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銀の姫はその双肩に運命をのせて  作者: 藤宮彩貴


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一万ユニーク記念・番外編その3 笑顔は最強の武器にもなる

 駆け落ち、違います……ディアナはすぐに否定しようとした。けれど、このままそう思わせておいたほうが、なにかと都合よい。考えた末、ディアナは困ったように笑った。否定とも、肯定ともとれるように。伝わってほしい点はただひとつ。『私たちに触れないで』。駆け落ちは言い過ぎだけれど、姫と王子は城を勝手に出てきてしまっている。当たらずとも遠からず、である。

 宿を営むにあたって、さまざまな人に接してきただろうセオリアは、ディアナの微妙な立場を次第になんとなく理解したようだった。

「まあ、そうでしたの。ごめんなさい。あの……、見た目だけで『盗賊』だなんて、早合点してしまって。とんだ失礼を。物語の読み過ぎですわね。おほほっ」

「私のほうこそ、ごめんなさい。説明、したくても、できないのよ。今夜だけ、黙って泊めてくださいね」

「ええ、もちろんですわ。お詫びのしるしに、夕食をうんとサービスします」

「ありがとう」

「まさか、駆け落ちだったなんて。貴族の姫と馬丁の」

 グリフィンが聞いたら、怒るだろうか。それとも、あきれるだろうか。馬の扱いに長けているだけで、馬丁認定されている、気の毒なグリフィンにディアナは複雑な心持ちになる。

「あの方もよい服を着ておいでですもの。見た目は麗しいから、よく似合っているわね。あなたの兄君か、どなたかのお召し物をこっそりと拝借なさったの? これから銀の国に行くというけれど、つてはあるの? あの国はひどく閉鎖的で排他的と聞くわ。あなたたちのような若者を迎え入れてくれるかしら。だいじょうぶ?」

 ディアナの頬は、ひきつってきた。

「え、ええ。プレイリーランドには私の……お、叔母が住んでいますから」

「まあ! それはよかった。心強いわね。でも、お嬢さまのご両親は悲しむでしょうね。あなたが行ってしまうと」

「ご心配、ありがとう。でもだいじょうぶです」

 悪気はないところが、かえってしんどい。ディアナはセオリアが早く部屋から去ってくれることを祈った。これ以上の嘘と誤解を重ねると、つじつまが合わなくなりそうだ。

 そこへ、再びのノック音。今度こそグリフィンかと、ディアナは緊張を高める。けれど、グリフィンにセオリアをうまくあしらってほしい気もする。

「セオリア、ちょっといいか。お嬢さま、こいつがとんだ失礼なことをしてないかな。セオリアは世話好きなんだが、たまにしつこいほどでね」

 宿の主人だった。セオリアに話があったらしい。ディアナのいるドア向こうで、ふたりは小声で会話をはじめるけれど、正直筒抜けである。

「……というわけで第三王子のキールさまが、うちの宿を訪れるらしい。くれぐれも粗相のないように頼んだぞ。キールさまは第三王子とはいえ、次の王太子にとの呼び名も高いお方。しかしまあ、なんだってそのように高貴なお方が、場末の小さな宿屋へ……町の中心の、大きな宿に泊まればよいのに。ぶつぶつ」

 耳を疑った。キールが、ここへ? まさか、そんなことって。どんな偶然? それとも、知られてしまったとか? これは早くグリフィンに知らせなければならない。ふたりきりで過ごすはずの旅に水を差されてしまう。先を急ぐべきかも、しれない。

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