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第22話 神呪刻印

 挿絵(By みてみん)



 人間領最大最古の国家トロンリネージュ。

 その象徴とも言える白亜の城は現在”術の防御結界”により外界から遮断され、その地下には源流点ソースと呼ばれるこの事件の心臓ともいうべき”呪い”が隠されている。


 月の使徒――ルナティック=アンブラを地上に降ろす為に必要な術式は”天照アマテラス”と言い、その難解な魔法言語を発動させるには段階を踏む必要があった。


 魔法言語の発動には四つの工程がある。

 ①源流 ②変換 ③詠唱 ④実行


 現在の工程は②である。

 膨大な因子の力を蓄えた”ソレ”がメア=アウローラによって外へと変換され――駆動源流エンジンに解き放たれた所だ。


「ちっ――コイツ急に」

「リア――泣き言は仕事が終わってから吐きなさい」

「クロード様こそ足が止まってますけどぉ!?」

「カッハハハハおもっしれぇ呪印からどんどん力が溢れて来やがる――止まってると死んじまうぜぇ!?」


 天涯十星ラスティネイルであるクロードとその実力に迫る天才忍者である、リアの二人がかりの連携攻撃をモノともせずにカルス=シンクレアは五月雨の如く手数で圧倒する。


(何と言う速さだ――まだ速くなる。コレでは先にこちらのオーラが尽きてしまう)


 つい先程までは二人がかりなら力を温存した状態でも何とか勝ちを拾える戦況だったのだが今は違う。実力の99%を出した状態で圧されている。


(しかしどういう事だ)


 クロードは訝る。

 今の状況が良いとは言えない。しかし悪い事ばかりではないのだ。


(傷の治りが……速い。心なしか気の強化倍率が上がっている)


 早期に決着をつける必要があるが故に防御を捨て、攻撃特化のオーラスキルを連発している為にクロードにもダメージが蓄積されているが、その傷がみるみる回復していくのだ。強化気で回復速度を上げてはいるのだが、この速度は異常であった。


 カルスの身体に新たに刻まれた刺繍……ヤツは呪印と称しているが、ソレがこちらにも作用しているとは考えにくい。だとすればこの状態はどういう事なのか。


「おっせぇーぜロートル!」

「忍法木遁起爆ウッドペッカー!」

「クハハっ! ヤルなぁメガネ女」

「見切られた!? コイツ」


 認識外から腕に向かって投げられた起爆クナイを、カルスは容易に受け止め爆砕する前にリアに投げ返すが――その隙を逃すクロードではない。


貫手絶杭スピアハンドスティンガー!」

「隙なんてねぇよっボケがぁ!」


 それは拳で受け止められてしまう。


「ぬ、おおおおぉぉ!」

「ジジイ――テメぇ!?」


 漆黒の鴉が圧されていた――瞳に蒼炎を宿らせし鬼の気迫に。受け止められた拳――否、体ごと持ち上げ、その技は放たれる。


「ちぃぃいいいい!」

「おおおおおおおおぉ――墳波フンハっ!」


 音が後から聞こえてくる程の速度と衝撃――防御態勢のカルスごと石灰岩の壁へ叩き飛ばす――粉砕された壁向こうで敵が見えなくなってからクロードは片膝をついた。


「これがゼノン流攻殺法蒼門秘奥義……」


 《極光絶杭フォトンランサー》だ……小僧。

 御年六十とは思えぬ鬼の気迫――それまさに鬼神の如き。


「凄い……これが本気のクロード様。そして今のが噂に聞くゼノン流攻殺法”蒼門”秘奥義……源流スサノオの型」


 武士もののふとしていずれ決着をつけなければならない宿敵の実力に高揚感を隠せないリアに対して、薄ら笑いで返すクロード。


 渾身の力を出し切った筈だが……まだ動く。

 拳の感覚を確かめながら今一度薄ら笑いを浮かべた。


「どういう事かわかりませんが……これは吉兆ですね」


「吉兆だぁああ? そんなもんねぇよボケカス◯◯野郎がぁ」


「死ぬ程しつこいかもコイツ」


「やはりか」


 身体の刺繍――神呪刻印が更に輝きを増していた。

 ゴッドイレイザーと呼ばれるソレの正体は、王都地下に張り巡らされている天照アマテラスの反転術式である。


 本来プレイヤーの専用能力である空間魔法――それは月に設置されたマザーコンピュータによって投影されている、この世界の構成テクスチャを書き換え別の物に作り替える事の出来るツールである。


 プレーヤーが地球へ戻る為の帰還プログラムであり、いわば送る力。それを反転させれば戻す力となる。


 出力されているビジュアルを源流ソースに戻す力。


 リィナ=ランスロットが行ったのは王都の地下一点を源流点とし、150年にも渡り生れ出る人間の因子核を吸収し続け一点に集めた膨大な因子核で、疑似的にプレイヤー権限をマザー誤認・・させ、アマテラスを発動させるというもの。


 いわばマザーの力でマザーを引きずり降ろそうと考え打ち込まれた呪い――文字通り”神を呪う為に刻まれた印”である。


「皇女殿下……失礼ながらお願いが」


「城の地下…敵の力の正体と出所ですね」


「流石でございます」


 即座に動くアンリエッタだったが、王都の闇最後の一人義長老プロコトールが立ちはだかる。


「そこへは行かさん!」

「アナタでは止められませんね」

「またしても――小娘がぁ!」


 憤る義長老プロコトール――彼も今の地位に座るまでは幾多の難解な汚れ仕事を一手に引き受けていた猛者であり、一般人よりは遥かに戦闘能力に優れた人間である。しかしこの場にい超人達のレベルには到底及ぶ程のモノではなく自身もそれが解っているが為の苛立ち。


「おっと、行かせないかも」

「おのれっ」

「エッタ様、此処がリアが」

「任せました」


 故に難なくアンリエッタがこの場から消えるのを許してしまう。


「おいおいおいプロコトールぅ……お前も腹ぁ決めろよ」

「解っている」


 ボールの来ないサッカー選手のように滑稽な老人をカルスが嘲笑する。


「いやぁ? わかってねぇよお前は」

「なにぃ」


 嘲笑する。

 滑稽な老人を。

 過去――この男を殺す為に暗部に入隊した”一羽の鴉”は嘲笑する。


「オレ達はもぅ札付きよぉ……アウローラの馬鹿みてぇな索敵武装気(アスディック)範囲内から逃げる事も出来ねぇしゼノンにも戻れねぇ……お前もソレは解ってるんだろぉがよぉ」


「当然だ。だからこの計画を成功させる必要がある何をやっている早くそいつ等を抑えろ! 私が皇女を追う」


「いやいやいやいやその後だよプロコトール…お前ホントにボケてんのなぁ……あの魔人共がオレ等に地位だのなんだの〜与えると思ってんのかぁ」


「頭の中まで呪印が回ったがバカめが! 早くしろカラス


 体中に彫り込まれた光る刺繍にチラリと視線を落としニヤリと笑う。――頭に?そうかもなこれは文字通り呪いだなと。


「オレはただの”呪印”の実験体だろぉよ強ぇからなぁ…お前等はただ足止めとして良いよぉに使われてるだけだっての」


「会話にもならんかおのれコノ状況……どうする、もう時間がない……発動まで時間が。早く王都を離れなければならんというのに」


「本来この祭りはよぉ〜アウローラが一人いれば片付くはずだよなぁ……あの幼女に勝てるヤツなんてこの世界にはいねぇんだからよぉ」


「まて、アウローラ……? 何だソレはそんな話は聞いていないぞ」


 老人の顔が疑惑に歪む。


「お前らとオレは博士にとって必要なあの女……皇女を確保するのと術式が発動するまでの時間稼ぎをする為だけに雇われただけよ。てぇことはよ? オレ達が今”生”を実感するにはどうするべきだぁ?」


「イカれおってこの屑が! さんざん目をかけてやったのに、早くワシの質問に応え――っ」

「やっぱりかもコイツ」


 給仕服の武器に手を添えていたリアの眉がピクリと動く。

 老人の首が胴から離れたからではない。屍となった老人など見ている場合ではない。


 背中が汗でぐっしょりと濡れる。


 メイドにはこの戦闘が始まってから今にかけて疑問に思っていた事があった――目の前のチャラ男の眼である。コイツは初めから自分の体の損傷など目もくれず我々二人と互角の戦闘を繰り広げてきた――だが違和感があったのだ。


(コイツ……本物の傭兵だ)


 金を稼ぎたいなら傭兵になどならなくても稼げる。

 リアは忍者である。

 無論汚れた仕事も数多くこなしてきており、人を殺した事もあった。だが追い詰められた人間というのは総じて、今しがた死んだ老人のようにパニックになるか恐怖が麻痺して冷静にコトを受け入れる――この二つしかない。


(コイツは死ぬ気だ……でも必ず勝つ気だ)


 その姿は死中に活を見出す人間のそれではなく、自分の命をベット……ギャンブル代に乗せて向かって来ている人間のソレであったから。


「気ぃ入れろよプロコトールぅ……オレはこのジジイを舐めてねぇ。呪印の力だろうが受け入れるし絶対に生き残ってやる……今のオレに油断も余裕もねぇ。そうだ……」


 既にカルスは自分で殺した男が屍になっている事にも気付いていない。ただただ今、目の前にいる男――クロードから視線を逸らさず。


「オレが欲しかったのはよぉ、ただただ自由に……誰にも媚びねぇ臆さねぇあなどらせねぇ……ソレだったはずだぁ」


 クロードの身体が隆起する。

 老兵とは思えぬ気迫と鋼の筋肉――そして笑み。


「小僧……やれば出来るじゃないか、そういう顔が」


「嬉しそうな顔しちゃてまぁ…クロード様の悪い癖かもですねぇ」


 リアは一歩だけ後退した。

 好敵手と認めた執事長の邪魔にならないギリギリの間合いに。そしてもしクロードがられる事があればその瞬間に相手を殺せるギリギリの間合いで全神経を集中させて臨戦態勢で待機する――何故か。これは武士道でも騎士道でもない。敵がそれ程までに強く、クロードごと殺すつもりで攻める以外に勝ちはない――そう判断した為だ。


「我こそはゼノン王直轄傭兵特殊部隊天涯十星(ラスティネイル)第七位……蒼炎。この字名あざなにかけて王都の敵を討ち滅ぼす者なり」


「オレはカラス……ラスティネイル第三位カルス=シンクレア。オレはオレの為に、オレの前に立ち塞がる敵全てをブチ殺して前に進む――勝負だジジイ!」


 二人の錆びた釘は同時に吠える。


「「我が一撃は――無敵なり!!」」


 防御などない打ち合い。

 血しぶきが飛び骨が砕ける。


「むぅん!」

「かぁあ!」


 クロードの左腕が砕かれる。

 同時にカルスの左耳が吹き飛ぶ。


 修羅達の打ち合いの最中――カルス右眼の武装気が揺れた。


「先は視えた・・!――オレの勝ちだ蒼炎!」


神眼武装気ジークスナイパー…その眼にお前は絶対の自信を持っている」


「当然だぁ!―― オレの才能!オレを此処まで連れて来てくれたオレと母さんの唯一の絆!」


「だが、やはりソレがお前の弱点なのだ。それの未来視はお前の眼に届く範囲に限られる」


「テメぇに勝つのにソレが何の意味があるってんだ。眼鏡女の技は既に見切ったぜ――くたばり晒せぇジジイ!」


 このわずかな時間――ほんの僅かな時間だった。

 刹那ともいえる僅かな時間――カルスの体が停止する。


「な、なんだぁ……とぉ」


「ソレが弱点なのだ……どれだけ跳ねっ返ろうと、お前の強さは所詮独りの力、目に見える一対一に限られるのだから……娘の事をやけに敵視していたようだな、お前も解っていたのだろう――能力の相性が悪いと言う事に」


 天涯十星第十位颶風――神無木絃葉カンナギイトハ。彼女の放出武装気アスディックはゼノン王国一の範囲を誇り500m範囲四方――そしてその範囲に存在する全ての対象へ干渉できる特型武装気ひゃっかりょうらんを持つ――300mのオーラ放出範囲を誇るクロードには解っていた。


 娘がこの瞬間を狙っていることを。


絃葉(いとは)か!?」


 カルスに察知されない、そのギリギリ180m後方で待機していた絃葉は呟く。


「脇腹の借り、やっと返せましたね……カラス


「ちぃぃぃいくしょうがああぁ」


 武装結界を即座に振りほどき、鴉は刹那遅れたタイミングで――自身が持つ最高最速の秘奥義を繰り出した。



 ――――――ボっ――――――



(チッ…こんな時にも視えちまう。この右眼はよぉ)


 右眼の未来予知が映像を映し出していた――敗北を。


 ◆◇◆◇


 デイオール家での戦闘? チッ……何で今そんな事を思い出すんだ胸糞悪ぃ……でもまぁ良いか。もう考える事も胸糞悪くなる事もないだろうからな。


 まぁ良いだろう、今くらい。


 カルス=シンクレア――この名前だけは気に入っている。娼婦だった母さんがつけてくれた、オレが人間である証明だからだ。


 オレにとってゼノンって国は本当に愛想が尽きるくらい気に入らねぇ国だった。親父は何処にいるのか母さんはいつもソレを聞く度「何人いるかね」つってカラカラ笑っていた。シンクレアって性もいつか来た貴族客の性を勝手に名乗ってるだけだとよ。


 ゼノン国には神門協議会という王に次ぐ権力をもつジジイ共がいるが、そいつらの数人は王都の闇と繋がっており、裏であくどい商売に手を染め私腹を肥やしていた。母さんが務めてた娼館もその一つだ。


 娼婦の最後なんざロクでもねぇ。

 顔面が変形するくらいに腫れあがったと思ったら、それが全て剝げ落ちて母さんは死んだ。だが母さんは死ぬ最後までオレを必死で育てた。動ける筈のないその体で。


 母親から受け継いだその力――特型武装気。

 オレには生まれ持ってオーラの才覚があった。

 相手の動きを先読み出来る神眼と優れた戦闘能力――天涯孤独だったオレがゼノン傭兵の頂点天涯十星ラスティネイルに配属されるまで、そう時間のかかる事じゃなかった。


 ある日、ゼノン暗部から声がかかった。

 暗殺部隊ドランブィ――オレは歓喜に震えた。

 そいつらは王都の闇ルシアンネイルと繋がっている。

 母さんを殺した……大勢の娼婦を囲い、私腹を肥やしている糞どもを皆殺しにしてやる機会を得たからだ。


 初めての任務は外国での仕事だった――トロンリネージュ王国くんだりまで行ってアンネ=ミリアーネとかいう女を殺すっていう簡単な仕事だ。


 案の定簡単な仕事だった。

 自分は大貴族の妻だとか15になる娘がいるとか命乞いをして情けねぇ女だったが、顔がよかったから少し遊んでヤってから始末した。


 後日聞いた話――そいつは元々母さんと同じ娼館で働いていた女だったらしい。


 オレは身体の水分が出尽くす程のゲロを吐いた。

 三日目の朝にオレの中でこういう言葉が生まれた。


 ”しょうがねぇじゃねぇか”と。


 そう思うようになってから噓みてぇに気分が良くなった。

 誰もオレを止められねぇ。

 誰もオレに敵わねぇ。


 ならば好きに、自分の気持ち良い事をして生きるべきだろ?いつしかオレは母さんの仇を討つなんて目標は忘れ、その闇と同化して生きていた。


 だが数か月前の事だ。

 格下だと思っていた老兵にオレは敗北を喫した。

 一つの技を追求するっていう古臭い考えの”蒼派”が嫌いだった。その古臭い老傭兵クロード=シウニン=ベルトランに敗北した後にオレは気付いた……気付いちまった。


 一つの技を追求し極めると言う事が自分は嫌いだったのではない――出来なかったんだ。


 オレには無理だと諦めていたのだと。

 だからこのジジイが嫌いだったんだ。


 オレは今まで通り自分のやり方で勝ちたかった。他者の力……呪印の力を使ってでも。


 オレは勝ち続けなければいけない。

 オレは鍛えてはいけない。

 オレはオレのまま生き、元々の自分の価値を世界に知らしめなければいけない――オレに残っているのはもうソレだけなのだから


 だからオレは”負けず嫌い”を演じなければならない。


 じゃないと……母さんが報われない。

 オレが救われないじゃないか。


 そうだ――これは呪いだ。

 オレが呪印に取り込まれるのは必然だった。


 でも本当に、それで良かったのか? オレ――


 ◆◇◆◇


 ソイツが持つ最高最速――閃光のような手刀を放ちながらカルスは思う。


(クロード……お前ってヤツはよぉ……何で)


 迫るもう一つの閃光が、自分の右眼に向かって一直線に激進するのを捉えながら。


(何で、同じ、技……を)


 相手から繰り放たれているのは"黒派"の技だったのだ。

 自身の誇りとも言えるゼノン流攻殺法”蒼派”の技を捨て、一対一で何としてでも自分に勝つのだという気概である。


 それがクロードという男の信念。――カルスの口角が吊り上がっていく。


 そう――相手は自分以上の本物の負けず嫌いだったのだから。


(この速度……絃葉の介入が無くてもオレより速かったじゃねぇか。まぁた三味線弾いてやがった……この狸ジジイめ)


 ソイツは思った。

 くやしいなと。

 もっと早く本物の出逢っていれば、気づいていればなと。


(あぁ畜生、何でオレより強ぇヤツがこんなに居るんだよ……この世界は)


 父親のツラなんて見た事はないが、年喰った親父が、体力が落ちて白髪が混じってきた親父が、自分を曲がった道から救い出そうと必死に殴り掛かっている。そんな偶像が視界を流れる。


 最後にソイツは思う。

 母さん、今までごめんと。

 思いそうになったが、それは撤回する。

 今の自分は演じてはいない。

 本当に勝ちたくて

 本気でやった

 やり切った。


(ムカツクぜぇ……だが)


 それでも勝てなかったが。


(不思議と最後は……悪くねぇ)





 全流派中最速のオーラスキル

 ゼノン流攻殺法”黒門”秘奥義《神無狩の槍(カムイ)》。


 右眼から頭蓋骨を貫通された骸を目の前にクロードは言う。


「お前の技は所詮見せかけ。技は深さだと、以前そう教えたはずだ……小僧」


 鬼の瞳に光が流れる。


「残念だ……お前が才能に溺れる事無く武を極めれば……あの白銀の狼を超える事も出来ただろうに」


 老兵は思う。

 さらばだ鴉……来世で逢えばまた()ろう。


 稚拙で軽薄で癪な小僧でははあったが、その才能のみで天涯十星ラスティネイル3位にまで上り詰めた骸を見つめ。


「だが小僧……最後のお前だけは嫌いではなかったぞ…… カルス・・・


 クロードは戦闘用革手袋を外して投げる――それは動かなくなった好敵手の額に落ちる。


 くたびれた革手袋――まるでそれは、よくやったと不器用に子供を褒める、父の掌のように見えた。


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