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【完結】Code:ルナティック=アンブラ 不死身の魔剣士とプレイヤーの苦難  作者: ゆーくんまん
第5章 覚醒のヴァルキュリア

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第32話 銀色の人皇

 挿絵(By みてみん)




「呼んでる」

「この距離で聞こえるのですか?」

「そんな気がした」

「アンリエッタでしょうか」

「アイツは助けて、なんて言わないさ」

「確かに彼女…そういう所がありますね」

「だが、俺の主皇因子核が言っている」

「何と?」

「秘密だ」

「何ですか全く」

「そう言えば、初めて会った時もそうだったな」

「あぁそうですね、顔も見たくないと」

「ケツに火が点いていても…そういう女だアイツは」

「下品ですよマスター」

「まぁそれにしてもだ」


 人間領最大の国家トロンリネージュ。

 その遥か上空から白亜の城へ急降下する影が二つ。

 重力に正直に、垂直に、一直線に高速で。みるみる豆粒のように見えていたはずの城が、本来のサイズに近づいていく。


「言わないと、どうされたいかは別だ」

「素直じゃないと?」

「軽いな、怒るだろうなソレだと」

「では手前勝手?でしょうか」

「我儘だと言われてる気がするな」

「そうでは?」


 そうだ。

 アンリエッタの傲欲とも取れる生き方は修羅の道だ。なまじ才能に恵まれ過ぎてしまったが為に、手から溢れていく何かを防ぎ切りたくて仕方がない。故に人の心が解らず、才能を持て余している。


「彼女の悪い所ですが」

「あぁそうだ」


 しかしまぁ、どう思われようが。


「変わりはしない」


 そして俺は、そんなアイツが可愛いと思っている。


「しょうがない人達ですね」

「俺もかよ」

「非効率この上ないです…逆に不器用ですよ」

「やれやれ」

「マスターも時々ヘタれるし」

「悪かったって謝っただろ」

(ディ)が……どれだけ心配したか」

「なんだ、やっぱりお前泣いてたんじゃないか」

「泣きましたよ一生分、泣きました」

「…………そうか」


 嘆息する長い黒髪の女に生える黄金のツノが弾け飛び、ソレが現れる。輝きというただ一点に全てを濃縮した理想の形――光を屈折させ、多角的に乱反射させる事によって七つの色彩を放つ水晶、ブリリアントクリスタルホーン。竜族の最終進化形態である《神竜》となった者が宿す(ツノ)


ディ……その姿だがな」

「何ですか」

「綺麗だ」

「…………あの」

「ん?」

「マスター」

「何だ」

「本当にそのうち刺されますよアナタ……五人のうちの誰かに」

「五人?」

「褒めてくれたのは嬉しぃ…ですけどぉ」

「何だって?」

「別に何でも…ホントしょうがない人ですね」

「あぁ俺はしょうがない奴だ…だから助けてくれ」

「拒否するとでも?」

「あと、おかえり(ディ)…また宜しく頼む」


 シン・龍魔融合術式アナザーオーバークロック。


 銀色の主皇覇気(マスターズオーラ)を纏うユウィン=リバーエンドの王者の心臓に再接続されたされた事により、竜王からクラスチェンジを果たした今の(ディ)は神格の存在。


「あの、気付いてます?」

「何がだ」

「マスターも大概に高いですからね」

「何がだ」

「鼻っ柱ですよ」

「こだわりと言えよ」


 対して心臓に王者の因子を宿す男の姿――まるで永久凍土から削り出した彫刻とも甲冑ともとれる輝くソレ。


「マスターのお姿も良くお似合いかと」

「そうか? しかし派手だなこれは」

「黒く染まった所がアナタ様らしいですが」

「褒めてるのか、貶してるのか」

「褒めてますよ」

「それは上々だ」

「正にロードに相応しいお姿かと」


 竜王族から粒子体の最上位である魔神(ソロモン)と同格に当たる上位粒子の化身――神竜クリスタルドラゴン”D”とユウィンが融合する事によって構成される――漆黒に染まった水晶の鎧。


ロードと言うか道化クラウンというか」

「あらマスター上手いですね」


 天使と魔族勢に対して、脆弱である人間勢。

 そのゲームバランスカバーの為に、人間勢には数多くのオプションが存在する。


人皇ロードオブクラウンさながらのお姿かと」

「まぁ俺らしくは、あるか」


 プレイヤーである人皇が有するオプションデバイスの一つであり、率いれた存在をその身に纏う事によって発動する――


 《人皇鎧》 竜魔神格装甲アーマード・ドラゴンフレーム


(ディ)…俺は」

「はい、マスター」

「俺は今迄、この世界に執着が無かった」

「……知ってます」

「だが、シャルロットが俺に救いを」

「マリィ様と再開出来て良かったですね」


 そして、喜びでも涙は出るのだと思い出す。


「アヤノさんが戦う意味と道を」

「貴方を頼むと言われています」


 自分の為に罪を被ってくれたのだと思い知る。


「そしてアイツはきっと今、流せない涙を流してる」

「………マスターと同じく」

「アイツは俺なんかよりも強い、だが」

「面倒な娘ですね……アナタの女神は」


 そうだ――だから。


「俺は行く――勝手に助ける」

「女神の守り手……人皇ユウィンリバーエンド様」

「我が従者バハムート=レヴィ=アユレス」

「貴方の望む王の道――立ち塞がる全ての愚かなる者を」


 相棒は、こんな俺の元へ戻って来てくれた。

 ユウィン=リバーエンドは思う。

 何度と無くも繰り返し思った。

 こんな己を変えたくて、切に願った想い。

 この刹那に己を変えろと。

 想い願った那由多の時。

 自分は少しは変われただろうか。


「この俺の不死身の身体、安い命なれど」

「貴方が望むなら私は、何時いかなる時でも」

「命尽きるまで戦い、願い想おう」

「私はマスターの剣……蹴散らし凪いで」

「俺は誰かを、幸せに出来る人間だと」

「貴方と共に何処までも」


 だから俺は今、声に出すのだ。

 生まれた信念が折れないように。

 支えてくれる女達の為に。


「『この刹那に、永遠とわの誓いを』」



 身の丈程もある大太刀に魔法陣が浮かんだ――構える。

 眼前に迫ったトロンリネージュ城を覆う巨大な結界――敵に向かって。


「見知ったツラだな」

「ええ全く、嫌な事を思い出させますね」


 その結界は姿、形を変え、人型(ヒトガタ)に収束していった。城を覆い尽くす程の巨大、四枚の翼を携えた――光の巨人。


「天使の本体であり……最終形態」

「光人武装ハイアーセルフ」

「生きていた……いや」

「最大魔法出力は、以前とは比べ物になりません」

「城全体を本体で覆っていたか」

「まさに呪いの如く」

「呪いというのはいつか解けるもの……か」


 102年前は死にかけの状態でも大苦戦を強いられた相手であるが。


「久しぶりだからって(ディ)、トチるなよ」

「誰に言ってます? マスターじゃあるまいし」

「俺も自分を多少、許せる程度には強くなったさ」

「確かに、そよ風が疾風になった程度には」

「見直したか?」

「見直しなど……いつも見てますから」


 左目にも魔法陣が浮かぶ。

 そして全身に纏う漆黒の水晶の鎧に、銀色の武装覇気オーラが揺れる。

 マリィの為に生き続けるという呪いを帯びた自らの肉体――あの日あの時、不死となった呪われた身体。ソイツはあの時叫んだ、天に向かって助けてくれと。だが、ソレは叶わなかった。


 ――だが今は違う。


疾走(はし)れ――Code:Gフォース」

「第一層から第二層突破、第三位層突破までカウント4秒」

「狙うはヤツの無限因子核」

「とか言いながら全く……」

「相変わらず細かいヤツだなオマエ」

「中にいるアンリエッタ達を殺す気ですか」

「そんなにズレてる……か?」

「細かい演算は相変わらずなんですね」

「性分かね」

「私で修正します。そんな所も可愛いですけどね」

「なんだ(ディ)、今日は随分とサービス良いじゃないか」

「調子に乗ると……ほら、行けますよマスター」


 瞳に現れた魔法陣が肥大していく。

 ソレは空全体に拡大していき、一瞬の内に刀に収束した。

 以前のユウィンでは不可能だった超高難度のプロンプトが超高速で走り抜ける――アヤノが400年前、主皇因子に打ち込んだマクスウェル機関が能力の一つ、三種類のCodeを同時に走らせる事を可能とする、平衡演算トライアングルシフトの効果。


「開放――第四転換天照」


 背中と肩から飛び出したクリスタルホーンから不協和音が鳴り響いた――何かと共振するように。


『天照第二位実行』

「LvΩ無限因子核崩壊言語(コズミックワンダー)


 創世期に魔を討ち滅ぼさんと、火の国の刀匠に打たれたオリハルコンの大太刀。この希少金属には粒子対を宿らせる力の他に、オーラを纏わせる能力がある。

 しかしこれには未だ先があり、特型種のオーラを通すことで形状を変化させ、より硬く強靭な武器へと昇華させる事が可能。


「纏えクサナギ……魔装魔人剣」


 草薙(ラグナロク)に宿った――全ての存在を原子崩壊させるLvΩの魔法の言葉と……戻す力。


「俺みたいな人間が(ロード)などと」

「またグチですか? 400も年愚痴って来たのですよアナタは」

「つくづく滑稽なものだな」

「ずっと自分自身を……他人を貶す事が出来れば、紛れもしたでしょうに」

「情けない男なものでな」

「だから、だから代わりに私が泣きましたから……」

(ディ)…」


 この世界で、一人の女の為だけに創られた、哀しみの感情のない男の為に。


「………そろそろ、我儘くらい言って良いかもな」

「私の演算領域と、貴方の王の力があれば…」

「通せると思うか?」

「今の私とアナタなら、何だって通せますよ」

「我儘が力となる……フザけた世界だが」

「例えソレが、どんなに手前勝手な願いでも」

「今は、悪くないと感じるよ」

「だからこれからは、貴方の願いを魅せて下さい……手前勝手なで傲欲な、我儘を」


 それが出来るのが人皇(ロード)となられた――


「ユウィン様です」


 王は振り上げる。

 人間領最大国家トロンリネージュが誇る白亜の城――よりも巨大な閃光となったクサナギのツルギを。


「無限魔神剣――」


 ソレは城ごと、光の巨人ごと、薙ぎ通る。


 ―――ズタッ゙ん!


「奥義草薙の一刀……”那由他(ナユタ)”」


 地上に降り立った大太刀は水晶の鞘に収まる。

 そして其の持ち主は、相も変わらず無表情に、下手くそな笑顔を作った。


「さぁ」


 怖いお姫様を助けてやらんと。


「行くぞ相棒」


 そうですね。


「怖い執事に見つからないように」


 だがその笑顔を、笑う自分はもう居ない。


「着地……上手くなられましたね」


 そう言えばそうだ。


「少しは、成長したようだ」



 天照第二位実行。

 崩壊と再生を司る魔法の言葉。

 両断された光の巨人が音も立てずに消えていく――もろとも絶たれた女神の城は、刹那の時間で元の姿に復元する。二種類の空間魔法を同時に実行したそれは――我儘を通す王者の刃なり。


 挿絵(By みてみん)

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