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第6話 追憶編~ 黄金覇王へ贈る歌

過去編です。

謎の脳筋貧乳娘、マリアちゃんがヒロインのお話

挿絵(By みてみん)


 

「ご、ごめんなさい」


 マリア=アウローラと言ったか。

 噴水に腰掛ける俺に引きつった笑顔を向けるのは。


「まさか首の骨が折れるなんて……」


 正直な所、ゴメンで済むダメージではない重症である。全身打撲に体中の骨がバキバキに折れている最中なのだから。


「俺じゃなかったら死んでるぞ」


「う、うん良かった生きてて。ごめんね…い、痛かったよね」


「当たり前だ」


 全く、助けた女にボコボコにされるとは良い経験をさせてもらった。しかし世界なんて殆ど回ったと思っていたのに、まだ知らない事はあるもんだ。俺がこんな小さな少女に喧嘩で負けるとは――対するこの女はかすり傷ひとつ付いていない。

 元々傷付けようなどとは思ってないから、峰を返して小太刀は持っていたが使う暇なんて全く無かった。――とんでもない強さ。いや、武装気ブソウオーラの持ち主だこの女。――黄金色のオーラ。噂に聞いたことがあるが、これが数万人に一人が覚醒するという特型オーラというヤツだろう。


「ご、ごむぇん」


  半泣きでゴニョゴニョ何か言ってるこの小さな女に俺は負けたのだ。――速い、重い、硬い、鋭い。正に完全敗北だった。――こんなにされたのはアヤノさんの家から出て初めての事だ。

 この女――マリアは黒髪を揺らして俺の体を無駄に、ヨシヨシ撫でて「痛いの飛んで行け~」とか言っている。

 調子の狂う女だ、そんな所もマリィにソックリで気分が悪くなるな。


「離れろお嬢ちゃん……もう殆ど治った」


「え、痛いの飛んでけ効いた?」


「んな訳ねーだろ魔法だ」


「ははは……だよね」


 乾いた笑いと共に表情を引きつらせながら、女はまだ俺を擦っている。鬱陶しい女だな全く……。


「もう良い、触るな」


 俺はマリアの手を振り払った。

 そのまま立って服の埃も払い、珍しく高ぶった気分を落ち着ける。


「で、何だったんだ」


「ん、何が?」


「……マリィちゃんが強いとか何とか」


 女はそんな事言ったかな? 的な顔をしている。

 この馬鹿女一体何なんだ。――俺にはない筈の感情が湧き出るような衝動にかられる。

 そこでマリアが武道を嗜む人間とは思えない小さくて可愛らしい手を打った。ようやく自分で言ったことを思い出したようだ。


「えっとね? 悩んでる時は思いっきりブン殴るのかブン殴られるかした方が良いかなって」


「お前は野生の虎か何かか」


 馬鹿にしたつもりだったのだが、この女は頭に手をおいて照れていた。誉めてねえし何故照れる。


「気が済んだか……じゃあな」


 俺は再び街道に足を向ける。――この国にはもう用がないのだ。手がかりも無ければ狩ろうとしていた魔人も見失い、正直なところ俺には此処にいる目的がない。


「ちょちょちょっと待ってみませブ……待って!」


 噛んだな……また呼び止めるし。


「何だ……まだ殴り足りないのか」


「そそそうじゃなくって」


 振り返ってみたらマリアという女は俯きながら手を上げている。


「じゃあ……何だ」


「あの、その、ほんと、あ、ありがとうね……助けてくれて」


「はぁ?」


 路地裏で助けた件についてだろうか? だが、正直こんなに強いなら無用の手助けだっただろう。


「私、私ね? 助けられたのって……初めてだったの」


「……あぁ」


 成る程な。そらまぁそんなに強ければ無いかもな。俺はそんなことを思って彼女を見ていた。彼女は俯いて視線を合わせない。


「あぁそりゃどうも……もういいか?」


 俺は再び踵を返すが、マリアが意を決したように顔を上げた。


「ご、ご飯!」


「次は何だ」


  訳がわからん。


「ご飯連れってって欲しい!」


「断る」


「じゃぁ街を歩く!」


「一人で行け」


「じゃあじゃあ格闘技観戦!」


「お前が出ろ」


 う~う~言いながらマリアは涙を貯めてこっちを見ている。

 何がしたいんだこの女は。――と、思い顔を上げたマリアの顔に釘付けになってしまう。


(似ている)


  本当に似ているマリィに――生き写しのようだ。

 でもまぁ……アイツは体小さかったが大人だったからなぁ。こんなガキじゃなかったか――胸もうすらデカかったしなぁ。

 目の前の半泣きになっている子供、マリア=アウローラとか言ったか……こんな子供に俺は負けた。


 ……プ……クク……


「お前……年いくつなんだ?」


 俺が気を落ち着かせて目の前の子供に聞いた。


「16だけど……何で?」


 16だと。

  10歳位に見えるな、そう言えばマリィとも兄妹か親子に間違えられた事があったっけな。


「そうか……16ねぇ」


「何々?」


 ……クククッ……


 俺は失礼ながらこの女の上から下までを視線でなぞった。


 容姿――幼い。

 胸――ない。

 くびれ――殆どない。

 足――微妙。

 背丈――150センチ位。


 無いな……女を感じる所が全くない。

 どうも俺は小さい女の巨乳っていうのに魅力を感じる傾向があるが――この女には無いな――無い。

 だけど――。


「貴方……何か失礼な事思ったでしょ」


「いいや」


「何よぉニヤニヤして~ヤラシイなぁ」


 ヤラシイだって?

 そう言えば、もうひとつあったな見る所――


 腕っ節――俺より強い。


 こんな幼女に昔の女に重ねて、数人の男に絡まれている彼女に一目散に駆けつけて助けた。

 その女に八つ当りして返り討ちにあい、幼女に負けて公園で俺は拗ねている? 彼女に呼び止められことごとく足を止める俺――あぁ……なんだろうな、寂しかったのだろうか――そんな感情が俺にあったのだろうか。


 まてよ。今ニヤニヤしてって言ったか? 俺の表情――


 俺はいつ以来だろうか――本当に――覚えていない程過去のことか――


 自分でも解らなかった――声を出して――笑っていたんだ。



 ◆◇◆◇



「ムフフフ」


 気持ち悪い声が聞こえる。――ティアレス=ベルは隣の浴槽で湯浴みする親友、マリアに怪訝な眼差しを送る。

 錆びた釘ラスティネイル専用の浴槽で、厳しい稽古の後で出るような声ではない。

 実際、ティアレスはお昼に食べたご飯が全部出るかという程、気分の悪さを感じていた。


「何よマリィ気持ち悪いんだけど……」


「え、何? ティアちゃんムフッ」


「その笑いがキモいって言ったの」


 アタシはティアレス=ベル――ティアって呼ばれてる。

 この娘はマリア=アウローラ――マリィって呼ばれてる、10年位前アタシ達の酔狂な王様が敵地から拾ってきた女の子だ。

 アタシは気にしてないけど一応この国の姫って事になる。

 元々はトロンリネージュの人間らしい白肌、銀色の髪、エメラルドの瞳で、アタシはこの娘の親友をやっている者だ。


「聞いてくれりゅ~?」


 気持ち悪いなこの女……何なんだ。


「やっぱりイイや」


「聞いてよ~ティアちゃ~ん」


「だってキモいし」


 どうせまた街に出た時のそば粉クレープが美味しかっただの、軍鶏の焼き鳥が美味しかっただのそんな事だろう。

 隣のバスタブでニヤけるマリィの未成長な胸と自分のを確認し、勝利に酔いながらアタシは親友の返答を待った。


「えっとね?…ムフ…実はね…フフ…」


「やっぱりイイや」


「喋るから惹かないで! ティアちゃん」


 この娘とは上位傭兵になってからの付き合いだ――1年位かな?アタシは22、この娘は16歳、何故か気が合って友達をやっている。

 どうせまた鶏モツの味噌煮が旨かっただの、みたらし小餅が旨かっただのそんな話だろうし。


「実はね――男の人に、ご飯連れてって貰ったんだ?」


「はぁぁ……アンタが男と?」


 この娘は何言ってんだ妄想か? このゼノン王国でマリアに近寄るような男がいるはずがないでしょ。


「それもゼノン屈指の銘店アエイペペラだよぉ~?」


「銀の匙に!? 超高級店じゃんお寿司の」


「私100皿食べたんだけどね? その人も100皿食べてくれたのぉ」


「何者?……その男……」


 美味しかったなぁとか目を輝かせている。妄想と思ったがそうでも無さそうだ、しかし高級寿司屋で200皿って……とんでもない額イったんじゃないだろうか。


「私がメチャクチャ食べるって解ってから食べてくれたんだよ~」


 へぇ……中々男気のある男じゃない。

 聞いてる感じ若い男じゃないのかな?


「何処の誰? そんなにお金持ってるなら錆びた釘ラスティネイルじゃ無いでしょ」


「うん、旅の剣士って言ってたかな? でも魔法も使えるんだよぉ凄いよねっムフフ」


 胡散臭キモい! 一応アンタはこの国の姫なんだから何処の誰とも分からない浮浪者に着いて行くなんて……魔法使い?オカシイな今ゼノンでは魔法因子持ちの入国は制限が掛かっているはず、ただの旅人なんて入れないと思うけど。


「本当に魔法使いだったの?」


「制限の事?多分大丈夫だったんじゃないかな?見た目剣士さんだから」


「じゃぁアンタは何で解ったのよ」


「視えたの」


 成程、この娘の特殊な武装気ブソウオーラか――マリィのオーラは異能中の異能だ。過去に確認されていない金色に輝くオーラを持って生まれた。

 ここの連中は、その特殊な力を持つマリィの気を『覇王の武装気』と名付け、段階をすっ飛ばして錆びた釘ラスティネイル1位に任命した。

 そして唯一無二の能力に、付いた字名が『天涯』、本人は可愛く無いと物凄く反対したが、偉い方々が勝手に押し切ったみたいだ。

 この気には未知の特殊能力があり、空気中の魔法粒子や人体の気を形成しているチャクラ迄も目視することが可能だという、更に全方位極型武装気と言われ、自身のテンションによって通常武装気の数十倍の力が出せるらしい。

 正に無敵。――天涯覇王マリア=アウローラ――アタシの親友だ。


「何歳位の人?」


「それが良く解かんないんだよね。こんな事初めてだよ……でも見た目は30歳位かな」


 人体のチャクラを目指できるこの娘が、肉体年齢を読めない人間なんて居るのか……でもまぁ……。


「幼児体型のアンタをねぇ」


「な、何よぉ~何でそんな目で私の体を見るの~?」


 ペッタンコだこの女、ロリコンじゃなかろうか……危ない奴じゃなきゃいいけど。


「気を付けなさいよ? 最近この国では妙な事件が多いし、魔人が入り込んでるって噂もあるしね」


 まぁこの娘の強さなら大丈夫だろうけどね。


「うんありがとう! 私の心配してくれるのはティアちゃんだけだよ」


「ハイハイ……で? その男とは次いつ逢うの?」


「へ……えっとね……実は今日の夜……」


 夜!? コイツめ……幼児体型のくせに女になって帰ってくる気じゃなかろうか? 急にモジモジしだした。

 この女の正体を知って牽かれないといいけどね。


「てゆーか、アンタ何で今日初めて逢った男なんて好きになったの? 古風ね」


「好き!? 好きとかじゃ……わかんいけど」


「いやいや……好きでしょそのリアクションは……」


 幼いなぁコイツ、まぁそこが可愛くて好きなんだけどね?


「えっとね? 寂しそうだった……からかな」


「同情? 母性本能? 似合わないねマリィに」


「ひ、ヒドイ事言われてる気がする」


 言ってんだけどね。まぁ一応この娘も女の子だったのか。


「前から知ってるような……変な気持ちがしたの……胸の中心が熱くなったの」


「それが恋っていうんじゃないの?」


「そうなのかな……でね? 昔の恋人に私が似てるんだって」


 うわぁ……アタシならそれ言われた瞬間蹴るけどな、まぁこの娘がそれで良いならいいけど。


「私もそんな気がしたの」


「アンタも?」


「うん……どうにかその死んだ恋人さんを良い思い出にしてあげたくて、色々考えたんだけど……ダメで」


 何と死んだ……恋人か……重いな。


「私に出来る事ないかなって」


「それは……キツイよ?……子供のアンタに出来る事といえば……」


「うん……だからどうしても一度戦って見たくなって……その昔の恋人さんと……」


 アレ? 何か変な話になってきたな。


「だから思い切りその人と打ち合ってみたの」


「死ななかったの!? その男」


 凄い事だぞそれは……ゼノンの覇王相手に生き残ったのか。


「う、うん……でも首の骨が折れちゃって」


「死んでないそれ?」


「でもすぐ治ってた」


「人間じゃなくない?」


 魔法使いとか言ってたけど魔人なんじゃなかろうか大丈夫か?


「怒らないのその人……言葉は冷たかったけど」


「それはそれで凄い人間ね」


 首の骨折られたのにね。


「でも……最後に私を見て笑ってくれたの……」


「ノロケかい!」


 アタシが完全にツッコミ役に徹している内に、再びこの女はムフムフ言い出した。

 あぁもうノボセた……お風呂が余計に熱く感じたわ。


「じゃあマリィ、アタシは先に上がるよ――」


「え? じゃあ私も――」


「アンタはもっと洗っといた方が良いんじゃない?」


「へ?」


 女同士だけど前ぐらい隠したら?直立不動で呆けているそんなマリィに、アタシはちょっとヤラシイ笑顔で言ってやった。


今夜の・・・為にね?」


「そそそそっそんなことしないモン!」


 お全身をお真っ赤にされた幼児体型、マリア姫のリアクションを楽しみながらアタシは浴室を後にする。

 浴室の扉を閉めてアタシは急に虚しくなった。

 アタシは21歳で上位傭兵となり、今のランクは10位――これは歴代ラスティネイルでも最速と驚かれた。

 だけどマリアの武装気が特殊だと発見された年、私の後で彼女は15歳で1位に任命された。

「居るんだこんな天才が」そう思った。


 天に愛されて生まれてきた女――


 アタシの親友のマリア――


 好きな男が出来たくらいで舞い上がってしまうマリア――


 色気なんかなく食い気ばっかのマリア――


 何であんな女が強いんだろう? アタシに劣等感が無いと言えば嘘になる。

 でもあの娘は良い子だ――この感情は押し殺そう。

 アタシはあの娘が好きだ、良い関係を続けよう。


 アタシの字名は、流派クンネ『雫黒ダコク』――天から落ちてしまった雫は、一生天を見つめるしか無いんだ。


 この時はまだアタシ達が、本気で殺し合うなんて――


 思いもよらなかったんだ――



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― 新着の感想 ―
[良い点] ティアちゃんが読んでいて本当に可愛いらしいですね。何やらダークですが。可愛さはまた別のことで。ちょっと欠けているというか、歪んでいるかぐらいの人物像には好感が持てます。鬱屈していない、屈折…
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