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第5話 集う頂きの闘士達

 先にも述べたが現在トロンリネージュでは人間領最大の3国による祭典「世界武闘大会トライステイツトーナメント」を来週に控え、王都全土は過去類を見ない賑わいを見せてる。


 現在会場となるべき本城敷地内にそびえるアリーナ――闘技場に隣接した広場では、各国から既に出場選手が集められ、主催者であるトロンリネージュ皇女、アンリエッタによる労いの言葉が遠路はるばるで向いた選手たちに送られた所だ。

 気候も程よく、肌に小気味良い風の流れる特別広場では豪華な料理が並び、この後来週に控えた大会に向けて、青空の元パーティが開かれる段取りとなっている。

現在お昼の12時であるが、この催しは夜まで続けて行われる予定である。


 演説を終えた皇女の右後方には、傭兵王国ゼノン筆頭であり出場選手でもあるクワイガン=ホークアイが威風堂々たる姿で座しており。

 そしてアンリエッタの左方向、魔法王国カターノート代表アーサー=イザナヴェ=カターノートが腰掛けている。

 その中心に立つ王政都市トロンリネージュ皇女アンリエッタ=トロンリネージュを含め、ルナリス人間領最高責任者3名が一同に介したその姿は、選手一同にとっても見ていて圧巻であった。


 アンリエッタの言葉が終わり外交大臣にして選手、魔導隊カミーユ=クライン第1隊長が高砂の中段より、各国代表選手に言葉を告げた。


「お集まり頂きありがとうございます。今日集って頂いた選手は3国代表の20名、当日は一般参加者含め千名を超える大会となりましょう。5日後の大会を控え、今日は大いに旅の疲れを癒して頂きますよう、細やかでは御座いますが宴の席を設けました――」


 演説を行っている硬い表情の男――この手の外交官の話は長い。

 そう思ったゼノン代表の女子1名が自分の前に立つ男に話しかけた。格好からいって学生であろうか。


「ねぇねぇリョウ? アンタのお父……ジン様は何で出場しなかったの? 優勝間違い無しなのにー」


 何処かエキセントリックな雰囲気を漂わす火の国出身の少女の問いに、「リョウ」と呼ばれた前髪で顔を隠した少年が面倒そうに答えた。


「あのクソ親父がゼノンを離れる訳ないだろ。今頃どっかの馬鹿女とシケ込んでるさ」


「あぁそっか~相変わらず父親嫌いなのねぇ……ゼノンの英雄『白銀しろがね』をウンコ呼ばわりすんのリョウくらいよ?」


「っせ~な美琴。あんな女好きのおっさんが父親とか言われるだけで恥ずかしい思いしてんだ」


 ジン=ヴィンセント――ゼノンの英雄にして錆びた釘ラスティネイル1位の男。クワイガン王が国を離れるにあたって全指揮権を任されるほどの男であるが、どうやら実の子供には好かれていないようだ。

 

 ミコトと呼ばれた傭兵学校次席の少女は、カターノート代表の顔ぶれに視線を送りながらリョウの背中を突いている。


「でもアンタの大好きな母様も参加するのねぇ? さっすがジュニア~」


「俺はマザコンじゃねぇ、あとジュニア言うな」


「でもリョウって、モテるのに言い寄ってくる女の子み~んなフッちゃうから、ゲイかマザコンかって言われてるよ?」


「単に好みの女が寄ってこないだけだ。俺はマリア様みたいな――いや何でもねぇ」


 この前髪の長い少年リョウ=ヴィンセントは、女と見間違える程の綺麗な顔立ちしてその上強い、家系も良いとあって女子生徒に絶大の人気を誇る16歳だ。

 しかし彼はこの中性的な自身の顔を気に入っておらず、長く伸ばした前髪で隠している。


「愛しの母様と当たらなければ良いねぇリョウちゃん? プップップ~」


「お前……話聞いてねぇだろ。20歳以下は本戦には出ねぇよ……国を出る前に聞いたろうが」


「あ、そうだったねっ確か未成年同士で競うんだっけ」


「……つーかお前、火の国出身ならもっと絃葉様みたいに淑やかに出来ないのか」


「いや~ウチが絃葉様みたいにザ・大和撫子代表みたいだったらモテすぎちゃうでしょ?」


「お前さっきからモテるモテないばっか言ってんぞ」


 背中横一文字に大太刀を下げた女生徒、ミコト=白鳳院は、リョウのツッコミなど全く聞かず、周りの男を見回していた。


「ねぇねぇリョウ。トロンリネージュにもアンタに負けず劣らずカッコイイのがいるよ?」


 トロンリネージュ代表の赤髪が特徴的な男子生徒をミコトは気に入った様だ。

 リョウは視線をそちらに向きもせず答える。


「前から3番目がか? ありゃ駄目だ。オーラが弱ぇ。武装を使えるかも微妙な気配だぞ」


「いいじゃんいいじゃん。弱くても顔が良けりゃ~♪――ん? な、何、あの娘! オッパイでっか!」


「オイいい加減五月蝿いぞミコト、お前も傭兵の端くれなら心武装シィを使って話せ」


「ほらほらリョウ見てみなさいって! あの小さい娘すんごいオッパイしてるよぉ? あやかりてぇ~」


 例の如く全く聞かないミコトに嘆息しながら、今度は視線をトロンリネージュに向ける。

 向けた視線の先――プラチナブロンドの少女に、リョウ=ヴィンセントは驚愕した。


(なっ!……い、いや気のせいか……良く見たら全然似てないじゃないか)


 長い前髪を描き上げて凝視するリョウを、ミコトはニヤニヤしながら見ている。


「な~んだ。リョウはオッパイマイスターだったんだ?」


 その言葉に今迄斜に構えていたリョウの顔が真っ赤に染まった。


「バッ――ちげぇよ馬鹿女! 何言ってんだミコトぇ!」


 思いっきり叫んだリョウの声が会場にこだまし――高砂の上で猛獣のような気配を放っていたクワイガン王の叱責が、ゼノン学生2名に雷となって落ちたのは言うまでもなかった。



 ◆◇◆◇



 所変わってここはトロンリネージュ代表の一団である。

 肩まで伸ばしたプラチナブロンドをなびかせて、シャルロットは隣に立っている赤髪の親友アベルに笑顔で話しかけた。


「アベル君、ゼノンの王様凄い声だったね? あれも武装気ブソウオーラかなぁ」


「いや……あれはただ声がデカイだけだろ」


 まだキンキンする耳を抑えながら答えたのはアベル=ベネックス――魔法学園格闘部門の主席である。


「全くアタシも焼きが回ったもんね。アベルなんかに主席を奪われるなんてね」


 更にその隣でやれやれのポーズをとっているのはテッサ=ベル――魔法の成績は中の上だが、先月迄、こと体術に関しては右に出るものは無いトップを貼っていた女性にして、同じくシャルロットの親友である。


「フ…フン……ワタクシだって納得していませんわっ。次席で出場だなんて 我がクライトマンの名に傷が付きますわっ」


 このいかにもお嬢様口調の生徒はセレナ=クライトマン――金髪をドリルのようにロールした重そうな頭をしている。

 言葉とは裏腹に選ばれた事に対して満更でもない顔をしている。ちなみにこの娘はシャルロットの親友ではない。

 魔法部門次席にして、シャルロットのクラスの委員長である。


「セレナぁ……アンタ、ウチのシャルに勝てると思ってんの? 魔力許容量キャパシティどれだけ負けてるか知ってる? オ・ジョ・ウ・サ・マ?」


「あらテッサさん、貧乏貴族が吠えないで頂けますぅ?」


 バチバチ火花を散らす2名の女生徒、テッサとセレナは非常に仲が悪い。

 入学1ヶ月目にして流血沙汰の喧嘩になりかけた過去を持つ。

 しかしそのお陰でシャルロットは皆と仲良くなれた経緯があるので直ぐ様止めに入った。


「テッサちゃん……セ、セレナさん。折角クラスの中から代表に選ばれたんだから仲良くしようよ」


「シャルロットさん貴方は黙って――」


 その迄言ってセレナは言葉を切った。

 シャルロットの胸元を見て硬直する。


「そ、その制服なんですの?……パッツンパッツンじゃありませんか」


「ほえ? あぁこれ? ちょっと制服の上着だけが窮屈になってきちゃって……」


「窮屈ってシャルロットさん貴方……」


 制服の上着だけがキツイ、その一言はシャルロットの胸のサイズがまた上った事を意味する。

 10代半ばとは思えないサイズの肉の塊にセレナは忌々しい視線を送り、テッサは親友の頭にチョプを打ち込んだ。


「い、痛いぃ~ テッサちゃん何で殴るの~?」


「いや何かムカついたから」


「酷いよぉ~」


 頭を抱えて情けない顔でテッサを見上げるシャルロット。

 これで魔法部門主席なんてねぇ。

 親友の小さな体を見下ろしながらテッサは思っていたが、あっ、と何かに気付いて口を開いた。


「アベル、そう言えばユウィン先生は? ここに居ないみたいだけど」


「そう言えば見えないな」


「ボクも今日は見てないよぉ……グスッ」


 まだ頭が痛いのか、しゃがみながら涙目のシャルロット。


「ワタクシも先程から探しているのですが居らっしゃらない様ですわね」


「ん?」


「んん?」


「なななな何ですの? 人の顔見て、ん? って」


 アベルとテッサが、「ん?」と言いながらセレナに近づいていく。

 急に真っ赤になってあたふたするセレナの肩に手をポンッと置いて、テッサは哀れみの眼を向けながら言った。


「セレナ……先生はヤメときな。アンタにゃあ荷が重い」


「なななな何を言ってますの? いいい意味が解りませんわぁ!」


「そうだぜヤメとけクライトマン……先生は既にハーレムを持ってるからなぁ」


 腕を組みながらしみじみセレナに精一杯の優しい言葉を掛けるアベル。

 そんなやり取りを背中越しに笑いながら聞いていた、学生部門ではなく本戦の代表ユーリ将軍が振り返って豪快な笑顔を向ける。


「ガッハッハ! ユウィン殿なら、今日は朝帰りだったようですぞ! そういう意味でまだ寝ておられます」


「「え?」」


 固まるセレナ。

 何故か「流石っす先生……」と男の涙を流すアベル。

 顔を真っ赤に染めているが楽しそうなテッサ。

 1人だけ言葉の意味がわからないポカ~ンなシャルロット。


「実は城中で噂になっておりましてな! 今朝上半身裸でアヤノ様を抱えたユウィン殿が目撃されたようなのですよ。ガッハッハ」


「それでそれで、どうなったんですかユーリ様!」


 ユーリ将軍に想いを寄せるテッサが、彼のスキンヘッドに負けない濃い顔とトークの内容に瞳を輝かせて詰め寄った。


「そんな状態のユウィン殿を訝った侍女が後をつけたようなのですが、失神しているアヤノ様を自室に連れ込んで鍵を掛けたらしいですな!」


「キャーキャー! もしかしてもしかして――」


「どうなりましたの!? それはまさかまさか!?」


 いつの間にかテッサの横に詰め寄るセレナ。

 もしかしてこの2人、仲が良いのではないか? アベルは思った。


「ガッハッハ無論第2ラウンドでしょうなぁ全くお若いことで! ガッハッハ」


「「キャー!」」


 会場にユーリ将軍の豪快な笑い声と、ミーハー女学生2名の声がこだまする。

 演説の最中であったカミーユ=クライン隊長は全く気にもせず淡々と演説を続け、他国の選手は何事かとトロンリネージュの一団に視線を送る。


 高砂にて上品に腰掛ける国家代表アンリエッタ皇女、彼女は自国民の放つ会話の内容と、そのあまりのやかましさに、持っていた合銀の杖を叩き折るのであった。



 ◆◇◆◇



「ねぇフォルスティーヌ、この大会馬鹿ばっかりなんじゃないかしら……はぁ憂鬱」


 自慢のサイドポニーに纏めたピンクの髪をかき上げながら、ルイズ=イザヴェ=カターノートは溜息を付いた。

 さっきから他国の連中が騒ぎに騒いで2度ほど演説が中断している。

 まぁ確かに長過ぎる演説ではあるが、20名そこそこしか居ない中で個性が強過ぎる人間が揃っているようだ。

 魔法大国カターノート代表である彼女は、こんな所に来るんじゃなかった。そんな溜息を付いた。


「ルイズ? 人の上に立つような人間は変わり者が多いもの。そんな事を言ってはダメでしょ?」


「貴方の旦那様みたいに?」


「あの宿六は、馬鹿な上にスケベで金にダラシなくてどうしようもないひとよ?」


 笑顔で答えたカターノート代表の女性はフォルスティーヌ=ヴィンセント――右半身だけ鎧を装着した、長い銀色の髪が特徴的な女性である。

 彼女はゼノン最強の錆びた釘ラスティネイル、ジン=ヴィンセントの妻である。


「フォル貴方……自分の旦那さんには容赦無いのね」


「だって本当の事ですもの。あのひとには一度天罰が落ちればいいと思の……リョウもあの人に似てきたのかしら? 困ったわねぇウフフ」


「……あぁさっきゼノン王に怒鳴られてたの息子さんだっけ? 随分綺麗な顔の男子ね」


「そうなのよ~顔は私に似て綺麗なんだけど、気性と髪の色が宿六に似て真っ黒なのよねぇ~あの子」


「いや……貴方も十分性格真っ黒な気がするけど」


 そんなやり取りをしている間に長かった演説が終わり、そのまま立食パーティの流れとなった。

 巨大な選手達の整列していた後方には、巨大なテーブルに色とりどりの料理が並んでいる。

 要は選手同士の親睦を深めようとの趣向だろう。

 最近は物騒らしいが、いかにも平和ボケしたトロンリネージュ王の考えそうなことだとルイズは思っていた。


 「食べられるものあるかしら? わたし他国の料理苦手なのよね」


 「ダメですよルイズ? 好き嫌いしてたら御祖父様に言いつけますよ?」


 ルイズ=カターノート――彼女はまだ学生の身ではあるが、アーサーの血を最も色濃く受け継いだ女性であり、カターノートでも最も上位の身分階級を持つ言わば本物の王族である。

 故に王国最強の聖騎士であり高い地位を持つフォルスティーヌにもタメ口で話しているのだ。


「ルイズ、フォルスティーヌ……小生、あっち行って……いいか?」


 そこへ今迄、背の小さなルイズの後ろに隠れるように立っていた更に背の小さなマントの少年が口を開いた。


「あらサイ、人見知りで無口な貴方が珍しいわね?」


「あらあら~もしかして気になる異性でもいたのかしら~?」


 聖騎士フォルスティーヌの言葉に、ルイズはプライドの高そうな鼻を鳴らした。


「フォルぅ~サイが女の子に興味を持つわけないいでしょ~? コイツ魔法にしか興味ないんだから」


「うん……小生あのオッパイの大きな娘に……興味ある」


「ね? 言った通りでしょ――ってえええええええ!? おっぱ――ええええ!?」


「あらあら~カターノートの鬼才にも思春期があったのねぇ」


 少年の成長に両手を合わせて喜ぶフォルスティーヌ。

 幼さの残る丹精な顔を破顔させて驚くルイズ。


 マントを頭まで纏った小さな少年、名を「サイ=オー」――魔導研究機関世界一の大国、カターノート魔法学園主席にして、齢16歳で炎の魔力なら大陸一と名高い「炎帝」と呼ばれる天才、魔導の申し子である。

 物心ついた時から四肢が弱く、まともに走ることもままならない為、自身の魔力で身体を動かし生活している。

 被っているマントはその脆弱な体を隠す為――今の今まで他人に興味など持ったことは無かった彼が、生まれて初めて興味をもった人間が目の前に現れた。


 マントに隠れた彼の目線は、シャルロットに釘付けであった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] シャルロットちゃん劇場もさることながら、ユウィンとアヤノさんのことを凄まじく下世話に決めつけるユーリ将軍にとても好感が持てました。こういう人がいると、場面がとても楽しくなって良いですね。今…
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