聡少年
うまく進めない焦りのせいか、さらに足取りが遅くなっている気がする。
かろうじて逃げ出した教室からはまだ動く人体模型が出てきてはいない。
が、すぐに追いかけてくるだろう。
さっきは勢いで逃げ出せたけれど、よくよく考えるとこれからどうするか。
考えるまもなく、さきほどの教室から人体模型が顔を覗かせるのが見える。
「やべえ。あいつ絶対追って来る」
廊下から見えた人体模型が僕の姿を認識したのか、こちらに足を向けて一歩一歩近づいてくる。
とりあえず、とりあえず逃げる。
考えるのはその後だ。
捕まったら元もこもない。
「あいつら何処に逃げやがったんだよ」
とりあえず三人が下っていった階段を背中におぶったお荷物と一緒に降りていく。
階段を2段飛ばして降りていき一つ下の階の廊下につくと、左右に目配せをする。
右、左と視線を動かすと左の端に人影が見えた。
数えて2つ目の教室に誰かが入っていく。
その影を追うように廊下を駆けて、対象の教室へと向かい扉からすべり込む。
直後、そおっと顔を廊下に出して人体模型が追ってきていないか確認。
セーフ。
とりあえず視界に奴の姿は見えない。
顔を引っ込めるとそのまま扉をするすると音がしないように閉める。
そして、教室内をつかつかと進む。
「や、近づかないで下さい!エロイムエッサイム!エロイムエッサイム!」
お前また何か召還するつもりか。
目の前には混乱のあまりとりあえず知っている言葉を唱える聡の姿があった。
「とりあえず落ち着けよ。それにしてもお前は相変わらずオカルト好きなんだな」
取り乱していた聡も状況が理解できたのか、徐々に冷静を取り戻していく。
「ん?んん?これは、これは。僕が召還した異界の戦士オーディンじゃないですか」
いつのまにか僕は北欧神話の神へとクラスアップしていたようだ。
「お前、勝手に自分の手柄を誇張するな。俺はオーディンなんかじゃない」
「な、何を言ってるんですか。その右手の封印を解いて早くあの人体模型を跡形も無く昇天させてください」
「僕の右手を勝手に秘密兵器みたいにするな。ただの右手だっての、まったく小学生の癖に中二病で、オカルトマニアなのは変わらないなお前」
「やたらなれなれしい召還獣ですね。まあ今は許してあげます、非常事態ですから。わかりましたから早くあのお化けを倒してきてください」
ふうっとため息をつき、めんどくさいながらも言葉を僕は告げる。
「だから、僕は召還獣なんかじゃないんだって。確かに召還?されたみたいだけれど」
「じゃあ一体なんなんですか?」
そう言われるとふと我に返ってしまう。
「まあ、特にこれといった特技も無い未成年の男性18歳。趣味なし。金なし。彼女なし」
「…」
無言の聡少年。
言って自分の低スペックぶりに自分で驚く。
「「…」」
無言の大学生と小学生がそこにいた。
「まあ、まあ。年上の人がここにいて助かるなあ」
小学生の男子に気を遣われてしまった。
「まあ、まあ。なんとかしてやるから、とりあえず状況を教えてくれ」
過去のに経験しているはずながら、あいまいな記憶になっているかつ、気絶していた当時のことを確認してみる。