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銀の姫はその双肩に運命をのせて  作者: 藤宮彩貴


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33/50

一万ユニーク記念・番外編その1 城を出た姫と王子は

本編を読了したのちに読むことをおススメします

 ディアナとグリフィンを乗せた馬は後続隊に追いつかれずに、藪から街道に出たところで、間もなく夕暮れを迎えた。

「近くの町で宿を取ろう」

 銀の国までひとっ飛び、というわけにはいかない。どうがんばっても、数日はかかる行程になる。グリフィンに賛同したディアナは頷いたけれど、不安は大きくなるばかりだった。

 ふだん、厩で寝起きし、軍の調練などで野営もするグリフィンには慣れっこだろうが、ディアナは戸惑いを隠せない。なにしろ、侍女のひとりもいないのだ。いつもディアナに付き従っているアネットが、一泊分の着替えと身の回りの品はあわてて持たせてくれたけれど、ほんの間に合わせに過ぎない。姫育ちのディアナは宿屋の前でまごついた。

「どうした、姫。腹でも痛いのか」

 悪気はない。この人なりに、心配もしてくれている。そう信じているけれど、グリフィンのひとことはあまりにぶっきらぼうだった。

「いいえ、体調は別に」

 視線を逸らす。姫の受け答えはどうしたって固くなる。気がついているのか、いないのか。グリフィンは少し首を傾げた。

「ならば、早く中に入ろう。馬にも休息させたい」

 グリフィンは宿屋の主人と簡単に交渉し、一夜の宿をさっさと決めてしまった。

「奥さま、先にお部屋へご案内いたしましょう」

 宿屋の主人がディアナを促す。馬大事のグリフィンは、さっそく馬に水をやったり飼葉を与えたり、愛馬の世話に余念がない。己の愛を告白したはずの姫は放置。あきれたものだ。

「ご夫婦のお部屋はこちらです」

 目を疑った。狭いけれど小綺麗な部屋に通された。それはよい。けれど、『ご夫婦』とは? グリフィンの馬への熱心な態度に気を取られてしまっていたが、姫は『奥さま』と呼ばれていた。

「なにかご用がありましたら、遠慮なくすぐに呼んでくださいませ。ごゆっくりどうぞ」

「ありがとう」

 木のベッドに枕がふたつ。クロゼットに小さなテーブル。窓からは、濃い夕暮れに包まれた木立が見える。

 宿の働き手に対して、王子や姫だと身分を明かせば、うるさい後続隊に見つかる可能性が高まる。グリフィンはそこそこの貴族夫婦のお忍び旅、という風体を繕ったようだった。荷物も少なく、連れの使用人がひとりもいないことで、不審感を持たれているかもしれない。それに、グリフィンもディアナも、動きやすさを重視した服装でしかない。正装するのは、銀の国に入る直前でじゅうぶん間に合うけれど。

 ということは、今夜はこの部屋でグリフィンとふたりきり? 後続隊に見つからない限り、あ、朝まで? そう考えただけで、姫の鼓動が跳ね上がった。身体も、ほてったように熱くなる。

 どうしよう、姫は頬をおさえた。熱い。熱すぎる。ディアナは机の上に置いてあった水差しからグラスに水を注ぎ、ぐっと飲み干した。

 馬の様子を見に行ったグリフィンはまだ帰ってこない。ほっとするような、それでいて残念なような。

「ざ、残念? そんなことはないわ、決して。私は一国の姫。銀の国の姫。町の宿で初夜を迎えていいような、軽々しい身分ではないもの。それなのに、あなたはなにを考えているのよ、姫!」

不定期更新で連載します(なるべく早めに)

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