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第18話 魔人殺し

 

 アンリエッタを無事送り出したクロード=ベルトランは覚悟を決める。


「クサナギ部隊が戻ったのは大きい。ムラクモ部隊のリアも上手くやっている。しかし……まだ足りない」


 十八体の魔人と四十もの使徒を相手に、援軍が来るまで食い止めるのは至難。そして最も厄介と言えるのが無数に湧いたアンデットである。このままバイオハザードを捨て置けば、例え勝利したとしても国を立て直すのが不可能となる。


(おっといかんな……悪い癖だ)


 執事は上がりそうになっていた口元を抑える。


(結界破りの死殺技は大量にオーラを消費する……放てて後三発が限度)


 今この王都で魔人と渡り合える実力者は自分とリアとユーリ将軍くらいのもの。一人三体倒せたとしてもまだ足りない。だが、この執事は決めている。


(例え死兵となっても、このクロード=シウニン=ベルトラン。必ずや城門を死守して御覧に入れましょう)


 第一騎士隊とユーリ将軍が戻っても魔導士が圧倒的に少いこの状況。劣勢はそうは動かないだろう。


 この絶望的な状況を好転まで持っていくのは”圧倒的魔法の力”がいる。そんな事を出来る人間はこの戦場にはいない。そして援軍が来るには最短でも明日の夜だろう――魔人未だ十五体――更には使徒と、この上どんどん増え続けるであろうアンデット。


(ククク昔を思い出す…こんな状況に心が踊ってはいけませんな)


 魔法の力――クロードの脳裏に自身が好敵手と見込んだ男の顔が浮かぶ。もしや彼は、この惨状を予期してあの馬鹿げた一騎駆けなどをやってのけたのではなかろうか。かの者なら何か策があるのではなかろうか。 


(……いや、今は考えまい)


  淡い期待を改める。

 そして、ふいに娘が好きだった絵本を思いだし、口元を緩めた。


「”天涯”の極星よ輝きたまえ……か」


 傭兵王国ゼノン――蒼派クロード=シウニン=ベルトランはいにしえの盟約で結ばれたトロンリネージュ皇を守護する王都の盾。


「我は人類最強を誇るゼノン王直轄傭兵特殊部ラスティネイル……字名を持つ者也」


 天涯十星ラスティネイルと謳われる老人は、全身に淀みない武装気を纏い、皮手袋を直しながら誓う。


「我が”蒼炎”の字名にかけて絶対に、お嬢様の命だけは……」


 その時である。


(これは……?)


 クロードの張り巡らせていたオーラスキルが周囲の異変を感じ取ったのは。


(アンデットの気配が急激に減りつつある……まさか)


 男の顔が再び浮かんだ。


(まさか、それ程までの存在か)


 不吉な黒を纏った、あの男――

 


 ◆◇◆◇



 ……トスッ


 身の丈程もある大太刀ラグナロク――それを握るのは全身を黒で統一した死神のような男だった。


「ら、メぇ?」

「駄目……と言ってるのか? 良く解らないな」


 山羊の魔人は胸に吸い込まれた長い長い黄金色の刀に視線を落とした。ソイツは何が起きたのか一瞬解らなかったようだった。何の魔力もないただの剣が、自分を傷付ける何て事があるわけがないからだ。


「メ、メェ?」


 だが現実というのは世知辛いもので、自分の身体が消滅しかけている事でようやく現実を把握する。気付かない内に結界が抜かれ、命である魔人核を直接破壊されているのだから。人語を上手く話せない魔人は後悔した。――時にはもう遅かったのだが、振り絞った言葉はこうだった。


「タタタスめて……?」

「すまんやっぱり解らんから自己紹介をしよう。俺はユウィン=リバーエンド。嫌いな物はピーマンと魔人だよ」


 無表情なその男は、そのまま剣を振り抜いた。


「ヤードリップ様 !」


 両断された主人の使徒だろう。背後から男に襲い掛かかる。


「常々思うがな。奇襲を気取るなら声は出さない方が良いな」


 どちらにしろ無駄だがね。

 ユウィンはそちらを振り返らないもしないで刀を下げる。


Lv3黒龍王炎ニグルヘイム――実行!』


 爆炎が一瞬の内に使徒を消滅させるが、あまりにも近距離だった為か灰色の髪が少し焦げた気がする。


「ソースコードまで使わんでも……ちょっと火力が強過ぎんか」

『バフが掛かったもしれません』

「なんの」

『ここ最近の鬱憤というヤツが』

「そいつは悪かったよ」


 軽口とは裏腹に周囲に張り巡らせているオーラと、ディが実行しているLv2によるソナーが周囲の敵位置を割り出した。


「これで四つ……次」

『左斜め後方150m――オーク型一体補足』

「調子が出て来た。そろそろ大丈夫そうだ」

『魔法因子核……正常起動まであと十秒』

「そうか。ならばペースをあげよう」

『ようやく本領発揮ですね』

「そりゃあ魔人が相手だ」


 お互いに遠慮はいらん。

 眼にも止まらぬ速度でユウィンは駆ける――



 オークの魔人タムワース。

 彼は串刺しの魔人と言われている。文字通り愛用の5mはあろう鋼鉄の槍で、仕留めた人間を運んでいた。焼き鳥を運んで気の良い連中と一杯ひっかけよう。そんな浮かれた足取りで。


「ソウダ。トトロスにも、見せてヤロ」


 彼は御機嫌だった。

 自分の槍には美味そうな具材が九つも突き刺さっている。あと一つ突き刺したらお祝いだ。誰に自慢してから喰らうとしようか。


「ブヒ?」


 そんな事を思っていたら、ふと目の前に最後の具材が見えた。喜びで鼻を鳴らせ”串”を構える――迄が、魔人としての彼の人生だった。


「魔人剣・剛刃!」

「ぷぎゃあああああぁ!?」


  タムワースのたるんだ腹が結界と皮下脂肪ごと切り裂かれ、多量の血しぶきが夜を染める。


「タ、助けろ、使徒ドモぉぉぉ!」


 そのまま握った刀ごと腹部に抉り込んで。


Lv2爆裂ブラストフレア!」


  爆砕――と同時に刀と身体を回転させた。


『マスター後ろ』

「解ってるよ」

 ――ギィィィ!

 背後から直進してきた巨大な槍を小太刀でいなす。


「死んじゃったねぇ御主人プププ」

「御主人様ノ……カタキ」

「人間型使徒が二体。なかなか賢いじゃないか」

「プププ噓だろぉ」


 前と後からの槍攻撃が空を切る。

 そして既に、降り終えているもう大太刀と小太刀。


 魔人剣舞――ニ刀流麗。


水生大蛇ミブオロチ……双破」


 後に残るは、両断された二体の骸のみだ。


『解って無いじゃないですか三体ですよ』


 黄金色の大太刀ラグナロクが手からひとりでに離れ――上空から強襲していたもう一体の使徒に突き刺さった。


「ぐぇ……せ、せめて一矢報いて」

「上はどうにも気が届きにくいな」

ディが居なければ何回死んでるか』

「感謝してるよ」


 大地を蹴る。


「し、死ねぇ人間!」

「でもまだ死ねないさ、俺は」


 空で二つの影が交差する。


「う、うごば――」

「――Lv3黒羊之呪手スケープゴート


 最後の一体は主人と同じく、腹部から爆砕して消えた。

 オーク魔人と使徒三体を瞬く間に倒して見せた魔剣士ユウィン=リバーエンド――彼は呪文スペルの詠唱をしていない。


 これは圧縮魔法(ラプラス)というツールである。


 デバイスに魔法を保存する術式であり、貯め混んである魔法言語は演算と詠唱を飛ばし即実行する事が可能となる。Dと使用者の因子核が同期している事で使用が可能となるユウィンの師イザナミ=アヤノ=マクスウェルが創世記に生み出した、竜と人とを融合させた兵器”竜鬼人ドラグーン”が使用していたとされる闘法。当時の言葉でDOS(デバイス=オペレーション=システム)という。


『マスター圧縮魔法(ラプラス)全弾撃ち尽くしました――再圧縮には時を有します』


「強めを一発でいい早めに圧縮しろ。周囲の索敵急げ」


『前方から魔人三体高速接近中――更に使徒四体』

「釣られてくれたか」



 ――高速で駆け寄る魔人三体。

 猫の魔人ラン

 人の魔人アズラク

 エルフの魔人キュアノエイデス


「タムワース死んでくれて良かったにゃぁ。あのブタ僕の尻ばっか狙って来るからキモかったにゃぁ」


「結界が効いてねぇのか? あっと言う間に斬り殺しやがったぜ。魔法言語を混ぜ込んだ妙な剣術を使いやがる……創世記に存在したっていう竜機人とかってヤツか」


「お前は若いから知らんのか。当時の言葉でドラグーンというがアレは半分機械化した人間だ。既に存在する筈もない」


「じゃあ古参でお賢いエルフ魔人様よぉ、じゃあアイツは何なんだよ」


「あの黄金色のカタナ。まさかイザナキ=ヤマトの……?」


「じじいは独り言が多くて敵わないにゃぁ。いまは魔剣士とか呼ばれてるんじゃなかったっけ?」


「魔剣士……あぁ”魔人殺し”とかいう」


「馬鹿な生きている筈がない。創世記からある名だぞ」


「二百年くらい前にソーサルキングダムで竜王をぶっ殺したって噂はあったぜな」


「二百年……まさか二代目か?」


「どの道よぉ、いくつなんだって話だよなぁ」

「どの道にゃぁ、魔人殺しブッ殺したらキャロル様の土産になるにゃあ」


「アセンブラの加護よ壁となれ……Lv2精霊結界アンチヒットシェルを掛けた。これで斬撃は通らん」


「エルフの魔法かにゃ。すごーい」


「俺らにゃ防御結界があるからなぁ。バフ受けるのって初めてかもしれねぇ」


「伊達に長く生きておらん。あの剣技の腕前……魔法共にLv3高位級とみた」

「二重の結界ならばって事ねぇ」

「こすっからーい」


「ヤツは危険だ一気にやるぞ――使徒共!!!」

「Lv1炎矢フレアアロー!」

「Lv1氷矢フリーズアロー!」

「Lv1雷矢サンダーアロー!」

「Lv2連鎖爆裂ラピッドフレア!!」


 魔人三体は一直線に魔剣士に向い疾走する。その更に後方から援護射撃が放たれた。


「同時攻撃……七つの敵か」


 握った大太刀から警報が鳴ったような感覚――ユウィンの両手に多少の力が入る。


『相互攻撃を確認――四つ魔法攻撃にバフの掛かった魔人三体』

「バフ……? 随分と珍しいなエルフの魔人か」

『ご注意を。エルフの魔法言語は変則的ですから』

「脅威になるのか?」

『私の機嫌を取る程度には』

「そいつはチョロそうだ」

『フンだ』

「アグリー=ツアマー=ハイファーレント=煉獄の炎よ我と汝で御使みつかいをゲヘンナへ誘うべし」


 ガガガガグボアァァァァァ!!


 使徒の魔法言語が着弾――稲妻と炎で氷が蒸発し爆砕四散。夜の王都に爆風が駆け抜ける。


「何だアイツまともに喰らいやがったぜ」

「死んだにゃこりゃ拍子抜けにゃあ」


 ゴゴゴゴゴゴゴ ……炎の中を男が立っていた。その周囲に輝く炎を纏いながら。


「いや違う……使徒ども壁を作れ――は、早く!」


 創世記から生きるエルフの魔人は真っ先に背中を見せて逃げ出した。高潔な森人であるエルフ族であった彼が何故魔人となったのか。その答えは危機管理能力の高さから。イザナギとイザナミと共に人魔戦争を戦い、戦い、戦い気付いた。自分が脇役でしかなかった事に。英雄になれない我が身を呪い、先代魔王に魂を売った。しかしそれでも勝てなかった――イザナギ=ヤマトに。


(あの”魔人殺し”さえ……アイツさえ居なければぁ)


 自分はあの魔女を――イザナミ=アヤノを手に入れられたかもしれないのに。


(あの大太刀はクサナギツルギ……畜生畜生畜生今になって、今になって再び現れるのか)


 キュアノエイデスが後悔しようが、相手の詠唱している魔法に気付こうが、既に全てが遅かったのだが。


「炎魔灼熱地獄エー=デイ=グレン=ファーレンハイトぁぁぁぁ」


 ヴォッ――――――!

 何人いようが、二重の結界があろうが、魔法言語が放たれようが関係ない。地獄の炎がその場にいる全てを飲み込んだ。その高温度は岩やレンガの融点を超える摂氏4,500度――進行方向のレンガが、石製の街路が、周囲の家々が、魔人達が高熱で白熱化して真っ赤に燃焼える。


「にゃ?」

「こんなんありかぁ?」

「この威力はやはり古代法言語……ほ、本当に”二代目”だとでも言うか……畜生ぉ」


 森人の精霊結界を紙のように貫通し、ユウィンが魔人達をすり抜けた時には、その場にいた全ての者共は気化していた。


 ……ゴゴゴ…シュウウアアぁぁ……


 輝く炎を纏うユウィンは息を整える。胸の中心に違和感はない。魔法因子核は完全回復したようだ。


「五つ……次は」


『残りの魔人は全て城へ向かいました』


「本丸に向かったか。ここ迄もったという事は王国側にも優秀な駒がいるな」


『しかし魔人の使徒達が周囲に散って再び各方面で暴れている為、折角持ち直しつつある戦況が思わしくありません』


「お嬢ちゃんの位置は」


『籠城戦に切り替えた様です』


「あの装置を使う気か。良い判断だアンリエッタ」


『マスターが楽しそうで何よりです』


「……先に使徒を潰すぞ」


『東側800m先、使徒五体を確認……また、王都全域にいる全十五体の使徒を補足しました』


「全ての使徒を十分以内に片付ける」


 輝く炎を纏ったまま空を駆けた。


 炎魔灼熱地獄。

 地獄第一階層に存在する地獄の門を源流ソースとするLv4。人類が到達出来得る究極の魔法言語――古代魔法言語ハイエンシェントマジックである。



 ◆◇◆◇



「もう大丈夫です。私はもう良いですから他の皆さんを看てあげて下さい」

「あ、殿下! まだ応急処置しか」

「貴方のおかげで随分回復しましたから」

「っ……は、はぃ。とんでも、ないです」

「ありがとう――」


 衛生兵から手当てを受けたアンリエッタはすぐに城左翼の棟に足を向け、駆け出して行った。


「あ、あれが皇女殿下……なんとお美しぃ」

「おい何をしている!」


 トロンリネージュ城一階大広間。

 城門から中庭を抜けてすぐの場所であるが、現在此処は負傷者の処置場となっている。病室なんてとても足りる筈もなく、広間で必死に負傷者を介抱する衛生兵達。


「手を動かせ! 我らは外で戦わないだけマシなんだ。あのアンデットの闊歩する城下よりも」


 だからせめて、一人でも多くの命を助けろ。

 叫んだのはジルベルスタインという貴族だ。魔導研究所で二番目の権力を持ち、魔法学園の校長を務める男。元老院含め全ての貴族が王都から逃げ出した後、この男だけは城内に留まり指揮をとっていた。反対する保守派を黙らせ城門を開け放ち、平民だろうが貴族だろうが分け隔てなく負傷者を場内に運び入れて今に至る。癒しの魔法言語を得意とする自分が今動かずして、何の為の魔導士かと。


「そうなんです校長。この地獄で……こんな地獄の窯の入り口で」


「……あぁそうか。皇女殿下はもぅ行かれたのか。全く本当に無茶をする御方だ」


「足の脛骨が折れていたんです。走れる筈ないのに」


「それでも行かれたか。どうやらこのジルベルスタイン。彼女の器を見誤っていたようだ」


「笑っておられたんですよ。この状況下で」


「正に勝利の女神か」


 勢いよく背中を叩かれた新兵はようやく正気を取り戻せしたようだ。


「生きて、もう一度笑って頂こうじゃないか」


 ジルベルスタインの力強い一言に、衛生兵は勢いよく頷いた。此処は地獄の入り口かもしれないが地獄ではない。女神が微笑んでくれたのだ。きっと自分にも、救える命がある筈だと。



 ◆◇◆◇



「トリスタンお願い……」


 お願いだからソコ(・・)に居て。

 アンリエッタは見つけていた――今の自分に出来る事を。執事の言っていた今の自分に出来る事を。管制塔である新月の間。あそこの魔導機材ならば今の戦況を皆に伝え、そして的確な指示が出せる筈。現在は城下だけでなく場内の状態も半パニック状態だ。動かせる人員もいない。ならば彼の力がいる。


「そして内通者……ファジーロップ」


 彼女は人の姿をしている。

 探し出すには魔導計器に詳しいトリスタンの力が必要不可欠。アンリエッタは未だ腫れの引かない足で、なんとか階段を登り切りって扉を開けた。


「トリスタン良かった。無事だったのですね」

「……アンリエッタ様?」


 部屋の隅でうずくまっていたいた男は突然の皇女の来室で少し驚き、一瞬顔をアンリエッタに向けるが、すぐに再び俯いてしまった。


「トリスタン?」


 様子が変だ。


「アンリエッタ様……ぼ、僕は、僕は駄目な人間です」


 足を組んで震えていたのだ。


「どうしたのですか?」


「こ、怖いのです……恐ろしいのです僕は戦況を見ていました……アンリエッタ様が必至に戦っている姿も、此処でずっと見ていました」


「見ていてくれたのですね」

「見ていただけなんですよぉ!」

「ト、トリス――っ」


 アンリエッタの肩が乱暴に掴まれる。一瞬たじろいだ彼女であったが、直ぐに状況を理解する。トリスタンは泣いていたのだ。俯いて涙を流していた――男の涙を。


「皆が倒れていく姿を…アンリエッタ様の窮地も…見ている事しか出来ませんでした。僕が此処から的確な指示を出せればもっと……みんな死なずに済んだかもしれない。貴女様も、こんなボロボロの御姿になかったかもしれない」

「そんな……」


 言いかけて止める。この男が欲しい言葉はそうではない。アンリエッタは目の前にある全てを救おうと城下へ進軍した。しかしダリアのコサージュに。あの男の言葉に。クロードに。ユーリ将軍に支えられ生きて此処まで生還できたが、この男はそれをたった一人ぼっちで見ていたというのだ。逃げ出す事も出来ただろうに、自分に出来る事は無いか? どうにか助けられないか考えたが、戦う力が無いから。勇気が無いから足が動かなかったのだろう。自分には皆が居たがこの男には自分しか頼れる人間が居なかったのだろう。アンリエッタ=トロンリネージュしか。


「僕はアンリエッタ様が好きです……大好きです。でも大好きな人があんなに傷ついていたのに……僕は怖くて動けなかったんですよぉ!」


 トリスタンは震えながら泣いていた。

 恐らく魔人の侵略が始まってずっとここで王都の戦況を見ていたのだろう。数百……いやそれ以上かもしれない人間の死を見てきたのだろう。アンリエッタは復讐に取り憑かれ復讐の為だけに多くの人を巻き込みかけた、過去の自分を思い出していた。


(あの時、本当は怖かったんだろう……私は)


 自分の場合は思い込む事で間違っていても前に進めた。しかしトリスタン優し過ぎた。自分の意志に他人を巻き込めなかったのだ。


「トリスタン……っ」

「――――っ」


 トリスタンの掌を胸に押しつける。


「トリスタン分かりますか? この鼓動の早さ……怖いのは私も一緒です。私はこの数日で人間には役割がある事を学びました。人はそれぞれ出来る事と出来ない事があり、だから皆力を合わせるのだと、そしてこれは貴方にしか出来ない事……」


「……あ、アンリエッタ様ぁ」


「ありがとう私の事を想ってくれて。ありがとう私の為に泣いてくれて……」


 アンリエッタは眼を閉じ、自分とトリスタンに言い聞かせるように。


「私一人では駄目かもしれない。トリスタンだけでも駄目かもしれない。でも私と貴方の二人なら、この戦況を何とか出来るかもしれません」


「アンリエッタ様ぁ……僕は」


「それに今は戦闘中です。 アンリエッタ、ではなく殿下って呼ばないと駄目でしょ?」


 ね?トリスタン。


「アン……皇女殿下。僕……いや、俺に任せてください。やりましょう――やってみます」


「指示は私が出します。二人で魔人達をやっつけちゃいましょう」

「ハイ 殿下!」


 操舵席に座り直して魔力を注ぎ込むと、計器に蒼い光が灯って起動する。魔出力を感知し、王都全ての情報が詰まった魔導管制式情報端末コンソール”ダイナモ”を、彼以上に使いこなせる人間などいない。今は失われし創世記の遺物で作られたソレは不協和音と共に完全に立ち上がった。


「ダイナモ……俺の相棒……力を貸してくれ」


 コンソールを叩こうとした指が一瞬止まった――が、直ぐに滑らかな動きでダイヤルを回し、目にも止まらぬスピードで情報をはじき出していく。


「トリスタン先ずユーリ将軍に連絡を」


「了解しました!」



 ◆◇◆◇



「侮ったな魔人族」

「き――斬られ?」

「皇女殿下の所には、行かせん」


 魔法剣アクアラクナ。

 トロンリネージュ王家に伝わるそれは、水のLv2精霊魔法言語アセンブラ付与バフされた創世記の古代兵器である。第一騎士隊であるクサナギ部隊長に代々受け継がれており、魔人の防御結界を切り裂き水蒸気による幻惑攻撃を可能とする。


「こ、んな事ならヨォ……さっきの捨てた脳みそ喰っときゃぁ良かったヨォ」

「本来なら貴殿に受けたこの傷、誉とするべきだろうが外道に贈る言葉はない。滅せよ魔人族」

「ぎやぁクヤチぃぃぃぃい!!!」


 ……じゅぉぉお

 トカゲ型の魔人が泡となって消えたのを確認してからユーリ=アルダン将軍は一度、剣を鞘に納める。


「皆は付いてこれているか」

「ユ、ユーリ様。腕のお怪我は……その」

「大丈夫だクルシュ。今日は我がお前を助ける事が出来た。誉とすべき傷だ」

「は……はぅ」

「だがお前も第一騎士隊。勤めを果たせ」


 真っ赤になって俯いていた弟子の背中がぴしゃりと伸びた。そして瞳に気が宿る。


「我が隊の動き、思わしくありません。アンデットと使徒が広範囲に拡散している為に妨害が強く……」


「おのれ魔族共め。こうかき乱されては戦線が拡大する一方か」


「え――ユーリ様? いま、何か」

「む?」


 何処からともなく声がする。

 脳に直接声が響くような。されど良く通る鮮明な声――


『――七時の方向へ距離500。アンデット兵数60。小隊が押し込まれて市民に被害が出ております』

「アンリエッタ様?」

『驚かせてごめんなさい。新月の間より魔導機で直接話しかけています。こちらから戦況を見て指示致します。宜しいですね?』


 ユーリ=アルダンはニヤリと笑う。

 転んでもタダでは起きないと思っていたが、予想の斜め上を行く手で戦場に帰り咲いた皇女に。思っていた通りのじゃじゃ馬で、お転婆で、名君主だと心を震わせながら。


「無論でございます。クルシュ、二個小隊を七時方向へ!」

「はっ!」

『あと約90秒でカルカンヌ広場に魔人1使徒3が通過します。此処にはユーリ将軍が』

「大隊を三つに分ける――クルシュは我に続け!」

「付いていきますっ何処までも」

『ラクロア通りには……なるほど流石ですね』

「殿下程ではございません」


 五千もの兵力を誇っていた第一騎士隊は大幅に削られていた。市街地での戦闘というのは騎馬には向かず。逆に魔族はゲリラ戦を最も得意とする。かといって騎馬を降りれば広大な範囲の敵を撃破出来ず、大隊を細かく割れば伝達が行き届かず撃破が出来ない。ならば中規模で分散し中心から外へ前線を広げようというのだ。隠密のムラクモ部隊と魔導機械による伝達が出来るアンリエッタの指示があれば、それは可能となる。


「殿下。一つだけ宜しいでしょうか?」


『はい勿論』


「失礼ながら殿下は自分の目指す王を見つけられた様ですね。このユーリ=アルダン。今の殿下の為なら奈落の鬼にでも勝って魅せましょう」


『こ、困ります……そんな事急に言われましても』   


「ははは! ますます興が乗って参りました」


『もぉ…でもこんな戦で負けてられません。皆に勝利を!』

「ハッ!」




 一旦通信を切ったアンリエッタはトリスタンに次の指示を伝えるため向き直った。


「グランボルガ卿付きのファジーロップ外務官補佐を探せますか」

「任せて下さい皇女殿下!」


 再び慣れた手付きでコンソールを叩く。しかし――


「お、皇女殿下……」


「どうしたのですか?」


「ファジーロップ外務官補佐……発見」


「何処です!?」


「城門前――此処の真下です!」


 計器が叩き出した数字。

 トリスタンの顔がみるみる蒼白に染まっていく。


「な、何てスピードだ。こ、こいつは……」


 そしてこの魔人の数。此処に集まってきている。


「魔法出力16,100 … 11,600 … 更に22,900 … 39,000――高い。高位級、いや神魔級の上位魔人か!?」


「敵主郭が来るか……やむを得ません急いで閉門を」

「少しお待ちを! 執事長様が交戦中なのですが」

「クロードが? 」


 モニターに映し出された執事長は、ファジーロップと更に三体もの魔人を足止めしておりアンリエッタの期待以上動きをしてくれていた。しかし素人目にも分かるほどに多勢に無勢。


「いくらクロードでも無茶よ……」

「苦戦を強いられています! 更に魔人二体が接近中――このままでは対敵します!」


「そんな…クロードぉ!」



 ◆◇◆◇



 アンデットをこれ以上増やさない為に兵を散らした為に、城門を守る兵は既に片手で数える程しかいなかった。故に此処迄攻め入られないよう隠密部隊であるムラクモが戦線を操作していたのだが、この魔人達だけは妨害しようが封鎖しようが一切の躊躇もなく最短距離で城門にたどり着いてしまった。


「ガルシアの馬鹿もたまには役に立つわね」

「あぁ? 城行くって言っただろぉが!?」

「一生に一度の機会だろうけど褒めてるわよ」

「おいおいおいマジかよやったぜオイ褒められた」

「来てくれて助かりましたドッチオーネ様」

「あら久しぶり。アンタは確かラビットハッチの使徒よね」

「ファジーロップですドッチオーネ様。ガルシア様」

「挨拶など不要」

「固いわよロキ。良いじゃない挨拶くらい」

「あの執事を――む!」


 単身で魔族から城門を守っていた老兵は、受け止められた蹴りと相手の力量に舌打ちした。


「よもや一気に四体とは……」

「人間にしておくのは惜しい動きだ。執事」

「結界内からの攻撃を防がれるとは思いませんでしたよ」

「魔人用死殺技……平和ボケしたトロンリネージュで、お前のような修羅と出逢えるとはな」

「これはいよいよ命を賭けねばいけませんな」


 弾かれた様に距離をとるクロードを全く笑わずに見据える男――魔人破壊僧龍鬼ロキの上半身が隆起する。膨張した筋力で上着が弾け飛び、鋼のような肉体が露出した。


「貴様は拙僧が相手をしようぞ」

「簡単な相手ではない……それに」


 周囲にはこの男の他に使徒であるファジーロップ、魔人ガルシアとドッチオーネが睨みを効かせている。


「フフフ執事ぃ。アンタの事も調べてあるのよぉ。龍鬼ロキ様……迂闊に近づき過ぎませぬ様。メドーサ様を倒した人間です。貴方様方の防御結界を抜く不思議な技を使います」


「ファジーロップ誰にモノを言っている。奴の型はゼノン流交殺法……見れば解る黙っていろ」


「はい。申し訳ございません」


 頭脳派のファジーロップと武闘派龍鬼ロキの相性は悪そうだが、この状況が変わる訳ではない。どうしたものかと考えていた時――声。


『クロード! アンリエッタです』

「殿下!?――くっ」

 ――ビシュ!

「ハッハーオイオイオイ避けやがったぜぇ。ほんっとすばしっしけージジィだなぁクチャクチャ」

「舌で攻撃してくる、か」


 クロードは肩の状態を確認したが、かなり深い。


(舌でこの威力とは――硬化武装気が役に立たん)


 続けざまに飛翔していた翼人――ドッチオーネが広げている翼に光が灯る。


「Lv3翼刃投射シュパイアーフェザー


 ドドドドドドドドッガガガガガガガ! 


 ガルシアの攻撃で体制を崩していたクロード。回避は不可能とみて全身を気で硬化して防御する――が、魔人ドッチオーネの攻撃力が広く展開していた硬化気の防御力を僅かに上回ったようで額が出血していた。


『大丈夫なのですかクロード』

「いやはや新月の間から王都全体を指揮されているのですね? このクロード感服致しました」


 今の状態を悟られないよう皇女には余裕のある返事をする。額の血を地面に滴らせながら。


『もう少し任せられますか? 今人員を戻しますので』

「問題ございません。殿下は他の者達の指示を! カルカンヌ広場の騎兵たちの動きが悪くなっている筈です」

『でもでも、更に二体がそちらに向かっているんです! 』


 それも執事には解っていた。故に勝負を焦っていたのだ。技の武装気アスディック――気の放出で周囲の存在を探る気技オーラスキル。300m四方を探知できるがこの状況では仇になり、如何に達人クロードをもってしても焦りが生まれている。


「集中しろ執事セイセイセイヤー!」

「大丈夫です殿下。心配するのはこの執事めの役目……私は陛下のお役目の邪魔をしたくありません」

『分かり……ました。本当に任せて大丈夫なんですね』


 龍鬼ロキの流れるようなコンビネーションを紙一重で交わしながら息を切らせないように。


「当然でございます。私めは、皇女殿下の執事で御座います故」


 背中にドッチオーネの羽が突き刺さるが、そんな気配は微塵も感じさせず余裕の声色で言う。


「勤めを果たされませい……お嬢様」


 念話の回線が切れた様だ。


「セイアーーーーー!」

「く、がはっ」


 あまりの多勢、あまりの手数。

 遂に丸太のような龍鬼ロキの蹴りがクロードを捉えた。ガードしていたがダメージは相当なようで、いつもの美しい姿勢というヤツがくの時に曲がっている。


「何と、魔人にもオーラを使う者が居ようとは。驚きましたな……っ」


「拙僧は元々武人。お主如きの生まれるずっと前から武に精通しておるわ」


「……同じ武人として、良い先輩に巡り会ったものです」


 体力の回復を図る為の会話であったがダメージは深刻だ。 肋骨にヒビが入った。これでは自身の技の威力にも耐えられないかもしれない。


(つくづく運の無い――む!?)

「ダンディな執事様ぁ? 足が止まっておりますわよ」


 背後よりオートクチュールのドレスにドス黒い血糊を付けた女――ファジーロップ。


「そうやすやすと背後を取らせません」

「あら凄い♪」

「貫手絶杭――源流ゼロ!」


 オーラスキルにより接近に気付いていたクロードは素早く振り返り、上半身のバネだけで技を繰り出した。


「我が一撃は……な、なに!?」

「砕いてあ・げ・る」


 心臓にクロードの鋼の如きが突き刺さる――が。


  …… メキメギ

「!――くっ」


 腕をファジーロップの胸から引き抜き、すぐさま後方に飛んで距離を取る。


「あらあら♪ 淑女の胸元を弄るなんてぇお年の割に大胆な紳士様ねぇ」

「そちらこそ中々頑丈な御体のようだ」


 腕がズキンと波打った。


橈骨とうこつにヒビが入ったか……)


 反面ファジーロップという女はニヤニヤと貫通された胸元をまさぐっていた。全く応えていないようだ。


「あははぁ~ん覚悟しなさい執事ぃ」


 ファジーロップは元は二体いたラビットハッチの使徒であり、奴隷である。異常な雌フェロモンを持ち、兎の魔人の凄まじい性欲に肉体が耐えられるよう恐ろしく頑丈に作られていた。この二点の能力にのみ特化して造られた不死身の使徒である。


(むぅ……時間切れか)


 クロードの額から血の混じった汗が滴り落ちる。甲高い声と共に最悪の布陣が完成してしまった為だ。


「ダーリィーン! 」

「おえぁ!? マーイハニィーじゃないのぉ」


 空から着地した魔人リュトロンとガルシアは抱き合って熱烈な抱擁とキスを交わしている。


「ガルシア君あーしに逢いたかったねぇねぇねぇねぇ浮気してなかったよねぇ~してたら目玉抜いちゃうよ?」


「勿論だぜハニィ~俺の体はお前しか受け付けねぇさぁ」


「わーい嬉しぃよぉ♪」


 人間領潜入の際に要塞都市の街娘を文字通り食っていたガルシア。イケメン顔に似つかわしくない長い舌を巻きながらの熱い、それこそ腸にも届きそうなディープな接吻ベーゼを魅せ付ける。


「う゛おぉぉぉぉぉおおおおおお!」


 魔人カップルに魅せられて咆哮する魔人トトロス。興奮するトロールの魔人は鋼の鉄槌を天に掲げる。


「執事よ。集中しろと言ったが?」

「そちら側と違って余裕が無いものでしてな」


 これで城門メインブリッジ前に唯一の人間。クロード=ベルトランは魔人5体と使徒1体、合計六体もの当千戦力と対敵する事となった。六千人分の戦闘力を一人で抑えなければならない。


(力を出し切って……いやそれでは)


 半分は始末できる自信はある。しかし相手は結界持ちの魔人である。オーラが尽きてしまえば流石のクロードでも戦闘の継続は不可能である。援軍が来るであろう明日の夜まで――後24時間。力を出し惜しみながら防戦を続けるしかないこの状況。


(この老いぼれの命如き高くはない……しかしどう使う)


 魔人どもの防御結界を貫通せしうる死殺技は大量のオーラと集中力を要する。持てる全ての力を出しきれば此処に居る全ての魔人を殲滅する事も可能かもしれない。しかし、それではもしクサナギ部隊とムラクモ部隊が全滅し、残りの魔人までもが押し寄せて来た場合に完全に詰んでしまうだろう。


「全力を出したいのは山々なのですがね」

「相手の実力も測れん老害であったか……残念だ」


 龍鬼ロキとクロードが再び構えをとる。


「老害かどうか、見せて差し上げようか」

「ナウマク・サマンダ・バサラ・ダンカンソワカ」

「む、ジパングの倭道」

「空道と地道を究めた我が奥義。見惚れて死んでいけ」

「獲物を前に舌なめずりとは」


 笑止な。

 その時だ――妙な音がしたのは。


 ドドッ!タッタッ……ゴスッ


「む?」

「何者だ無粋な」

「あぁ? 何だぁ」


 決戦のメインブリッジに追加された約一名。身の丈ほどもある黄金色の大太刀を握るこの男は。


「……ってぇ。スネをぶつけた」

『着地……ホントに上手くなりませんね』

「どうせ成長しない男だよ俺は」

『恐ろしい執事殿に笑われますよ』


 なにやら独りで喋っている男が現れた。いつのまに? 何処から湧いて出た。その場にいる全員の視線が剣士に集まっていた。


「アナタは……」

「あぁ悪かったよ邪魔して」


 クロードはいぶかった。

 自分の得意とする索敵武装気アスディックに何かが近づいてくる反応は無かった。そんな事があり得るとしたら、気の一番届きにくい真上より、それこそ眼にも止まらぬ早さで接近する以外ない。


「だから睨んでくれるな。怖いから」

『マスターって。本当に怖がるフリが下手ですね』

「その感情が無いんだ。弄るなよ」


 右足をブラつかせながらスネの痛みを和らげている男の名前を思い出していた。髪は灰色、洗い過ぎてヨレヨレになった白い襟付きシャツに革の上下。不吉な漆黒で身を包んだこの男の名を――


『よもや貴方が数百年前から各地に噂を残す魔人殺し殿では?』


 あの時は煙に巻かれたが、もしやこの男本当に――

 確か、ユウィン=リバーエンドと言ったか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 敵が大集結している危機に劇的な登場という演出が心憎いですね。The主人公という感じでした。魔人たちのノリノリな戦闘もまた個性がしっかり描き切られていて読んでいても楽しかったです。書いていら…
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