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第7話 創世記の魔女と王

 魔法王国カターノート代表アーサー=イザヴェ=カターノート――彼は860年前火の国で誕生した。

 アーサーの当初の名前は、伊邪那岐イザナギ大和ヤマト――彼は膨大な魔力と身体能力を持って生まれる。

 不思議な力を持った大和を民衆は神の降臨だと担ぎ上げた。


 俗に創世記と言われる世界が始まった当時、人類にとって地獄の時代であり、人間は魔人の餌だった。陵辱され、殺され食われるだけの餌。そんな魔人に苦しめられる民衆を救う為、彼はある研究に打ち込む。


 武装気ブソウオーラ――大和の開発した人体強化術と、火の国でのみで発見された鉱物「火廣金ヒヒロカネ」の武器を精製量産し、対魔人用死殺技「魔人剣」を生み出した。



 ユウィンの師、イザナミ=アヤノ=マクスウェル――彼女もまた900年前火の国で生まれる。当時の名前は、伊邪那美イザナミ綾乃アヤノ、彼女は大和とは違い、ずっと独りできりで生きてきた。


 そんな彼女に手を差し伸べたのは月読命ツクヨミ 秋影アキカゲ――アヤノを愛し、変えた男――秋影を心の支えにして長年の研究に打ち込んだ綾乃は、ある結論に達する。


 魔法因子核リンカーコア――綾乃の生まれながらに持つ不思議な力は、特定の人体にある因子の力であった。


 彼女は民衆を魔人から救う為、因子核から外部へ演算投影して放つそれを「魔法言語」と名付け広めたいと思った。



 その2名が出逢うのは必然だったのであろうか――


 魔人を追い大陸を渡った大和は、現在のトロンリネージュのある小さな集落で綾乃と出逢う事となる。

 イザナギの開発した人体強化術「武装気ブソウオーラ」と「魔人剣」――イザナミが発見、研究した魔法因子核リンカーコアから変換される力、「魔法言語」――この2つの力により、人類は一度魔王軍に勝利する。


 初代魔王レッドアイ魔王赫核アルターコアに迄退化させた綾乃は、理由があり核の完全破壊を行わなかった。大和もその理由を知っていた為、綾乃の決定に黙って従った。


 伊邪那美=綾乃と伊邪那岐=大和の2名は、集落だったそれを国家に迄成長させ、大和は現地の先住民になぞり「アーサー」と名を変え、王となる。


 人類初めての国家トロンリネージュの誕生であった。





 そんな二人は歓迎祝賀会の夜、数百年ぶりに母城の屋上で顔を合わせた。


「久しいなアーサー……随分老け込んだじゃないか?」


 蒸留酒の入ったグラスを傾けながら、アヤノ=マクスウェルは目の前にいる白髪の老魔法使いに皮肉っぽい表情で話しかけた。


「アヤノは相変わらず美しいのぉ……ほっほっほ」


「フン……世辞を言う仲でも無いだろうが。普通に喋れジジイ」


 その言葉にアーサーは眉を寄せる、彼の周囲に浮遊している本がページを捲った。


「フム……人格が2つに割れたという噂は本当じゃったんじゃな……君の事は何と呼べばいいかの?」


「どうでも良いが……アヤノからはマクスウェルと呼ばれている」


「そうか……アヤノはワシと話したくは無いか……」


「その様だな」


 二人の間に沈黙が訪れた――しばらくして酒を一気に飲み干しながら、アヤノが口を開いた。


「アーサー……ワタシの弟子にいらん事を吹き込んでくれた様だな」


「ほっほっほ……ユウィン君じゃな……いかんかったかの?」


「イケナイね……アイツには何も言うな――お前とてただでは済まさんぞ」


「ふむ……本当にそれで良いのかのぉ……不憫でならんのではないか?」


 アヤノは黙っていた――心なしか表情が暗い、そんな彼女に気を使ったデバイズ「アキ」がスカーフの姿を丁寧に曲げてグラスに酒を注ぐ。


「ワタシ等はもう何もする気は無い、傍観者だ……もう関わらん」


「もう600年にもなるというに、まだ引きずっておるのか……秋影君と方舟の件を……」


「チッ……そんな事では無い……飽きただけさ」


 秋景と方舟、その言葉にあからさまに美しい顔を歪めるアヤノをアーサーは見逃さなかった。


「では何故ユウィン君を育てた? 何故巻き込んだんじゃ……彼を見殺しにすれば、この世界は自然に終焉を迎えたかもしれんのに……」


「相変わらず良く喋るお節介な奴だ……」


「それに知っていたんじゃ無いのか? 彼が下法を受け入れるのを……」


「さぁね……あの馬鹿弟子が勝手にやった事……そして勝手に悩んでるだけの事さ」


「もしかしてだとは思うのじゃが、秋影君の代わりを造ろうとしたのかの?」


 アヤノの周囲の空間が歪み、青緑の粒子が立ち昇る――


「黙れアーサー……昔馴染みだから我慢してやっているんだ……」


「そうじゃないにしろ……君が導いていればユウィン君の想い人、マリィちゃんの権限も発動し救えたはず――」


「黙れと言ってるのに……」


 ……ガシャン……


 アヤノの持つロックグラスが粉々に砕け散り、蒸留酒の葡萄の香りが夜空に消えていく――


「――世代が代わり、彼女の意志を受け継ぐもう一人の権限者……覇王マリアちゃんもまた――」


「アーサー! それ以上言うと……殺す……」


「権限を放棄した君の責任であり罪じゃ……メインユーザーに逆らった所で何も変わりはしないと――」


 ――ズィドン!!!!


 アヤノのDOS「カラドボルグ」が炎を巻き上げ、アーサーに直撃する!

 城屋上を形成しているレンガが高熱により白熱化し、融解を初め蒸気が発生していた。

 その炎の中でアーサーは何食わぬ顔で話を続ける。


「ワシが老いた事を知って攻撃してくる……相変わらず君は優しい……」


「ロンゴミアント……胸クソ悪いデバイズだよ……全く」


 アーサーの持つ2冊の本DOS「ロンゴミアント」は真理の本――対象者の心理を読み解きマスターに伝え、記憶と魔法粒子やオーラを吸収保管する。


「ワシも老いた……そろそろ転生を迎えるやもしれぬ」


「相も変わらず不自由な能力だなアーサー」


 オーラの開発者アーサーの体に宿った武装気ブソウオーラの特性「賢者の石エリクサー」は、自身が死んだ際他者に転生する能力――彼はこの能力で860年の時と知識をデバイズと脳に吸収させ続け生きている。

 彼は知識を伝えるものとして設定された宿命を持つ者――アヤノと同じくして死ねない運命を持つ。


「アヤノ……君はずっとその姿のままじゃ……それ故不憫でならぬ、ずっと愛した男の感触を憶えたまま生きていかねばならん」


 アヤノは知ったような口を利くな、そんな顔で口元を歪めて口を開いた。


「フンッ……アーサーお前は月が美しいと思ったことがあるか?」


 アヤノが夜空を見上げた。


「あの日からは……思わんの」


「ワタシもだ……知ってるか?伝承では昔、天使の大群と6人の魔神王が世界を滅ぼしたとされていると――」


「無論じゃよ……しかし違ったの……最後に君の方舟を滅ぼしたのは――月の使者――」


 アヤノは心底忌々しそうに月を見上げる。


「ワタシは権限の力で全てを知っていた……天使や魔神なんぞに負けるような船は造らんさ……だが『ノア』は破壊された」


「君が魔導科学とメインユーザー権限の一部を書き換えて造ったのだからの……」


「ルナティック=アンブラ……あんなモノが居るのなら、ワタシ達の生きている意味なんて無いじゃないか……」


 アーサーはアヤノの悲しむ顔を見ていた、過去に愛した男の言葉を一心に背負い、強く生きようとした彼女を見てきた。

 その過程で対立し、自分と一度戦った事もあった。

 彼女はこの世界から逃げ出したかった――月に希望を見出し、移住を決意した日々を誰よりも近くで見ていたアーサーは、そんな彼女を悲しそうな顔で見守る。


「アヤノ……」


 アーサーが口を開いた時、アヤノの気配が変わった――人格が代わったようだ。


「アヤノ……出て来てくれて嬉しいわい、昔を思い出すの」


「アーサー?ユー君は何も知らなくていいの……偶然にもメインユーザーの呪縛から開放されてるかもしれないんだ」


「なんじゃい……アヤノ迄ユウィン君か……久しぶりに逢ったというのに……」


「茶化さないで聞いて!」


 アヤノはさっき迄の重圧的な態度とは一変して、愛らしい表情と態度でアーサーにプンプン怒っている。


「言いたい事はわかっとる、じゃがそれでは後2名のプレイヤーが入ってきた時、太刀打ち出来んじゃろう」


「アイツ等はユー君を見つけられないはず……だからきっと隠れていれば……」


 健気にユウィンの事を思い、泣きそうなアヤノに頭を振るアーサー。


「無理じゃよ……彼はきっと戦う……君は知らないじゃろうがユウィン君はやっと生きがいを見つけたのじゃ……アンリエッタちゃんを護るという生きがいをの」


「感情と力を半分なくしても……アイツを護るっていうの?」


 アヤノが涙ぐむ、アーサーのデバイスがパラパラめくれた。


「君の気持ちは分かるがの、待てど暮らせど彼は戻ってこなかった……そして予期せぬ影王との接触……だから君はここに出向いたんじゃろう?」


 その言葉に急速に顔を赤らめたアヤノが、目を見開いてアーサーを睨んだ。


「だから……出て来たくなかった! だからお前は嫌いなんだ!」


 何でも解ったような口を利くお前が! ほっといてよもう。

 涙を流して訴えるアヤノに、アーサーは俯いた……彼女には迷いがある、取り繕っているが本当は彼を救ってやりたいのだろう――この世界から逃げることも出来ない、という事はこのゲームに勝つしか無い、しかし自分のせいで希望の船ノアは失われてしまった。

 人類の勝利の可能性が失われてしまった。


 彼女を救えるのは彼の弟子であり主王マスター、ユウィン=リバーエンドだけだ、ワシは伝える事しか出来ない。

 なんて無力な人間なのだろう――そう思った。


(残る人類の希望は七つの鍵セブンバンドのみ)


 しかしそれすらもアヤノがこの様子ではままならないか……。

 アーサーの苦悩に反応したかのように、アヤノの気配が再び変わった。

 彼女の涙が止まり空を見上げ、恐ろく明るい月の光を浴びている。

 アーサーも視線を追って天を見上げた。

 この世界は地獄だ――救いなんて何処にも無い。


 このままではこの世界の生物は――餌を与えられず水槽に入れられたザリガニの様に、最後の一匹になるのを待つのみなのだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 滅びの定めを知りつつ生きるというのも酷なことですね。その上で何百年も生きてきた、という人の心情や考え方はもはや想像するしかないという。知っていてもなお、過ちを犯すという人間性の常も垣間見え…
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