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銀の姫はその双肩に運命をのせて  作者: 藤宮彩貴


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一万ユニーク記念・番外編その4 揺らぎ

 主人夫婦がいなくなったあと、ディアナはそっと部屋を出た。グリフィンはまだ厩にいるだろう。

 今回連れてきた馬は『チャリオット』という名の、オスの栗毛馬。力は強いけれど、賢くてやさしい、とグリフィンは評していた。もっとも、グリフィンが吟味し、王宮に属しているほどの馬なのだから、いい馬に決まっている。

 グリフィンは三兄弟の真ん中、第二王子。王軍を率いているけれど、王位継承で争わないために、厩で寝起きし、常に一歩引いた姿勢でいる。兄弟で、グリフィンだけは生母が違うから身分が低い。これまでも、公の場には姿を現さなかった。王子であることを退こうとさえ考えていた時期もあったらしい。

 しかし、隣国の第一王女・ディアナと心通わせたグリフィンは、ルフォンの王子として陽の当たる道を歩くと決めた。王子でなければ、姫と結婚できない。この銀の国への旅は、表向きはルフォン城における銀抗採掘の協力要請だが、姫の両親にふたりの結婚の許しを乞う旅でもある。

 ルフォンの王太子と婚約するために銀の国を出たディアナだったが、王太子にはすでに神に誓った妃がいた。事実を知ったとき、すぐに帰国すればよかったのだが、ディアナはルフォン側にもてなされるがまま、滞在を続けた。グリフィンよりも積極アピールしてきたのは、末っ子の第三王子・キールだった。

「グリフィン、いる?」

 ディアナは馬房の奥にいるだろうグリフィンに声をかけた。夕暮れた厩は暗くて、目を凝らしても中がよく見えない。馬たちも休む時間のようで、静かだ。

「こっちだ、ディアナ」

 水場から、グリフィンの声が聞こえた。ディアナは、声のしたほうに駆け寄る。

「まあ、どうしましたグリフィン? かなり濡れていますよ。だいじょうぶですか。お湯を用意してもらいましょうか」

「いや、いい。厨房が忙しくなる時間だ。手間をかけさせたくない。適当に拭いておくから」

「私、急ぎのお話があって」

「俺もだ。部屋に戻ろうか」

 馬の世話をしている途中で水をかぶってしまったらしく、髪も服もしとどに濡れていた。離宮生まれで厩育ちのせいか、グリフィンはあまり王子らしくない。濡れかけた布で頭をわしゃわしゃと豪快に拭きながら、廊下を歩く。

「着替えたんだな」

「はい」

「質素な服も、意外といけるな。新鮮でいい」

「は、はい」

 非常時なのに、ディアナは嬉しく照れた。

「俺も着替えるか。明日までには乾くだろう」

「そのことなのですが」

 ディアナはこれからキールが来る気配がすることをグリフィンに伝えた。

「……そうか。来るか。勘と嗅覚は鋭いからな、あいつ」

「先を急ぎましょうか?」

「いや。もともと、急ぐ旅でもない。それに、キールの一団には、お前の侍女たちも含まれているのだろう? 姫にとっては合流したほうがなにかと都合がよいだろうに。そもそも、俺が先発したのは、ただ先を歩きたかっただけで、特に深い意味はない。国書を持った使節団に追いつかれるか、逃げ切れるか。鬼ごっこのようなものだ。それともディアナは、俺とふたりきりで進みたいのか?」

「そ、そんなことは、ありません……けど」

「ふたりを乗せて一日がんばってくれた、チャリオットを休ませたい。今夜はここに泊まる。キールが来るというなら、少し変装でもするか」

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