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イマジネーション・ラグーン  作者: 遊森謡子
第一章  珊瑚礁の城
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4 会社と神社

昨日は『海の日』だったのに、更新できませんでした…

 あれから、どれくらい時間が経ってるんだろう。


 私はぶらぶらと、ラグーン城のなかを散歩しながら考えていた。……いや、ぶっちゃけ道に迷っちゃったんだけどね。

 ザンが「ズーイを呼びましょう」って言ってくれたけど、だいたいの方向はわかってるし二回くらいしか曲がらなかったから、さっきの部屋に帰りつくくらい訳ないわ、とか思って一人で帰るって言ったんだけど。とんでもありませんでした。

 まあ、そんなにとてつもなく広い場所じゃないみたいだから、歩いてるうちにどうにかなるでしょ。


 私は会社に思いをはせた。

 ……私がいないこと、誰か気づいてくれたかな。会社、砂だらけでビックリだろうな。

 いや待て。あの日は金曜日で、しかも夜になってた。倉本主任は印刷所に色校正に行って、そのまま直帰。他の社員さんも書店営業から直帰で、会社に残って戸締りする予定だったのは私。

 うちの会社は貧乏で、わが書籍部は在庫保管スペースを確保するために、ものすごいボロビルを借りていた。警備員なんて常駐してない。

 じゃあ、土日出勤する人がいない限り、一人暮らしの私が行方不明なことに、月曜日まで誰も気づいてくれないってことじゃないの!?


 上を見上げると、相変わらず水面は明るくきらめいて揺れている。エイだろうか、空飛ぶ絨毯みたいなものが陽光を遮り、影が水中にストライプを作った。

 今日は一晩明けて、土曜日なのかな。あーあ、どうせ倉本主任は印刷所の美人営業さんと楽しく飲み明かしたんだろうな、私がこんな目に遭ってるとも知らないで。くそう、くらっシュ(「倉」本「主」任の略称だ)め!


 内心八つ当たりしながら歩いていると、渡り廊下の外、庭の珊瑚の林の奥に、見覚えのある小さな建物が見えた。庭に下りて近寄ってみる。

「お社…かな?」

 ちゃんとした神社、と言う感じではなくて、摂社せっしゃとか末社まっしゃっていうの? よく神社の脇にぽつんと建ってる、あれみたい。

 私の背より少し高いくらいの、小さなお社だった。赤い屋根に白い壁、赤い格子の扉。前には白いとっくりのようなものが立ててあり、榊の枝が挿してある…と思ったら、これ榊じゃないわ。ワカメだ。


 ……私は漠然とした不安を覚えた。

 亡くなっている愛海先生……その先生の世界に作られた、小さなお社。これは何を祀ってあるんだろう。


 私は首を振った。今はこんなこと気にしてる場合じゃない、元の世界に返るためにはどうしたらいいのかを考えなきゃ。

 やっぱり、この世界の創造主である愛海先生に会う必要があると思う。

 ということは、何か海上に出る手立てを考えないと。


 今私がいるラグーン城の中は、空気なのか水なのかわからないもので満たされている。息はできるし、身体は浮かばないんだけど、空気よりも存在感のあるものが身体にまとわりついているのを感じる。

 お社を離れ、庭の外へ向かって歩いてみると、ある地点から急に視界の青が濃くなっていた。手を伸ばしてみると、小さな抵抗があってから手が向こうへ抜ける。冷たい水を感じた。

 えいや、と顔を突き出してみる。

「! ……げほ、ごほ」

 顔を戻し、両手でぬぐった。やっぱり、ここから向こうは海だ。息ができない。


 それじゃあ、どうやって海上へ行けばいいのか。

 潜水艦? ……この世界にありそうか、璃玖?

 それじゃ、シュノーケルとか酸素ボンベ? いやいや、もっとありそうなものがあるじゃないの。

「……かめ?」

 私はつぶやく。浦島太郎みたいに、陸地と竜宮城を行き来するなら、交通手段は亀でしょう。


 そのとき、目の前が陰った。顔を上げると、まるで私の声が聞こえたかのように、大きなウミガメが庭に泳いできて着陸(?)したところだった。

 ウミガメは首をゆっくりともたげ、つぶらな瞳でこちらを見た。

「……ベタだけど、小説としてどうこうよりも、まず帰ることを考えないとね」

 つぶやいた私は、ウミガメの前にしゃがみこんで言った。

「もしもしカメよ」

 やっぱ、カメに話しかける時には「もしもし」だよね。ウミガメは私をじっと見ている。

「海の上まで、乗せてくれるかい?」

 すると、ウミガメは少し身体の向きを変えて、私に背中を向けた。乗せてくれるらしい。ファンタジーだ。

「ありがと……」

 よっ、と不安定な甲羅にまたがる。


 いきなり、ウミガメが急発進した。大きな前足をオールのように使ってぐいぐいと進み、濃い青の中へ。

「ぐぷ!!!」

 ちょ、カメに乗ってても息できないじゃないの! 絵本の浦島太郎はあんなに涼しい顔してたのにー!

 身体を起こすこともできず、甲羅のふちに手をかけて伏せたまま、私はウミガメと一緒にぐいぐいと水中を昇って行く。


 いつの間にか白い姿が、綺麗な泡をたくさん連れてウミガメの横を泳いでいた。

 どうにか横を向くと、白い髪をなびかせた愛海先生がニッコリと笑って、上を指さした。

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