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掌編 手紙 / 詩

   おい、サトミ。教習所の試験、合格したんだってな。


「何よ、これ」

 手紙の書き出しがこんな言葉だなんて、ひどいと思いませんか?

 高校を卒業してから、一度も逢ってないのに…「元気ですか?」とか「今、どうしていますか?」とか…少しくらい、気にしてくれてもいいと思うのです。

 ちょっぴり口を尖らせながら、サトミは懐かしい幼なじみの字を読み進めました。


   お前が運転すると怖いから、絶対、誰も隣に乗せるなよ。

   どうせ、あちこちに車をぶつけたり、恐ろしいくらいにスピー

  ドを出したりするだろうからな。


 もうっ! 本当に、憎らしいったらありません。手紙でなかったら、文句の一つや二つ、三つや四つ、五つや六つ…いいえ、もっともっと、言ってやりたいところです。

 これ以上、読まないでおきましょうか…

 …でも…いいえ。サトミの目は、素直に続きを追っていました。


   それにしても、正直言って、サトミが車の免許を取るなんて思

  わなかったよ。すごいじゃないか。これでまた、『自分』にとって

  の新しい『何か』が増えたんだし、『サトミ』自身も大きくなった

  だろうから…とりあえず、おめでとう、ってところかな。

   そうそう。サイドブレーキを入れ忘れるのは、本当にやめろよ。

  キーを回した途端に動き出して、自分の子どもを圧死させた母親

  もいるんだから…

   サトミ、車が「いとも簡単に人を殺せる物」だってこと、忘れ

  るなよ。

   非常に殺傷能力の高い道具…それが車なんだ。乗っている本人

  にその意識がない分、拳銃よりも恐いかも知れない……

   ……と、これだけ脅かしておけば、暢気なサトミだって少しは

  気を付けるよな?

   まっ、注意して使えば、こんなに便利で楽しい道具もないし…

  道具の価値なんて、使う人間次第なんだよ。きっと、サトミの運

  転する車は、「サトミらしい車」になるんだろうな。

   最後の筆記試験も、頑張れよ。

   じゃぁな。


 ユウタくんの手紙は、これで終わっています。久し振りの手紙なのに、もっと書くことはないのでしょうか。

 サトミは不満で仕方ありません。

 でも……ユウタくんが本当に書きたかったことは、もっと短かったのかも知れません…


   最後の筆記試験も、頑張れよ。


 きっと、これだけなのでしょうから……

 …サトミには、それがよく分かっていました。

「ほんと、素直じゃないんだから」

 そんなことを呟きながら、きちんと手紙を折り畳んでいます。

 免許を取ったら、すぐにこの手紙をケースに入れるつもりです。

 …サトミにとって、この手紙くらい、効き目のあるお守りはないのですから……

                                                                         おわり






   アルバムの中の 小さな写真

    色褪せた 夢の滴


   …想い出を映す 柔らかな光の泉……



     白い帽子を 両手で押さえ

      はにかんで笑う 小さな女の子

     夏の空に煌く 眩い笑顔



   お母さんが 小さな女の子だった頃

    懐かしくて 遠い《時》

    永遠に届かない 密やかな憧れ…



     長い髪を そよ風に揺らし

      胸元で手を振る 小さな女の子

     淡い茜に染まる 可愛い笑顔



   お母さんが 小さな女の子だった頃

    変わらない 同じ《時》

    輝きに満ちる 温かな囁き…



   アルバムの中の 小さな写真

    仕舞い込まれた 想いの欠けら


   …《真》を映す 静かな夢の瞬き……






                                                                    『オカシナ村の好きな夢』 おわり

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