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第23話 因果の奴隷(ピエロ)

挿絵(By みてみん)



「ふ…くくくっ」


「何を笑う」


 アーサーは首を傾げる――これは侮蔑であった。

 強者が弱者に送るモノだ。何度言っても勝手の解らない新入社員に贈るような、年代が違うのだから仕方がないと思い、しかし全く納得のいかない、永遠に分かり合えない部下に贈るような、そんな侮蔑の眼差し。だから火喰い鳥フラムクックが次に口に出す問いに、興味というモノが湧かないし解らない。


「アーサー様、最後の技…名を聞いても?」


「八連魔人剣……八咫烏ヤタガラス


「最後に私の呼名コードに合わせてトドメをくれた……とも取れますがねククク魔人剣か……対魔人用死殺技。そぉか…ヒトと見なされなかった訳ですねぇ」


「どう取ってくれても構わぬよ」


「こんなはずでは…無かったのですがねぇ」


 王都の闇という組織はアーサー自らが作り出した暗殺集団である。


 王都の敵を秘密裏に抹殺するために組み上げられた闇――最後の一人はアーサーが自らの手を汚すことで終結する事となる。


「あの女、ランスロットが言ったか? この場所でならワシを殺せると……火喰鳥フラムクック


「クククッ図られた…のか。…そうか」


「あの女は他人の事など考えてはおらぬよ。彼女にとってアヤノ以外は全てモノじゃ。さらばだルシアンネイル」


「人を…人の命をモノ扱いしていた我々の末路などこんなものと?……クククッ笑わせる」


「そして、欲に自らを乗っ取られた人間の末路というわけじゃ」


「それは貴方に言われる筋合いはありません……闇などを作り出したお前などに」


「………道化にどう思われてもかまわんよ」


「道化……か」


 男の上半身が滑り落ちる。


「アーサー様……冥土の土産に一つ」


 上半身のみで男は笑う――憎悪と後悔をその瞳に宿し。


「王都の闇は……何代も前から既にお前のモノでは……ない」


「なんじゃと?」


「ソレに気付きもしなかったお前も……我々と同じ道化と言う事ですよぉ」


「どういう意味…………むぅ」


 屍の瞳に残るがは後悔。王の勅命とはいえ人を殺し続けた人間の末路――罪悪感を麻痺させ続けた人間の最後の言葉に老人は眉間に刻まれたシワを増やす。


『お見事ですアーサー様』


 宙に浮く辞典――ヘキトが贈る賛辞がこの上なく苦く感じた。

 二刀の小太刀を鞘に納めるアーサーの瞳に浮かぶは、屍と同じあからさまな後悔。先ほど相手に贈った言葉「アヤノ以外は全てモノ」―――何を言っているのか、自分もそうなのにと。


「人と言う生き物は弱い……短命故に生き急ぎ功を急いでしまうか」


 四方を魔法合金で囲まれた部屋――特別観覧室。

 骸と化した八名の王都の犬達を、その老いて濁ってしまった瞳で見下ろしながら。


『アーサー様、闘技場をご覧下さい』


「セドリック……ルイズ」


 合金製クリアガラスの外に見えるは、巨人と二体のドラゴン――少し離れてルイズを介抱するセドリック。


「ランスロットめ……あんな巨大兵器を王都の地下で組み上げていたというのか……何故気付けなかった」


『出口はロックされております、破るほかありません』


 王都の闇は何代も前から既に自分のモノではない。

 骸となった男が最後に残した言葉が胸をかすめるが今はそれ所ではないと判断し、今一度刀を抜き放つ。


「此処から出るぞヘキト」


『イエスマイマスター』


「アーサー=イザナギ=カターノートの名において命ずる! 術式反転モード”エリクサー”」


生命還元リリース


 宙を舞う辞典が発光すると同時にアーサーの白髪が黒く染まる――否、戻っているのだ。


 子孫達の生命因子核をヘカテーが貯蔵しヘキトが還元する。アーサーが有する特型武装気《賢者の石エリクサー》の禍々しい真実――想い人と結ばれる為だけに血縁者から生命を吸い上げ、転生を繰り返し、魔女と同じ時間を生きてきた。


 老人の肌が張り艶やかに蘇る。

 時間が巻き戻ったかのように年の頃20代後半まで若返った黒髪の男は――構える。


「魔人剣奥義――」


 ざっと三人分の因子を還元した事によりチャクラが爆発的に活性化する――武装気ブソウオーラも老人だった頃と比べ物にならない程に高まり――燃え揺らめく。


焔須佐之男ホムラスサノオ!!!」


 ――――カッ!


 しかし。


「――くっ」

『こ、この金属は』


 モース硬度だけで言うならばオリハルコンを上回るアダマンタイト――それに数種類のレアメタルを超圧縮した合金の壁とクリアガラス。


「オリハルコンをも両断出来る、ワシの斬鉄で傷一つ付かんとは」


 今一度闘技場に現れた巨人を睨み、奥歯を鳴らす。


「まさか……あの人型兵器にもこの金属が使われているのか」


『ヘカテーが分析したデータを更に解析しましたがブラックボックス有り、この原子構造――恐らくこの素材は我々の知りうる魔導化学以上の技術で作られたモノ』


「この硬度に黄金武装気……本体を叩かねば勝ち目はない」


『ヘカテーとも通信エラー……繋がりません』


「ヘキト、禁術魔法言語は使用可能か」


『この壁にはサイレント素材が使われており、魔法粒子が遮断されております』


「そうだったな…ワシとした事が平和ボケも良いとこだ」


『いかが致しますかアーサー様』



挿絵(By みてみん)



 内からは解除出来ない設計となっている唯一の扉を見据え。


「因果率改ざん準備」


『……アーサー様』


「残り少ない権限だが……出し惜しみをしている場合ではない。孫達が、何よりアヤノに危機が迫っているやもしれんのだ」


 機械――外見は辞典であるが、魔導化学の粋を集めて造られたデバイス”ヘキト”は一瞬フリーズする。主人の命令に逆らうように。


『自身の権限ウンメイに逆らってでも……やはりアヤノ様なのですね』


「あぁそうだ。流石はワシの創ったデバイスだお前は」


 外見は若返っていても、その瞳は濁り淀んだ老人のソレである。自分自身を嘲笑するかのようにアーサーは唇を切る。


「解っておるのだよ。本当は間違っている事が。あの時アヤノの首を刎ねれなかったのも、あの女……ランスロットにとどめを刺せなかったのも全てワシの間違い」


『エラーです……返答不能』


「アヤノが変わらんようにワシ……俺もまた変わらん。本当に度し難い」


 主人の意思が変わらない事を理解し、フリーズエラーを修正したヘキトは演算を開始する。


 イザナギの持つ特型武装気エリクサーと魔導化学を融合させた兵器”賢者の石”を内蔵したデバイスはアーサーの因子核から情報を抜き取り術式を組み上げる。


『扉が開かない結果を改ざんします……因果改変――パラダイムシフト起動』


「魔装技――魔神剣因果断裂斬」


 腰を低く低く下げた状態での二刀居合の構えより、扉目掛けて――鞘に戻す。


 その結果か否か、扉が開け放たれたからだ――外から・・


「ウフフいやはや……熱気高まるこの盤上。水を差してしまいまして申し訳ございませんねぇ」


「…………」


「ご機嫌よう、アーサー校長」


 軍服にトロンリネージュ王家の獅子の紋章を刻む男。


「カミーユ=クライン殿でしたかな? 扉を開けて頂き感謝申し上げるが……貴公は何故ここに? この騒ぎ、あのアンリエッタ皇女が第一魔導隊を動かしていないとは思えんが」


「此処を傷つけられるのは困りますからねぇ」


 ――ガィン!


「流石はアーサー様、判断が早い……いや手が速いと申しましょうか」


「貴様何が見えている……今のワシの姿をアーサーと解る人間はアヤノくらいのものだ」


「ウフフ思ったより激情家のようだ。そしてこの太刀筋と技量――不死の御方に勝るか」


 背中から流れる闇色の気流をもって魔人剣を受け止めた男はアーサーから視線を外し、観覧席に横たわっている死体を一瞥する。


「おや、ルシアンネイルの皆様はこれで全滅ですねぇ。我があるじの探し物が届かない筈だウフフ」


「探し物…あるじ?」


「いやなに、こちらの話ですよ――おっと危ない」


 八連続の魔人剣をいなしながら男は飄々と言う。


「王都の闇諸君……長きに渡りのお勤め、御苦労様」


「Lv4砂塵消滅地獄サイモンカーター!」


 扉が開け放たれた事によって魔法言語が使用できるようになったアーサーの魔人剣と魔法言語の鎖状攻撃――地獄の餓鬼を召喚するLv4をもいなし、切り裂さかれる。


「急いでいるんだが……手こずりそうじゃな」


「人魔戦争の英雄に、そうとまで言われるとは光栄ですねぇ」


「ワシを知っている。人ではないか……貴様」


「いえいえ人間ですよ、少々長生きな……ただのね」


 男の背中から出る気流が形を成す。

 具現化した闇色に輝く十二枚の翼を丁寧にたたみ、悠々と一礼して。


「もう取り繕う事もなし、私はセシリア……セシリア=ルシファーと申します。初代魔人殺しイザナギ=ヤマト殿」


『アーサー様この反応は』


「解らんな……何故天使勢が此処に」


「紅い魔女と違って何も知らない、解らないのですねぇアナタは」


「今日は良く馬鹿にされる日じゃな」


「半面こちらは見当がつきました。先程の能力……やはりアナタを此処に閉じ込めて正解でした」


「何がわかったんじゃ」


「アナタという存在が何なのかね……」


「ほぉ」


「その昔、リィナ博士を取り逃がしたのは必然だったのですねぇ」


「ワシと違って、そちらはワシの事を良く知ってるようじゃな……だが今は惨事だ、邪魔をするなら――次は全力で叩き斬るまで」


「ウッフッフ全くどうしてアナタも度し難い……自分の子孫達が今まさに生命の危機だと言うのに……何処に居るのかも解らない、好いた女の元へ足を向けている」


「………」


「だが、ソレこそがアナタと言う存在……裏切り者の魔女を殺す為に生み出された……イザナギ=ヤマトという男はそうでなくては困る」


「そうかお前……そういう存在なのだな」


「因果なものですねぇ。さしずめ我々はこの流れに逆らい、彷徨う大根役者とでも言いましょうか」


 ――――ガシュン!


 瞬間――姿が描き消え二人の位置が交差した。

 アーサーは出入口前に出現し、セシリアは部屋の中央――観覧の特等席に腰掛ける。


「因果操作した魔神剣をハズすか」

「いやぁお強い……躱すのが精一杯でしたよ」


 同じ・・力を持つ二名はその位置のまま動かない。


「何をするつもりか知らんが……」


「えぇ不毛ですねぇ……決着は長引きそうです」


 刀を鞘に収め、アーサーは扉に手をかける。


「あぁそうそう、最後に何も知らない可哀そうなアナタへ情報を……魔女は此処と黒い森の中間地点にいます――」


「大した情報網だ……そうか、貴様がワシに代わってルシアンを使役していた闇か」


「――そして現在リィナ博士と戦闘中です。不死の御方……ユウィン=リバーエンドは間もなくそこに到着するでしょう」


「ユウィン君は立ち直ったか……また掴みそこねないと良いがな」


 アーサーの濁った瞳に宿るのは侮蔑であった。何度言っても勝手の解らない部下に贈るような、年代が違うのだから仕方がないと思い、しかし全く理解しようもない、永遠に分かり合えない存在に贈るような、そんな侮蔑――アヤノにわずかな希望を与えてしまった、プレイヤーに対しての。


「アーサー貴方やり直したいと思った事は?」


「………那由多なゆたとあるさ」


「イザナミ=アヤノとの出逢いを?」


「秋影さえ……」


「いなければとウフフ成程、だがそうなれば貴方は誕生しなかった。実にまさしく因果なものだ」


 因果律――それは法則である。

 すべての出来事はある原因から生じた結果の姿であり、その間には一定の必然的関係がある――原因がなくては何ごとも起こらないという原理。


 イザナギ=ヤマトと、セシリア=ルシファー、そしてリィナ=ランスロットはそういう存在。プログラムのエラーから生まれ、反逆する道化達ピエロである。道化の一人は言う、自らの存在理由以上に想い、憧れ、惚れた女の事を。


「アヤノは人魔戦争終結の時に……人皇を探し出し、殺すつもりだった」


「ほう、それは初耳です」


「だがそうはならなかった。プレイヤーは以降何百年と現れず、時間が彼女を変えた……最後にはルナティック=アンブラを降ろす事態になり、増え続け栄えていた地上の生命は死に絶え、その罪を背負った彼女は、また変わってしまった」


「魔女も思ったでしょうねぇ……やりなおしたいと」


「いつまでも現れないプレイヤーを憎む事も出来なければ、魔人を人に戻す事も出来なかった。因果を断ち切る力を持とうとも、彼女の病を治すことは出来ようとも、彼女の想いは換えられない。ワシはそれを……ただただ、見ていた」


「なるほどそういう事ですか、赤い魔女が何故初代魔王の核を破壊しなかったのか……それは想い人の為ですか。それは中々に頂上」


「最後にアヤノは影王の魔人核を他者に移し替えようと考えた……核の中に人だった頃の秋影がいると信じて」


 セシリアはその端正な顔を歪めて笑う。

 全てが繋がったからだ――何故彼が不死なのか。


「だが、しなかった。ソコに予期せずに現れたプレイヤー……彼女は混乱したでしょうねぇ」


「あの男、あの忌々しいプレイヤーのお陰で再びアヤノは変わってしまった。……そして芽生えた僅かな希望」


「その希望にすがって魔女は待ち続けている………それは頂上」


「プレイヤーさえ現れなければ……あのまま諦めてくれれば……」


 彼女は自分のモノになったかもしれない。

 そう考えてしまう己がが堪らなく滑稽で小さく、道化に見える。


「あの魔女は依存し停滞している。長く生きた者の宿命とも言えますが、この期に及んで他者に決定権を委ねている。失敗しても相手のせいに出来るように……自分では解っていないようですがね」


「ユウィン君もな……あの師弟は迷いを楽しむような所がある」


「御方と?解っていませんね……それは違いますよアーサー」


「所詮は平穏な世界から来た男だ」


しかり。確かに魔女と御方は表向きは似ております……そういう呪いと共に不死を授けられたのですから。――しかし決定的に違う所がある」


「マリィちゃんの為だけに創られた人形に……随分と詳しいじゃないか」


「魔女の本質は想い人、秋影が死んだ時から止まっている。彼女は魔人を人に戻す事を諦めてしまった自分を責め、自分は幸せになってはいけないと、他者に救いを求めているのでしょう」


「知ったような口を………」


「魔女とは違い、ユウィン=リバーエンド――あの方は”自分の為に”周り全てを幸せにしたいと考えている。そしてそれが出来ない事を知っている。死なない自分を理解し、自分が死なない範囲で出来る全てをもって他者の幸せを願い、実行しようと考えている」


「緩い世界から来た男の考えそうな事だ……それに今、此処には命を賭して戦っている者が余りいるというのに……良いようには聞こえんよ」


「馬鹿を言いなさいアーサー。命を賭して救った後の事も考えず、ただただ賭けた命に何の価値があると? 全てを救いたい、貴方に全てを幸せにしたいと”思い続ける”コトが出来ると?――普通は出来ない、区切りをつける。あの御方にはその境界線がないのです。さも英雄伝の主人公のように生きる事を是とし、ただただ願い続けて揺るぎない。そしてそれが出来ない自分を理解し、苦悩し、不死故に永遠に苦しみもがいている。それが私には堪らなく狂おしく愛おしい」


「なんだお前は……人皇勢のプレイヤーが愛おしい?」


「御方を本当の意味で理解しているのは私とアンリエッタ、そして私を此処に立たせた”彼女”だけ」


「的をえんな闇色のセシリア……最後に今一度聞いておこうお前は何だ。同じように見えて、ワシとお前も随分と違うように見えるぞ」


「少々長生きなだけの人間ですよ。…ただ、バビロンに選ばれたね」


「神の器……それだけではなかろうよ 」


 セシリア=ルシファーは笑う。

 同じように見えて、同じ所から生まれたのに違う。そう、違う。

 同じ人間など存在しない――その唯一無二の例外が自分の想い人なのだと自負しながら。


「アーサーよ刮目しなさい。このゲームは既にどうしようもなく滑稽な有様です。故に、デバックシステムは再度世界をリセットする為に動き始めました――正さなければなと」


「なに?」


「だがそうはさせません、この世界は今が美しいのですから。この混沌、この不条理、この世界はこの舞台のまま進むべきです」


「調和とデバックを司る筈の貴様ら天使勢が……混沌を望むか」


「プレイヤーは揃いました。しかし、メインユーザーは揃ったのでしょうかね」


創造神メインユーザーが……不在?」


「さてどうでしょう、私はウソつきですからね。だだ一つ教えて差し上げます……アンリエッタ以外の器はカラだと」


「ならばこの世界ゲームと、この戦いに意味などないな」


「興味がなさそうですねぇ……相変わらずの存在だ」


「お前の興味も一人だけに注がれているように見えるが?」


「やはり我々は大根役者だ……わかり易く滑稽な」


「どうとでも言え」


あるじから聞きましたが、アーサーという名……これはプレイヤー達の世界では英雄を冠する名だそうです」


「……こっちの世界でも、そうだな」


「嫌いですか? 英雄談は。そうありたいと思いませんか? 全てを命を救う英雄であれと、正義を冠し、悪と戦う英傑であれと」


「そんな感情はもう……とうに枯れたよ」


「あぁ安心しました昔はあったのですねぇ……ならば王都の闇達にも――おや、ウフフ」



 既にアーサーの姿はなく。

 セシリアは一人、アダマンタイトで固められた観覧席で外の世界を眺める――混沌と破壊に満ちたこの舞台せかいを。


「何とも度し難い裏切り者に溢れてますねぇこの世界は……だがソレが、ソレこそが人の想い、ソレこそが真なる人の物語――ナラティブと言える」


 独唱――喜劇の道化クラウンおどけ、歌う。


「Gameなどという安い言葉で表現したくはありませんねぇ……そう、これはエチュード。終わらない即興劇……刹那を演じ、愛し、愉しむとすれば終われない――だが、必ず終幕はある」


 この特別観覧席は闘技場と共に三つの意味で造られた。

 一つは表向き協力体制にあったリィナ、ヘルズリンク魔人勢を隠す為、もう一つはアーサーの存在を見極める為、そして最後は自分がこの舞台の結末を一番良く視える場所から観覧する為だ。


「さぁエチュードから幕開きと致しましょう不死の御方――私と貴方の物語を」


 道化クラウンは語る。

 この刹那に舞台せかいを換えようとおどけけながら。


「さぁ序章としましょう人皇ロードオブクラウンユウィン様。――貴方の生きた、踊った、四百年もの輪舞曲に決着をつけて」


 道化クラウン……またの名をジョーカー。

 おどけて、しゃれて、掻き回す――そして、最後の切り札。


「さぁさぁさぁ声に出して叫びましょう――この刹那に愛を超えて」


 セシリアは涙する――哀しみを持たない男の代わりに。


「一度は間違え、二度目は掴めず、貴方の伸ばした掌は空を切った」


 約束は断固とした信念をもって守るモノ。

 ”彼女”との約束――この日この時この刹那。

 彼女が無数に引いた輝くみちは、一筋の光となって疾走する。


「黄金の桜は輝くか……はたまた三度みたびと空振るか」


 道化、ジョーカー、闇色の堕天使は声にする――今宵この時この場所が、セシリアと彼女の悲願なのだから。


 さぁ願いを込めて――天幕に向かって高らかに。


「この因果に終止符を」



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