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銀の姫はその双肩に運命をのせて  作者: 藤宮彩貴


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一万ユニーク記念・番外編その6 第三王子の到着

 間もなくして。

 キールは華やかに、供を引き連れて小さな宿へ到着した。ルフォン国の第三王子にして、次期王太子の呼び声も高いものの、気さくで愛らしい笑顔を浮かべていたと聞いた。

 宿の主人とその妻セオリアには、キールと接触したくない旨を伝えたけれど、どこまで深刻なのかはきっと分かってもらえていない。こちらの身分が明かせない以上、『ごくごく個人的な駆け落ち騒ぎで、キールさまのお心を乱したくない』としか言えないのだから。

「大切な髪を切り落としてまで、守り抜くことではないと思うが。もったいない」

 でも、ふたりでもっと過ごしたかった。姫は不満を顔にあらわす。このグリフィンという人は、馬の扱いには長けていても、乙女心はさっぱり理解できないようだ。

「ここまで来たからには、ゲームみたいなものでしょ。ちょっとした遊戯、余興よ。ちょうど髪も長くなり過ぎていたし。軽くなってちょうどいいわ」

 そんなディアナも、素直になれない。毎日香油で磨いていた髪は、己の命同様だった。きれいだねと、うつくしいねと褒めてほしかった。せめて、グリフィンを守るために役立っていると思いたいのに。腰に届くまであったはずの髪は肩下あたりでざっくり切ってしまった。自分でも、思い切ったことをしたと思っている。

けれど、グリフィンのそばにいたかった。

 一国の姫に生まれたからには、自分は恋など知らずに政略結婚するのだと割り切っていた。侍女たちが恋話で盛り上がっているのを見るにつけ、冷やかに眺めていたはずなのに。羨ましさはあったかかもしれない。まさか、そんな自分が恋に。しかもこんな風変わりな相手と。ディアナは戸惑いを隠せない。

「髪が結える長さになるまで、婚儀がお預けになるようなことは、ないよな」

「ま、まさか。銀の国で承諾を得たら、婚約は成立でしょう?」

「女の髪がどうなっているのかは、知らん。だが、王子と姫どうし。婚約即結婚ではないだろう、ということだ。国内外の賓客を招待し、きっと無駄に豪華な婚儀にしなければならないのだ。国の威厳を保つために。王太子のぶんまで」

 ルフォンの王太子は、本来ディアナと婚約していたのだが、己の侍女に惚れて身分違いの結婚をしてしまった。あまりに急で、あまりに勝手な行動だったので、広くお披露目はできていない。異母弟とはいえ、第二王子のグリフィンが神秘の国・プレイリーランドのディアナと結婚するならば、世紀の婚礼になるに違いない。銀の国の姫を見ようと、人は集まってくるだろう。表舞台には立ってこなかったグリフィンの姿も、新鮮に映るはず。

「厄介ですわね、王子と姫って」

「今ごろ、気がついたのか」

「いいえ。別にそういうわけでは」

「なんなら、このまま逃げてもいいんだぞ。この身ひとつで、手に手をとって」

 グリフィンはにやりと笑い、ディアナの手の甲に唇を落とした。

「い、いいえ。私には、たくさんの銀脈を見つけ、国を富ますという責務がありますもの。天馬と話せる識者として、役目を放棄することはできませんわ。それに、その……後継者も残さねばなりませんし……できるだけ、多く……」

「そうだったな。こんなことになったけれど、姫は当初、ルフォンの王太子と結婚するために、ルフォンに来たんだったな」

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