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銀の姫はその双肩に運命をのせて  作者: 藤宮彩貴


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一万ユニーク記念・番外編その7 ふたりの間に動揺が走り

 部屋にて夕食をとっているとそこへ、セオリアが入ってきた。

「ごめんなさい。お嬢さまにお願いがあって」

 セオリアはほんとうに申し訳なさそうな顔をしている。

「どうしたのですか、なにかお困りでも?」

「ええ。それが。お忍びの、王子さまのことなんですけど」

 キールのことだという。

「怖い顔の従者がしきりに、若い女性を呼んでほしい、と言うのです。用はすぐに済むから、の一点張りで。でも、うちの宿の手伝いに若い娘はいないし、町の大きな宿も国使の宿泊があるとかで、てんてこ舞いなのよ。近所の娘たちもすべてそちらに駆り出されていて。ディーナお嬢さまに、少しだけ様子を窺ってきていただけたら、と思って。無理かしら」

 ディアナはすぐに思い当った。グリフィンも頷いている。キールの、『発作』だ。放っておけば命に関わる。城であれば、治療専門の侍女もいるはずだが、連れて来なかったのだろうか。まさか、現地調達でもと、たくらんでいたのか。

「危険はない、としきりに言うのよ。でも、緊急なんですって。私、どうしたら」

「……行ってやってくれないか、姫」

「ええ? でも、治療って」

「分かっている。承知の上で、頼んでいる。あくまで治療だ。部屋を暗くして、姫の顔が分からないように治療だけして、すぐに帰ってくればいい」

 どれだけ懇願されても、ディアナは気が進まなかった。キールの病は心配だ。だが、グリフィンへの恋を確信した今、キールの治療にはどうしても消極的になってしまう。

「宿を出て、逃げましょう。大きな宿屋の前で、キールを助けてって言って、侍女を呼んでくればいいのよ」

「ここを逃げてどうする。野宿か? 俺は別に構わないが、夜は冷えるぞ。そもそも野宿をするつもりがあるなら、宿は取らなかった。野営するための、準備もない。姫育ちのお前には、無理だろう」

「そんなことない。グ……あなたが、いてくれたら!」

「いや。チャリオットも休んでいる。今、動かしたら、明日からの移動が困難になる」

「あなたは馬と私、どちらが大切なの?」

「愚問だ」

 ふたりが言い争っていると、どかどかと室内に男たちが入ってきた。

「ここに若い女がいるではないか!」

「我が主を助けてくれ!」

「さあ娘、こちらへ!」

 ディアナは袖で顔を隠した。姿を変えるために、短くなった髪を町娘風に三つ編みに結ってみたが、顔を見られたらまずい。城で会ったことがあるかもしれない。見破られてしまう。

「わ、私はただの町娘。王子さまに会うなど、恐れ多いですわ」

「ぐだぐだ言うな。ことは、急を要する」

「いや、行きたくない! グリフィ……ン」

 グリフィンはディアナの手を握らなかった。無表情で見送った。

 そう、いつもどきどきしたり、戸惑うのは自分だけなのだ。

 従者に反論もできず、ディアナはキールがいるという部屋の前まで連れていかれた。ディアナたちの部屋の三部屋先、角部屋だった。とりあえず、間近にあった膝掛けを頭からかぶって必死に顔を隠している。

「なんだそのかぶりものは。キールさまに対して、その姿のほうがよっぽど失礼だぞ」

「み、見苦しい顔をしております。子どものころ、暖炉に落ちた火傷のあとが」

 従者は舌打ちをした。ずいぶんと、荒っぽい従者だ。

「まあいい。王子はほとんど眠っておられる。我々の言うように動いてくれれば、済むことだ」

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