第16話 追憶編~ 孤独な星のアリア
その昔――魔法因子と科学の力を融合させる事に成功した魔女がいた。
名をイザナミ=アヤノ。
彼女はその力で人類に繁栄をもたらしたという。
アヤノは人類の新たな力――魔導科学をもって創造主の力の一部『ノア』を盗み出し、魔と天に侵されない新世界、月への移住を決行したとされる。
その行為に『月』は怒リ、伝承では6人の魔神王と天使が大群を用いて魔女と人類を滅ぼしたとされている。
しかし実際はその先があるのだ。
イザナミが造り出した『ノア』の力は凄まじく、いかに魔神王や天使でも完全に停止させるには至らなかった。
神の力を持ったイザナミ=アヤノの前に敵はなく、彼女は自らの望みに向かって手を伸ばし――笑った。
そう、月からの使者が舞い降りるまでは――
使者の名は『ルナテック=アンブラ』
月ノ使者はノアを破壊し、人類に罰を与えた。
『ただそう、産まれた世界に、元に戻れ』――と。
それを地上で目の当たりにする二人の人間がいた。
魔導科学に手を染めるアヤノを止めたかった男。
アーサー=イザナギ=トロンリネージュ。
魔導科学をアヤノから受け継いだ女。
リイナ=ランスロットという女だった。
その女はこう思った。
貴女のために、私のために、あの月の使者を破壊しようと。
それから数百年の月日が流れ、黄金の力を持った少女が生まれる。
名をマリア=アウローラ。
彼女の家庭環境は貧困により思わしくなかった。両親は当時10歳だったマリアの超常的な力を恐れ、奴隷商人に売りさばいた。マリアを買い取った女はランスロットとかいう科学者だったという。
研究所ではマリアと同じく年端のいかない少年達と少女達の亡骸達が沢山居た。
科学者の目標は黄金の力を元に『ノア』以上の兵器を造ること。高位粒子体である天使とドラゴンと人間を融合させることにより、新たな生命を誕生させようと考えていた。
その第一段階――戦闘鬼人"曙の女神"――創世記戦争前に魔導科学の母イザナミ=アヤノによって作られた竜機人という強化人間をベースに改良研究されたそれは、体中に呪印と呼ばれる術式を打ち込まれた人工の粒子体である。
マリアは黄金武装気に高位粒子の力を上乗せされた戦闘人形として生まれ変わった。
マリアの記憶を操作し、感情を消し去ろうとした研究過程でランスロット博士は気付いた。
「この娘の因子ってばまさか――――アチシったら大発見じゃんこれ?イヒヒヒヒ」
ランスロット博士は因子の正体を知っていた。
彼女の師イザナミ=アヤノも持っていた。
"権限の力"
この世界に存在する3人の王が1人――"人皇"を守護する権限者の因子。
胸の中心に特別な因子を持ったマリアの精神と黄金の力は、魔導科学をもってしても完全に制御する事は出来なかった。
薬品と術式による洗脳を用いて、意志をある程度操作する事が出来たが、記憶と感情は完全に操作することが出来ず、それ故マリアは残酷な世界を感情のあるまま操られる事となる。
マリアは毎日、両手を血で真っ赤に染め、泣きたい心を押し殺す。
彼女は親を恨まなかった。
悲しくなったら月を見上げ、夢に出てくる男性を思い出す事が出来たからだ。胸の中心から漏れる繋がりをたどって、希望を見いだすことが出来たからだ。
そしていつか出逢えるであろう、自分を救ってくれる男性を想う――その男の掌の温もりを思い出し、涙を堪えてひたすら耐えた。
救いの掌が差し伸ばされる時を願い――戦い、人を殺めた。
そして現在――傭兵王国ゼノンが誇る錆びた釘――その頂点に君臨するマリア姫は思う。
ランスロット博士から自由を手に入れたマリア=アウローラは思う。
天使バラキエルの神気に侵され、昔の自分のように戦闘人形として操られている8人の超人達を目の前にしても尚、彼を想う。
(竜の騎士さんは、きっと私の――)
以前の私と、今の私が求めた掌……きっとあの人の掌を求めて、私は生まれ変ったんじゃないか。
マリア=アウローラは思う。
私はあの人を守れなかった自分が嫌で、今度は力を持って生まれたのではないか。私の為に泣いている、あの人の涙を止めたくて生まれ変わったのではないか。
そうであってほしいと願う。
目の前には8人の錆びた釘達が歩み寄って来ていた。
父を、ゼノン王と自らを殺そうと。
人並みならぬ殺気を放ちながら。
ならば今の私の拳は守護の拳だ。
みんなを守る加護の拳だ。
そうだ、みんなの全部を守ってみせる。その為に私は強くなって生まれ変わったのだから――そうであってほしいと、自分の拳は誰かを守れる拳であると――マリアは願った。
『貴方に誇れる、貴方を護れる拳――権限者であれ』と。
パパと私はゼノン城シネフビャッコ玉座の間にいる。
8人の錆びた釘と対峙していた。
「相容れぬはずの蒼派と黒派が徒党を組んで、俺に殺気を放つか」
『王よ……争いのない世界のため』
『……裁きの雷によって死すべし』
「ボルス、五飛どういう訳だかしらんが、このゼノン王の力を解ってないと見えるな」
『これは聖戦である』
「フン…革命とでもいうか」
私の隣にいる、この国の王であるパパが凄まじい武装気を放って8人を威嚇していた。尋常ならざる闘気、殺気、武装気。そうだ。これはそうだろう。
戦う気だ。
この玉座の間に入ってくるまでに、既に数百の人間が犠牲になっている。
錆びた釘達の足元にも死体が横たわっている。この城を護る傭兵たち。
彼等の気配を怪訝に思いながらも、それを目の当たりにしたパパは心中穏やかではなく、冷静を装っているが今にも飛びかかりそうだ。
「パパ……みんなは正気じゃない。天使の力で操られてるの」
「天使だと? この数百年存在が確認されていない輩が何故我が王都の敵となる」
「話してる時間は無いんだけど……チャクラが結界で縛り付けられているの」
助けてあげなくちゃ。そういう私にパパは頭を振った。
「たとえそうでも相手は8人、手加減など出来ん」
「私が何とかするよパパ……ゴメン!」
ドスッ
私の掌底がパパの腹部に突き刺さる。パパ程の傭兵を気絶させるには使うしか無かった。
「マ、マリアお前……チャ、チャクラを……」
「本当に……ごめんなさいパパ。私に任せて」
武装気《六感特型》
通常武装気では五感覚を強化するとされる。
心武装”シィ”は感覚を。
技武装”アスディック”は感覚を飛ばし、広げ。
体武装”スチール”は肉体そのものを強化する。
これに当てはまらない固有武装気を
特型武装と呼ぶ。
第六感応シックスセンス――
第六感さえも強化する特定の人間にあるオーラの事――パパに打ち込んだのはただの掌底ではなく、人体の力の根源であるチャクラに蓋をしたのだ。
個々で様々な能力があると言われているが、私の黄金武装気は、その頂点に君臨する能力とされる。全ての武装気を通常の数倍に引き上げ、現存する全ての能力を使う事が出来る。
チャクラの波を乱されたパパは気を失い、私は玉座の裏にそっと寝かせた。
(きっと竜の騎士さんが天使をやっつけてくれるはず)
それまで私は8人を足止めする。
私のオーラは人体のチャクラまで目視できる。
昨日感じたあの嫌な感覚、天使の神気が8人のチャクラにへばり付いていた。これは恐らく神気を放つ天使本体を倒さなければ解けない。
『我ら一騎当千、錆びた釘は正義也――』
呪文を唱えるように呟きながら間合いを詰めてくる相手は、人類最強の錆びた釘8人。私は全力で戦うことを決意して構えを取る。体から黄金の霧が立ち上がり、髪の毛が金色に変わる。
そして、全体にオゾマシイ呪印が浮かび上った。
パパを気絶させた理由――この姿を見れば、きっと優しいパパは心配するだろう。悲しい思いをするに違いない。私は知っていた。この呪印は一生消えない。そして使い過ぎれば残りの寿命が食われて死ぬだろう。パパはきっと私を止める。そう判断したから気絶させたのだ。
「止めて見せる!みんなを――行くよっ」
ドドドドドッドド!
私の異常な気配を察知して8人全員が一斉に踏み込み、かき消えた。
(これは)
高速移動技《縮地》からの奥義。
過去に30体もの魔人を一瞬で滅ぼした言われる連携死殺技。
《破軍十星》
瞬く間に全方位からの手刀が私の間合いに入った。
相手は8人――私は1人。
(……また独りになっちゃったな)
独りっきりで迎え撃つ。
救いの手を求め続けた過去を思い出していた。目の前にはお友達のティアちゃんですら殺気を放って攻撃してきている。皆に私と同じ思いはさせたくない。人形から人間に戻してみせる! 竜の騎士さんと私の力で!
そして救いの掌はきっとある。
私は知ってるんだ、人間は所詮独り、孤独に生きてそして死ぬ――だけどっ!
「だけどね!」
「「「なに!?」」」
「掴める掌は温かいんだ!」
ゴア!――黄金の霧が光となって弾け、錆びた釘8人を弾き飛ばした。
超人達と私は再び距離を離して対峙する形になる。全身が焼けるように痛い――体の呪印が鈍く光りを放つ。
さぁここからが本番だ。
一斉に飛び掛かるの不利と見た皆は隊列を組んで一列で突っ込んでくる。
(連携されると……キツイなぁ)
後ろにはパパも居る。後退は出来ない避けることも出来ない。でも私はニッコリ笑うよ? だって君達の本当の気持ちを受け止めるのが、この国の姫としての私の務め。そして届け! 私の思いと覇王の力――皆を救え!
『国家がある限り自由はない。姫、お覚悟を――』
ボルスさん――真面目で優しいパパの友達、ボルスおじさんはいつも、無くならない戦争と貧富に、流す涙の分だけ強くなった武人――3位の錆びた釘。
ヴォボッ!
本気の攻撃だ。奥義「神殺刺」――縮地と対魔人用死殺技の同時技 右目を目掛けて放たれた奥義を完全に捉えて正面から受け止め、蹴り返した。
『お前のその力は努力を積み重ねてきた私への侮辱!』
次は楓さん――火の国出身でティアちゃん師匠。私にも優しいグラマラスなお姉さん。貴方みたいな大人になりたかったな……私呪印のせいで体の成長が止まっちゃったから。 楓さんも私の力を妬んでたんだね……やっぱり私って、ここでも独りだっのかなぁ。
彼女は「武装空道」を使う。離れていても投げ飛ばされる――そう思っている間にオーラに体を引っぱり上げられそうになった。「でもこれくらい!」バチィ! オーラの拘束を瞬時に解いて接近し、腹部に掌底を叩き込んでチャクラを封じて昏倒させた。
『姫殿下、私は貴女と死合いたかった――』
ベルトランさん――トロンリネージュ守護の一族。純粋に力を求めた結果、天使に力を引き上げられたのだろうか……凄まじいスピードで死角から中段突きを放ってくる。
これは対魔人用死殺技「発勁崩拳」楓さんに掌底を打ち込んだ直後、この体勢なら防御するしか無い。このタイミングを見計らっての技。この技は身体内部を爆発させるオーラスキル。――防御も躱すことも出来ない。
ならば!――私はベルトランさんの中段突き目掛けて、それ以上の速度で突きを放った。 ゴキァ!「ぐぬっ」衝撃でベルトランさんの拳がが砕ける。崩拳をそれ以上の崩拳で押し返し吹き飛ばす。
『完成されたシステムは歪を呼ぶ――』
『――人間は失わないと過ちを正せぬ!』
劉邦さん、五飛さん――双子の錆びた釘、無口でお金に悪どい2人だったけど、この国を護るため必至に汚れた仕事を受け持っていた。
そうみんな理想を持っていた。魔人と人間、はたまた人間同士、同じ国でも流派が違うだけで争い、憎み合う。この世界と国と人間に不満を持っていた。天使の救いの光は、そんな彼らの心を救ったのだろう。開放したのだろう――欲を。通常人間が踏み止まってしまう心の壁を破壊したのだろう。
暗部所属の2名は中段突きのモーションで硬直している、私の両足を狙ってきていた――「暗剣」高速移動から敵を両断する技。それを私は上半身の捻り、回転だけで上空に飛んで躱した後、2人を回し蹴りで吹き飛ばした――あと3人。
ドドドドドドドッ――!
「ぃ痛い……」
無数のオーラ弾が私に直撃した。これは「狙弾武装気」だ。気を遠くに飛ばす狙撃用高位オーラスキル。私のフルパワーの黄金武装気を貫通してきた。流石錆びた釘だ。
イワンさん、アルベルトさん。
天使の与える救いは自らの心を開放させる。でもね?それは他人から与えられた意志。人は独りで決断し、行動するから強くて尊いものなんだ。他人から与えられた力や意志なんて、本当は悟ってない――解った気になってるだけだもん。
更に弾丸を打ち込もうとする2人に私は掌を掲げる。その瞬間2人の動きが止まり、そのまま吹き飛んで壁にめり込む――これが楓さんからコピーした私の能力の1つ。――武装結界「境界の手」半径10キロに張った索敵武装気範囲内の対象に干渉できる能力。
この近距離なら気絶させる位の威力を出せたはず。
後1人――ティアちゃんだけ。
『アンタさえいなければぁ――!』
「くっ……ティアちゃん」
彼女は高速の手刀を乱れ打たれる。
速い! 何てスピードと威力。
一撃一撃に凄まじい迄のオーラが込められていた。
『アンタが嫌いだった! いつもアタシの前にいるアンタが!』
「うぅぅぅや、やめてよぉ……ティアちゃん」
一言一言、一発一発に言霊、意志の力が乗っている。オーラを通して私には解るんだ。これはティアちゃんの本心――友達の私の為に、自分の中に抑えこんでいた感情だ。
「アタシは必死に努力して若手最速でラスティネイルになったんだ! 裕福じゃない家に生まれたから兄弟達の為に一番早く家を出た!」
「ぐっ、く、――は、やい鋭い――通常武装気でここまで……」
「通常? 普通! そうさアタシは凡人だ! アンタは良かったわよねえ! 生まれながらに何もかも持ってて! 女一人で生きるのがどれだけ辛いか!? 女一人で生きていくのに、どんな怖い思いをするか知らないでしょーが!」
「わ、私だって、私だって……そんな言い方……」
「御自慢の黄金も反撃できなきゃただのピカピカ光る汗臭い霧じゃないさ! 憎い憎い憎い生まれながら綺麗なアンタが憎い! 強いアンタが憎い! アタシ――アタシハ――」
こんな力が皆は羨ましいの? 強い力を持って生まれて良かったことなんて……今迄生きてきて一度だけだよ? 竜の騎士さんが、ありがとうって言ってくれた。アノときだけ――
でもティアちゃんの感情――これはどちらかというと。
「アタシは汚れてしまった。……汚いアタシが、嫌い」
「テ、ティアちゃ――――くっ!」
――どかがががががががががが!
ティアちゃんは攻撃の手を緩めない、私に攻撃の間を与えない気だ。
(痛い……心が痛い……)
彼女の拳とオーラから伝わってきた激情――『お前さえいなければ! お前さえいなければ! お前さえいなければ! お前さえいなければ! お前さえいなければ!』
(ティアちゃん迄……嫌だよぉ……)
――お前さえいなければアタシハこんな惨めな思いをしなくて良かったのに――
反撃できなかった。
始めての友達だったのに……やっと出来た友達なのに。
「お前なんて生まれて来なければ良かったんだ――消えてしまえ黄金!」
「――――」
ガキん!
手刀と拳が重なった。
ドクン……
私の中で音がした。
それは最も聞きたくなかった言葉――ママが商人に売られていく繋がれた私に最後に言った言葉。人間じゃないモノを見るような眼で言った言葉。――違う。――私は生きている。違う――私は人間だ。望まれなく生まれてこようと、多くの人間を殺めてこようと、血の通った人間だ。生きたい――生きたい。そしてもう一度あの人に逢うんだ。あの人の顔を正面から見て言ってやるんだ。恥ずかしいけど伝えるんだ。
「私は貴方を愛しています」――そう決めたんだ。だから死ねない――死んであげない。絶対に――死んであげない!――例えそれが、たった一人の友達の頼みだとしても。
ドクン……
私の意志に呪印が反応した!? し、しまった! ダメ……これ以上は……意識が保てない。も、もしこれ以上呪印の力にのまれたら……
「消えろ消えろ消えてしまえ金色の光!」
ティアちゃんの手刀――渾身の貫手が私の心臓に迫っている。凄いオーラ量の突きだ。いくら私の武装気でも貫かれちゃうかな? 私の意識はもうろうとして途切れ出し、体中に浮かび上がる呪印が発光していた。
(それを言っちゃお終いだよ……ティアちゃん)
ティアちゃんの手刀が止まって見える。
呪印からどんどん力が溢れだし、それに呼応するように黄金の光が玉座の間全体に発光している。
「死んでしまえ――化け物ぉ!」
「死ぬのは――ティアちゃんだよ」
正気を失った私は笑っていた。
そんな遅い拳でっ! 私を! この「金色の悪魔」を倒せるとでも――
「思っているのかぁ!」
ズオォ! 私の心臓に迫る手刀の5倍近いスピードで抜き手を放った。
魔導科学の鬼才、ランスロット博士が打ち込んだ呪印術式は、憎悪と闘争本能に反応して気を高める。完全に力に飲み込まれ正気を失った私の貫手は、ティアちゃんの左目を狙っている。このまま行けば即死だろう。
その時、体の内側から声が聞こえた。
《ありがとうな……マリア。俺を助けてくれて》
私をオンブしてくれた、あの人の温もりを思い出した。
(嬉しかったなぁ……笑ってくれて)
疎まれて、嫌われ者で、独りぼっちの天涯覇王の力でも……あの人を助けられた。
(あれ? あの人の気が……)
私の展開していた索敵武装気が、10キロ先の平野に居る竜の騎士さんの身体の異常を察知した。
(い、命の火が……消えかけてる)
それと同時に天使の恐ろしい力が膨れ上がっていた。あの神気に抑え込まれて反撃できないでいる。
でもここは10キロも遠い王都、この前みたいに抱えて逃げることも出来ない。このままじゃ死んじゃう? あの人が死んじゃう? そ、そんな事――
「ダメエェェェェェぇぇ!」
瞬時に正気に戻った私は、ティアちゃんに放っていた貫手の軌道をずらして掌を天に掲げた。
月の女神様お願いです。私はどうなっても構いません。
残りの命を全部使ってもいいですから
私、死んじゃってもいいですから
あの人を殺さないで、お願い――
「届いてぇ!? 私の黄金武装気!」
金色の柱が天を貫いた時――私の胸に、友達の手刀が突き刺さった。
いつも夢に出てくる女の人がいた。――魔人から愛する男性を護って死んでしまう女の人がいた。
私とソックリなあの女はいつも泣いている男性を見上げる。
私とソックリなあの女は、いつも私と重なった。
何となく解った。
きっと私の黄金の力は、あの女の人から貰ったんだ。
男性はいつも泣いていた。
私を見ていつも泣いていた。
きっと私は、この男を守って一度死んだのだろう。
夢の中の男性……いつも私の為に泣いてくれる貴方に思った。
ごめんなさい。
きっと私は彼をこの先、苦しめてしまうだろう。きっと私達は、貴方に消えない傷を作るだろう。
でも私達は、その人にそれでも生きて欲しかったんだ。
男性のお顔は見えなくて、いつもそこで目が覚める――
名前も顔も解らない灰色の髪の人だった。
でも私はあの時思ったんだ。
噴水の前で笑ってくれた、あの時思ったんだよ?
あの時私は、貴方の笑顔に私は――
『あぁ、この人を護って死んで良かった』
何故か、そんな事を思ったんだよ?
始めて逢ったのに……可笑しいよねぇ。




