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銀の姫はその双肩に運命をのせて  作者: 藤宮彩貴


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一万ユニーク記念・番外編その5 乙女の決意

 宿の作業着を出してもらい、グリフィンも着替えた。特徴的な黒髪を隠すため、頭には赤いバンダナを巻き、王子さまらしくない姿に化けた。

「これはこれで、ありだな。馬の世話がしやすい」

「ですが、ルフォンの王さまが御覧になったら、なんとおっしゃるか」

 ディアナは眉をひそめた。

「いや、いいんだよ」

  質素な身なりでも、高貴さは隠せない。厩に住んでいても、気品を保っているのだ。着替えただけでは、グリフィンの存在感は少しも消えなかった。セシリアはグリフィンのことをよく見ていないのだと思う。馬の世話が上手い=身分が低い、とうわべだけで思い込んでしまっている。

「もう少し、なんとかしないと。このままでは、キールに気がつかれてしまう。あいつ、勘と嗅覚だけはいいから」

 グリフィンは両腕を組んで考えた。

「あ、あの。私、お役に立ちたいです。こういう案はいかがですか」

 どうしても目立ってしまうグリフィンに、ディアナはひとつの提案をしてみた。けれど、それを聞いたグリフィンは顔を真っ赤にして怒った。

「それはだめだ。俺が許さない。第一、乱暴過ぎる」

「ですが。このまま見つかれば、私たちはしばらく引き離れてしまいます。銀の国の国境付近まで、ふたり旅を続けたいです。怒られることは、すでに覚悟していますので」

「意外だな。姫が、それほどまでに俺と一緒にいたいなんて。城からさらうようにして出立したのに」

「い、いいえ! 私は私の意思で城を出ました。ですから、グリフィンだけが怒られる事態を避けたいのです。私も同罪だと、知られたいのです」

「……姫君育ちのくせに、よくそんなことが思いつくな」

「だって、グリフィンをひとりにしたくないもの。あなたのことを、もっとたくさん知りたいもの!」

「姫としての誇りは、捨てるのか? 俺がここでベッドに誘ったら、どうするんだ? 言いなりか? 己を安く売るか? 書庫での続きをしようか?」

「グ、グリフィンはそんなこと、し、しません! 万が一、そんなことになったら、手だけつないで、一緒に寝ます! いろいろなあれこれは、結婚後です!」

 グリフィンは盛大に笑った。つぼに入ってしまったらしい。ふだんはあまり感情を外にあらわさないグリフィンが、おなかをかかえて笑っている。どうやら、大胆な失言だったらしい。

「今年いちばんの、冗談だったな。よかった。いいね。俺のことを、過大評価し過ぎていると思うが。まあ、嬉しい勘違いだ。ならば、今夜はおことばに甘え、手をつないで寝ることにしよう。結婚前に、姫のおなかが膨らんでしまわないよう、注意しながら。キールの襲撃が阻止できたら、だがな」

 ディアナは頷いた。そして、姫の大胆な提案が受け入れられた。

 鋏を取り出したディアナは、自分の髪の、先のほうを惜しげもなくばっさりと切り、つけ毛に仕立て上げた。そして、グリフィンの赤いバンダナにつける。黒い地毛をすっかり隠したグリフィンは、バンダナから見え隠れするディアナの明るい巻毛で印象が変わった。

「なるほど。別人に見えるな。助かった。長髪の作業人か。これで、遠目になら誤魔化せそうだ」

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