表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イマジネーション・ラグーン  作者: 遊森謡子
第一章  珊瑚礁の城
4/38

3 出版社員イコール巫女

 陽に焼けた肌、一つに結ばれた紺色の髪、青のような緑のような不思議な色の瞳。

 年のころは、私と同じかちょっと上くらい。その青年は、膝丈の白い着物のような服にサッシュベルトを締め、ぴったりしたズボンにサンダルを履いていた。ひろがった袖には、異国風の模様が入っている。


「ご苦労さま。下がっていいよ」

 青年に言われ、ズーイさんは軽くひざを曲げるようなあいさつをして、あっさりと行ってしまった。


「どうぞ。具合はいかがですか? 不自由なことはありませんか」

 長椅子の、空いたスペースを示された。一つの長椅子に一緒に座るんですか? 近……。

「はい……大丈夫です」

 私は返事をしながら、反対の端に浅く腰掛けた。

「僕はラグーン城の神官で、ザンと言います。あなたは?」

 偉ぶるでもなく、自然体で尋ねられた。

「あっ」

 知ってる、ザンって名前……これも設定資料にあったよ。確か結構、重要な役回りだったはず。

「ええっと、璃玖、です」

「リク。よろしく」

「よよよよろしく……」

 なんだか、現実感がなくて変な感じだ。愛海先生の作ったキャラクターと話をしてるって。


 私が読んだプロローグには、こんな自己紹介シーンはなかったけど、これはキャラクターがすでに自分の意志で動いているってこと? それとも愛海先生の頭の中では、すでにこういう会話もできあがってたのかな。


「あなたは、どこから来たんですか?」

 聞かれて、正直に答える。

「職場からです。働いていたら、いつの間にか……来てしまったみたい」

「女神マーナの元で、働いていた?」


 ええっと……なんて言えばいいのかな。本を作る仕事だと言ってしまうと、この世界が未完の物語の世界だと、伝えることになりはしない?

 それがいいことなのか、私には判断つきません!


「愛海先生の元でというか……愛海先生の考えたことを他の人に伝える仕事というか」

「やはり、あなたは女神の言葉を伝える巫女なんですね」


 あれ? いいのかこんな方向で?


「海の中を、女神マーナに手を引かれてあなたがやってきた時は驚きましたが、きっとこれは我々にとって僥倖に違いない」

 ザンは、屈託のない笑みを浮かべた。すいっ、と近くの空間を泳ぎ去る真っ赤な魚にも、優しい目を向けている。

「僕は神官と呼ばれていますが、女神の血筋を受け継ぐもの、というただそれだけの意味です。ものすごい神通力があるわけでも、民を率いるカリスマがあるわけでもありません。気軽に接して下さいね」


 さ、さすがは愛海先生の作ったキャラクター、めっちゃいい人!

 イケメンなんだけど、中身は少年みたいに無邪気というか……こっちも見ていて全然警戒心がわいてこないわ。


「あ、ありがとう。私もそんな特別な人間って訳じゃないから……愛海先生に名前を覚えてもらってるだけで」

 ははは、と笑ったら、ザンが目を見開いて身を乗り出した。近くにいた魚が驚いたように、向きを変えて泳ぎ去った。

「名前を!? 名前を呼ばれるということは、マーナの声が聞こえるということですね!? さすがは巫女どのだ」


 ……ああ……またなんか話が変な方向へ……。


「マーナはどんな風に語りかけてくるのですか?」

「え!? どんなって、さっきは海の上で会って名前を呼ばれただけだけど」

「そうか……なるほど、海上で……」

 ザンは腕組みをする。

「な、何か?」

「僕たちは、海の上には出られないんです。水のあるところでしか生きられない」

 ははあ。それで、海の上はあんなに何もないわけね。今のところ物語に出てこないなら、設定上必要ないもんね。

 じゃあ、ここの人たちは、この城の中でだけ暮らしているってことか……。


 ……で。今の話から、わかったことがある。

 ザンが女神マーナと話したことがないってことは、愛海先生はこのラグーン城には入ってこないと考えられる。

 それなら、愛海先生と接触するためには、水の中かもしくは海の上に出なくてはならない。

 私はあいにくと、水中で話をする能力は持ち合わせていない。

 つまり、愛海先生とさっきみたいに会話をしようと思ったら、どうにかして海の上に出ないとならないのだ。

 ……だから! 私、泳げないんだってば!


 ザンは私の右手を取って、軽く握手をした。

「どうかまた、マーナの言葉を我々に伝えて下さい。歓迎します、巫女どの……リク」


 というわけで、私は巫女決定、らしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ