵の技でも肩から腹筋迄が切り裂かれるだろう。しかし――
――ガキン!「なっ!?」
まるで鋼に剣を打ち下ろしたような金属音が響いた。エドガー=ボヌールの手刀は肩の肉を少し抉った所で止まったのだ。
(硬化武装気!? 満身創痍でヤル気を感じさせないこの男がワタシの断刃を受けきる……? いや――まぐれに決っている!)
だがエドガーの手首はユウィンの掌によって握り締められ全く動かなかった。
(なん……とバカな。この細腕で何たる剛力……)
「なぁアンタ……さっき全てを賭けてるって言ったがそれは何処までの事だ」
「く!……何を言っている貴様!? 己の全てに決まっておろうが」
(おのれぇぇ全く動かん!)
掴まれている両手首に激痛が走る。先程まで優勢だったエドガーの顔が苦痛に歪んだ。
「じゃあ自分の全てを賭けても手に入らなかったらどうするんだ……アンタ死ぬのか」
「何なのだ貴様!? 狂っておるのか!」
(これが……死んだ魚のような眼をした男の力だというのか!? 解せん! 解せんぞぉぉ)
ボヌールは空いている両足に気を集中――無表情でブツブツ呟く目の前の男に全力で蹴りを放つ。
「おおおぉぉぉ絶杭脚ロースティンがぁー!!」
その蹴りは文字通りユウィンの腹部に突き刺さった。その大量の血の噴出を見たボヌールは勝利を確信するが。
「……俺はマリィの為に魔法使いになったんだ……アイツの為に魔法因子核を得た……なのに、なのにだ」
「バ、バカな!? 効いていないのか!」
相手に突き刺さっている足に更にオーラを込める。既に致死量の血液が流れ出しているのに相手は倒れない。
「なのにマリィは俺の”魔法因子核”を砕いて行った……」
「ふっ――ふぐぅ!!!」
エドガー選手の体が持ち上げられていく。ユウィンの右手が相手の首を握り掴み、持ち上げているのだ。その反動でユウィンの腹部に突き刺さっていたボヌールの足も外れ、完全に宙吊り状態に陥る。
「全てを賭けるって言ったな……それって誰が”全て賭けましたよ”って証明してくれるんだ? なぁ」
「ふっっつっふ――」
更に握力を強める。
ゼノンの中位傭兵は既に白目を剥いて泡を吹いていた。
「俺は何の為に400年生きて来たんだ。なぁ教えてくれよ――”人間”!」
「っ――――」
「先生ヤメてぇェェェ!」
ビクリッ! ユウィン=リバーエンドの体が一瞬震える。首を握り潰す程の力が一瞬で解かれ、エドガーはユウィンの手からレンガ製のリングに、人形のように落下し倒れ込んだ。
(――マリィ……?)
一瞬彼女の気配を感じてリングサイドを振り返ったユウィンの視界に飛び込んできたのは、顔をくしゃくしゃにして大粒の涙を流すシャルロットだった。弟子の泣き顔を見て、彼は冷静さを少し取り戻し思う。
(すまない……シャルロット)
大量の血を流れ出る腹部を抑えながら、ユウィンはヨロヨロおぼつかない足取りでシャルロットの居る反対方向のリングサイドから、出番待ち選手達の人混みの中へ消えていった。それはまるで、見たくないものから逃げるように見えた。
周りの選手もユウィンの血だらけの姿を見て恐怖し、誰も声を掛けようとしない。皆が思っているのはこうだ、あの出血量で何故生きているんだ、化物か。故に誰一人ユウィンに近づかない、ユウィンの進む道の前に立つものは……誰一人居なくなっていた。
『あ…相手選手の失神により……第一ブロック勝者はトロンリネージュ代表ユウィン=リバーエンド選手、本戦出場決定……です』
司会者が勝どきを上げるが、そのあまりの戦いぶりに会場は静まり返っていた。王都を魔人18体から救ったと言われている英雄、ユウィン=リバーエンド
――その触れ込みを期待してきた自国民でさえも、血だらけの姿で相手を締めあげた英雄の姿に唖然とするほかなかった。
新たなビールを飲み干しながら実況席のクワイガン王はユウィンに鋭い視線を送る。
(奴がクロードの報告にあった竜王を従えし”魔人殺し”ユウィン=リバーエンド……アーサー殿の古い友人の弟子という話だったが、あの不死の老人の古い友人と言えば、恐らくかの有名な魔女殿であろう。と言うことは――)
クワイガン王は思う。
(クロードの報告と我が曽祖父からの証言から推測するに、奴は伝承に聞き及んだ竜の騎士……黄金覇王マリア=アウローラ姫様と共に過去ゼノンを救ったという魔人剣の使い手か――)
恐らくは人外の者よ――ゼノン王は思う。
(しかし我には、お主の背中は母親に置いて行かれた子供の様に見えよるわ)
形だけの賛辞――誰にも見えないように、王は男の背中に軽く頭を下げるのだった。
◆◇◆◇
「ひっくっひっくっふぇぇぇぇん……先生どうしちゃったのぉ~」
「よしよし泣いて良し! アタシの胸で思うぞんぶん泣け親友っ」
先生がどっか行っちゃってしばらく――ここぞとばかりにアタシはシャルの頭をヨシヨシナデナデしながら頭の匂いを嗅いでいた。この娘バニラみたいな匂いすんのよねぇ~あ~良い匂い。ちなみにアタシにレズのケは無い。
「なぁテッサ……」
「代わらないよアベル」
「いや、それも羨ましいがそうでは無くてな」
アベルがシャルを物欲しそうに眺めてから真面目な顔に切り替えた。
「ユウィン先生の話だ。あんなレベルの相手に苦戦するような人じゃない。どうしちまったんだろうな……っておぉ!」
「あれは自分を傷つけたいって感じの戦い方だったね~ボクに構ってちょ?って感じ」
「先生はそんな人じゃねぇと思うが……胸を押し付けるのヤメてくれないですか白鳳院さん?」
「乳の感触で敬語になってるわよアベル……鼻の下伸ばしたブッサイクな顔で話し掛けないでくれる?」
何か腹立つなぁこの前から何なんだこの気持ちは。
「押し付ける胸の無いテッサは気の毒よね~シャルロットちゃんも痛いんじゃない顔」
「ここで戦り合っても良いのよ? ミコト姐さん」
「べっつに良いけどぉ」
女の戦いが始まるかという時に仲裁が入る。
「やめなさい美琴、テッサ殿」
「おぉっと! い、絃葉様!?」
流石のミコト姐さんも苦手……というか上役か。現れたゼノンの”錆びた釘”絃葉=神無木さんが視界に入った途端、絡めていたアベルの腕を外して背筋を伸ばした。
「絃葉様、本戦出場おめでとうございます。流石というか当然ですが」
「お、おめでとうございます。同じ火の国出身としてウチ……私も鼻が高いです」
「ありがとうございます。リョウ、美琴。でもそんなかしこまらなくても良いですよ? 同じ一傭兵なんですから」
先日の酒に酔って暴れていたエロ絃葉さんとはエライ違いだな……ん? 絃葉さんの後ろに女の人がいるな。
「それはそうとシャルロット殿? この方がお逢いしたいというのでお連れしたのですが」
「ひっく……へ?」
アタシの胸に埋もれてた(埋もれるほど無いが)シャルがどエライバカそう声と顔を上げる。
黒髪パッツンの絃葉先生の後ろからこれまた黒髪ロングのどエライ美人が現れた。表情は無表情だが人間離れした美しさ! というか錯覚でなければ光って見えるんですけど。真っ黒メイド服の女性、な、何者!?
「Dさん!?」
「その黄金のツノ……バハムート=レヴィ姫皇様……?」
『――?』
シャルとサイ君が驚いている。でもちょっと違った、サイ君は自分で発した言葉に驚いている感じだ。
『少年よ……逢ったことがありましたか?』
「い、いえ……小生も何故言葉を発したか……解らない気にしないで欲しい」
サイ君にしては凄く動揺していた。
『Dの真名は確かにバハムート=レヴィ=アユレスですが、今は急を要します。その話は後に致しましょう』
「Dさん何で? いつもは先生の影に居るのに……」
アタシ等には着いていけない話だったのでポカーンとしていたが、この超絶美人はどうやらシャルに用が逢ったらしい。クールな超絶美女はシャルの瞳を覗き込んでこう語る。
『シャルロット、マスタ……ユウィン様の事でお話したい事があります』
「あ……は、はい」
さっき迄その先生の件で泣いていたシャルはちょっと俯いていたが、いざ先生の事となれば冷静さを取り戻し強い意志を思わせる声で応える。しかしこの先の展開は想像出来なかったらしい。
『どうしようシャルロット! アヤノ様は何処にも居ないし、アンリエッタは逢える状態ではないし、Dもどうじだらいいか解らないんですよぉぉ!』
うえ~ん! とか言って急に泣いて地面に崩れ落ちたぁぁぁええええええ!? 当然シャル含め、全ての人間の目が点になって動けなかった。




