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第31話 神の器(バビロン) 其の参

神の器とは? 其の参にてお終いです

   挿絵(By みてみん)


 

「大盤振る舞い――かも!」


 リアが炸裂させたのは煙幕――同時に数十の刃物が天使に直撃するが、それは全て防御結界に阻まれる。


「結界持ちの僕に、そんな攻撃が通じるとでも」


 しかし、飛び道具は陽動である。


噴波フンハぁ!」


 煙幕で見えない筈のイー・オーの顔面にクロードの拳が突き刺さった。


「無駄だと――っ!?」

「ぬぉぉぉぉぉぉ火音カノン――」


 結界に阻まれたクロードの拳と揺らぐオーラ。


絶杭ぜっくい!!」

「うごっ!」


 此処の場にいる人類最強クラスの超人達は己より高位の存在との戦いを知っている者達――視界が無くともオーラによる索敵で位置を把握し、人体だけは防御結界を通過で出来る事なども百も承知。


「武装空道:百花繚乱――」


 吹き飛んで地面に激突する瞬間の敵を――更に放出気で拾い上げて、今一度父のいる空中へ投げ返す絃葉――


「六式奥義:袖の白雪!」


 投げ飛ばす刹那に相手の関節を砕き散らす――


「――蒼門秘奥義」


 娘から返された物体にクロードの瞳に焔が揺れる。

 握り、構え、解き放つ、人類と似て非なる硬さとなったその拳を巨大な地下空間の床めがけて、打ち下ろした。


極爆鎚絶杭メルトランサーぁ!」


 地下世界を震撼させる程の威力と爆音。

 瞬きする間もなく地面に出来た大穴―――に、設置されていた無数の起爆クナイが爆砕した。


忍法横面火遁アナザーブローかもっ!」


 二手三手先を見越して仕掛けを施していたリア=綾小路は主君に笑顔を向ける。


「この起爆クナイ、作るのめちゃくちゃ大変かもですからねーっ?」


 並走するアンリエッタに目配せしながら。

 

「アンリエッタ様これ、経費で落ちますよね」

「却下です」

「嘘ぉ!?」


  地下で火薬を爆発させた事によりの耳鳴りが酷い。

 しかしそんな事など気になどしない。今戦っている存在は人類より遥かに高位の存在、天使を更に改良した超位存在なのだから。


「全力が出せない状態とはいえ……」


 スタズタに損傷したボディーで立ち上がる敵に、アンリエッタが追撃する。


「僕に此処までダメージを与えるとは…ねぇ」

「十六転換天照――」


 空間に現れた魔法陣が翼と身体を拘束する。


「再生を止められたか、こんな傷だらけの天使に……何て酷い事をする女だ」

「次層……展開」


 アンリエッタの瞳が毛細血管の破裂により真っ赤に染まる。内蔵魔力超過――因子核の限界を超えたのだ。


「第八転換天照――分子両断剣」


 皇女の両手に現れるは、女性の身の丈程もある空間の刃。


「第三位の天照まで使用できるのか。あの時のユウィン=リバーエンド以上……やはり危険な存在だオマエは」


八掛断空魔神剣(コズミックアサルトスパーダ)!」


 ―――――ヴッ゙!


 一刀両断。

 脳天から股間にかけて裂けた天使――どころか地面に無数に敷き詰められているおびただしい数のコード、硬化レンガまでも両断し地下世界に静寂が訪れる。


「教えてやろう権限者ヴァルキュリア


 二つに分かれた唇でソイツは笑う、心底うんざりだと。


「僕がどれだけ君達の不幸を背負っているか」

「……見誤った」


 アンリエッタに本日初めての動揺が走る。


「イザナミ…あの馬鹿女が受けたバグを。マリィの…あの売女が受けたウイルスを。この王都全ての闇を一身に背負った世界一不幸で、可哀想なのが僕だ」


「そう、来ますか」


 裂かれたこ事により裸体となった少年の身体。

 おびただしい数のシミと黒点、そして内部には闇色の空間が広がるのみ。


「お前達はウイルスを駆除してきたのではなく……移し替えて蓋をしてきたのだ。そのツケを一身に受けたのがこの僕なのだから」


「無限因子の手応えが、なかった」


「権限者よ、僕の中は君の姉と妹……そしてオマエの国の人間共のおかげで真っ黒なのだよ。ツケは払ってもらわないとね」


「本体じゃ無いのですね……アナタ」


「オマエが何を考えているか解るぞ、流石に焦りで演算能力が落ちているな。にも拘わらず、心の深層ではおめでたい妄想を続けているようだが……オマエみたいなのをロイヤルビッチとでも言うのかね」


 二枚に分かれていたシミだらけの天使の身体が瞬時に一つに、まるで広げたハサミを戻して引出しに戻すように、何も無かったかのように復元する。


「く…はっ」


 魔力超過による吐血。

 限界を超えてしまったアンリエッタは遂に膝を折ってしまう。


「お嬢様!」


 駆け寄るクロードに立ち塞がる天使の身体が膨れ上がった。そして灯るは黄金武装気――身体能力を66倍に引き上げる金色の焔。


 拳が交差し火花を散らす。


「肉弾戦がお望みだろうクロード=ベルトラン」

「ぐ、ぬぉおおお!」


 カガガガガガガガ――嵐のようなクロードの拳幕。

 片手でいなす黄金の天使イー・オー。


「執事さん酷いじゃないか、こんなに傷だらけの天使に暴力を振るうなんてさ」

「この動線、心を読まれている!?」

「この状態、体制から結界内に踏み込んでくるのは大した胆力だがな」


 ――――どっ


「う……ご」

「だが、ヒトの限界を知れ」


 拳撃をすり抜けた天使の人差し指がクロードの心臓に突き立った。


「お父さまぁ!」

「せっかくの特型武装が解けたぞ……火の国の絃葉」

「っ――――後ろ」

「竜の騎士は、もう少し骨があったぞ」

「よくもぉ!」

「空道とはそもそも人間を制する為に開発された技術だ――ヌルいぞ」


  次の瞬間には背後に回っていた絃葉の背中が十文字に切り裂かれる。


「――ちっ! アンリエッタ様だけでも!」

「君のその感情は、忠誠心でも友情でもないね」

「コイツ!」


 人の目には瞬間移動したかのようにしか見えない天使の動き――既にアンリエッタと共に撤退しようと踏み込んだリアの眼前に現れている。


「言えば良いのに言わない」

「っ――テメェそれ以上喋りやがったら」


 リアが放つ刃物は全て黄金と結界に弾かれる。


「言えば良いじゃないか、皇女様しか愛せないと」

「絶対にブッ殺してやるどんな手を――」

「アンリエッタの初めてが欲しいんだろう?」


 メイドの瞳が濁る。

 過去――何も感じず、生きる事に意味を見出だせなかった自分の心を救った未熟な皇女がいた。自分は決めたのだ――この想いを封印し、このヒトの為に生きて死ぬと。


「言えるかよそれが――思いやりと言うんだ!」

「愚かな女だ……リア=綾小路」

「忍法――」

「無駄だ」


 ――――ず、ずず、がちり


 交差する腕と腕。

 リアの胸に突き刺さる天使の掌と。


「……驚いたな」

「陰流……絶殺ラスト


 イー・オーの防御を貫き、起爆クナイを握ったリアの小さな掌が腹部に突き立っていた。


「ちっ…最後の一発が不発…なんて」


 締まらねぇなぁ。


「この僕が全く気付かなかった。気配ドコロか……コレが火の国に伝わる陰流の奥義か、君のような人が真の天才というのかね」

「私は天才じゃ…ねぇし…」


 もっと孤独なヒトを知っているのだから。


 突き刺さった手首ごと腹部が瞬時に復元された事により支えを無くしたメイドは、背中から冷たい地面に倒れ込み天井を見上げる。


「結局……言えなかったかも」

「才ある者が陥る病だな女、お前が救われるには…」


 だが、綾小路リアは満足げに天井を見上げる。


「うるせぇ黙れ」

「お前も拒絶するか、だがお前にだけは称賛を贈らせてもらおう……孤独な星のアリア」


 私は孤独でも天才でも無かった。

 唯一人を愛するだけで救われていたのだから。

 唯一人を愛していると演じている時だけは、孤独な天才という自分を忘れられたのだから、そして知っている。


「お前なんぞに…解ってたまるか」

「そうか、だがお前の想い人は……」

「知ってるよ……バーカ」


 知っている。

 そして自分の想い人は、自分よりもっと天才で孤独だったと言う事も。


 だから私は天才でも何でもない。

 自分はただの――


「かもかも…言ってる、ただの…馬鹿な…」


 アンリエッタ様のメイドで十分だ。


「そうか、それがお前の救い、幸せか」


 リアの瞳から光が消える。



「こんなに想われているのに冷静そのものじゃないかアンリエッタ……心の声が全く聞こえない」


「アナタに聞かすような声は、持ち合わせていませんので」


「完全に心を遮断出来るのか。お前の為に倒れていく臣下を目の前に、何も感じないのがお前だ…冷たい王女様?」


 アンリエッタは目の前の世界を見渡した。

 クロード、絃葉、目の前で倒れるリアを。

 だが、自分を守る者が居なくなった世界で、魔力の尽きた絶対絶命の状態で彼女は心の声を閉じた。


 この想いだけは絶対に聞かれないように。


「お姉…ちゃん」

「何ぃ?」


 イー・オーは目を見開く。

 被検体99番が装置ブースターから逃れ、ヨロヨロと地に足をつけているのだから。


「お姉ちゃん…どうして」


 呪いゴッドイレイザーの光が急激に弱まり、黄金の光が失われた。装置が機械的な照明のみの、くすんだ灰色に姿を変える。


「あの時か……オマエという女は、何処までも」


 空間の刃は左右に二刀あった。

 アンリエッタは力ない足取りで少女を守るように立ち塞がる。


「ブービーオーダーさん、私は立場上アナタを許すことは出来ません……だから早くお逃げなさい」


「どう…して? わ、 私達は…」


「妹を助けるのが……お姉ちゃんというものでしょう?」


 脂汗を滲ませて、でもニッコリ微笑み姉は言う。絶対に聞かれまいと心を壁に閉ざしながら。この想いだけは、想い人にさえ言うつもりはない。これは自分だけの渇望だから。


「ユウィン様ならきっと、こうします。私は……あの人の求めるアンリエッタでいたい」


 そうあろうとする自分自身だけは。


「何だろうな…お前を見ていると」


 アンリエッタは冷静に確認する。

 クロード…絃葉さん…リア…まだ死んでない、まだ助けられる。でも……


「ソコのリアという女には好感が持てた……絶対に届かぬ願いをいしずえに手を伸ばすサマに。だが、お前はどうだ」


 それでもアンリエッタは助けを求めない。

 自分が来てくれると信じているだけで――相手が来てくれるかどうかはわからない。それを相手の責任にしたくないが為。


「オマエはこの期に及んでまだ諦めていない。そして助けも求めていない、更に自分で何とか出来ると信じている」


「この神呪刻印という装置は、最終的にアナタの呪いを妹さんに乗せて発動するように術式が組んでありますよね?」


「お前の……神の宿った因子核を、抉り出してからな」


「妹さんとの接続は空間ごと切断しました。残念でしたね」


「本当に、何なのだオマエは、この憤りは」


「私が眩しいですか? そうですねぇ、それが器の差なんじゃないですかね」


「器? オマエのような狂った女を、僕が羨ましいと?」


「私が、というかアナタは、自分が嫌いなのでしょう? 嫌で嫌で仕方がないのでしょう?」


「バカな、僕の救いは使命を……」


「己の意思で此処に居るわけじゃないですものね?」


「オマエという女は、何て」


「でもほら、アナタ笑っていますもの。博士とかいうヒトの計画が……頓挫しようというのに」


 イー・オーは自分の顔に手を添える。

 この感情は怒りと喜びだ。

 自分はこの女の言葉に激怒し、また、その感情に正直である自分が嬉しくて仕方がないのだ。


「あってはならない、そんな感情が、あるなら、僕は何故……」


「アナタって、相手を救うと自分も救われると思ってませんか? それ、誰が救われたって証明してくれるんです?」


 結局は自分がどう感じ取るか、なのに。


「僕は…我は…お前が本当に嫌いのようだ」


「だからアナタは兵器としては失敗作だったのでしょうね……でも、私はその顔の方が好感持てますよ」


 イー・オーはLvΩを発動させようとしたが――止める。

 コイツだけは、この女だけは自らの手で殺さないと気が済まないと。

 痩せっぽちの小さな体に炎が上がった。そして、手刀に武装気を集中させ、構える。


「絶杭と言ったか、貫いてやる……オマエの因子核を」


「抵抗させてもらいます私、まだやりたいこと事がありますので」


 まだ策はある。

 アンリエッタが魔法言語を演算しようとするが、胸の激痛と疲労で足に力が入らず、立ち上がることが出来なかった。


(……あ、私)


 瞬く間に絶対殺傷領域に侵入してくる天使を、その類まれ無い動体視力で捉えながら。


(誕生日……きっと、あの人は)


 思い出の場所に連れて行ってくれるだろうな――それまでは――いや違う、これからもだ。


「死んでも死なない――絶対に!」

「死んでおくれアンリエッタ」


 突き刺さった――女の因子核に。



「ブービー・オーダー……本当に、オマエは」


「お、お姉ちゃんは…こ、こんな私に」


「愚かな存在だ本当に……アウローラタイプというのは」


 突き刺さった心臓から溢れる黄金の光――死して、装置ブースターに力を送る為だけに創られた存在に歓喜の涙が浮かぶ。


「ごめんなさい…お兄ちゃん…私は、私のしたい事をして死にたい」


「そうか…さらばだ妹よ」


 お兄ちゃんも、また後で。

 力尽きた99番の亡骸から光が流れ、装置に充電されていく。


「火が入った……が、この量ではどのみち、立ち上げは不可能だな……満足か? アンリエッタ」


「どういう意味です?」

黄金衝覇(ゴルンアタッコ)


 ―――――ズドバッ゙―――――


 衝撃がアンリエッタを吹き飛ばした。


「オマエにはこうなる事が解っていたのだろう?」


「……か、はっ」


 ―――――ズドバッ゙―――――


 吹き飛ぶ。


「なんて卑劣で、狡猾で、冷たい女なんだ君は」


「……ぃ、遺憾で、すね、うぇ…っ」


「まったく穢らわしい」


 ―――――ズドバッ゙―――――


「…………………」


「お前だけは、お前だけは、絶対に許さん」


 多量の体液の放出。

 目眩のする視界に酷い匂い。

 しかし、そんな状態でもアンリエッタの優秀過ぎる脳は高速で回転している。



 まだだ、まだ手はある。

 26通りの打開策がある。

 試していない策がある。


 あの時はもっと辛かった。

 今の私は、あの頃よりも強くなったのだから。


(あれ?)


 身体が動かない。

 誰も居ない。

 駄目だコレでは手が足りない。


(あぁ私は、知らないうちに他人を頼るようになっちゃってたんだ)


 これが、王になったと言う事だ。

 トロンリネージュの、一国の王になるという事だ。

 小を切り捨て、大を救う。

 誇るべきなのだ。


 なのに、自分の「あの感情」が邪魔をする。


 あぁ


(何であんな人…好きになっちゃったんだろう)


 後悔など、微塵もしていないのに。

 女は嘲笑する。



 だから私は言わない。


 何万、何十万通りも考えた。

 あの人が400年ものあいだ、何を想い

 マリィという女の為にどう生きてきたのかを。

 想像で考えられるだけ考えたんだ。


 私は、あの人のアンリエッタになりたい。

 そしてあの人にも、私がそうであって欲しい。


 朝から晩まで微笑み重ね合って自堕落に、何でもしてあげるし、してもらえるような。


 心と身体が解けないように

 鎖で縛って永遠に。

 それが私の願望――私の渇望。


 それが私の《天照アマテラス

 あの夜――あの人に貰った、世界を改変する皇の力。


 でも、あの人はそれを望まないだろう。

 彼が望まないだろうから、言わない


 過去にあの人がどんな女性を好きになったかも

 彼が望まないだろうから、聞かない。


 それが彼の思う「良い女」

 都合の良い女、完璧な女なのだろうから。


 あの人の長い(なが)い復讐の時。

 永久(とわ)の愛――だけどあの人は言ってくれた。それは間違いだったと、愛する為の復讐の時は間違いだったと。


 想いの反意語は憎しみではない。


 愛と相反するものは無関心だ――それを終わらせてくれたのは私とシーラだと。


 それがあの人の求めるアンリエッタ。


 良い女になって繋ぐんだ――完璧な鎖で。

 心を絆いで離れないように。


 だから。


 あの人に助けてなんて、絶対に言えない。

 私はユウィンの、完璧な女で有り続けなければならないからだ。


 だから……死んでも言わない。


「絶対に!」


 視界が闇に堕ちる。


 だから、自分で何とかしよう。

 一つだけ残ってるから――最後の手が。


 これが、私に刻まれた特型武装の真の姿。

 権限――《空間書換(アイラストレータ)

 創成期に失われし月の箱舟――それを書き換え、顕現させる力。


 さぁこの刹那に……永遠の誓いを。



『第壱転換天照――Code:七鍵の皇』




 ……zazaza………za



 内蔵魔力が尽きた状態から

 第一級権限のアマテラスを発動させた……?

 自分がソレを出来る事を知っているのか


 なーるほどねぇ


 この子、私の存在に気付いてるね

 そう言えば皆が幸せになる方法が

 とか言ってたな

 やはりこの器にして正解だったな

 流石に、コレがどういうモノか迄は

 解ってないみたいだけどね


 デバッグシステムが算出した神の器

 バビロンの中のバビロンであるのがこの娘か


 ユウィン……ねぇ

 こっちでのアンタの名前

 怖い娘に気に入られたじゃないウフフ


 どーせアンタは遅れてくるだろうから

 それまでは時間を稼いであげるよ


 だから早く来なさいね

 私を助けに

 あまり待たないよ解ってる?


 そういえば

 名前より、こう呼ばれるのか好きだったっけ?


 早く来てよね……《ユウ君》



 ……zazaza………za



『「Code:七鍵の王セブンアルタを発動する」』



 天使は(いぶか)った。

 皇女のモノでない気配。

 皇女のモノでない声を聞いたかのような。


『「ユーザーが危険状態の為プレイヤーの召喚を実行…エラーコード44…セキュリティシェル内からの強制召喚が出来ませんでした…リライト…よって、自動殲滅モードへ移行」』


 天使は訝った。

 自らを力を遥かに凌駕する二つの存在を前に。

 前に現れた神と、外に出現した王の気配を感じながら。


『「デバイス=エクステンション=システム=シーラによる強制起動シーケンス――』


 天使は嘆息する。

 元より自分が此処に居る意味など無い。

 今頃気付くなんて

 こんなだから、自分は自分が嫌いなのだ。

 被害妄想とか言ったか?……この女は


「『主砲ルナティック=ロアを顕現する』」


 出来損ないの天使として生を受け

 再び出来損ないとして蘇った下級天使は嘆息する。


 自分より下だと思っていた人間達。

 奴等は自らの渇望の為に生きていける。

 設定されたNPCである自分には眩しい光。


 結局僕は、我は何の為に生を受けたのだ。



 同時に――神でも、王でも、執事でも、その娘でも、メイドでも天使でもない声が、アンリエッタの耳に響く。

 声高で、けたたましく、何処か嬉しそうに困ったように、場違いな声。


『エッタちゃん目を覚まして? 今はその時じゃない。今それを使えば此処に居る人、王子様の大切な人達まで吹き飛んじゃう』


 その存在は力尽き倒れるアンリエッタに向かって呆れたように、諭すように、何処か懐かしいように、こう言う――起きろと。


『頭が良いのに、本当にエッタちゃんは人の気持ちが解らない。損得で考えちゃうんだからもぉ〜』


 なんだろうか。

 自分にこんな事を言う人間など、一人しか思い浮かばないが。


『それはプライドじゃない、我儘を通り越して傲欲って言うんだよ?』


 ……こ、の、声……


 懐かしい。

 でも、あの子は死んでしまったじゃないか。


『今はその時じゃない大丈夫……来る』


 …私…どうしちゃったの?…あの子の声が…


『もうそこまで来てる……私達の王様が』


 聞こえるはず…ないのに


『だから、また近いうちにね? エッタちゃんっ』


 その言葉を最後に――アンリエッタの身体は、天使は、トロンリネージュ城に存在する全てが光に呑まれた。


(これが、あの人の天照――?)


 全ての幸せを願う渇望。

 己とは似て非なる、誠なる王の力。


 何て曖昧で、哀しくて、暖かい光。



   挿絵(By みてみん)

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